♪話す相手が居れば、人生は天国!

 人は話し相手を求めている。だったら此処で思いっきり楽しみましょう! 悩み事でも何でも、話せば気が安らぐと思うよ。

小説らしき読み物(41)

2016年02月05日 17時37分32秒 | 暇つぶし
                  
 雨はまだ降り続いている……其の雨の中、武夫妻が車で着き居間に上がって来た……加代と夕子は、ダイスケを連れて家風呂に行き、武と和久は家族風呂に行く……風呂に浸かって水嵩が増した小川を眺め、雨に煙る山林を見ている武と和久。
「難しいなあ……」
 呟く様に話し掛ける和久。
「そうだなあ……あんたを信じ切って居るからなあ夕子君は! どうだ、和さん! このまま此処で、夕子君と暮らせば……」
 和久の心情を察している武は、気を晴らす様に問い掛けた。
「武さん、夕子は歌が好きなんやって! わしも夕子の歌が聞きたいしなぁ! あいつも、目に見えん何かと必死で戦っているのや!……もうちょっと黙って見守って遣ろうと思っているのや……」
「うん……」
 短く返事をした武は、川辺に咲いている黄色い野草の花弁に視線を移した。
「わしには、夕子を怒らす事は出来んかもしれん……」
「・・・・・・・」
 和久の言葉に、無言で頷いた武。
 居間に帰ると夕子と加代の姿は無く、囲炉裏の側にダイスケが座っている。 和久を見たダイスケは、近寄って抱き上げられると、嬉しそうに尾っぽを振り和久の頬を舐めた。
「ダイ、腹が減ったのやろ? 直ぐに支度をするからなっ……」
 ダイスケを下ろし、器に入れた食事をダイスケの前に置くと、和久の顔を見て食べ始めたダイスケ……食事が済んだダイスケは、家風呂に行く戸の前で夕子と加代を待つ様に、和久達に背を向けて寝そべっている。
 暫くして戸が開き、夕子と加代が居間に入って来ると、起き上がったダイスケが足元に纏わり付いて甘え出した。
「ダイちゃん、お待たせ!」
 同時に声を掛け、夕子が抱き上げると夕子の頬をぺろりと舐めたダイスケ。
「あっはっ、ありがとうダイちゃん……好き好きしてくれたの……」
 嬉しそうに語り掛け、優しく抱き締めた夕子……夕子の様子を見ていた和久は、武が風呂で言った事を思い起こしていた。
 囲炉裏の周りで夕食を楽しみ、茶を飲みながら会話が盛り上がっている。
「買い物に行って、夕子さんだと知られなかった?」
 夕子と同じ事を聞いて来た加代……加代の言葉を聞いた和久と夕子は、お互いの顔を見て大笑いを始めた。
「如何したの? 二人とも……」
 笑いの意味が分からない加代は、武を見ながら問い掛けて来た。
「それがなぁ加代さん、夕子が同じ事を言ったのやっ! わしが、大丈夫や! こんな田舎に茜 夕子が居る訳が無い、似ている人が居るなあと、思うだけやと言ったらなっ、夕子が(分かったら、此の人に誘拐されて連れて来られた! 助けて下さいって言おうかっ!)と言うたから、お前も面白い事を言うなぁと言って大笑いをしたのや……」
 和久の説明を聞き、加代と武も大笑いを始めた……二人が笑う姿を見た夕子は、嬉しそうに微笑みダイスケを膝に乗せた。
 降りしきる雨の中、武夫妻を見送り、囲炉裏の側でダイスケと遊ぶ夕子……ダイスケと戯れる夕子を見て、和久の気持ちは複雑に揺れ動いていた……武が言う様に、此のまま此処で暮らした方が良いのか! 華やかな歌謡界を望むのか! それは、夕子自身が決める事だと分かってはいるのだが……だが、歌謡界に復帰する為には、怒りを取り戻し、天性の歌声を取り戻さなければ成らない……和久を信頼し切っている夕子を、如何にして怒らせるのか! 糸口さえ見えない思いが和久に圧し掛かって来る……夕子に体罰を加え、喜怒哀楽を奪った人物に、言い様の無い怒りを覚える和久である。
「和さん、どうかしたの? 何か心配でも……」
 思案顔をして考えている和久に、夕子が問い掛けて来た。
「あっ、いや別に何でもあれへんよ……よう降る雨やなぁと思うてなっ、こんだけ降ったら散歩にも行けへんからなぁ……」
 まさか、夕子の事を考えているとも言えない和久は、夕子をちらっと見て話を作り出した。
「うん、そうだねっ! ダイちゃんも退屈しているし、山女にも会えないしねっ……」
 膝の上で目を瞑っているダイスケを撫でながら、呟く様に言った夕子。
「明日も多分雨やろ!……雨やったら、ソバでも打ってお好み焼きでも作るかなぁ……ソバの打ち方を教えてやろか、夕子……」
「本当、和さん! 教えて教えて、それに私、お好み焼き大好き! 大阪のお好み焼きが好き!……公演に行った時には、必ず食べに行ったから、和さんお好み焼き作れるの?」
 夕子は、はしゃぐように言って和久を見詰めた。
「夕子君、作れるの? とは、どう言う意味ですか? 私を誰だと思っているのですか……」
 わざと標準語で、おどけて言った和久。
「あっはっ、和さん標準語も喋れるの?」
「あのねぇ夕子君!」
「そうでした、ご免なさい!……天才料理人、味の魔術師! 霧野 和久さんでした!」
 微笑みながら、笑いを噛み殺す様に言った夕子。
「そう、分かればいいのです! 分かっていればねっ……」
 おどけて言った和久と夕子は、お互いを見て大笑いをした。
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小説らしき読み物(40)

