11月末の新月期から西高東低の冬型が強まり、関東平野は晴天が続いた。だが、海側の南関東や房総は夜から明け方にかけて予期せぬ雲に覆われることも多くなった。メディアの気象予報士からは殆ど話が出ないが、冬型が強まると房総の南方沖、相模湾上空に局地的な前線、「房総前線」が突如、発生することがある。強烈な冷たい北西風と沿岸沖を流れる湿った風が混ざって低気圧の渦を作り雲が立ち上がる。この雲が観測地の九十九里海岸一帯を未明から明け方にかけて断続的に通過していく。この時期、天気予報では朝まできれいな晴れマークが並んでいても、人が寝入っている深夜の空には星が雲間からしか見えないことがよくある。
ひまわり赤外衛星画像とSCW気象予報をよすがに、房総前線による雲の襲来をかわしながら何度か九十九里浜の観測地に向かう。予想外に明るくなってきた333Pリニア彗星(画像上左)は一日に約3度のスピードで北に向かって猛進している。
アウトバーストした29Pシュワスマン・ワハマン彗星(画像上中)は小さい円盤雲のような姿を維持しながらしし座α星レグルスの近くをうろうろとしている。
C/2022E2アトラス彗星は北天に散在する小さな銀河の間を縫うように移動している。特に12月12日未明には1200万光年かなたにある巨大な銀河IC342を横切って西進する姿が捉えられた(画像上右)。いつものことながら果てしない宇宙の広がりが実感できるひと時でもある。
昼間は暑くても夜半過ぎには15℃を下回るようになった。11月に入って移動性の高気圧によって晴れる日も多くなったが、昼過ぎ頃から「房総前線」が発生し、関東南部だけが雲に覆われる日もあった。
4日未明は気温10℃の快晴夜、C/2022E2アトラス彗星が北の空高くにある。だが望遠鏡を北高く向けようとしても南北方向の微動ハンドルが架台に当たって動かない。北極星よりも天頂に高い天体を見ようとすると発生する赤道儀架台特有の弱点に撮影が妨げられた。薄明近くになってうしかい座にあるC/2024B1レモン彗星を狙った。13等級という光度予測もでていたものの意外と暗かったのか、北東低空の光害のためか、写らなかった。
9日と13日もよく晴れた。29Pシュワスマン・ワハマン第一彗星がバーストをして俄かに明るくなったという情報を受けていた。しし座のレグルスのすぐ南で12等級の白く小さな惑星状星雲のような姿をしていた(画像上左)。333Pリニア彗星もしし座の膝下で予測よりも明るくなっていた。13等級で形ははっきりしないが彗星特有の青いコマがほのかに輝いていた(画像上右)。
○10月2日、九十九里海岸 太陽最接近後のC/2023A3紫金山・アトラス彗星を見ようと何日も待っていたが、ようやく晴天夜となった。午前2時前にいつもの観測地に着いて、まずC/2022E2アトラス彗星などを撮影しながら薄明を待った。空が白み始めた午前4時40分過ぎ、彗星の予報位置から調べたしし座αレグルスからの離角を元に水平線ぎりぎりの洋上に15㎝反射鏡を向けた。視野のほぼ中央に天頂斜めに細い尾を引いたほうき星が輝いていた(画像上左)。明るさは1等星程度、薄明の明るさに埋もれて肉眼では尾は見えないが集光したコマ本体はどうにか見えた。カメラの液晶ビユーでは3X5°の視野半分を越えて尾が伸びていた。まさに「ほうき星」に久しぶりに出会った気がした。
