歌人・辰巳泰子の公式ブログ

2019年4月1日以降、こちらが公式ページとなります。旧の公式ホームページはプロバイダのサービスが終了します。

Natural Beauty―仮名序

2016-12-31 01:17:00 | 月鞠の会
Natural Beauty
古今和歌集101首鑑賞




 「古今和歌集」から101首を選んで構成しました。英語による超訳及び、和文による鑑賞を自分自身でおこない、和歌の表記等は、新潮古典集成「古今和歌集」(校注:奥村恒哉)に準じました。読み方をローマ字で示し、英語の表記法に倣い、単語もしくは連語ごとに区切りました。

 平安時代初期に編纂された「古今和歌集」の編者、紀貫之は、その仮名序に述べています。実力行使ではない在り方で、天地を動かせるのは歌であり、恋人たちに失われた時間を取り戻させるのも歌であり、兵士の緊張と痛みを和らげ、邪悪な心に思いやりを持たせるのもまた、歌であると。そして、古今和歌集に登場する風物は、人間とおなじように痛みを覚え、自己表現と恋を求め、平安を願う生命そのものであると。そして、仮名序の結びで、貫之は、はるか未来を生きる人々にも、よい時代とはどんな時代であるかを感じてほしいと述べています。
 
 これらは、「古今和歌集」を素直に読めば、誰にでも、そうとわかるようなことです。しかし、この集が、最初の勅撰和歌集であることから、しばしば、天皇制の是非や政治と結びつけ語られるのを見聞きします。私は、このことに長年、違和感を覚えていました。古今和歌集に挙げられた風物が、政治や戦争といった人事の象徴だったりするだろうか。やがて、貫之の編集意図をあるがままに明確に示すことが、宿願となってまいりました。学識の乏しい自分にも、できることがありはしまいか。そこで、現代歌人として、101首を選んで、日本人がそうしてきたように、海外の方にもおみくじとして使ってもらえるよう、英語に超訳することを思いつきました。

 本誌では、超訳の自由な表現と、客観的な知識のバランスをとるため、月鞠の会の仲間である佐藤元紀さんに、手助けを求めました。元紀さんは高校の先生です。元紀さんご自身の選と分析をこの号にお願いし、書簡や電子メールのやり取りを重ね、掲載に至りました。お調べいただいて、実際、「古今和歌集」に、戦争や対立を駆り立てる作品は、なかったとのことでした。

 私たちを取り巻く自然や環境への「気づき」を、英語で “aware” といいます。この語をローマ字読みすると「あはれ」となり、日本の抒情詩に通底する感情を表す一語となります。世界じゅうの生きとし生けるものの、安らかに暮らしたいという願い、生命への哀惜。

 千年の時空を超えて、「古今和歌集」の、生きとし生けるものの、あるがままの美が、どうか印象深いものとして、伝わりますように。


2016年12月31日
辰巳泰子
歌人

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする