12年前に「天使の代理人」というタイトルで中絶がどんなことなのか、命の大切さを助産婦という立場から訴える本を自費出版したのは桐山冬子、産婦人科に勤める助産師だったが、その産科医では経営のために中絶も実施する優生保護法の下での医療を謳っていた。しかし、妊娠22週をすぎた胎児でも死産、という形であれば法律上も罰せられることはない、その実質的には法律違反とも言える堕胎を手伝ってきた、という罪悪感から、その病院を辞めて本を書き、自費出版したのである。500部のその本は最初は全然売れなかったが、地元の新聞に紹介され、TVのパネルディスカッションに呼ばれるなりして、少しずつ売れていった。そして、同じ助産師という他の女性も桐山冬子に共感し、仲間を集めて、少しでも中絶を思いとどまりそうな女性がいれば、中絶を申し込んできた女性の個人情報を仲間同士で共有し、法律違反ではあるが胎児を救う、という目的のために妊婦を説得する活動を始めた。
もうひとり、佐藤有希恵は産科医の勘違いで胎児の定期検診に来院したところ、同姓同名の別人の代わりに堕胎手術を施されてしまった。悲しんでも取り戻せない我が子、同姓同名のほかの人という佐藤雪絵を興信所を使って探し出し、殺そうと思ったができず、妊娠している雪絵の心の支えになろうと決意した。
そして、もうひとり、川口弥生は地方銀行で課長代理になっているキャリアウーマン、独身である。付き合っている男性はいるが、年下で結婚する相手だとは思っていない。しかし、自分の36歳という年齢を考えると、今が妊娠の最後のチャンスと考え、アメリカのNPOで精子提供をしてくれる団体を知り、白人男性の精子により人工授精による妊娠をする。
さらに、もうひとりは麻矢、大学生だが中絶し、そのことをブログに書き込む。そのブログを見た有希恵は、なぜそんなことをしたのかとコメントを書き込む。そして麻矢と有希恵のブログを通した論争が始まる。そこに弥生も加わり、中絶賛成、反対の論争が展開される。
アメリカでは”Pro-Life vs Pro-choice”論争は大統領選挙の踏み絵にもなっている価値観の判断材料であり、報道でも度々伝えられるが日本ではそうでもない、しかし実際の中絶は何百万件も行われているという。中絶の是非はどうなのか、女性はどう考えるのか。そして男は。上巻はこのあたりまで。
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