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意思による楽観のための読書日記

人間らしさ 文明、宗教、科学から考える 上田紀行 ***

筆者は東工大の教授、ゼミの学生たちと会話する中で、彼らが自分のことを客観的にしか語らず、人との関係も高所から見下ろすように表現するのを聞いて危機感を持った。他人との関係を自分ごととして捉え、他人との関係性の中に自分らしさ、人間らしさを表現することの大切さを訴える。世の中に横たわる課題を発見し、世の中のシステムをどうするか以上に、自分ごととしてその問題を感じ、問題には最適な大正解はなさそうな場合でも、それらの課題を整理してよりましな解決策を考えていくことの重要性を訴える。

キーワードは「利他」。スリランカでの悪魔祓いの儀式を体験して、社会から疎外されたと感じて苦しんでいる村人を、村を上げて悪魔祓いをして、本人は疎外感を感じなくなり、村人たちは自分が同じような困った境遇に陥った時の救いを知る。孤独な人に悪魔は取り付くのであり、コミュニティのいち員であることを実感できれば、そうした悪魔は消え去る。狩猟採集社会が農耕社会に移行するプロセスにおいて、狩猟生活以上のサイズの社会が必要になり、その中に階級が生じてきたときに、社会の中での居心地の悪さを感じる人が増えてきたのではないかと推察する。農民社会では、一部の農民に集中してくる富を再分配する仕組みを考え出している。裕福な家での子供の誕生祝として村人に大盤振る舞いをする。新築の際の棟上げ式で餅を配る、豪華な婚礼に村人を招待する、こうした蓄積した富を分配する仕組みは、農民社会で平和な生活をおくるためのの知恵である。

人間の人生は「出会い」と「おかげ」の連続である。自分が真剣に取り組む課題に共通するような近隣課題に取り組む人とは、偶然出会うことがあって、それが一生の宝になることがある。偶然に見えて必然なのかもしれないとあとから気づく。筆者は共通する研究課題に取り組む人たちとの出会いを紹介する。また、筆者の妻は武内陶子さん、NHKのアナウンサーで、筆者がNHKの仕事を引き受けていたときに、偶然出会った。出会おうと思ってもできない出会い、これは自分が取り組んできた活動の、偶発的な一つの結果であるが、NHKとの仕事がなければなかった出会いでもある。

これからの大学教育の中でのリベラルアーツにおける4つの”C”の重要性を説く。コミュニケーション、自分の意見や思いを伝えることと人の話を聞くこと。クリエーション、知識の上に立つ自己実現力、自分の力を社会のためにどのようにして役立てていくのか。コミットメント、評論家的ではなく、世の中の課題に関わる力。ケア、自分の周りの人のためにできることを実際にすること。こうしたことを今後も東工大教授の仕事を通して、世の中に働きかけていきたい。本書内容は以上。

利他社会を目指したいという人気教授の一冊。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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