老いること(5)
外耳道から鼻腔へと、老いの話が進んだ。
さて次は、順に口腔だ。
60歳の年、糖尿病が判明した。
10日ほどの入院加療で頻尿が治り退院した。それ以来、食事療法を心がけ、何とか今日まで生長らえている。
しばらくして歯が抜け始めた。時折ポツンポツンと臼歯が、門歯がと抜けていく。大歓迎だ。歯がなければ歯医者に行く機会がそれだけ少なくなる。
と思っているうちに、ある朝、5本もいっぺんに抜けてしまった。残るは左下の犬歯と隣の小臼歯のみだ。これで歯医者とは縁切りだ、万歳!!!!とはいったものの困ったことが発生した。
発音がままならないのだ。
日本語がおかしい。舌足らずだ。
若いころ凝っていた演劇活動を思い出い、活舌を約3か月、なんとか、聞くに堪える日本語を発音できるようになった。
問題は歯音の多い英語だ。ずいぶんと練習したが、「th」や「l」の発音はできない。何とかごまかしてしゃべるが、それでも結構通ずるので、ホッとしてはいる。
そのうち小臼歯も抜けて、下顎の左犬歯一本になって現在に至る。
食事は大いに不便だ。
ピーナツを始め固いものはすべて丸呑み以外に食べる方法はない。しかし、最近は食道周りの筋肉が弱り始め、少し大きなものを飲み込むと、食道と気道の境目に引っ掛かり、窒息しそうになる。葉っぱの類も苦手だ。そのまま飲み込むとやはり気道の入り口を塞ぐのだ。餅はもちろん、お赤飯の塊から、おにぎりにいたるまで、固めたものはなんでもそのまま飲食できない。
それでも人間は生きていけるものだ。相棒の協力もあって、なんとかかんとか、その日その日を送っている。
同時に、歯が一本もなかった母方の祖父の苦労のほどをしのびながら、追体験している。物心つく頃からかわいがってくれた祖父への感謝なのだと自分に言い聞かせている。
歯がなくなって、ついで困るのは、涎(よだれ)だ。
「枕を濡らす」(悲しみに堪えず、夜ひそかに涙を流す)という言葉があるが、ガラジーの場合、悲しくなくても枕を濡らすのだ。横を向いて寝ると必ず下側の枕が濡れている。歯がないため、唾液が自由に口外にあふれ出す。寝ている間なら何とかごまかしがきくからよいが、目覚めているときは困りもの。好物を見ると、口腔内に唾が湧き出すのは当然だが、ガラジーの場合は口外まで溢れ出すのだ。やんぬるかな!なんとかしてくれぇぇー
老人が鼻水をたらし、涎をたらしている理由がやっと最近になってわかりかけてきたガラジーである。
ウヘェー、きたねぇー!なんていわないでくれ。明日はもっと汚い話だ。
【参考】
〇
歯音(Wikipediaから)
〇
「OCM式日本語50音」発音
〇
言語機能と構音障害
(この項終わり)