病棟転換型居住系施設について考える会

世界に誇る日本の精神病院の病床数と長期入院者の問題とは…。削減した病床を病院敷地内の居住系施設に転換する問題とは…。

藤井克徳氏の「病棟転換政策をめぐる基本的な問題に関するメモ」

2014-06-13 22:40:18 | 資料
 6・26緊急集会速報 第2号で触れた、藤井克徳氏の「病棟転換政策をめぐる基本的な問題に関するメモ」全文を以下の通りご紹介します。

2014.6.7
藤井克徳

病棟転換政策をめぐる基本的な問題に関するメモ

 いわゆる「病棟転換問題」に関する基本的な問題について、以下に私見を述べる。意見等があれば寄せていただきたく、また自由に引用・活用してもらって結構である。

1.立脚点の不純さ
 「病棟転換政策」をめぐる最大の問題点は、検討に際しての軸足が「本来どうあるべきか」に置かれていないことである。一貫した立脚点は「病院の経営をいかに守るか」であり、加えて「現実策としてはやむを得ないのでは」「よりましでは」という古くさい論理がこれを後押ししていることである。「本来どうあるべきか」と「病院の経営をいかに守るか」(以下、病院の経営維持論)は相容れるものではなく、それどころか病院の経営維持論が前面に出れば出るほど、本源的な政策が遠のく関係にあるのである。換言すれば、病院の経営維持論に立脚する以上、そこから何が出てこようが(どのような政策ネーミングが用いられようが、仮に、モデル事業と言われても)、それらは病院の経営維持論のカモフラージュ政策であり、病院の経営維持論を手助けする「まがいもの政策」以外の何物でもない。

2.本物の精神医療改革を一体となって
 なお、現行の精神医療政策は余りに貧寒である。根本的な改革が図られなければならない。ただし、その際の立脚点は、前述したような、「本来どうあるべきか」を見失った病院の経営維持論であってはならず、あくまでも精神医療を必要とする人のための改革であり、わけても他の診療科目との格差解消を前提とするものでなければならない。いわゆる「精神科特例」の完全解消の実現である。これによって、短期入院処遇を主流とする精神医療が可能となり、さらには通院医療中心の精神医療に道を開くことになろう。こうした方向が本来の精神医療であり、それによってまともに経営できることこそが、本来の病院(医院)経営政策である。
 精神医療関係者は、姑息な「病院の経営維持論」にエネルギーを注ぐのではなく、正論としてのあるべき病院経営政策の実現への論陣を張ることであり、それを支持される環境づくりに奔走することが肝要である。むろん、精神障害分野に携わる非医療関係者にあっても、格差医療の解消とあるべき病院経営政策に関心を抱くべきであり、それの世論化・社会化に際して積極的で特別な共同行動を取るべきである。

3.主因を見誤ることなく政策立案を
日本における障害分野の、あるいは医療分野の恥部とされてきた精神障害者の社会的入院問題であるが、問題はその原因が正確に深められていないことにある。より正しくは、原因がおよそ想定されていながら、複合要素から成る原因について、原因(分野)別の関係者による一体的な論議の場が乏しいのである。結果として、主因があいまいになりかねない。主因の見立てに正確さを欠けば、そこから派生する政策は正確なものとはいえまい。
 今般の病棟転換政策はその典型と言える。社会的入院問題、すなわち病院から地域移行が成らない主要な原因をあげれば、①地域での生活ならびに就労等に関した社会資源の量と質の面での不備、②家族への負担のしわ寄せ③所得保障や人的支援策を中心とした個人を支える福祉施策の遅れ、④市民社会の無理解、根強い偏見・差別意識、⑤精神科医療機関の経営問題(大量の退院促進政策は病院経営を圧迫し、医療機関従事者の身分を損ねる)、などである。社会的入院問題を本格的に解決しようとすれば、これらを同時に、少なくとも全体を視野に入れながらの論議でなければならないが、現行の縦割り審議方式はそれを許さない。病棟転換政策は、以上述べたいくつかの原因でみると、最後の「⑤精神科医療機関の経営問題」のみに重心を置くものである。全体像を欠き、かつ病院生き残りという利己的な発想に偏っているとすれば、そこから生まれる政策はいびつにならざるを得まい。なお、7万人の社会的入院者の解消を提言した厚労省の「改革ビジョン」について、なぜ実現をみなかったのか、精緻な検証、総括が求められる。

