大学を卒業した若菜直は、JR東に就職、採用試験の結果は一位、第一希望の東京駅勤務となった。「お客様に駅で幸せな奇跡を起こしたい」という希望に燃えていた。同期入社で東京駅に配属された犬塚は、鉄オタであることを隠しながらJRに入社してきたというひねくれ者、真っ直ぐな優等生タイプの直にはなかなか素直になれない。直には卒業直前に喘息で亡くなった鉄オタの弟がいた。病気がちの弟がどうしても電車に乗りたいというのを引き留めようとした直だったが、弟は無理やりでかけて、出先で持病の喘息発作が出て亡くなってしまい、直は引き止めきれなかったことを悔やまれてならない。その知らせを就活中に聞いた直は、混雑する東京駅で倒れてしまい、通りがかりの親切な人たちに助けられた。東京駅勤務はそうした人たちに恩返ししたいという気持ちからだった。
出社当日から、プラットフォーム整理にヘルプとして投入され、台風襲来という緊急対応に迫られる。理不尽なクレーム、横柄な顧客、駅職員への暴力、危険防止のためのルールを無視する鉄オタ、鉄道グッズ購入に血道を上げるお客、酔っぱらい、痴漢、死亡事故と事後対応、飛び込み自殺、ストーカー対応、プラットフォーム設置の安全ガード、新型車両、総合職と現業職、顧客サービスロボットなどの鉄道や駅にはつきもののエピソードが溢れている。作者が鉄道好きで、相当な取材量があったことが想像できる。
「乗客は駅職員を人間だとは思っていない、と覚悟しろ」という先輩職員の言葉、昔なら職員も暴力への対抗手段があったかもしれないが、今はコンプライアンス・マニュアルがあり、職員は謝る一方、という現実があるようだ。制服を着用した職員をそのように思ってしまうのは、人間としての思慮不足だと思うが、特にトラブル時、緊急時には、そういう利用者がとても多いというのは嘆かわしい話である。安全で定時、おまけに快適な乗車・利用ができる背景にはこうした職員による努力があること、慮ることを自らにも戒めたい。