はじめに
国(沖縄防衛局)は海底地形と地質の問題(活断層の存在に由来する問題)を抱える大浦湾側の護岸工事は後回しにし、浅瀬の辺野古側の護岸工事を急ピッチで進めている。名護市長選挙(2月4日終了)や11月の知事選挙を標的にして県民有権者の諦め感の醸成を狙っての工事強行であり、また一方で埋立承認撤回の知事権限行使を牽制する工事実績の既成事実の積み上げを急いでいる。
護岸工事は埋立工事の初期の最も大事な工事であり、これなしには工事は進展できない。海上搬送船の係留岸壁にもなり、護岸の頂堤を利用した土砂搬送で土砂埋立てが急速に進む。護岸部分の施工図面上の面積は全体の数%に過ぎない、だからまだまだ“撤回”を焦る必要ない、というような県議らのもの言いがあるがこれは間違いである。傾斜護岸の海中底面の幅は長堤幅の少なくとも2倍以上あり、日々生物は埋め殺され、すでに潮の流れの変化にともなう生物環境変化が起きていると観測されているようだ。問題は護岸面積のみにあるのではない。ウミガメはもはや産卵に海岸を利用することはできない。ジュゴンも数年来寄り付いていない。また仮に現段階で“撤回”が成って原状復帰させるとした場合にでもすでに護岸撤去工事量として膨大になっており、二次的な広大な環境破壊を伴う長期間の大撤去工事となる。それはさておき、生物生存の影響域を考えればその面積は護岸の比ではなく、その環境はすでに危機的な状況になっている。護岸が閉じればもう内海は死に向かい、土砂埋立てが始まれば原状復帰は不可能となる。
辺野古の新基地建設反対は、沖縄戦体験に基づく心底からの基地・軍隊を許さないという根源的な思いと大浦湾・辺野古一帯の美ら海を守ることを平和希求の軸に据え、にんげんもその一部である生物の“いのちの尊厳”を、すなわち人権と平和と環境を守るたたかいとなっている。行政にある者らは単に面積で工事進展度を考えることの愚かさを深く知るべきである。
1.名護市長選挙総括文紹介
去る2月4日の名護市長選挙において稲嶺市長の三選はなりませんでした。たかだか6万人程度の小さな地方市にアベ政権=自民党・公明党の重鎮議員や客寄せパンダ議員らが創価学会や維新を伴い大挙して名護市に乗り込んでの選挙であった。名護市域内に辺野古新基地建設がなければあり得ないこと。国策とそれを指示する「国民」あるいは無関心による地方自治の破壊と国策の問答無用のゴリ押しである。だが、名護市をアベ政治・官邸の出先機関に墜としてはならない。辺野古新基地建設反対は名護市民有権者の6割を超えている。民意を尊重し地方自治を守るため反対派市議さんらの頑張りが期待されるところであるとともに、県行政の毅然とした権限行使、更なる現地行動連携の創意工夫が必要となっている。なお、名護市議選後の選挙の総括めいた言及が県内外の多方面で饒舌になされているが、まずは20年来基地問題で翻弄されて来た名護市からの重い現地総括として、名護市に在って名護市の議会活動、辺野古基地建設住民投票運動(条件付き反対、賛成の変遷)、草の根市民運動に深く関わって来た方(宮城康晴さん、浦島悦子さん)の総括を出発点とし、今後の知事選挙に向かう数ある選挙の展望を考える足がかりとしたい。
①ブログPeace Philosophy Centre(乗松聡子さん主幹)掲載
『浦島悦子「山の桜は泣いた――2018名護市長選」Urashima Etsuko - A Reflection on 2018 Nago Mayoral Election』(http://peacephilosophy.blogspot.jp/2018/02/)
「・・・この市長選について、名護市在住の作家、浦島悦子さんが振り返った文をここに紹介します。これは『アジア太平洋ジャーナル:ジャパンフォーカス』用に提供され、ガバン・マコーマックらが翻訳した英語版の記事
Five Okinawan Views on the Nago Mayoral Election of February 2018: Implications for Japanese Democracy
の浦島さんの分の日本語版です。沖縄から5人の声ということで、浦島さんの他に山城博治さん、吉川秀樹さん、宮城康博さん、伊波洋一さんが寄稿しています。吉川さんのものは元の原稿が英語でした。日本語で提供された4原稿はまとめてこのリンクで読めます。