4.気になる当事者不在の政策論議
 病棟転換政策に関する検討の過程で、最も気になるのは、一貫して当事者不在で審議が進められていることである。障害者権利条約と関連して馴染みになっている「 Nothing About Us Without Us (私たち抜きに私たちのことを決めないで)」の精神に背くことは言うまでもなく、この間の「障がい者制度改革推進会議」(内閣府所管、2009年12月発足、オブザーバー2人を含む26人の構成員のうち14人が当事者)の審議方式とも乖離するものである。
 政策というのは、しばしば「何をまとめ上げるか」以上に「誰がまとめ上げるか」が重要になる場合がある。事は障害者個々の人生に深く関係する問題であり、人生を台無しにした精神障害当事者の代表がどれくらい参加しようと多すぎるということはなかろう(実際には人数に限りはあろうが、発想としてはこのような観点が大切では)。また、発症して以来、負担と不安を共にしてきた家族も当事者に含まれるべきである。
 なお、「当事者の参加」については、関連政策審議への直接参加以外に、正確な実態調査等を通しての間接的な参加も重要となる。正確な実態調査の基本は、精緻なニーズ把握であり、調査の設計段階からの当事者参加が肝要である。「役人は数字を作る」という言い方があるが、社会的入院問題の解消に際しては、こうした感覚を微塵も抱かせることがあってはならない。

5.「二重の不幸」はいつまで続く
 病棟転換の下での居住系事業をもって「地域移行」が成ったとすれば、「地域移行」の概念が変質するだけではなく、この国に「院内地域」「院内住宅」という奇妙な概念の形成を許すことになる。国際的に恥をかくことはもちろん、それに留まらず後世からみて「あの頃の関係者は取り返しのつかないことをやってしまった」と、未来の後輩たちにも恥をかくことになろう。
 かつて、呉秀三は、当時(明治期から大正期)として珍しくなかった「座敷牢」に隠ぺいされていた精神障害者をもって、「病を受けた不幸に加えてこの国に生まれた不幸を併せ持つ」と評した。今般の病棟転換政策は、「現代版座敷牢」とも揶揄されるもので、「二重の不幸の恒久化」につながるものと言えよう。なお、先に批准をみた障害者権利条約からみても、病棟転換政策は解せない。権利条約の関連条項(第19条を中心に)に抵触する状態が許されるとすれば、それは条約の無力化も同然で、批准された権利条約の価値そのものを損ねることに他ならない。

6.障害関連政策後退の新たな起点に
 既に述べてきた通り、病棟転換と言う異常な政策は遅れた精神障害者政策をさらなる深い闇へと引きずり込むことになろう。問題は、この異常な政策が独り精神障害分野に留まらないということである。障害関連政策全体の最低基準の引き下げに影響することが懸念される。身体障害分野や知的障害分野に対して、「みなさんは、あのような精神障害者が置かれている状態と比べればまだましではありませんか」と言われかねない。
 今、障害分野がこぞって力を入れるべきは、障害関連政策の中の遅れた部分を改善することである。なぜならば、一つでも遅れた部分を残すとなると、それが障害関連政策の最低基準になってしまうからである。換言すれば、遅れた部分の解消は障害関連政策の全体的な底上げに連動するのである。今般の病棟転換政策は、こうした方向とは全く逆で、障害関連政策の最低基準の下方圧力以外の何物でもない。障害関連政策全体としても黙過できない由々しき動向なのである。

