90代の繰言

後期高齢者の戯言

人工透析(7)

2019-03-19 21:22:58 | 日記


「延命中止」という新たな選択 生と死のはざまで
2017年6月9日

医療技術の発展で命を延ばすことが可能になった今、救急医療の現場では、かつてタブー視されていた延命治療の中止を実践され始めている。回復の見込みがなくなったとき、家族や患者、医師は生と死のはざまでどのような選択をすべきなのか。長寿社会のあるべき医療について考える。

「延命中止」 救急医療の現場で広がる新たな選択

医療の力で命を延ばすことで、本人も家族の望まない状況が生じているのではないか。帝京大学病院高度救命救急センターは、延命治療を中止するという難しい選択と向き合っている。受け入れている重症患者は年間2,500人。その半数以上を占めているのが高齢者だ。
「ご高齢で、いろんな手を尽くしても結果的にはゴールが見えない。あるとしても本当に寝たきりであるとか。ふだん抱えている私たちのジレンマです」と話すのは同病院の安心院康彦医師。この病院では救命措置のあと別の病院に移され、回復の見込みがないまま長期入院を余儀なくされる人が増え続けている。

延命中止は医師と患者本人やその家族との話し合いで決まっていく。
心肺停止の状態で病院に運ばれ、人工呼吸器によって延命措置が取られた小澤敏夫さん(68歳)。主治医である神田潤医師は、CT検査の結果、小澤さんの脳に重い障害が残り、意識が戻る可能性が極めて少ないことがわかると、延命中止という選択肢を家族に提示した。人工呼吸器を外し、つながれていた管を抜き、自然な最期に委ねるというものだ。

日頃から「延命につながる医療は望まない」と妻に伝えていた小澤さん。家族は、小澤さんが搬送されてから2日後、命を支えていた人工呼吸器を外し、管を抜くという選択をした。その1時間後、小澤さんは静かに息を引き取った。

「最終的には人工呼吸器を外して抜管して、最後はご家族含めて皆でおみとりするという格好になったんですが、これが本当にベストなのか実際に分かりません。医療者が患者さんなり家族と向き合って、最期をどう迎えるかを考えなくてはいけない」(神田潤医師)


「延命治療の中止」 戸惑う医療現場

呼吸を補助し、命を支える人工呼吸器を外す。これはかつて医師が殺人罪に問われかねない行為として医療界でタブーとされてきた。

2004年、北海道の病院で、心肺停止の状態で運ばれた90代の患者の人工呼吸器を医師が外し、殺人罪に問われたほか、2006年には、富山県で複数の末期患者の人工呼吸器が外され、医師が殺人容疑で書類送検されたこともある。いずれも不起訴となったが、10年ほど前には大きな社会問題となった。

一方で、治療を続けることの負担を訴える患者や家族の声や、最期は自然な形で迎えたいという価値観の変容が医療現場に大きな変化をもたらしている。2007年、国のガイドラインに人生の最終段階の医療行為の中止が示され、「延命治療の中止」が初めて公的に認められた。その後、胃ろうなどの人工栄養の中止、人工透析や人工呼吸器のなどの生命維持措置の中止、そして肺炎治療の中止などが選択肢としてガイドラインで相次いで示され、徐々に医療現場に広がっている。そして、2017年、高齢者医療においては、本人の意思、かかりつけ医の確認などができれば、救急隊員が蘇生行為を中止できるという新たなガイドラインがまとめられた。こうした動きがある中で、国の医療費が増え続けていくことへの懸念も指摘されている。

しかし、東京大学大学院 特任教授の会田薫子さんは、延命中止は医師たちにも戸惑いも大きく、今回、番組で取り上げた、「挿管チューブを抜く形での延命中止」を実践している病院は少ないのではないかという。
「医療者は、特に医師は救命する・延命することを仕事として教えられてきた。治療の中止は、あたかも自分が患者さんの命を終わらせているのではないかと思ってしまうんです」

延命継続か、中止か。命をめぐる選択

延命中止の先進的な取り組みを行っている、病院のひとつ長崎腎病院。重い腎臓病の入院患者70人が人工透析を受けており、平均年齢はおよそ80歳。人工透析は血液の老廃物などを取り除き、再び体内に戻す治療だが、この病院では全国に先駆けて「透析中止」という選択を家族に示す取り組みを行っている。

