意思による楽観のための読書日記

となり町戦争 三崎亜記 ***

普通の町、舞坂で隣町と突然戦争が始まる、というちょっと変わったおはなしだ。

戦争と言っても大砲やミサイルが飛び交うわけではなく、役所に隣町戦争係が設置されて、予算が計上され、新聞に戦死者数が掲載されるだけという実感のない戦争なのだ。町の役場から偵察業務を委託するという任命書が会社員の私に届く。いったい何を偵察するというのか。実感のないまま任命に応じる。

役所の担当者香西さんは若い女性であり好感を持つ。役所としては香西さんと偽装結婚をして隣町に潜入して欲しいと言ってきた。アパートまで用意してあるという。なんのことかわからないまま、香西さんとの偽装結婚生活に入る。私の結婚生活と会社生活が続く。

そしてある時、急に戦争終結宣言がされ、香西さんとの偽装結婚も終りになる。寂しい気持ち、香西さんを忘れられない私は香西さんをデートに誘う。香西さんは隣町の町長の息子と結婚することになったという、そんな事ってあるのだろうか。

実感のない戦争、役所の手続きと新聞に掲載される戦死者数、役所の職員による決められた手続きの履行と予算執行のみが淡々と進んでいく。舞坂の町ではその戦争にもコンサルタント会社を雇い戦争遂行を委託している。

アメリカが世界の何処かで戦争をしている場合のアメリカ市民たちの気持ちを表すとこの小説のようになるのだろうか。身の回りでは危険はなさそうだが戦死者数は報告され、国家予算は消費される。戦争の必要性は国会で議論されているがアメリカ市民には実感がない。ただ、身寄りのが兵隊で怪我したり戦死すると急に実感を帯びるのが戦争。

公共事業としての戦争、予算執行のために人員をさき、無関心な市民を巻き込み、業務を外部委託する。私と香西さんはほのかな好意を抱きあうが、役所の決めた戦争に巻き込まれその気持は現実の結果としては表すことができない。なんだかやりきれない物語である。
となり町戦争 (集英社文庫)

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