https://www.dropbox.com/s/ixdb3s1mu82xvy2/Nago%20City%20Mayor%20election%2C%202018%20%28Japanese%20texts%29.pdf?dl=0」
②宮城康博さんについては自身の宮城康博blog掲載『2018-02-11 名護市長選挙2018の報告』
(http://nagonagu.hatenablog.com/entry/2018/02/11/135120)
でも閲覧することができます。
2.辺野古ゲート前座り込み現場からの報告
海が囲われてしまう! -進む辺野古新基地建設埋立地護岸工事。抗議市民にもどかしさ-
2018年2月14日、辺野古ゲート前やテントで生物・環境に詳しい屋富祖さんが作成した資料をもとにご本人のお話を聞くことができた。以下の記述はその時の話とそれらを参照し、ブログ主が資料の転載も含め、原資料に小見出しを付けてまとめたものである。なお、文中の注1と注2はその時以後に知事の特別採捕許可取り消しの新たな展開があったためブログ主が付したものである。また護岸進捗状況についても同様に3月7日現在の資料を付した。
1).工事進捗状況
(1) 石材搬入量
石材種類:砕石(クラッシャーラン)、捨て石(中栗石、小栗石、大栗石)
生コン:基地構内で型枠による傾斜護岸被覆ブロック製作、大型生コン車(10t)
ダンプ:10t車、20t車、20t以上積載可のトレーラートラック
(2) 2018年3月7日現在の護岸工事進捗 (1日当り約9m延伸)
① K9 (100m以上完成), 台船接岸可能
② N5, K1終了。K2終了間近。K3工事前潜水調査。K4工事中。これによって上図の干潟全域(図右側楕円部)が死滅する。
護岸が囲む干潟の面積は埋め立て面積の約3分の1。囲われれば大浦湾の命を育む干潟はほぼ全滅する。新基地の総面積205ha, そのうち160haが埋立地。
この工事を加速化してしまったのが、昨年来の国頭村奥港、本部町塩川港、中城村港湾の使用許可です。そして、一段と工事車両の運搬量と違法ダンプ使用(整備不全、過積載)が激しくなりました。そしてこの状況に新たに加わったのが先日出された大浦湾干潟のサンゴ群体の移設(実際は除去)(知事は2月16日、昨年10月に提出されていたオキナワハマサンゴの移植のための特別採捕許可申請を許可)と底生生物の総浚らえ許可です。底生生物については、申請の必要もなし、という回答を県は防衛局に与えました。その資料の一部をまとめたものを次項に記します。
2).大浦湾の底生生物の「特別採捕許可」の内容
2017年12月27日に翁長知事が沖縄防衛局に対して出した大浦湾の底生生物の「特別採捕許可」の内容の一部。防衛局からの許可申請は2017年12月6,12,19日に出されたもの。
辺野古埋め立てに係る環境保全措置を目的として、移動・移植などを行う技術に関する試験研究、という名目で、本来採捕してはならない絶滅危惧種をとるために、沖縄県漁業調整規則第40条によって採捕禁止の摘要除外を要求したものである。
防衛局が県に出した採捕地点図
全部で1700ヶ所。1ピット(緯度)ごとだそうで、30mごとの区画になるようだ。つまり。簡単に言えば大浦湾の海底からも海中からも、生き物は全部取り除くことを沖縄県知事が許可した、ということである。
埋立て本体海域にあるオキナワハマサンゴは8群体しかなく、そのうち健全なものは1群体のみ。部分的白化が3群体、全体に白化が4群体。またヒメサンゴという0.6mmほどの小さいサンゴの群体が2群体発見されているが、2群体とも全体に白化とされている。しかし、報告書では10群体全てが「生存」に分類されており、県はこれらの移植・移動を許可した(注1、注2)。 また、海藻類のウミボッスはサンゴや岩・石に付着する藻であるが、1500体を移植するとしている。
移植や移動の手法としては、見つけ取り(貝類やカニなど39種)、水中ポンプで砂や小石、泥などと一緒に吸込む(貝類25種)、サンゴや岩ごとハンマーやタガネでぶち割り、それを別の場所に移して水中ボンドで固定する(ウミボッスなど3種)、鋤で掘り返す(貝類など21種)、アマモの表面をブラシで掻きとる(貝類2種)などである。
3).干潟は、生き物の宝庫 -生物的要素の破壊を許可してはならない!-