7.病棟転換問題を広く市民とともに
 さらに言うならば、病棟転換の問題は今日の社会保障政策全体の動向と関連してとらえることが肝要である。生活保護政策の引き下げ強行など、現政権の社会保障政策の後退は目に余るものがあるが、病棟転換問題もその本質は一連の社会保障政策の変質路線に合致する(昨秋の社会保障プログラム法の流れに沿うもの)。そういう意味では、病棟転換問題は今日の社会保障政策全体の後退の象徴的な問題に位置付けられよう。この問題を食い止めることは、少なくとも社会保障政策の改革や後退を許さない運動に大きなエールを送ることになる。社会保障の発展を願う広い市民層と病棟転換を許さない取り組みは十分に重なるものであり、接合面を大きくしていくことに努力を払わなければならない。

精神障害者地域生活支援とうきょう会議 声明

2014-06-13 18:57:27 | 声明文
 一般社団法人精神障害者地域生活支援とうきょう会議が、「精神科病院の病棟を居住系施設に転換することに反対する声明」を出しました。


「精神科病院の病棟を居住系施設に転換することに反対する声明」

 私たち「精神障害者地域生活支援とうきょう会議」(以下とうきょう会議)は、東京で精神障害者の地域生活支援に携わる支援者の団体として、精神科病院の病棟を居住系施設に転換するという政策に反対します。

 精神科病院に社会的入院を余儀なくされてきた人たちの多くは、ご自分から望んで入院したわけではありません。その人たちを入院させようとしたのは、その人たちが地域社会で暮らしていくことを「問題」だと考えた本人以外の人たちです。日本では、精神障害のために生きづらさかかえて暮らす人たちは、社会の中で厄介な存在だと考えられてきました。精神科病院は、その厄介な問題を入院というかたちで棚上げしておける場所であり、今もその社会的機能は維持されたままです。

 社会的入院は、私たちの社会が生み出した人権問題です。この問題に取り組むために私たちは、精神科病院に棚上げされ続けてきた問題を地域社会の中でこそ真に解決すべきものと位置づけ、いかなる病気や障害をかかえていてもその人が望む暮らしを実現できるようなコミュニティづくりを目指す必要があります。しかし、精神科病院の病棟を居住系施設に転換するという方策は、これとは真逆の指向をもつものです。この方策は、精神障害者を厄介な存在として社会から隔離してきた今までの誤った施策の流れに追従するものであり、決して認めることはできません。

 私たちとうきょう会議は、厚生労働省に対して、精神科病院の病棟を居住系施設に転換する方向での議論を直ちに止め、精神障害者がいかなる病状や障害の状態にあるときでも、本人が望むかぎり地域での生活を続けるのに必要な支援の体制を実現するための政策の検討を強く求めます。

2014年6月11日
一般社団法人精神障害者地域生活支援とうきょう会議
代表理事 鈴木 卓郎

6・26緊急集会速報 第2号(増補版)

2014-06-13 18:21:31 | 6・26緊急集会速報
生活をするのは普通の場所がいい
STOP! 精神科病棟転換型居住系施設!!
6.26緊急集会
速報
第2号(2014年6月13日)
発行:病棟転換型居住系施設について考える会


日比谷野音を必ず“満杯”に

☆緊急大集会に向けた取り組みが進んでいます

 日比谷野音での緊急集会は、4日に正式決定後1週間足らずですが(土日を挟んで)、すでに各地での取り組みが急テンポで進んでいます。
 家族会からは、野村東京家族会会長・飯塚埼玉県家族会会長・倉持大阪府会長・奥田奈良県会長が参加します。関西から全体で50名~100名台の参加の可能性が出てきました。埼玉のやどかりはバス2台で100名参加を決定し取り組みが始まっています。埼玉の家族会など他の団体にも呼び掛けています。


☆取り組みが加速する条件が広がっています

 「6・26、病棟転換型居住系施設緊急集会」のビラは、各地・各団体に急速に広がっています。このビラを手渡し・参加を呼びかけると、多くの人たちから参加の返事を頂いています。参加呼びかけは効果を上げています。

