たまおの星便り-星海原の航海日誌。  

日毎夜毎、船橋から房総九十九里へと繰り出し、星空を駆け巡る観測日誌。

・2020/12/17~氷点下、海からさらに離れて。 

2020-12-31 | たまおの星便り

 12月の新月期、ふたご座流星群の房総は見事に雲の下となってしまった。17日になってようやく冬型快晴、海岸に着いた2時過ぎにはすでに-4℃だった。護岸工事は12月の始めには終了しているはずだったが、大型重機が残っていて海岸への立ち入り禁止はまだ解除されていなかった。波打ち際までなだらかな砂浜が続いていた海岸線には高さ4メートルくらいの土砂の堤防が築かれていた。頂上は平らに整地され一部アスファルトが敷かれていて車が通れるようにするらしい。津波には多分ひとたまりもないだろうと思いながら堤防から離れた駐車場の入口近くに機材を設置した。海岸近くの砂浜では水平線ぎりぎりまで見ることができたがこれからは堤防のために高度3度以下は観測できないだろう。実写して確かめてみた。

 3時過ぎると数年ぶりに-5℃まで下がってきた。典型的な放射冷却の未明となったがそれだけ空は冴えわたっている。まず西に傾きかけたシリウス近くの散光星雲IC2177、通称カモメ星雲をHα光で撮影する。光害カットのためにCometBPフイルターを使って赤く淡い怪鳥プテラノドンの姿が写野一杯に浮かび上がった(上右)。次にぎょしゃ座カペラ近くにあるC/2020M3アトラス彗星を一か月ぶりに狙う。次第に遠く淡くなっていくのがわかる(上左)。
 東天にはもう夏の星座が昇っている。てんびん座からへび座、ヘルクレス座、へびつかい座へと15㎝反射の筒を向けていく。4時過ぎになると車が数台、次々と駐車場に入ってきた。新月期大潮狙いの釣り人のようだった。例外なく煌々と灯りを点けて釣りの準備をする。砂浜で観測していた時は違法侵入車以外の車のライトは気にならなかったが駐車場の隅では体でライトを遮って撮影を続けるしかない。
 午前5時20分過ぎ、すでに東の洋上には赤みがさしている。南天低空ぎりぎり堤防の上のC/2019N1アトラス彗星を薄明の中で撮影する。カメラも鏡筒も三脚、車も白く凍結して極寒の朝が近くなってきた。
 その後、海岸まで5回往来し、12月26日未明に2020年の星空航海を終えた。星が見えなかった5回を含め年間通算して35回の航海記録となった。

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・2020/11/14~ 押し寄せる釣り人と明け方の彗星。

2020-12-04 | たまおの星便り

 移動性高気圧におおわれた11月14日は午前2時頃、海岸に到着した。護岸工事は終了しておらず重機が散在して立入禁止区域もあり水平線まで見通せる観測場所がない。やむなく駐車場の中ほどの街路灯が見えない場所に機材を設置した。
 しし座流星群の時期でもあり大流星は出ないかと夜空を隈なく気にしながらいくつかの彗星を撮影した。気温は10度を下回り透明度もよく静穏な未明の観測を一人で楽しんでいた。午前3時を過ぎた頃から車が駐車場に入ってきた。釣り人らしく煌々と灯りを点けながら釣り竿などの準備を始めた。車を光除けにしながら撮影を続けるが、車が次々と入ってきて工事で狭くなっている駐車場が釣り人で次第に埋まってきた。やがて望遠鏡を設置した場所の周りも車だらけになってしまった。確かに新月前後は大潮でもあり釣り人には絶好機なのだろうがそれにしてもまだ暗い未明に車の数が前例のないくらい多い。後でわかったことだがこの時、九十九里海岸40キロにわたって波打ち際に大量の「はまぐり」が打ち上げられていたのだった。それを目当てにした密猟者も混じって海岸に集まっていたのかもしれない。車とその灯りに取り囲まれて落ち着かない一夜となってしまった。
 翌日以降も晴天が続いた。前夜のことがあったので少し離れた海岸近くの空き地に観測場所を移した。やはり護岸工事中だが立入禁止の柵が立っていて「はまぐり」密猟者は来ない。但し、信号機のある交差点が200メートルくらい離れた北西側にあり、夜中にほとんど車が通らないのに異様に大きな街路灯が4灯も立っていてあたりを照らしている。車で光を避けるように機材を設置した。
 しし座流星群を撮るために14mmF2.8レンズで海上に向けてタイムラプス撮影を午前2時から始めた。C/2020M3アトラス彗星がオリオンの肩付近で8等と明るく大きくなっていた(上左画像)。この時期の夜明け前の東天に15㎝反射を向けると13~14等級の遠方銀河がいくつも写野に入ってくる。春の星座たちの中に開いた「宇宙の窓」は銀河の宝庫でもある。
 午前5時、薄明が始まる頃、おとめ座のスピカとからす座の間にあるC/2020S3エラスムス彗星が洋上高く昇る。12月の近日点通過に向けて光度を増していた(上右画像)。西にすっと伸びた尾も見える。ライブビュー越しにもコバルトブルーに輝くほうき星の姿を追っているうちに海の彼方の雲が赤みを帯びて朝がやってきた。

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