大浦湾の干潟は、生き物の宝庫であり、干潟なくして海は成立しません。人間の体は水で出来ているとよく言われますが、その水でできた人間が空気呼吸しなくては生きていられない、この水と空気をつないているのが肺です。干潟は、海という水と、空気という陸上をつなぐ肺にあたる生態系です。魚の産卵場所であり、稚魚の生育場所であり、大浦湾がまだ陸地であったころの泥砂から砂、礫、岩すべての生態系が揃ったところです。サンゴはサンゴだけで生きているのではなく、そこを利用する多種多様、そして無数の生物のゆりかごです。サンゴの種類、共生する褐藻類や水中のプランクトン、あらゆる生き物の織りなす太古からの絵巻です。
サンゴを除去し、底生生物を根こそぎ浚って、その上に土砂を被せる・・・辺野古に基地を作らせないと言いながら、基地建設推進の最も大きな歯止めであった生物的要素の破壊許可を県知事が与えました。他府県からは「ふるさとの土砂は一粒たりとも辺野古埋め立てには使わせない」として、必死の努力が続けられているというのに、なぜ、地元の沖縄県が、採石場からの陸上輸送に加え本部塩川港からの石材積み出しを認め海上輸送に加担し、干潟の埋め立て工事加速に手を貸すようなことは許されないことです。
4).生物的要因に対する無知 -防衛局だけではない!-
防衛局の資料では移動先の環境を考える場合、水温、流速、塩分、濁度などを測定して適地だとしているが、生存に絶対不可欠の生物的要因には一言も触れていない。絶滅危惧種ではないが、まさに生態系の一員として太古から生存してきた無数の生物が居て初めて、大浦湾の生物的環境が出来上がっているのである。サンゴも、プランクトンだけでは餌として不十分で褐藻類と共生して初めて生存可能となる。ところが防衛局はそういう生物相互の関係ついては何ら言及していない。この点で、県ははっきりと許可申請を却下しなくてはならない。 大嶺海岸の埋め立て(那覇空港拡張工事)では、翁長県政は南部に唯一残っていた自然海岸を破壊して第2滑走路を作った。おそらく自衛隊専用(軍事空港)とされるであろう。だからこそ、防衛局はこの点を突いて大嶺海岸の埋め立てと同じだから許可せよと迫り、知事はそれを飲んだのであろう。しかし、辺野古については、はじめから米軍基地であり、県民の利益・要望に全く反するものである。だから基地建設のためにサンゴ等の移植をしてはならない。防衛局のやろうとしていることは、移植個体数の規模からしても試験研究などではない。ウミボッスを1500体も剥ぎ取ることが「試験研究」か? 1群体しか残っていないサンゴなら、そのまま手つかずで保護するのが自然保護である。国が自然保護のための提案をしたのに県がそれを拒否したと言って避難されるだろうと『忖度』しているが、もし本気で自然保護を考えるなら、大浦湾に基地を作ることなどありえない。
5).行政・立法に与かる県会議員らと現場との連携
県議は大きな集会のときに朝の5分間程度の挨拶で引いてしまうことが多い。一日中、一緒に座り込んで、機動隊の暴挙を実際に見、目の前を違法トラックが何百台も出入りするのを見、巨大な石が海に投げ込まれるときのあの音を実際に聞くべきです。機を見て現場に繰り出すべきだ。そうでなければ辺野古に来た、現場に参加したなどと言えるものではない。
急速に進んでいるK4が閉じられたら、もうおしまいである。決して政府の脅しではない。「オール沖縄」に相談したくてもその具体的なチャネルが参加者個人には見えずなかなか要領を得ない。また、幹部らが毎月やっているという会議の議題とその結論が伝わって来ない。月一回、第一土曜に大きな集会を持っても、もうそのような事だけでは工事を遅らせたり、止めたりすることは出来ない。
港湾の使用許可取り消し、サンゴや底生生物の破壊許可取り消し、これは辺野古に基地を作らせないという知事の公約の実現のために、どうしても必要なこと。堂々と、間違ったことは間違った、改めて県民の利益、平和な島を望むという県民の要望に応えるために、許可を取り消すと言えばいいこと。訴えられるなら受けて立てばいい。本田博利氏の論文や、水俣病訴訟の経験を持つ弁護士の本も出ている。方法は沢山あるのだから、早急に手を打つことが必要である。