○10月12、13日、船橋の自宅マンション7階 明け方東天から地球最接近を経て夕方西天に姿を現したほぼ当日、日没後40分の西の地平線上を狙った100㎜望遠レンズの画像の隅端ギリギリに紫金山・アトラス彗星の頭部が写っていた(画像上中)。翌日13日もよく晴れてマンション7階の西空の開けた通路に陣取った。彗星は昨日よりも西に高くなり午後5時50分頃から100㎜望遠レンズにはっきりと写るようになった。船橋の西の夜空は東京のすさまじい光害に晒されていて晴れた夜でも1等星くらいしか見えない。そんな夜空でも明るく輝く彗星本体はもちろん、長くすっと伸びた尾も写っている。数十年に一度の大彗星といえる。マンションからほぼ真西に12キロ離れた東京スカイツリーめがけて紫金山・アトラス彗星は徐々に沈んでいく(画像上右)。自宅からのこうした星景は今後二度と見られないだろう。
○10月16~18日、群馬県北軽井沢の別荘観測所へ 澄んだ暗い夜空に浮かぶ長大なほうき星を期待して、浅間山東麓にある友人の別荘に足を延ばした。快適な別荘の前庭にはスライディングルーフ一観測棟、35㎝望遠鏡ドーム一などが設置されている。だが西の空は木々に覆われ視界が狭いため、浅間山が望める空の開けた近くの農場で紫金山・アトラス彗星を迎え撃つ計画を立てた。16日は雨まじりの天気、17日夕刻は現地に行って待機していたものの、日没を過ぎた頃から黒雲が空を覆い始め完全な曇天となってしまった。翌日も天候の回復が見込めず船橋に向けて下山した。
この前後、晴れた地域では明るさは落ちてきたものの立派な尾を棚引かせる大彗星の勇姿が捉えられていたようだ。ともかくも10月は東へ西へ、心躍る彗星追跡の日々だった。
昨年と同じくこの秋も夏から続く酷暑の毎日となった。海岸でさえ熱帯夜のまま夜明けを迎えた。その一方で、台風を迷走させた太平洋高気圧の気まぐれで房総は突如晴れる夜も幾度かあった。
南東風が吹いて空の透明度は上々。だが夜半過ぎの空に12等級より明るい彗星はない。まず西に大きく傾いたC/2021S3パンスターズ彗星を撮影する(画像上左)。京葉地帯の光害に晒されてカブリが激しい。これからますます都市部の光に埋もれていくこの彗星とは今後しばらく会うことはないだろう。
すっかり冬支度をした東の夜空、ふたご座の北には二つの彗星が射程に入る。暗い154Pブルーイントン彗星はこれまで何度か狙ったが状態の悪い空では写らなかった。透明度のよい6日に再挑戦したところポツンと白い微光星のような姿を確認することができた。光度は約15等、15㎝反射望遠鏡+デジカメではほぼ限界に近い。
次はふたご座αカストルのほぼ真北にあるC/2023E2アトラス彗星を狙う。約13等と決して明るくはないがコマが丸く広がり写りやすい(画像上右)。
今月末から10月中旬にかけて長らく話題のC/2023A3紫金山-アトラス彗星が太陽と地球に接近する。観測地の九十九里海岸からは太陽最接近の9月28日の日の出40分前に東南東の超低空、わずか高度3度程度に見えるはず。彗星崩壊の憶測も飛び交うなか、最大の心配は昨今の予想できない空模様でもある。
昼は40℃近く、夕方雷鳴、集中豪雨、日が落ちれば熱帯夜。そんな毎日が延々と続く夏。まるで星空は期待できないだろうと思っていた8月3日の夜半過ぎに房総半島に雲の隙間ができた。
海の上に薄い雲が棚引いていて透明度もよくないが、久しぶりの星空を見上げて心が踊る。薄明開始は午前3時、わずかな暗夜にせかされながら機材をセットする。
いまも明るい彗星は未明の空にはない。C/2021S3パンスターズ彗星は13等級のぽつんと暗い恒星のように天頂付近の天の川のほとりをゆっくり遡上していた(画像上左)。東の空、ぎょしゃ座の一画には14等級に近い154Pブルーイントン彗星があるはずだが、低空の雲や霞に阻まれたか、とらえることはできなかった。
