10月から11月にかけての新月期はよく晴れて月が朝の薄明まで残る11月3日の祝日まで九十九里の観測地に4回行き来た。
そして11月8日の満月を迎えた。マスコミはほぼ前日まであまり報道しなかったが、この日の天文現象については天文屋の世界では一年前くらいからザワついていた。
今回は皆既月食に加え、肉眼で見えるかどうかぎりぎりの6等星の惑星、天王星が月食中に月に飲まれ吐き出される。日本では前回、「本能寺の変」の2年前、1580年7月26日に皆既食中に土星食が起こった。次回は2344年7月26日皆既食中に土星食が起こる。日本では442年ぶり、322年前倒しの惑星食となる。
当日は東から南に東京湾岸が開ける市川埠頭に夕方から陣取った。釣り人は数人いるが世紀の珍事を見ようという人は他に誰もいなかった。三脚に固定した18mmF3.5レンズ+キヤノンEOSX2カメラ、自動追尾の赤道儀に載せたフローライト70㎜F8屈折望遠鏡+キヤノンEOSX3カメラ、眼視観望用の口径80㎜双眼鏡を岸壁にセットして月食開始を待った。
空は快晴、対岸遠くにある幕張新都心のビル群の夜景が満月に映えて美しい。18時9分、東の空高度18度から月食が始まった。カメラ2台には20~30秒おきに自動でシャッターが切れるタイマーコントローラーを取り付けてある。月食の進行に合わせて露出を変えながらシャッター音が鳴り響く(画像上 70mm屈折望遠鏡による月食の進行、画像下左 18mm広角レンズによる4分ごとの月食開始から終了間際まで、下右 皆既の月と観測風景)。
19時17分の皆既月食になっても空には雲一つない。常連の釣り人に世話をされている地域猫数匹が入れ替わり立ち替わり食事にやってくる。いつもよりやや暗い赤胴色の皆既月食が一時間半近くも続き、月が青白い天王星にどんどん近づいていく。やがて皆既の終了間際の20時41分に赤い月の左下から天王星が月の裏側にスゥッと入った。それとほぼ同時に皆既は終わり月の右上から光が戻り始めた。日食でも月食でもいつも同じだが「皆既」が終わると途端に集中力が途切れてしまう。部分月食で半分ほど明るくなった21時21分に月の右下の欠けた部分から天王星が出現したはずだが、80mm双眼鏡では月の輝きにかき消されて天王星のよみがえりは直接見ることはできなかった。後で画像をチェックすると天王星の出現が確認できた(画像下左 天王星の潜入、下右 出現)。
3時間40分、完璧な快晴夜に恵まれた素晴らしい世紀の天文ショーだった。