注1:その後、翁長県知事はオキナワハマサンゴ群体1件に関する食害が見つかったことによる採捕期間延長申請を拒否、その他の群体についても3月9日に採捕許可申請を不許可にしました。北上田毅氏『チョイさんの沖縄日記』「知事の「英断」を評価する!--- 防衛局が提出していた4件(10群体)のサンゴの特別採捕許可申請を不許可に2018年03月09日 | 沖縄日記・辺野古」(https://blog.goo.ne.jp/chuy/e/de42218467abc71fecd6913777795379)
以下抜粋。詳細はブログ本文参照のこと。
「(中略) その後、許可が出されたサンゴに「食害」の跡が見つかったことから、防衛局は申請3月1日までだった許可期限の延長を申請。ところが、知事はその延長申請を不許可としたため、いったん出された採捕許可は無効になってしまったのだ。
さらに今日(9日)、知事はさらに毅然とした判断を下した。サンゴ類の特別採捕許可申請は、昨年10月の1件以降も、本年1月24日にヒメサンゴ1件、3月2日に、ヒメサンゴ1件、オキナワハマサンゴ9件の移植を申請している。今日、知事はこれらの申請の全てを不許可にしたのだ。」
注2:防衛局サンゴ採捕申請、10群体不許可 県「対策不十分」2018年3月10日 06:30
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-679812.html
「(中略) 防衛局は埋め立て工事に伴い、工事海域のサンゴを移植・移築するとしており、県の許可がなければ移植・移築ができない。今回の不許可により、辺野古の埋め立て工事の進展に一定の影響を与えることが予想される。ただ、防衛局が再申請した場合、県は「その時々で厳正に審査する」(県幹部)としており、再申請についても県が不許可とするかは不透明だ。(中略) 不許可理由について県はハマサンゴについて食害対策が不十分と指摘した。ヒメサンゴについては、移植先にヒメサンゴを死滅させる海藻「サンゴモ」が茂っている点を問題視し、移植先として不適切だと判断し、国に再検討を求めた。
県は2月に今回不許可としたのとは別のオキナワハマサンゴ1群体の採捕を許可したが、その後、サンゴに食害が確認されたことから今回の審査では食害対策を重視した。県は防衛局が再申請を行う場合は環境監視等委員会の指導・助言を踏まえるよう求めている。」
国(沖縄防衛局)は海底地形と地質の問題(活断層の存在に由来する問題)を抱える大浦湾側の護岸工事は後回しにし、浅瀬の辺野古側の護岸工事を急ピッチで進めている。名護市長選挙(2月4日終了)や11月の知事選挙を標的にして県民有権者の諦め感の醸成を狙っての工事強行であり、また一方で埋立承認撤回の知事権限行使を牽制する工事実績の既成事実の積み上げを急いでいる。
護岸工事は埋立工事の初期の最も大事な工事であり、これなしには工事は進展できない。海上搬送船の係留岸壁にもなり、護岸の頂堤を利用した土砂搬送で土砂埋立てが急速に進む。護岸部分の施工図面上の面積は全体の数%に過ぎない、だからまだまだ“撤回”を焦る必要ない、というような県議らのもの言いがあるがこれは間違いである。傾斜護岸の海中底面の幅は長堤幅の少なくとも2倍以上あり、日々生物は埋め殺され、すでに潮の流れの変化にともなう生物環境変化が起きていると観測されているようだ。問題は護岸面積のみにあるのではない。ウミガメはもはや産卵に海岸を利用することはできない。ジュゴンも数年来寄り付いていない。また仮に現段階で“撤回”が成って原状復帰させるとした場合にでもすでに護岸撤去工事量として膨大になっており、二次的な広大な環境破壊を伴う長期間の大撤去工事となる。それはさておき、生物生存の影響域を考えればその面積は護岸の比ではなく、その環境はすでに危機的な状況になっている。護岸が閉じればもう内海は死に向かい、土砂埋立てが始まれば原状復帰は不可能となる。
辺野古の新基地建設反対は、沖縄戦体験に基づく心底からの基地・軍隊を許さないという根源的な思いと大浦湾・辺野古一帯の美ら海を守ることを平和希求の軸に据え、にんげんもその一部である生物の“いのちの尊厳”を、すなわち人権と平和と環境を守るたたかいとなっている。行政にある者らは単に面積で工事進展度を考えることの愚かさを深く知るべきである。
1.名護市長選挙総括文紹介
