おおいた酒蔵巡り④ 藤居醸造(豊後大野市)
「感動を与える商品を作り続けたい」と藤居淳一郎社長=豊後大野市千歳町新殿
奥豊後の町千歳から、心で醸した焼酎を全国へ―。雄大な自然と歴史、伝統が息づく豊後大野市千歳町。酒造りの世界でも、一つの伝統を守り続ける蔵元がある。焼酎専業の藤居醸造は1929年の創業以来、完全手作りを貫く。原料の蒸しからラベル貼りまでの全工程が手作業。「人が原料に関わることで最高のうま味が引き出される。これだけは譲れない」と3代目杜氏(とうじ)の藤居淳一郎社長(48)。
屋号の「井田萬力屋」は、酒蔵のある千歳町の旧称「井田村」に由来する。3代目を継いだ時、「この土地、この蔵にこだわり、個性と魅力のある商品にしたい」と蒸留方法を従来の減圧から常圧中心に転換。麦の香ばしさと重量感ある「飲み応え」を表現した一品を開発。2代目の名前から「泰明(たいめい)」と名付けた。
こだわりは販売方法にも。問屋に卸さず、地酒店に直接売り込むスタイルで関係性を構築。現在では全国約100店舗と取引がある。輸出も昨年、台湾とタイ向けに始めた。「『泰明』という名が海外でも認知され、指定してもらえるようにもなった」と手応えを感じている。
「蔵の個性を守りながら、感動を与える商品を作っていきたい」。手作り焼酎一筋の杜氏のぶれない信念が、唯一無二の焼酎を醸し続ける。
メモ:豊後大野市千歳町新殿。蔵の隣の店舗で試飲できる。常圧蒸留の麦焼酎「特蒸泰明」と常圧・減圧をブレンドした「泰明」がスタンダード酒。地元産の六条大麦トヨノカゼが原料の「トヨノカゼ」は柔らかでどこか懐かしい味わい。素材を吟味し、通常の倍の時間をかけて仕込んだプレミアム酒「泰明ここから」は、時間がたつほどまろやかに。チョコレートやドライフルーツと一緒に味わうと美味。
試飲できます
連載は、大分市セントポルタ中央町の「おおいた銘酒館ゆたよい」とのタイアップ企画です。週末の土曜日午後1~5時に紹介した酒蔵の酒が試飲できます。一般は会費千円で蔵元らによる「語り部養成講座」に参加できます。
2017年8月15日
おおいた酒蔵巡り⑤ 佐藤酒造(竹田市)
大吟醸千羽鶴を手に「酒造りはまだまだ勉強中」と語る佐藤俊一郎さん=竹田市久住町の佐藤酒造
竹田市久住町の商店街を進むと、レトロな洋風建築がある。佐藤酒造は1917(大正6)年に創業し、今年で100周年を迎えた。現在は3代目社長の佐藤克比古さん(67)と、長男の専務俊一郎さん(33)が二人三脚で理想の酒造りを追い求めている。
豊潤な香りと淡麗な後味に定評のある「久住千羽鶴」大吟醸が5月、酒類総合研究所の発表した全国新酒鑑評会で3年ぶりに金賞酒に選ばれた。俊一郎さんは「今年は発酵力の強いこうじができた。雑味が少ない仕上がり」と胸を張る。
俊一郎さんが酒造りを始めたのは10年前。もともと家業を継ぐ気持ちはなかった。大学卒業後、県外にいると、蔵人が腰を痛めたことがきっかけとなり酒蔵を手伝うことに。そこで酒造りの奥深さと苦労を知った。父親を助けたいと思うようになり、生まれ育った地での酒造りを決意した。
標高約600メートルの高冷地にある酒蔵は、夏でも高温になりにくく、酒造りには絶好の場所。創業当初からの酒蔵は土壁で覆われ、外気を遮断。温度や湿度を一定に保ち、安定した味が出せる。仕込み水は久住山の伏流水を使っている。軟水で口当たりがよく、辛口にも甘口にも順応する。
「期待を裏切らないお酒を造りたい」。久住の豊かな自然とこだわりがうまい酒を造りだす。
メモ:代表銘柄「久住千羽鶴」は1952年、川端康成が「千羽鶴」の続編「波千鳥」を執筆中に久住に立ち寄り、2代目社長と交流したことから名付けられた。俊一郎さんのモットーは「地元に愛される酒造り」。金賞酒に選ばれた大吟醸は、香りがよく、食前酒として飲むのがおすすめ。酒蔵では飲みたいお酒を選び、その場で試飲することができる。問い合わせはTEL0974・76・0004へ。
2017年8月22日