高齢の透析患者は、心不全やがん、認知症など深刻な病気になることも多いため、みずからが判断できるうちに治療継続の意思を“事前指示書”で確認。気持ちの変化で何度でも書き直すことができる。

この病院で透析中止を選択し、家族をみとった宮田純子さん。祖父の鐘成さんは81歳から7年間透析を続け、次第に治療の負担を訴えるようになったという。家族は本人と話し合い、終わりのない治療続けるよりも自然な形で最期を迎えたいと、透析の中止を決断。治療をやめて2週間後、鐘成さんは家族に囲まれながら静かに息を引き取った。
宮田純子さんは「本当にゆっくり時間はすぎて、その2週間がすごくおじいちゃんのことを考えたのかもしれない。よかったと思います。やはり死はすごく悲しいことですが、本人が望んでいない延命をしてあげるという行為をしなくて私たちはよかった」と話す。

一方で、多くの家族が重い決断のはざまで揺れる現実もある。 透析治療を続ける成富義孝さん(76歳)は認知症の症状が出始めて、意思疎通が難しくなっている。初め、義孝さんは判断能力がなくなったら透析の継続を希望しないと答えていた。しかし、衰弱が進んで食事が口からとれなくなり、胃ろうをすすめられたときに、義孝さんの気持ちに変化が起きた。妻の五枝さんは、そのときの様子をこう話す。
「いま胃ろうしなかったら死んでしまうよというようなことを言って、2日くらい考えましたかね。本人が自分から言ったんですよ、『してみようかな』って。だからその時、もっと生きようと自分でも思ったんじゃないですかね。私はすごくうれしかったです」

このとき五枝さんが改めて、いつまで透析を続けるか聞いたところ、義孝さんは「判断力がなくなっても透析を続ける」と答え、五枝さんは事前指示書を書き換えた。1日でも長く生きてほしい。それが2人の選択だった。
「だんだんね、言葉が少なくなるのは寂しいけど、もう少しこのままでいいから生きていてほしい。」と五枝さんは話す。

変わる医療の役割 どう生き終わるか

延命中止の選択にいたるまで、揺れ動く本人や家族の気持ち。その心を支える医療はどうあるべきなのか。

注目を集めているのが、共に考え、共に悩む医療の在り方として欧米を中心に実践が始まっている『ACP=アドバンス・ケア・プランニング』だ。これは看護師などの専門のスタッフが、患者と医療者側の知識の溝を埋めながら、治療の方針について共に考えて計画していく取り組み。治療を行った場合には、どんな負担があるのか、また治療を中止した場合には、どんなケアが残されているのかなど、細かく相談に乗っていき、また、気持ちの変化に合わせて変更をしていく。日本でも一部の病院で取り組みが始まっている。

かつて、医療の役割は命を救うことが使命だった。しかし、今、医療は患者一人一人の生き方を最期までどう支えるか、共に悩みながら考える時代に大きく変わろうとしている。そして、私たちも、自分がどのような最期を迎えたいのか、しっかり考えることが求められている。

この記事は2017年6月5日に放送した「人工呼吸器を外すとき
 ~医療現場 新たな選択~」を元に制作しています。



人工透析(6)

2019-03-18 21:03:00 | 日記

腎臓再生で「腎不全死ゼロ」社会は来るか‥‥医師の挑戦
全国33万人の人工透析患者に朗報
 

移植手術はごくシンプル
 
「今や、世界の腎臓病患者は8億5000万人に達し、うち腎不全で透析療法や腎移植を必要とする患者は530万~1050万人と推定される」――去る6月、国際腎臓学会はこう警鐘を鳴らした。

高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病によって発症リスクが高まる慢性腎臓病。進行が進み、末期腎不全になると、体内の老廃物を充分に排出できず、「人工透析」「腎移植」のいずれかが必要となる。