 3日に発表されました日弁連会長名の反対声明は、多くの人たちに緊急大集会の重要性の自覚と取り組みに確信を与えています。

 先日(10日)のNHK②Eテレ「60歳からの青春~精神科病院40年をへて」は、日本の精神科医療の深刻な問題を浮き彫りにし、「病棟転換型居住系施設」は“人権問題”であることが明らかになりました。26日緊急大集会の取り組みに大きな弾みになっています。【17日(火)午後1時5分~1時34分、再放送】

 きょうされんは、藤井克徳氏の「病棟転換政策をめぐる基本的な問題に関するメモ」が全国で読まれ、取り組みの大きな原動力となっています。

 26日緊急大集会を取り組む条件が整い、積極的に参加を呼び掛けるなら多くの人たちが積極的に参加をして頂けることが明らかになっています。


☆緊急大集会の「困難な側面」を直視

 緊急大集会は、集会開催決定の6月4日から3週間という“超”短期期間の取り組みという時間的問題があります。日比谷野音で集会を行う時は通常は半年~1年前に決定し取り組みを行います。大集会は突貫工事的な緊急集会です。通常の集会の取り組みでは日比谷野音を“満杯”にすることは困難です。

 “超”短期間という時間問題を克服する妙案はありません。私たちが今まで経験した集会の取り組みのテンポをはるかに超える“時間との闘い”です。取り組みのスピードと広がりが必要です。
しかし、緊急大集会開催決定から1週間足らずで、取り組みが急速に進んでいます。私たちが積極的に日比谷野音を“満杯”にするために協力を呼び掛けると、それに答える大きな変化が起きています。日比谷野音を“満杯にすることは、可能であることを1週間足らずの取り組みが示しています。


☆困難の克服をめざして

―“鍵”は、大勢の人たちや団体に急いで訴えることです―
【具体策】
①今週中にメールアドレスの登録者への連絡体制を整える
  連絡を密にする・各地の取り組みの交流・参加者からの訴えなど
②知らせなければならない団体・個人へ参加を積極的に呼び掛ける。
  日弁連会長名の反対声明・NHK②Eテレ・藤井さんのメモ、の活用
③参加の呼びかけと同時に周りに呼び掛けをお願いする“一声運動”を
  今回積極的に参加する人たちがたくさんいます。
  その人たちに“周りの人たちに参加を呼び掛けて連れてきて欲しい”と
④多くの団体へ複数参加を要請する
⑤全国に参加を積極的に呼びかける


☆有利な側面に確信を持って参加を呼びかける

 「病棟転換型居住系施設」の問題の本質が急テンポで知られてきました
 権利条約発効後最初の施策が条約に抵触 ⇒ 怒りと危機感が高まっています
 《NHKのEテレ「転換型居住系施設」問題を全国に知らせる》
 現状を憂い、改革を願う全ての人たちの結集で、日比谷野音を“満杯”に


《6・26緊急集会賛同金カンパのお願い》
 この緊急集会は、精神科病棟転換により、精神障害のある人たちを長期にわたり病院に留め置く施設づくりに強い危惧を抱き、本来求められている一日も早い退院と地域生活への移行を願う有志による「病棟転換型居住系施設について考える会」が開催するものです。私たちの活動は、特定の組織等からの財政的支援によるものではなく、多くの方々の賛同により進められています。資金面におきましても、ぜひとも多くのみなさまからのご賛同とご協力を賜りたく、心よりお願い申し上げます。(一口千円。できるだけ複数口でのご協力をいただければ幸いです)。
【振込先:郵便振替】(口座番号)00510-9-85529
【振込先:郵便振替】(加入者名)病棟転換型居住系施設について考える会


6・26緊急集会の打ち合わせ会議「寄合い」の予定
6月16日(月)午後7時より 新宿区立障害者福祉センター(新宿区戸山1-22-2)
18日(水)  〃         〃
20日(金)  〃         〃   

