ある男が目を覚ますと
見覚えのない荒野に相容れない建物だけがある
そのほかに建物は見当たらず
ここから入れと言われんとばかりの目に付く入り口
自分自身以外はほかに居らず
岩と砂しか見当たらないこの現状では其の建物へ向かうしか思いつくこともなく
なぜ自分がここにいるのか
どのようにここに着たのか
分からないまま途方にくれるしかなかった
頼るものもなく
自ずと入り口の目の前へ
中に入ると異常に薄暗く殺風景で進むしかない一本道
閉じてしまった入り口も中からは開かないようになっているようで何の反応もしない
かろうじて前が見えるような申し訳程度の明かりの中
入り口を背にむけ進むしかなくなってしまった
思いにほかすぐに次の扉が現れた
この扉も入れば中からは開かないのだろうか
けれども
この入り口を入らなければ
何もかもかもから遮断された通路しかここにはない
入るしか
進むしかほかに手立てはないのだ
踏み出した動きにあわすかのように開く扉
通路のときとは比較にならないようなまばゆい光
よく見れば
廊下は無機質なタイルの床であったのに
扉の向こうは土ではないか
入ると
数人の人が談笑している
木々も生い茂っており
建物の中だというのに
大きな公園を思い起こさせる
本当にここは荒野の中に立てられた建物の中なのだろうか
なぜ自分はこの建物の前に放置されていたのだろう
そして
この建物自体いったい何なのだろうか
何のために
そしてこの中にいる人
全てが理解できない
拒絶しないまでも
受け入れがたい目の前に起こる出来事を
脳が処理し切れていない
混乱というよりも
自分だけ時が止まっているかのような
思い出せば
ここ数ヶ月まともに家の外に出た事もなかった
毎日テレビかゲーム
スマホかパソコンでネットで情報を得るだけの毎日
親兄弟からの話にも耳を傾けず
深夜にコンビニへタバコを買いに行くくらいしか外の空気を吸うこともなかった
日の光も見る事もなく
都会の夜空は星さえも禄に見えず
タバコの煙は何も価値のない自分自身が時の流れとともに消えていくかのようにも思えた
そんな非日常とも言うべき自分の日常は
何の前触れを告げることなく
明らかな非日常へと変わってしまった
「新人さんだね。」
あっけにとられている自分に不意に声を掛けてきた一人の男
無精ひげを蓄えてはいるが
健康的で精悍な顔つき
細身だが体格はしっかりしている
不健康そのものな自分から見ればうらやましくもある
この男も同じように連れてこられたのだろうか
「はじめまして。沢渡といいます。みんな初めてきたときは君の様に戸惑うんだよ。まぁそれが普通だけどね。」
笑いながら丁寧な言葉で自己紹介を始めてくれた
「はぁ。西村といいます。」
「西村君ね。たぶん西村君より年上だから君付けでいいかな?まぁここにいる人たちはみんな仲間というか同士だから。何の気も遣わずになじんでいけばいいよ。誰しもが最初は戸惑うし、ここにいる人はみな同じことを経験してきたんだからさ。」
どうやらこの沢渡という男はおしゃべり好きなのか世話好きなのか
聞いてもいないがどんどんと一人でしゃべってくれる
「あぁそうなんですね。みな自分と同じようにここにきたのですかね。」
家族以外としゃべるのは久しぶりのような気がする
いや
人と面を向かってしゃべるのはコンビニの店員以外しばらくなかった事のような気もする
いやな気もしないが面倒だというか
けれども今の現状を理解するには誰かと意志の疎通を図らなければ無理な事だろう
「西村君も混乱しているようだからこの施設について最初に説明しておくよ。」
彼が言うにはこういうことだった
数年前にこの国はある法律が施行された
有能遺伝子保護法
というものだ
さまざまな国と切磋琢磨する時代は終わり
いかにほかの国に対して優位につけるか
そして差をつけられるか
そこが今の国家情勢では重要な事らしい
その結果施行されたのが有能遺伝子保護法
見て字のごとく
何らかの有能な遺伝子を持った人
何らかの業績を残している人
何らかの寄付を国に対して行った人
そういった人たちの遺伝子を残し
有能な遺伝子を紡ぎ有能な国家を目指す
そういった意図の法律らしい
有能なものだけを残し有能なものだけで子孫を作るために
有能でないもの
つまりは自分のような人間はここに集められているらしい
なんの役にも立たない人間の処分場というところか
「まぁ自分が優秀じゃないからって悲観しなさんな。ここには何もかもあるし、何でも与えてもらえるし。考えようによっては外にいるよりここで生きているほうが楽しいもんだよ。」
「やりたいこと、必要なものがあれば提供してもらえるし。逆に何もしなくてもとがめられる事もない。やりたいことだけをやりたいようにすればいいのさ。」
そんな簡単な事なのだろうか
「そうなんですね。まぁ受け入れるしかないので。なんと言っていいのかさえ・・・・・・。」
何も思い浮かばない
突然おかれた状況を理解できなし
この沢渡が言っている事もまったく理解ができない
それに
そんな法律ができていたこと自体
まったくの初耳だった
沢渡の言葉を反芻している間にも沢渡は矢継ぎ早にしゃべる
「ここにいる人たちはさ、試験を受けて落ちた人たちか、誰かに通報されて送られてくる人の2種類いて、西村君は一人で入ってきたから誰かに通報されたのだろうね。試験組みは複数人で入ってくるからさ。」
「通報。ですか・・・。」
「そだね。どういう生活してたか分からないけど、だいたいは友人・同僚・家族そんなところかな。まぁここまで言うと他人以外の誰かからの通報ってことかな。通報されるとさ、ある程度の期間監視がついてるみたいで、其の期間内で有能ではないと認定されるとここに送られるってことだな。」
「有能でないと認められたってことですが。烙印を押されたってことですね。」
「まぁそんなところだね。非生産だったり暴力的だったり文字通り人より何か劣ってる有能でない人しかここにはいないのさ。」
有能でないと認められる
変な気分だ
「とりあえずここで話すのもあれだし、施設の中歩きながらでも話そうか。いろいろと説明もいるだろうから。ここでは何を考えたって無駄に終わる事も多いよ。とりあえず受け入れないとね。」
沢渡はそういうと笑いながら自分の横につき肩をたたいて歩く事を促してきた
いったいこの施設は何のためにあるのだろう
また
この施設には何があり何がないのだろう
沢渡は全て与えられる
何をしてもいいといってはいたが
そして
この沢渡という男は
なにを目的で自分に声を掛けてきたのだろう
理解できない事も多いが
とりあえず知らなければ何も分からない
と
自分に言い聞かせ
沢渡と施設の中を進んでいくのだった
という夢を見ました
まだ続きはありましたが
えぇ
施設の中を紹介されて
仕組みなども教えてもらしました
自分が主観になっている夢ですが
自分は西村では有りません・3・
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