夜明け前の夏の空には、すでに冬の星座群が昇り始めている。おうし座のツノの先にはM1カニ星雲、オリオンの腰には馬頭星雲、ふたご座の足元にはモンキー星雲や宝石をちりばめたような散開星団M35、NGC2158が輝いている(画像上右)。翌8月4日は雲が多く、わずか10分ほどしか星の姿が見えなかったものの、少しは溜飲を下げることができた2日間だった。
関東は6月下旬に梅雨入りの発表があったものの、逆に梅雨明けを思わせる熱暑の毎日が続いた。
7月5日はよく晴れて気温も夜半には24℃と幾分涼しくなった。湿度は高く、海岸に近づくにつれ予想通り霧が濃くなってきた。北極星はどうにか見えているので海岸寄りの砂丘に機材をセットして濃霧が晴れる機会を待った。500メートル北東のマンションの灯りも全く見えないなか、天頂を見上げるとはくちょう座からさそり座へと流れ落ちる天の川がうっすらと見え始めた。12等台まで暗くなったC/2021S3パンスターズ彗星が真北の空高く、天の川のはずれを移動している。望遠鏡を向けようとしたが、鏡筒の底が架台に接触、干渉して彗星を導入できない。天頂近くの空は望遠鏡の死角になっているのを改めて思い出し、撮影を諦めた。
7月8日は関東内陸には雲が散在していたが房総は晴れていた。気象衛星ひまわりのリアルタイム赤外画像をチェックして未明まで晴れ間が持つだろうと予想した。だが、海岸の空にはいくつものはぐれ雲が漂っていて星影もまばらだった。気象衛星の赤外画像では霧や低層の雲は不明瞭なことが多い。薄明が近づくにつれて雲が空を広く覆い始め、機材を撤収した。梅雨時の夜空はやはり予想が難しい。
梅雨入りの兆しもない6月11日、寒冷前線による驟雨の合間をぬって夜半すぎに海岸に到着した。予想に反して空一面の雲に覆われていた。雲の切れ間に時々輝く北極星を頼りに望遠鏡の極軸を合わせて天候の回復を待った。雲が時々途切れる天頂付近、はくちょう座デネブの北西にはC/2021S3パンスターズ彗星が見えている。雲の隙間を見計らいながら何枚か撮影した。だが、その後、雲は消えることなく、薄明が始まる午前2時半過ぎには帰路についた。
14日から15日にかけては高気圧が覆って好天となった。初夏の快晴無風の夜とくれば房総は濃霧と決まっている。2等星の北極星がどうにか見える視界2~300mほどの霧が海岸に立ちこめ、数分で体や機材にも夜露がびっしりと付く。それでも霧のトバリの上に広がる天頂付近には夏の天の川がはっきりと見えている。天の川を泳ぐようにゆっくりと移動しているC/2021S3パンスターズ彗星をまず視野に入れて撮影をする(画像上右↓)。霧は地上の大気の動きやわずかな風で濃淡が絶えず変わる。それに合わせて星影を追いかけて撮影を続けた。
一息ついたところで霧に煙る足元の砂浜を見ると、辺り一面にびっしりと小さな花々が咲き誇っているのに気づいた。調べると待宵草(マツヨイクサ、愛称は宵待草)の群生とわかった。暗くなると一斉に開花し、夜明けにはほとんどがしぼんでしまうという。
撮影した画像を調べてみると、C/2021S3彗星の近くには、天の川銀河の中にある星の大集団NGC6939とはるか遠い深宇宙に浮かぶNGC6946銀河が一つの画面に写っていた(画像上左)。
すぐ足元の待宵草と太陽系の中を動く彗星、約4000光年離れた星の大集団と1600万光年の彼方にある銀河、深い霧の中で時空と宇宙の広がりを感じた夜だった。
ゴールデンウイークの後半は巨大な移動性高気圧に日本が覆われて晴天が続いた。だが、連休ならではの諸事多用に追われて星を見ることはなかった。
10日と11日は午後11時過ぎに船橋を出発、夜半過ぎに観測地に着いて早々と観測態勢に入った。薄明開始は午前3時前、暗夜は2時間半ほどしかない。この時間、C/2023A3紫金山-アトラス彗星は西の空、高度20度付近にあり、刻々と東京の光害ベルトに飲み込まれようとしている。