日本の現状も厳しく、透析医療の進歩にかかわらず、約33万人が週3回、一回4時間の透析治療を受けている。1級障害者に認定されるため医療費は月1万~2万円で済む。

しかしながら、透析のために病院に通い、時間を拘束されるなど、患者のQOL(生活の質)の著しい低下が強いられる。また、腎移植の希望者が1万人を超える一方で、ドナーは圧倒的に不足しており、いつ順番が回ってくるかもわからない。

こうした国内外の深刻な状況を打破すべく、研究を進めてきたのが東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科主任教授の横尾隆氏だ。

昨年11月には、ラットによる腎臓再生に成功。これまで、その構造の複雑さゆえに「再生は不可能」とされていた常識を覆した。その方法は実にユニークなものだ。
横尾氏が解説する。

「患者さんのiPS細胞から、『腎臓の芽』となる前駆細胞を作製します。また、遺伝子操作したブタの胎児から腎臓が育つ場所を取り出しておく。そのなかで前駆細胞を育て、患者さんの体内に移植します。

あとは、薬剤でブタ由来の前駆細胞を除去すれば、100%患者由来に置き換わった腎臓の芽が、成熟して腎臓になるというわけです。尿が作られるということを確認して尿管とつなぎ、膀胱から尿が出るようになったら再生完了です」(下図参照)

移植手術は腹腔鏡で、極小の「腎臓の芽」を腹部大動脈の近くに張り付けるだけというシンプルなもの。100万円程度の経費を想定している。

現在透析患者一人に対してかかる医療費は、年間約500万円。それを国がほぼ負担し、その額は実に1兆4000億円以上にまで膨らんでいる。さらに透析患者の平均年齢は68.15歳と高齢化も進む。

超高齢化社会に突入し、これからますます医療費が増大するなか、再生腎臓の実用化は費用削減効果の面からも期待が大きい。

腎臓再生は理論上可能となった。次の段階はいよいよ臨床研究だ。

「人間に使っていい品質の前駆細胞を作る施設と、一般的な動物とは異なる、無菌状態のブタを飼育できる施設が必要となります。この2つを整えられれば、その後の臨床試験は一気に進むはずです」(横尾氏・以下同)


子どもたちをまず助ける
だが、施設を1棟建設するだけでも30億~40億円かかるという莫大な資金をどうやって調達するか。それは、医学研究の領域を飛び出し、産業の領域に入っている。研究者としての力量だけでは太刀打ちできない、大きな壁が立ちはだかっていた。

そんな歯痒い状況から脱しつつある。7月末、横尾氏はこう語った。

「実は今、この壁を一挙に、しかも想定外の短期間で乗り越えられそうなところに来ているのです。

日本の大手製薬会社と、我々が腎臓再生プロジェクトのために作った法人との間に共同研究契約の話が進んでいます。先方はすでに、高品質の前駆細胞が作れる施設を持っています。

しかもその施設は国の認可も得ているので、契約がまとまり次第、前駆細胞の作製に取り掛かれる。ブタの飼育施設に関しても、協力してくれる方針となっています」

実現すれば懸念されていた2点ともをクリアできる、まさに〝渡りに船〟だ。

「契約が成立すると、臨床試験の申請など、国との折衝も同社のプロフェッショナルに受け持ってもらえます。

ただし日本は、医療分野での許認可の基準が世界一厳しい……。普通なら、患者さんに再生腎臓を届けるまでに10年くらいかかってしまうのです」

そこで横尾氏らのチームは、海外における臨床試験・実用化の道も同時に探っているという。目下、中国、アラブ首長国連邦、インドといった国々の企業が名乗りを上げており、交渉が進んでいる。

「世界には、経済的な理由で透析が受けられず、亡くなっている人が大勢います。透析には高価な機器に加え、キレイな水も大量に必要で、そのためのインフラも整備しなくてはなりません。

再生腎臓なら安価に、貧しい人たちを救う仕組みが作れると思います。海外でも臨床試験を行い、効果と安全性を立証できる症例を多数蓄積できれば、日本での認可も通りやすくなるでしょう」