増補記事(2014年6月16日)
藤井克徳氏の「病棟転換政策をめぐる基本的な問題に関するメモ」

2014.6.7
病棟転換政策をめぐる基本的な問題に関するメモ
藤井克徳

いわゆる「病棟転換問題」に関する基本的な問題について、以下に私見を述べる。意見等があれば寄せていただきたく、また自由に引用・活用してもらって結構である。


1.立脚点の不純さ
「病棟転換政策」をめぐる最大の問題点は、検討に際しての軸足が「本来どうあるべきか」に置かれていないことである。一貫した立脚点は「病院の経営をいかに守るか」であり、加えて「現実策としてはやむを得ないのでは」「よりましでは」という古くさい論理がこれを後押ししていることである。「本来どうあるべきか」と「病院の経営をいかに守るか」(以下、病院の経営維持論)は相容れるものではなく、それどころか病院の経営維持論が前面に出れば出るほど、本源的な政策が遠のく関係にあるのである。換言すれば、病院の経営維持論に立脚する以上、そこから何が出てこようが(どのような政策ネーミングが用いられようが、仮に、モデル事業と言われても)、それらは病院の経営維持論のカモフラージュ政策であり、病院の経営維持論を手助けする「まがいもの政策」以外の何物でもない。

2.本物の精神医療改革を一体となって
なお、現行の精神医療政策は余りに貧寒である。根本的な改革が図られなければならない。ただし、その際の立脚点は、前述したような、「本来どうあるべきか」を見失った病院の経営維持論であってはならず、あくまでも精神医療を必要とする人のための改革であり、わけても他の診療科目との格差解消を前提とするものでなければならない。いわゆる「精神科特例」の完全解消の実現である。これによって、短期入院処遇を主流とする精神医療が可能となり、さらには通院医療中心の精神医療に道を開くことになろう。こうした方向が本来の精神医療であり、それによってまともに経営できることこそが、本来の病院(医院)経営政策である。
精神医療関係者は、姑息な「病院の経営維持論」にエネルギーを注ぐのではなく、正論としてのあるべき病院経営政策の実現への論陣を張ることであり、それを支持される環境づくりに奔走することが肝要である。むろん、精神障害分野に携わる非医療関係者にあっても、格差医療の解消とあるべき病院経営政策に関心を抱くべきであり、それの世論化・社会化に際して積極的で特別な共同行動を取るべきである。

3.主因を見誤ることなく政策立案を
日本における障害分野の、あるいは医療分野の恥部とされてきた精神障害者の社会的入院問題であるが、問題はその原因が正確に深められていないことにある。より正しくは、原因がおよそ想定されていながら、複合要素から成る原因について、原因(分野)別の関係者による一体的な論議の場が乏しいのである。結果として、主因があいまいになりかねない。主因の見立てに正確さを欠けば、そこから派生する政策は正確なものとはいえまい。
今般の病棟転換政策はその典型と言える。社会的入院問題、すなわち病院から地域移行が成らない主要な原因をあげれば、①地域での生活ならびに就労等に関した社会資源の量と質の面での不備、②家族への負担のしわ寄せ③所得保障や人的支援策を中心とした個人を支える福祉施策の遅れ、④市民社会の無理解、根強い偏見・差別意識、⑤精神科医療機関の経営問題(大量の退院促進政策は病院経営を圧迫し、医療機関従事者の身分を損ねる)、などである。社会的入院問題を本格的に解決しようとすれば、これらを同時に、少なくとも全体を視野に入れながらの論議でなければならないが、現行の縦割り審議方式はそれを許さない。病棟転換政策は、以上述べたいくつかの原因でみると、最後の「⑤精神科医療機関の経営問題」のみに重心を置くものである。全体像を欠き、かつ病院生き残りという利己的な発想に偏っているとすれば、そこから生まれる政策はいびつにならざるを得まい。なお、7万人の社会的入院者の解消を提言した厚労省の「改革ビジョン」について、なぜ実現をみなかったのか、精緻な検証、総括が求められる。