光害のために暗い星は見えないのでしし座のβ星、デネボラを起点にして紫金山-アトラス彗星を視野に導入する。光度は約11等とまだ暗いが、はっきりとした白いコマから東に細く伸びる尾の形が日ごとに微妙に変わっているのがわかる(画像上)。
彗星はこの時点で地球から約3億キロの彼方にある。5か月後、9月27日には太陽まで5800万キロと最も近づき、10月12日には地球まで7000万キロと最接近する。日本からはこれからしばらく見られなくなるが、今秋には空駆ける明るい彗星となって再び姿を現すと期待されている。
予想よりもかなり遅れた桜の満開が過ぎた頃から移動性の高気圧が数日おきに日本を通過し、好天が続くようになった。10、11日と14、15日は気温が10℃前後と連日、春めいた夜だった。その一方で星の輝きは鈍く、頭上から南天に流れ落ちる夏の天の川が淡く霞んで見えていた。高気圧を追うように大陸の黄砂がまたやってきた。
ここ数カ月追い続けていた62P紫金山第1彗星は未明には西に大きく傾き、すでに小さく暗くなっていた。C/2021S3パンスターズ彗星も天の川の中を移動しながら11等級近くまで光度を落としていた(画像上左)。この秋、大彗星になるかと注目のC/2023A3紫金山-アトラス彗星はまだ暗いながら白く丸いコマからごく短い尾を伸ばしていた(画像上右)。
これまでキヤノンのデジタル一眼の露出を制御するためにipt(イプト)作成のタイマーリモートコントローラーを長年使い続けてきた。個人の天文アマチュアが星の長時間撮影に特化して作ったもので使い勝手がよかった。だが、基盤についたタクトスイッチが摩耗劣化したのか最近、誤作動が多くなった。代わりに今回からロワジャパン製のEOS6D用リモートコントローラーを使い始めた。あくまで一般撮影の露出制御用だが、工夫すれば星空航海用にも十分使えるとわかった。これからはこのコントローラーを引き金に彗星たちを狙い撃ちすることになるだろう。
3月に入ると好天と荒天が交互にやってきた。変わりやすい天候ながら3/9、10と3/15、16は二夜連続で朝まで晴れた。
午前2時過ぎに海岸に着くとまず、西に傾きかけた62P紫金山第1彗星を狙う(画像上左)。以前より暗く拡散してきたうえに現在はおとめ座の「銀河の巣」を移動しているだけあって似たような彗星状天体に紛れて見分けにくい。南の空、てんびん座には秋に1等星なみに明るくなると予想されているC/2023A3紫金山-アトラス彗星がいまだ暗い12等級でひっそりと輝いている(画像上右)。C/2021S3パンスターズ彗星は幅広い尾をたなびかせながら東天に横たわる夏の天の川を遡っている(画像上中)。
今回の星空航海では困惑した出来事が2回あった。15日未明、観測場所の近くに軽自動車が1台、ヘッドライトを煌々と点灯したままで朝まで停まっていた。機材に直接光が当たらないように体で常にカバーしながら撮影を続けねばならなかった。
16日はよく晴れていたが2等星の北極星がよく見えないほど空の透明度が悪かった。霧や靄が出ているかといぶかったが犬吠埼や遠く大東崎の灯台の灯りも見えていて地上の大気は澄んでいた。「気象衛星赤外画像」や「ひまわり霧画像」でも目立った雲は見えない。黄砂やPM2.5濃度をチェックしても異常値ではなかった。前日15日と当日16日の午前3時半頃、北東、高度15度のはくちょう座ζ付近を撮影した画像を比較してみた(下画像)。16日はあきらかに星の輝きが鈍く写っている星の数が少ない。夜空だけが春霞に覆われてしまったかのような晩冬の一夜だった。
暖冬傾向は2月に入っても続いた。それだけに夜になると雲が広がることが多かった。諸事雑事も重なり、晴れ間を見計らって3日間だけ、未明の夏星空を見ることができた。