去る2月4日の名護市長選挙において稲嶺市長の三選はなりませんでした。たかだか6万人程度の小さな地方市にアベ政権=自民党・公明党の重鎮議員や客寄せパンダ議員らが創価学会や維新を伴い大挙して名護市に乗り込んでの選挙であった。名護市域内に辺野古新基地建設がなければあり得ないこと。国策とそれを指示する「国民」あるいは無関心による地方自治の破壊と国策の問答無用のゴリ押しである。だが、名護市をアベ政治・官邸の出先機関に墜としてはならない。辺野古新基地建設反対は名護市民有権者の6割を超えている。民意を尊重し地方自治を守るため反対派市議さんらの頑張りが期待されるところであるとともに、県行政の毅然とした権限行使、更なる現地行動連携の創意工夫が必要となっている。なお、名護市議選後の選挙の総括めいた言及が県内外の多方面で饒舌になされているが、まずは20年来基地問題で翻弄されて来た名護市からの重い現地総括として、名護市に在って名護市の議会活動、辺野古基地建設住民投票運動(条件付き反対、賛成の変遷)、草の根市民運動に深く関わって来た方(宮城康晴さん、浦島悦子さん)の総括を出発点とし、今後の知事選挙に向かう数ある選挙の展望を考える足がかりとしたい。
①ブログPeace Philosophy Centre(乗松聡子さん主幹)掲載
『浦島悦子「山の桜は泣いた――2018名護市長選」Urashima Etsuko - A Reflection on 2018 Nago Mayoral Election』(http://peacephilosophy.blogspot.jp/2018/02/)
「・・・この市長選について、名護市在住の作家、浦島悦子さんが振り返った文をここに紹介します。これは『アジア太平洋ジャーナル:ジャパンフォーカス』用に提供され、ガバン・マコーマックらが翻訳した英語版の記事
Five Okinawan Views on the Nago Mayoral Election of February 2018: Implications for Japanese Democracy
の浦島さんの分の日本語版です。沖縄から5人の声ということで、浦島さんの他に山城博治さん、吉川秀樹さん、宮城康博さん、伊波洋一さんが寄稿しています。吉川さんのものは元の原稿が英語でした。日本語で提供された4原稿はまとめてこのリンクで読めます。
https://www.dropbox.com/s/ixdb3s1mu82xvy2/Nago%20City%20Mayor%20election%2C%202018%20%28Japanese%20texts%29.pdf?dl=0」
②宮城康博さんについては自身の宮城康博blog掲載『2018-02-11 名護市長選挙2018の報告』
(http://nagonagu.hatenablog.com/entry/2018/02/11/135120)
でも閲覧することができます。
2.辺野古ゲート前座り込み現場からの報告
海が囲われてしまう! -進む辺野古新基地建設埋立地護岸工事。抗議市民にもどかしさ-
2018年2月14日、辺野古ゲート前やテントで生物・環境に詳しい屋富祖さんが作成した資料をもとにご本人のお話を聞くことができた。以下の記述はその時の話とそれらを参照し、ブログ主が資料の転載も含め、原資料に小見出しを付けてまとめたものである。なお、文中の注1と注2はその時以後に知事の特別採捕許可取り消しの新たな展開があったためブログ主が付したものである。また護岸進捗状況についても同様に3月7日現在の資料を付した。
1).工事進捗状況
(1) 石材搬入量
石材種類:砕石(クラッシャーラン)、捨て石(中栗石、小栗石、大栗石)
生コン:基地構内で型枠による傾斜護岸被覆ブロック製作、大型生コン車(10t)
ダンプ:10t車、20t車、20t以上積載可のトレーラートラック
(2) 2018年3月7日現在の護岸工事進捗 (1日当り約9m延伸)
① K9 (100m以上完成), 台船接岸可能
② N5, K1終了。K2終了間近。K3工事前潜水調査。K4工事中。これによって上図の干潟全域(図右側楕円部)が死滅する。
護岸が囲む干潟の面積は埋め立て面積の約3分の1。囲われれば大浦湾の命を育む干潟はほぼ全滅する。新基地の総面積205ha, そのうち160haが埋立地。