4.気になる当事者不在の政策論議
病棟転換政策に関する検討の過程で、最も気になるのは、一貫して当事者不在で審議が進められていることである。障害者権利条約と関連して馴染みになっている「 Nothing About Us Without Us (私たち抜きに私たちのことを決めないで)」の精神に背くことは言うまでもなく、この間の「障がい者制度改革推進会議」(内閣府所管、2009年12月発足、オブザーバー2人を含む26人の構成員のうち14人が当事者)の審議方式とも乖離するものである。
政策というのは、しばしば「何をまとめ上げるか」以上に「誰がまとめ上げるか」が重要になる場合がある。事は障害者個々の人生に深く関係する問題であり、人生を台無しにした精神障害当事者の代表がどれくらい参加しようと多すぎるということはなかろう(実際には人数に限りはあろうが、発想としてはこのような観点が大切では)。また、発症して以来、負担と不安を共にしてきた家族も当事者に含まれるべきである。
なお、「当事者の参加」については、関連政策審議への直接参加以外に、正確な実態調査等を通しての間接的な参加も重要となる。正確な実態調査の基本は、精緻なニーズ把握であり、調査の設計段階からの当事者参加が肝要である。「役人は数字を作る」という言い方があるが、社会的入院問題の解消に際しては、こうした感覚を微塵も抱かせることがあってはならない。

5.「二重の不幸」はいつまで続く
病棟転換の下での居住系事業をもって「地域移行」が成ったとすれば、「地域移行」の概念が変質するだけではなく、この国に「院内地域」「院内住宅」という奇妙な概念の形成を許すことになる。国際的に恥をかくことはもちろん、それに留まらず後世からみて「あの頃の関係者は取り返しのつかないことをやってしまった」と、未来の後輩たちにも恥をかくことになろう。
かつて、呉秀三は、当時(明治期から大正期)として珍しくなかった「座敷牢」に隠ぺいされていた精神障害者をもって、「病を受けた不幸に加えてこの国に生まれた不幸を併せ持つ」と評した。今般の病棟転換政策は、「現代版座敷牢」とも揶揄されるもので、「二重の不幸の恒久化」につながるものと言えよう。なお、先に批准をみた障害者権利条約からみても、病棟転換政策は解せない。権利条約の関連条項(第19条を中心に)に抵触する状態が許されるとすれば、それは条約の無力化も同然で、批准された権利条約の価値そのものを損ねることに他ならない。

6.障害関連政策後退の新たな起点に
既に述べてきた通り、病棟転換と言う異常な政策は遅れた精神障害者政策をさらなる深い闇へと引きずり込むことになろう。問題は、この異常な政策が独り精神障害分野に留まらないということである。障害関連政策全体の最低基準の引き下げに影響することが懸念される。身体障害分野や知的障害分野に対して、「みなさんは、あのような精神障害者が置かれている状態と比べればまだましではありませんか」と言われかねない。
今、障害分野がこぞって力を入れるべきは、障害関連政策の中の遅れた部分を改善することである。なぜならば、一つでも遅れた部分を残すとなると、それが障害関連政策の最低基準になってしまうからである。換言すれば、遅れた部分の解消は障害関連政策の全体的な底上げに連動するのである。今般の病棟転換政策は、こうした方向とは全く逆で、障害関連政策の最低基準の下方圧力以外の何物でもない。障害関連政策全体としても黙過できない由々しき動向なのである。