午前2時過ぎに海岸に着くとすでに夏の天の川が淡い雲のように東の太平洋上に横たわっていた。薄明開始は午前5時前、暗夜は3時間弱しかない。すぐに波打ち際近くの小高い砂丘に機材をセットした。
姿、形や明るさがよく似た兄弟姉妹のような3彗星を視野に捉えていく。南西の空、おとめ座の62P紫金山第一彗星はたくさんの暗い銀河を縫うように少しずつ東に動いている(画像上中)。
東天のへびつかい座にあるC/2021S3パンスターズ彗星は天の川の星々の中を尾ひれを広げて泳いでいるようにも見える(画像上右)。
薄明が始まって空が白んできた頃にははくちょう座デネブを下った低空に12Pポン-ブルックス彗星がコバルトブルーの姿をみせる(画像上左)。
この3兄弟姉妹は肉眼では見えない10等前後だが、現在てんびん座を13等で密かに移動しているC/2023A3紫金山-アトラス彗星は9月末には一等星くらいの明るさになると予想されている。長大な尾が秋空を飾るかもしれない。
2024年の初航海は1月8日未明となった。月令26の細い月が南東の海を照らしていた。気温-1℃、この時期にしては異様に暖かい。南の空高く、しし座のお尻の星、デネボラの近くに青く光る62P紫金山第1彗星に照準を定める。北西に淡い尾を引く夜空の人魂のようだ(画像上左)。
今月は晴天夜と暖かさに誘われてあわせて5回、船橋と九十九里浜を往復した。その都度、肉眼では見えないが望遠鏡とデジカメには姿を現す淡い彗星たちを追った。薄明が始まる頃の南東天低くにはC/2021S3パンスターズ彗星が白い光を南西にたなびかせて移動している(画像上右)。
同じ頃には高度約10度、12Pポン-ブルックス彗星が青く光りながらはくちょう座の天の川の中を東進している(画像下)。
銚子沖合の海が穏やかな夜はたくさんの漁船が洋上を行き来する。それぞれの漁船が海を照らす強烈な漁火は夜空を染めて低空の星影をかき消してしまうが、それはそれでやむを得ない。船団が遥か沖合に離れるまでしばし待機する(画像下)。
12月に入ると移動性の高気圧とともに天候が変わる秋のような空模様が続いた。17日は高気圧が通過し晴天となった。冬には珍しく南西の強風が吹き荒れ、深夜の山道には風に吹き飛ばされた小枝大枝が散乱していた。車に当たらないように慎重にハンドルを取りながら午前2時過ぎに海岸に到着した。気温14℃と異様に暖かい。防潮堤を越えてくる霧状の波しぶきを避けて海岸から一番離れた駐車場の奥に車を風除けにして機材をセットした。
午前5時過ぎの薄明開始まで2時間あまり、すぐに未明の空を動く彗星たちの撮影に入った。日曜の明け方はいつもは釣り人の車が何台も押し寄せヘッドライトの灯りに辟易するが、今日は海が荒れているせいか、数台が出入りしただけだった。だが、南西風は変わらず強く吹いたまま薄明を迎えた。
22日は西高東低の気圧配置となって寒波の押し寄せる冬晴れの夜空となった。未明の海岸はマイナス4℃まで気温が下がった。それだけに透明度は高く犬吠埼灯台の灯りがよく見えた。いつもの彗星をいくつか撮影し、東天の空域あちこちに望遠鏡を向けたあと、薄明の南天低く高度8度にあるC/2021S3パンスターズ彗星を視野に入れた。まだ11等と暗いが来春には9等まで明るくなると予想されている(画像上 右下)。明日明後日も晴天が続く予報だが、所用が立てこんでいて年内の星海原の航海は本日をもって終了となる。
今年の特に後半は、ほとんどの撮影画像にスターリンク衛星の光跡、光点が写りこむ事態となった。18日未明の下の画像にはわずか20秒露出の1度×1.5度弱の写野ながら3本もの明るいスターリンク衛星の光跡(と、いくつもの光点)が写っている。現在4000機が数百キロ上空の低軌道を周回しているそうだが、いずれ10000機以上となるようだ。困惑の極みといえる。