この工事を加速化してしまったのが、昨年来の国頭村奥港、本部町塩川港、中城村港湾の使用許可です。そして、一段と工事車両の運搬量と違法ダンプ使用(整備不全、過積載)が激しくなりました。そしてこの状況に新たに加わったのが先日出された大浦湾干潟のサンゴ群体の移設(実際は除去)(知事は2月16日、昨年10月に提出されていたオキナワハマサンゴの移植のための特別採捕許可申請を許可)と底生生物の総浚らえ許可です。底生生物については、申請の必要もなし、という回答を県は防衛局に与えました。その資料の一部をまとめたものを次項に記します。
2).大浦湾の底生生物の「特別採捕許可」の内容
2017年12月27日に翁長知事が沖縄防衛局に対して出した大浦湾の底生生物の「特別採捕許可」の内容の一部。防衛局からの許可申請は2017年12月6,12,19日に出されたもの。
辺野古埋め立てに係る環境保全措置を目的として、移動・移植などを行う技術に関する試験研究、という名目で、本来採捕してはならない絶滅危惧種をとるために、沖縄県漁業調整規則第40条によって採捕禁止の摘要除外を要求したものである。
防衛局が県に出した採捕地点図
全部で1700ヶ所。1ピット(緯度)ごとだそうで、30mごとの区画になるようだ。つまり。簡単に言えば大浦湾の海底からも海中からも、生き物は全部取り除くことを沖縄県知事が許可した、ということである。
埋立て本体海域にあるオキナワハマサンゴは8群体しかなく、そのうち健全なものは1群体のみ。部分的白化が3群体、全体に白化が4群体。またヒメサンゴという0.6mmほどの小さいサンゴの群体が2群体発見されているが、2群体とも全体に白化とされている。しかし、報告書では10群体全てが「生存」に分類されており、県はこれらの移植・移動を許可した(注1、注2)。 また、海藻類のウミボッスはサンゴや岩・石に付着する藻であるが、1500体を移植するとしている。
移植や移動の手法としては、見つけ取り(貝類やカニなど39種)、水中ポンプで砂や小石、泥などと一緒に吸込む(貝類25種)、サンゴや岩ごとハンマーやタガネでぶち割り、それを別の場所に移して水中ボンドで固定する(ウミボッスなど3種)、鋤で掘り返す(貝類など21種)、アマモの表面をブラシで掻きとる(貝類2種)などである。
3).干潟は、生き物の宝庫 -生物的要素の破壊を許可してはならない!-
大浦湾の干潟は、生き物の宝庫であり、干潟なくして海は成立しません。人間の体は水で出来ているとよく言われますが、その水でできた人間が空気呼吸しなくては生きていられない、この水と空気をつないているのが肺です。干潟は、海という水と、空気という陸上をつなぐ肺にあたる生態系です。魚の産卵場所であり、稚魚の生育場所であり、大浦湾がまだ陸地であったころの泥砂から砂、礫、岩すべての生態系が揃ったところです。サンゴはサンゴだけで生きているのではなく、そこを利用する多種多様、そして無数の生物のゆりかごです。サンゴの種類、共生する褐藻類や水中のプランクトン、あらゆる生き物の織りなす太古からの絵巻です。
サンゴを除去し、底生生物を根こそぎ浚って、その上に土砂を被せる・・・辺野古に基地を作らせないと言いながら、基地建設推進の最も大きな歯止めであった生物的要素の破壊許可を県知事が与えました。他府県からは「ふるさとの土砂は一粒たりとも辺野古埋め立てには使わせない」として、必死の努力が続けられているというのに、なぜ、地元の沖縄県が、採石場からの陸上輸送に加え本部塩川港からの石材積み出しを認め海上輸送に加担し、干潟の埋め立て工事加速に手を貸すようなことは許されないことです。
4).生物的要因に対する無知 -防衛局だけではない!-
防衛局の資料では移動先の環境を考える場合、水温、流速、塩分、濁度などを測定して適地だとしているが、生存に絶対不可欠の生物的要因には一言も触れていない。絶滅危惧種ではないが、まさに生態系の一員として太古から生存してきた無数の生物が居て初めて、大浦湾の生物的環境が出来上がっているのである。サンゴも、プランクトンだけでは餌として不十分で褐藻類と共生して初めて生存可能となる。ところが防衛局はそういう生物相互の関係ついては何ら言及していない。この点で、県ははっきりと許可申請を却下しなくてはならない。 大嶺海岸の埋め立て(那覇空港拡張工事)では、翁長県政は南部に唯一残っていた自然海岸を破壊して第2滑走路を作った。おそらく自衛隊専用(軍事空港)とされるであろう。だからこそ、防衛局はこの点を突いて大嶺海岸の埋め立てと同じだから許可せよと迫り、知事はそれを飲んだのであろう。しかし、辺野古については、はじめから米軍基地であり、県民の利益・要望に全く反するものである。だから基地建設のためにサンゴ等の移植をしてはならない。防衛局のやろうとしていることは、移植個体数の規模からしても試験研究などではない。ウミボッスを1500体も剥ぎ取ることが「試験研究」か? 1群体しか残っていないサンゴなら、そのまま手つかずで保護するのが自然保護である。国が自然保護のための提案をしたのに県がそれを拒否したと言って避難されるだろうと『忖度』しているが、もし本気で自然保護を考えるなら、大浦湾に基地を作ることなどありえない。