「3年以内の実用化を目指す」と横尾氏は力強く言う。

「再生腎臓を早急に届けたいのは、生まれつき腎機能や尿路に異常があるお子さんです。透析が上手くいかないケースもあり、成人まで生きながらえるのも難しい。

そういう子どもたちを助けつつ、徐々に成人に適用を広げ、腎不全死のない世の中を実現させたいと思っています」

「週刊現代」2018年8月18日・25日合併号より




人工透析(5)

2019-03-17 20:49:00 | 日記

透析大国ニッポン!一度始めたら一生やめられない人工透析の「真実」
いまや市場は2兆円規模

週刊現代 講談社

透析患者は病院の「ドル箱」
「人工透析をしたい人にとって、日本は『幸せな国』といえるかもしれません。透析には月40万円ほど費用がかかりますが、患者負担は1万〜2万円で済む。国が1人あたり年間500万円近く負担してくれるわけです。

腎臓病の患者のなかでも透析をやっている人の割合は極めて高く、95%もいます。アメリカや韓国では40%、ヨーロッパでは50%です」

こう語るのは、透析や腎移植に詳しい大塚台クリニック院長の高橋公太医師。透析は、糖尿病が悪化するなどして腎臓が機能しなくなる腎不全になった人に行う医療行為。腎臓は血液の老廃物を除去したり、電解質を維持したりする作用があるが、それを人工的に行うのが透析だ。

高橋氏の言うとおり、日本は透析大国で、現在約32万人もの透析患者がおり(注:2019現在33万人)、年間5000人のペースで増加中だ。患者数の伸びは高齢化のスピードとほぼ一致しており、2025年まで伸び続けると予測されている。

透析患者1人に対して年間約500万円の医療費を国庫が負担していると考えると、単純計算で約1兆6000億円。透析患者は合併症も起こすことが多いので、その分も含めればざっと2兆円もの医療費が32万人の患者のために使われている計算になる。日本の医療費は全体で40兆円なので、この額は医療費の5%にあたる。

ときわ会常磐病院院長の新村浩明医師が語る。

「日本の医療費全体のなかで透析医療費が占める割合は異常に高い。こうした構造がおかしいことは誰もが気付いていますが、もはや止められなくなっているのです。

医療費をなんとか抑えようとすれば、患者さんの負担を増やすしかありませんが、そもそも腎不全で体が弱り、経済力のない人たちにその負担を強いることは難しい。結局、日本の透析医療は袋小路にはまりこんでしまっているのです」

なぜ、日本の透析医療はこれほど巨大化してしまったのか。その主たる理由は、透析が「儲かるビジネス」になってしまっているからだ。都内の糖尿病専門医が語る。

「病院にしてみれば、一度透析を始めた患者は、定期的な『収入源』になります。少し前までは、透析の保険点数は今よりも高く、患者を1人つかまえればベンツが1台買えると言われたほどです。

私の病院でも透析の患者さんは大切にしますよ。患者は週に3回、各4時間の治療を受ける必要があるので、無料送迎サービスを提供したり、いろいろと気を配っています。逆にいえば、それだけ儲かる『ドル箱』なのです」

腎移植のほうがQOLが高い
人工透析を始めると途中でやめることができない。自分の経済負担は少ないかもしれないが、それは死ぬまで国庫から病院にカネが落ち続けるということだ。

「カネ儲けのために透析を専門に行う病院もあります。そういうところは紹介料を払って、病床数が限られる大学病院から透析患者を『買う』のです。

90歳を超えた高齢者で透析が必要かどうか微妙な患者でも、カネのためにバンバン透析を始めてしまう。高齢者が週3回の治療を受けるのが、どれだけ負担になるのかなんてまったく考えていないんです」(前出の糖尿病専門医)

医療費が膨れあがるにつれて、それに群らがる病院や製薬会社などの「透析利権」も巨大化している。

「製薬会社にとっても透析患者はドル箱です。以前、私が勤めていた病院でもMR(医薬情報担当者)による接待攻勢がすごかった。毎日昼前になると、高級割烹料理店のすき焼き弁当や西京焼き弁当が机の上に並んでいるんです。余った分はお気に入りのナースに配っていました。

透析で使う造血剤のMRとはよくパチンコに行ったり飲みに行ったりして遊びました。温泉に行ったこともあった。家族の面倒も見てもらいましたし、遠い親戚みたいな感じでしたよ。