7.病棟転換問題を広く市民とともに
さらに言うならば、病棟転換の問題は今日の社会保障政策全体の動向と関連してとらえることが肝要である。生活保護政策の引き下げ強行など、現政権の社会保障政策の後退は目に余るものがあるが、病棟転換問題もその本質は一連の社会保障政策の変質路線に合致する(昨秋の社会保障プログラム法の流れに沿うもの)。そういう意味では、病棟転換問題は今日の社会保障政策全体の後退の象徴的な問題に位置付けられよう。この問題を食い止めることは、少なくとも社会保障政策の改革や後退を許さない運動に大きなエールを送ることになる。社会保障の発展を願う広い市民層と病棟転換を許さない取り組みは十分に重なるものであり、接合面を大きくしていくことに努力を払わなければならない。

病棟転換型居住系施設について考える会
stopbttk@yahoo.co.jp




6・26緊急集会速報 第1号

2014-06-13 17:58:14 | 6・26緊急集会速報
生活をするのは普通の場所がいい
STOP! 精神科病棟転換型居住系施設!!
6.26緊急集会
速報
第1号(2014年6月12日)
発行:病棟転換型居住系施設について考える会


生活をするのは普通の場所がいい STOP! 精神科病棟転換型居住系施設!!
6.26緊急集会
日時:2014年6月26日(木) 12時~15時(開場11時)
会場:日比谷野外音楽堂


 日本には生活の場に近い精神病床があること,その病床はなくしていかなくてはならないことを国は認めました.しかし,その精神科病棟(病床)を住まいや福祉施設に転換する動きがあります.その議論は当事者不在に進んでいます.障害者権利条約批准元年の日本において,病床を住まいに転換することがあってはなりません.障害があっても自分の暮らしの場を町の中に求め,必要な支援を受けることができる仕組みこそが求められています.病棟転換の動きにNO!の声を上げていきたいと思います.

 日本は障害者権利条約の批准国です。精神科病院を統合失調症や認知症の人たちの永久下宿にすることは権利条約違反です。
 障害者基本法第3条2項「全て障害者は,可能な限り,どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され,地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと」を謳っています。病棟転換型居住系施設にストップをかけてください。

《6.26緊急集会プログラム》0:00pm~3:00pm/11:00am開場
●基調報告「なぜ、病棟転換型居住系施設を認めてはならないのか?」
●さまざまな立場の方から連帯のあいさつ~共感と応援のメッセージ~
●リレートーク1「私たちの声を聴いてください~社会的入院を経験した当事者、そして家族・支援者の声~」
 リレートーク2「病棟転換問題と障害者権利条約を考える~障害の違いを超えて~」
●緊急アピール(集会終了後、代表団が厚生労働省に届けます)

主催:病棟転換型居住系施設について考える会
《呼びかけ人代表》池原毅和(弁護士)、伊澤雄一(全国精神障害者地域生活支援協議会)、大熊一夫(ジャーナリスト)、加藤真規子(こらーるたいとう)、関口明彦(全国「精神病」者集団)、高木俊介(たかぎクリニック)、西村直(きょうされん)、長谷川利夫(杏林大学)、増田一世(やどかり出版)、八尋光秀(弁護士)、山田昭義(DPI日本会議)、山本深雪(大阪精神医療人権センター・大阪精神障害者連絡会)、渡邊乾(全国精神医療労働組合協議会)


日弁連からも反対声明!!

 精神科病院の病床を居住系施設に転換することに反対する日弁連会長声明

 厚生労働省は「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」(以下「検討会」という。)において、精神病床を削減した病棟を入院患者の居住系施設として再利用し、あるいは、精神科病院の敷地内に退院支援施設、地域移行型ホーム等の施設を設置する計画を進めており、第3回検討会(本年6月17日)において「具体的方策の在り方(今後の方向性)」について取りまとめをするとしている。

 当連合会は、本年2月7日付けの「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針案に関する意見書」において、病床転換型居住系施設は従前の収容型医療の名前を変えた形だけの地域移行になるおそれがあることを指摘したが、これが具体化されるおそれが高まっている今、改めて、この政策に反対する。

