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意思による楽観のための読書日記

最後の怪物 渡邉恒雄 大下英治 ***

魚住昭の著書「メディアと権力」で以前に読んだことがある渡邉恒雄の一代記、2003年発刊だったので、その後も含めた内容となっているのが平成27年発刊の本書。魚住昭は渡邉恒雄を批判的に捉え、取材相手と親しくなってスクープをモノにする姿勢を「アクセス・ジャーナリズム」であるとして批判した。副総裁だった大野伴睦の番記者時代、その後1965年の日韓条約交渉、1967年の九頭竜ダム補償金疑惑など、政治対象に働きかけて政治的判断自身にまで影響を与えることまでする「ポリティカル・ジャーナリズム」だとして、取材者の域を遥かに超えた異常な存在だったと表現した。

本書においても、東大学生時代の共産党入党と除名、山村工作隊スクープ、大野伴睦番記者、中曽根康弘との盟友関係、児玉誉士夫との九頭竜ダム補償金暗躍、スカルノのスキャンダルつぶし、弘文堂乗っ取りなどのエピソードが紹介されていて、記者時代の「八面六臂」のアクセス・ジャーナリズム、ポリティカル・ジャーナリズムが紹介される。うんざりしながらも感心するのは、そうした時代から積み上げられた人脈。岸、池田、佐藤時代の多くの自民党大物議員たちや、媒酌人となった宇都宮徳馬、中川一郎や鈴木宗男、ワシントン支局長時代の日米外務官僚などが、その後の取材や読売新聞社内での社会部と政治部、外報部などに分かれた権力抗争で勝ち抜いていく源泉にもなっていく。単に権力欲があるだけではなく、東大哲学科以来の膨大な読書量に裏打ちされた知識と貪欲な情報獲得、大物の懐に飛び込む肝っ玉が他人には真似できない。現代であればコンプライアンス面からも、社内ハラスメントとしても許容の範囲を遥かに超えた行動である。

昭和30年代までは発行部数で朝日新聞の後塵を拝していた読売新聞を1000万部にまで押し上げたのは務台社長時代であり、その後社長に就任した渡邉恒雄時代だった。読売新聞社内での盟友でありライバルだったのが氏家齊一郎だったが、務台社長により日本テレビ副社長に転出させられ、渡邉恒雄が筆頭副社長になる。政治には中曽根康弘総裁実現に向け論陣を張り、その後は衆参ダブル選挙のアイデアを授けたという。第二臨調のメンバーを推奨、リクルート事件は戦後最大の贈収賄事件となり、当時ポスト竹下の最有力だった安倍晋太郎、宮沢喜一、渡辺美智雄らが総裁選への名乗りがあげられなくなっていた。政治改革がテーマとなり、小選挙区制、政党助成金制度、閣僚資産公開などが導入されるきっかけとなる。リクルート株を読売新聞社の丸山副社長が受け取っていたことから解任される。解任の筋書きを書いたのは渡邉恒雄だったという。丸山は社歴を抹消された。この頃は読売新聞が政府自民党に政策の注文をつける「提言報道」が始まり、それが読売新聞の発行部数増にもつながっていく。読売新聞が自民党の機関誌だと評されるのもこの頃。

江川の空白の一日を演出したのはオーナー正力亨と巨人軍代表長谷川実雄で、法的な後始末をさせられたのが当時政治部長だった渡邉恒雄、というのが実態だったが、世間はこれもナベツネの仕業だと思い込んだ。実は渡邉恒雄は野球のルールも知らなかった。それでも球団経営には関心を示し、巨人軍中心の新リーグ構想を堤義明と水面下で練っていた。巨人、西武に阪神、広島、中日、ダイエーに松下電器産業とソニーを巻き込んで8球団による新リーグ構想だったという。構想は潰えるが、その後も巨人がもたらす放映権料を背景に球界に大きな影響力を与え続けたが、ドラフト対象選手に金銭授受を行っていたと報道されオーナーを退任する。古田プロ野球選手会長の発言を捉えて「たかが選手が・・」と口走ったのもこの頃である。

その後も読売新聞社の社長・主筆として、そして事実上の終身独裁者として君臨する。「仕事をやめるときは死ぬときだ」というのが渡邉恒雄の最近の口癖だそうだ。本書内容は以上。

渡邉恒雄の記者魂とバイタリティ、権力欲、政治的働き、胡散臭さと下品さにはウンザリしながらも、成し遂げてきたサラリーマンとしての成果には感心してしまう。こうした人物が自分の同僚や上司にいたら、さぞや迷惑だし忌避するだろうと思う一方で、人物伝が何冊も書かれるほどの結果を読売新聞社だけではなく日本政治にも残してきたこと、これは認めるしかない。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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