それだけ接待してもらうだけの価値が、造血剤にはあるんです。いい薬なんですが、すごく高いんですよね。我々医師の診療報酬よりも薬代のほうが高いこともありましたから」(前出の糖尿病専門医)

こうして膨れ上がった透析利権2兆円。少子高齢化で今後ますます財政状況が厳しくなる政府としても、さすがに野放しにはできなくなっている。だが、さまざまな利害が絡む透析医療費を抑制するのは、とても難しい。前出の新村氏が語る。

「現在、国は透析の診療報酬を2年に1度ずつ下げていて、患者数が増えても医療費総額が抑えられるように調整しようと試みています。このことで、透析クリニックの経営も苦しくなってきました。1人当たりの医療費を下げるということは、薄利多売になるということ。透析医療の質も下がってきています」

透析大国の透析の質が下がっていかざるを得ないというのは、何とも皮肉な話である。

袋小路にはまってしまった透析医療問題を解決する道がないわけではない。腎移植をより普及させることができれば、透析患者を減らすことができるのだ。前出の高橋氏が解説する。

「日本では移植のことを知らない人が多く、腎移植の数がなかなか伸びてこなかった。しかし、そもそも腎不全の患者にとって透析よりも腎移植のほうがQOL(生活の質)が高いのです。週3回透析治療を受けるのは、とくに働いている若い人にとっては大きな負担になるでしょう。

また透析をしながらでも長く生きられると信じられていますが、実際はそうでもありません。例えば若くして20代で透析を始めた人はたいてい50〜60歳で亡くなる。24時間動いている腎臓の機能を週3回の透析で代替しようとしても無理があるわけです。

また、長期間の透析を続けるとさまざまな合併症も出てきます。腎移植が成功すればそのような身体の負担は小さくなります。さらに経済的な負担を考えても腎移植のほうが小さい」

手術後の患者のための税金や保険の負担は100万〜150万円。移植手術の費用を考えても、長期的に見れば透析より移植のほうが国庫にかかる負担は小さくなる。

「利権」が代替医療を妨害する
現在、日本で行われている腎移植の件数は年間で1600例。20年前は500例だったので、かなり増えたともいえるが、アメリカの1万8000例と比べるとまだまだ少ない。前出の新村氏も、移植医療の遅れが現在の透析依存を深刻化させたと述べる。

「腎移植が普及していればこうした状況にならずに済んだと思います。臓器移植法案がスムーズに通り、日本で腎移植がもっと早い段階で普及していれば、透析に頼り切る医療にはならなかった。

日本は移植へのアレルギーがあり、非常に厳密な移植の基準、臓器提供の基準ができあがってしまった。少しずつ緩和されてはいるものの、臓器提供できる病院が限られています。指定されていない病院で脳死患者が出ても、そこからは臓器提供ができないのです」

現在、日本で行われている腎移植の9割は身内がドナーとなっている生体腎移植だ。'97年に脳死移植が認められたものの、なかなか増えていないのが現実である。ちなみにアメリカでは脳死移植が全体の半分以上(年間1万例)もある。

移植の他の代替治療としては、腎臓の再生医療も研究が進んでいる。実現されるまで時間がかかるが、腎不全の患者にとっては大きな希望だ。

「多少陰謀論めいた話になりますが、これだけ透析利権が大きくなると、移植や再生医療の拡大を阻もうとする勢力も出てくる。腎移植の基準が緩和されたり、再生医療の研究が進めば、それだけ透析患者が減っていくのですからね」(前出の糖尿病専門医)

医療従事者ですらも腎不全になってしまえば、透析しかないと信じ込んでいる人もまだまだ多い。

「腎臓が悪くなったからすぐに透析、という考え方は間違っています。ドナーがすぐに見つかるかわかりませんが、その後の人生のことを考えれば移植の可能性はないのか、検討してみる価値はあるはずです」(前出の高橋氏)

医者の勧めるまま透析を始めたら、二度と健常な生活に戻れない。治療法とその後の人生は自分自身で選ぶしかないのだ。

「週刊現代」2016年9月10日号より