太陽に最接近する5月末にはマイナス等級の大彗星になるのではないか・・・・コロナ禍の暗い気分を拭うような期待を込めてC/2019Y4アトラス彗星が一気に注目を浴びてきた。ただ、近日点通過の時でも太陽から約3800万キロもあってマイナス等級はまずないだろうと踏んではいた。それでも3月下旬から3回にわたってその姿を追った。
いつも通り、夜半過ぎに海岸に到着してすぐに北極星の西側、中空にあるアトラス彗星に望遠鏡を向ける。西から北の空は京葉地帯と成田空港の光害が目立つ。しかも3月21日は春霞のために低空では4等星もはっきり見えない。露出を切り詰め何コマも合成することでカブリを最低限に抑えていく。彗星は9等から10等台、青く広がったコマが目立つ。
冬晴れのように空が澄み渡った3月25日未明には青いコマが明るく大きくなって久しぶりの大彗星を期待させるような姿をしていた。ところが、まずまずの透明度だった4月3日未明、アトラス彗星は少し光度を下げてコマが細長くなって写っていた(上画像)。このころからC/2019Y4アトラス彗星は分裂するのだはないかという情報が流れ始めた。その後、満月期になりアトラス彗星を追うことはなかったが、国内外の画像にはすでにコマの中心部が数個に分裂した彗星の姿があった。
7年前の2013年、世情が大騒ぎの果てに太陽に187万キロまで近づいて消滅したアイソン彗星C/2012 S1のことを思い出す。アトラス彗星の近日点通過5月31日までまだ間があるが、いずれ崩壊もしくは消滅するという予測が大勢となってきた。出ると言って出ない、明るくなると思いきやそうならない。天文現象にはよくあることだが、それを目の当たりにするのも星を見ていて興味の尽きないところでもある。
アトラス彗星はじめ、いくつかの彗星を画像に収めたあとの3月25日午前4時過ぎ、東天低空に昇り始めたペガスス座の一画を移動する1~2等星くらいの光の隊列に気づいた。またもやスターリンク衛星だ(下画像の光の線、午前4時9分頃、15cm反射直焦点25秒露出)。はじめは、突如夜空に現れる不思議な光景に圧倒されたが、星を見るたびに遭遇するとなると煩わしい。こうした「星まがい」がいずれ12,000機も空を覆うとなるとプロの天文台ではなくとも脅威に感じる。いまや星空の危機ともいえる。