2016年02月05日 09時42分35秒 | 暇つぶし
                    
 何時しか季節は梅雨に移り、うっとうしい雨の日が続いている。
 其の日も朝から雨が降っていた……朝食の後、囲炉裏の側で暇を持て余している和久は、ダイスケと戯れる夕子に見惚れている。
「よう降る雨やなぁ……夕子、気晴らしに買い物にでも行くか?」
 夕子が朝霧に来て、初めて買い物に誘った和久。
「うん……でも、私って分からないかなあ……」
 夕子は、有名人である自分が、知られる事を気にした様である。
「大丈夫やでっ! まさか、こんな田舎にスーパースターの茜 夕子が居るやなんて、誰も思わんやろっ……似てる人が居るなあ位にしかなっ……」
 笑いながら気楽に答えた和久。
「そうだねっ和さん!……もしも分かったら、此の人に誘拐されて連れてこられました! って、騒がせようか!……」
 夕子は、悪戯っぽく笑いながら言った。
「あっはっはっ、そらええわ!……夕子、お前は面白い事を言うなぁ……」
 夕子の冗談に、大笑いで応える和久……笑いながら支度を済ませた和久は、ダイスケを抱いて待っている夕子に、傘を差し掛けて車に乗った。
「夕子、診療所に寄って行こう……診察してから出掛けようやっ!」
 暫く会って無かった武夫妻に、夕子が示す反応を期待した和久は、車を診療所に向けて走らせる……昼前の診療所に患者の車は無く、ダイスケを車に残して診療所に入って行く和久と夕子……だが、武夫妻に見せた夕子の笑顔は以前と変わらなかった。
 診察室に入った夕子の後ろ姿に、落胆の色を示した和久……和久の様子を受付の椅子に座って見ていた加代は、目を瞑り無言で小さく顔を左右に振った。
 診察が済み、診察室から出て来た武と夕子。
「和さん、お待たせ! 異状なしだ!……顔色も良く健康そのものだ!」
 和久の気持ちを察している武は、明るく振舞っている。
「加代さん、買い物に行くんやけど、何か要る物が有るんやったら一緒に買うてくるでっ……」
 側に来た夕子に気遣いをさせないよう、さらりと問い掛けた和久。
「ありがとう和さん……今は何も無いから、気を付けて行ってらっしゃい……ダイちゃんは車の中?」
「うん、診療所には連れて来れんから……そんなら行って来るわ!」
 車の所まで見送りに来た加代!……加代の姿を見たダイスケは、開けていた窓に飛び付き、甘える様に泣き始めた。
「ダイちゃん、お留守番していたの……お利口さんだねっ!」
 ダイスケを抱き上げて優しく言い、頬擦りをする加代……加代に抱かれて安心したダイスケは、加代の頬をぺろりと舐めた。
 二人が車に乗り、座席に座るのを見た加代は、助手席に座った夕子にダイスケを渡し、ダイスケの頭をそっと撫でた……加代に見送られた和久達は、小雨が降る山道を走り続けている。
「夕子、昼はそば街道で食べようか?」
「うん、美味しいかなあ……」
「どうやろか? わしも食べた事が無いからなあ……」
 話をしながら買い物を済ませ、ソバを食べて朝霧に帰って来た……囲炉裏に火を熾し、猪鍋を作り直した和久は、久し振りに葉ワサビの押し寿司を作って武夫妻を呼んだ。
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