5).行政・立法に与かる県会議員らと現場との連携
県議は大きな集会のときに朝の5分間程度の挨拶で引いてしまうことが多い。一日中、一緒に座り込んで、機動隊の暴挙を実際に見、目の前を違法トラックが何百台も出入りするのを見、巨大な石が海に投げ込まれるときのあの音を実際に聞くべきです。機を見て現場に繰り出すべきだ。そうでなければ辺野古に来た、現場に参加したなどと言えるものではない。
急速に進んでいるK4が閉じられたら、もうおしまいである。決して政府の脅しではない。「オール沖縄」に相談したくてもその具体的なチャネルが参加者個人には見えずなかなか要領を得ない。また、幹部らが毎月やっているという会議の議題とその結論が伝わって来ない。月一回、第一土曜に大きな集会を持っても、もうそのような事だけでは工事を遅らせたり、止めたりすることは出来ない。
港湾の使用許可取り消し、サンゴや底生生物の破壊許可取り消し、これは辺野古に基地を作らせないという知事の公約の実現のために、どうしても必要なこと。堂々と、間違ったことは間違った、改めて県民の利益、平和な島を望むという県民の要望に応えるために、許可を取り消すと言えばいいこと。訴えられるなら受けて立てばいい。本田博利氏の論文や、水俣病訴訟の経験を持つ弁護士の本も出ている。方法は沢山あるのだから、早急に手を打つことが必要である。
注1:その後、翁長県知事はオキナワハマサンゴ群体1件に関する食害が見つかったことによる採捕期間延長申請を拒否、その他の群体についても3月9日に採捕許可申請を不許可にしました。北上田毅氏『チョイさんの沖縄日記』「知事の「英断」を評価する!--- 防衛局が提出していた4件(10群体)のサンゴの特別採捕許可申請を不許可に2018年03月09日 | 沖縄日記・辺野古」(https://blog.goo.ne.jp/chuy/e/de42218467abc71fecd6913777795379)
以下抜粋。詳細はブログ本文参照のこと。
「(中略) その後、許可が出されたサンゴに「食害」の跡が見つかったことから、防衛局は申請3月1日までだった許可期限の延長を申請。ところが、知事はその延長申請を不許可としたため、いったん出された採捕許可は無効になってしまったのだ。
さらに今日(9日)、知事はさらに毅然とした判断を下した。サンゴ類の特別採捕許可申請は、昨年10月の1件以降も、本年1月24日にヒメサンゴ1件、3月2日に、ヒメサンゴ1件、オキナワハマサンゴ9件の移植を申請している。今日、知事はこれらの申請の全てを不許可にしたのだ。」
注2:防衛局サンゴ採捕申請、10群体不許可 県「対策不十分」2018年3月10日 06:30
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-679812.html
「(中略) 防衛局は埋め立て工事に伴い、工事海域のサンゴを移植・移築するとしており、県の許可がなければ移植・移築ができない。今回の不許可により、辺野古の埋め立て工事の進展に一定の影響を与えることが予想される。ただ、防衛局が再申請した場合、県は「その時々で厳正に審査する」(県幹部)としており、再申請についても県が不許可とするかは不透明だ。(中略) 不許可理由について県はハマサンゴについて食害対策が不十分と指摘した。ヒメサンゴについては、移植先にヒメサンゴを死滅させる海藻「サンゴモ」が茂っている点を問題視し、移植先として不適切だと判断し、国に再検討を求めた。
県は2月に今回不許可としたのとは別のオキナワハマサンゴ1群体の採捕を許可したが、その後、サンゴに食害が確認されたことから今回の審査では食害対策を重視した。県は防衛局が再申請を行う場合は環境監視等委員会の指導・助言を踏まえるよう求めている。」