 本年1月に批准され2月に発効した障害者の権利に関する条約は、障がい者が他の市民と平等の機会をもって地域社会に包容されて社会参加し、自立した生活ができるようにする措置を締約国の義務としている。これに対して、収容型医療の中心的役割を果たしてきた精神科病院の病床の一部を、そのまま居住系施設に転換して入院患者の退院先とする今回の計画は、精神障がい者を地域から分離して生活させる政策を存続させるものにすぎず、同条約が求める「自立した生活及び地域社会への包容」のための締約国としての義務に逆行するものと言わなければならない。仮に病床転換型居住系施設について一時的にあるいは中間的に用いる目的であるとの説明がなされたとしても、国が費用を補助して建設させた多数の精神病床を減少させることが、いかに難航しているかという日本の歴史的経緯に鑑みれば、これが一度整備されれば恒久化されてしまう危険性は否定できない。国費を投じて地域移行を進めるのであれば、端的に地域生活を可能にする住環境の保障や福祉サービスに充てるべきである。

 厚生労働省が検討会(第2回)に提出した「入院中の精神障害者等に対する意向確認結果」では、退院先が病院の敷地内であったら退院したくないという回答が多数を占め、その理由は、「病院の中は嫌です。」「退院した気にならない。」「病院から離れたほうがいい。」「自由な行動をしたい。」等であった。

 精神科病院の中には、病床削減を積極的に進め、デイサービスやグループホーム等の各種サービスを地域の中で展開し、病院職員の職域拡大を進めて経営転換を図っている実践が生まれてきており、これこそが精神保健福祉施策の進むべき途である。

 当連合会は、厚生労働省及び検討会に対し、上記の当事者の意見を真摯に受け止め、障害者の権利に関する条約に基づく締約国の義務に従って、病床転換型居住系施設の計画を撤回し、精神障がい者の地域生活を可能にする住環境の保障と福祉サービスの充実を今こそ抜本的に図るよう改めて求めるものである。

2014年(平成26年)6月6日
日本弁護士連合会
会長 村 越   進



病棟転換型居住系施設について考える会
stopbttk@yahoo.co.jp



京都精神保健福祉士協会 緊急企画

2014-06-13 14:29:04 | 行動
 京都の動きが伝わってきました。他の各地、東京PSW協会、日本PSW協会の動きを期待したいところです。

 京都精神保健福祉士協会が、今晩緊急企画として「病棟転換型居住系施設」問題についてPSWとして考える会を行います。


京都精神保健福祉士協会ホーム・ページ
http://kyo-psw.org/pswkaiin/
より

京都精神保健福祉士協会 緊急企画のおしらせ

テーマ:「病棟転換型居住系施設」問題についてPSWとして考える会

日時:2014年6月13日(金)19:00~20:50

講師:吉池 毅志氏(大阪人間科学大学 准教授 
              NPO大阪精神医療人権センター)

会場:ウィングス京都 2階 セミナー室
   京都市中京区東洞院通六角下る御射山町262  
   地下鉄烏丸御池駅(5番出口)または地下鉄四条駅・
   阪急烏丸駅(20番出口)下車徒歩約5分
  ※一般来館者用の駐車場はありませんので、電車・バスをご利用ください。

参加費:¥500(当協会会員は無料)

 今回この会を企画するに至ったのは当協会総会にて「このままでいいのか」との声があったためです。
 社会的入院を解消・社会的復権を支援する専門職としてPSWは国家資格化されました。しかしながら依然として社会的入院は解消せず、退院できないまま精神科病棟で一生を終える方が多くおられるのも事実です。この現状を解決するための方法として私たちはこれを良しとするのでしょうか。 

 また、日本は2014年1月障害者権利条約に批准しておりますが、その条約に照らしても、「病棟転換型居住系施設」は問題があると言えないでしょうか。

 この様々な論点のある課題に真摯に向き合うためにも、経過やその問題点をきちんと知り、様々な意見を交わす場を企画しました。多く方の参加をお待ちしております

お問い合せ
京都精神保健福祉士協会 事務局
電話  075-411-1011
FAX 075-411-1020
E-mail: office@kyo-psw.org