11月もおおむね晴天が続いた。台風や大雨も少なく日中は20度を越えて汗ばむ日が多かった。薄明開始が4時40分過ぎと遅くなったこともあり、日付が変わってからゆっくり家を出て寝静まった街道を太平洋に向かって東進する。
新月の14日は午前2時過ぎに海岸に到着した。気温は+4℃、風はないが防寒服に軽く身を包んで機材を海の見える高台にセットする。
今の時季、未明の空には南に冬の星座、東に春の星座が輝いている。おおいぬ座のシリウス近くにはC/2017K2パンスターズ彗星、うみへび座の孤独の星アルファードの北には103Pハートレイ彗星、黄道十二宮のかに座には62P紫金山彗星と暗い29Pシュワスマン・ワハマン彗星がひっそりと光を放ち、動いている。
時々、こうしたうごめく彗星たちが見かけの上で太陽系外の星の集団(散開星団や球状星団)や天の川銀河の外にある別の銀河のそばを通りかかることがある。16日には62P紫金山彗星が「蟹の吹き出す泡のように見える」プレセペ星団の極く近くを見かけ上、通り抜けた(画像上左)。21日には103Pハートレイ彗星が1.5億光年彼方にあるNGC2721銀河の前を通り、C/2017K2パンスターズ彗星が小さく密集した散開星団NGC2215の近くの空を移動していた(画像上中、右)。
ほとんどの彗星は太陽系の中を移動する天体だが、天空にひしめく何千光年、何億光年も彼方にある天体の傍らを人知れず走る抜ける姿を見ると宇宙のたとえようもない広がりを実感する。
今年は台風が少なく秋の長雨もほぼなかった。代わりによく晴れて10月の夏日が続いた。新月前後から連日続く夜の秋晴れに誘われて断続的に6回、星海原に出帆することとなった。
日中は暑くても海岸の未明は10℃近くまで下がり肌寒い。こういう条件では普段は海霧が濃く立ちこめる。だが空気が乾燥して陸風がたえず吹いているので透明度も悪くない。遥か犬吠埼へと続く風力発電の標識灯や南東50キロあまりの大東崎灯台の灯がよく見える。
未明の空には青いイオンの光をほのかに放つほうき星がいくつかうごめいている(画像上、いずれも15㎝反射F2.5+EOS6D 20秒X2露出)。周期3.3年で公転している2Pエンケ彗星は今年は条件がよく、鮮やかなコバルトブルーの丸いコマから北西にスーっと細い尾が伸びている。公転周期が短いだけにこれまで何度かエンケ彗星を見てきたが、こんなに美しく凛々しい姿に出会うのは初めてのような気がする。
22日日曜の未明は、夜半まで空を覆っていた雨雲が一気に東の洋上に去り、雨後の澄み渡った夜空となった。折しもオリオン座流星群の極大日と重なっていた。いつもの海岸には流星見物客がいるかと思いきや、星空動画を何年も撮っているプロのカメラマンさんだけだった。会うのはほぼ一年ぶり、最近はNHKのコズミックフロントでも活躍しているようだ。ソニーの超高感度カメラ+超広角レンズの4K動画では目に見えない微光の流れ星がいくつも見えているらしい。
こちらも水平線が見える防波堤に14mm広角レンズのカメラを設置してタイムラプス撮影を開始した。あわよくば「南中するカノープスとオリオン座流星群の大火球」を期待して、オリオン座の下半身からおおいぬ座のシリウスを経て水平線に浮かぶ漁火までをアングルに収めた。
10秒おきに撮影を重ねること三時間、空が白む薄明までに散在流星が一個、オリオン群が一個写っていたのみ、肉眼で見たオリオン群の流星もわずか2個だった。だが午前2時過ぎ、沖合低空の雲間から全天第二の輝星、カノープスの姿をとらえることができた。