見出し画像

ポジティブな私 ポジ人

醸し出される男感

幼い頃男の子に間違われる事が多かった、と父が言っていた。

小学1年生の頃は長い髪を結い上げて、スカートをはいていた。
長い子供の細い髪の毛はよくからまるので、朝、容赦の無い母のブラッシングに毎朝悲鳴をあげたり、文句を言ったりしていた。
母が家を出て行ってしまってからは、父は私の長い髪の扱いに困ったのだろう。床屋に連れて行かれ、バッサリと短髪になった。

毎朝のブラッシングが無くなり、痛い思いをしなくて済むので、サッパリとした気分だった。

その頃から、スカートよりも、ズボンを好んではくようになり、「男に生まれてきたかった」と強く思う様になった。

小学校5年生の時、新しい母を迎えた。母とお揃いの黄色いワンピースをオーダーメードで作ってもらった。
母は私に女の子らしい格好をさせたがったが、私はその頃には男の子っぽい格好をするのが好きで、ファッションでは母とよくもめた。

ある冬の事、青いニットのキャップ、青い防寒ジャンパー、紺色のズボンと、母が嫌がる格好をして、一緒に出かけた。
デパートの食品売り場だったか、母が買い物をするそばでボーッと突っ立っていると、お店のおじさんが
「お兄ちゃんはどれがいいの」と私に声をかけてきた。
そばでそれを聞いた母は、声には出さなかったけれど、顔に「ほらー、そんな格好してるから」という表情が読み取れた。
私は男の子に間違われた事に驚いたが、そんなに嫌な気はしなかった。

中学校に上がると、制服のスカートをはくこともあったが、もっぱらズボンをはいていた。

ある日、休み時間に開け放たれた窓にもたれて、校庭を眺めていると、お尻をパンとたたかれた。
その時もズボンをはいていた。
振り返ると、たまに校内でみかける上級生の男子だった。彼は「えっ?」という顔をしてそそくさと立ち去っていった。
おそらく、級友の男子の誰かと私を間違えたのだろう。男子同士の挨拶代わりの“お尻パン”だったのだと思う。

しかし、当時の私は男っぽい格好をしていても、心は乙女。お尻を触られた事に物凄い不快感とショックを覚えた。
私は直ぐに職員室へ向かい、生活指導の先生に今あった出来事を訴えた。
「誰かと間違えたのだろう」と先生も私を説得にかかったが、私の気分は晴れなかった。

高校時代は、希望校に合格したのに、父の突然の転勤で札幌から苫小牧へ引っ越した。札幌に残って下宿生活をしたかったが、父は許さなかった。

母と苫小牧の高校の制服を買い求めに取扱店に行ったのだが、時期が遅かったため、9号(Mサイズ)が売り切れていて、7号と15号しかなかった。
7号じゃ、小さすぎて着られないので、やむを得ず15号を買わざるを得なかった。
黒のセーラー服である。
私は肩幅も広く、手も長い方だが、さすがに15号は巨大である。
袖に手を通しても、袖口から私の手が出て来ない位長かった。その、どでかい黒のセーラー服で高校へ通った。

私は一番前の席に座っていたのだが、昼休み、「おうっ」と言う声と共に、物凄い勢いで肩を組まれた。ギョッとして、横を見ると、たいして親しくも無いクラスの大柄な男子である。
私の顔を見るや、「わっ」と言って飛び退いた。またしても、人違いをされたらしい。
その時はスカートもはいていたというのに。
黒くてどでかいセーラー服のせいである。私の見かけも髪が短く肩幅が広いというのも、誤解された要因のようだ。
やれやれ、だ。

父の職場のレクリエーションで家族で参加した時の事。
父はよく同僚の人を家に呼んだりしていたので、見かけた事のある人も数人いた。
その中の一人に愉快な人だが、ズケズケものをいう人がいた。
見た目は、お笑いの“てんぷくトリオ”のメンバー、戸塚睦夫から優しさを抜いて、ちょび髭を生やすとその人にそっくりだった。

その人に「男だったらハンサムだったのになぁ」と面と向かって言われた。
どう受け止めたら良いのか、複雑な気分だった。
ハンサムは褒め言葉だが、女である私の顔立ちが“男らしい”のでは、女としては駄目な顔なのだろう。
確かに高校生の時の私の眉毛は太くて濃くて、女としては凛々しい顔だったかも知れない。

これまで、幾度か男に間違われたのも、顔や服装、それ以外に男らしさが全身から醸し出されていたのかも知れない。

アルバムの中に、誰が撮ってくれたのか忘れたが、私がボートを漕ぐ写真がある。
二十歳の頃だと思うが、紺色のトレーナーを着て、力強いストロークで波を捉える姿。斜め背後から撮られた広い肩幅は、自分で見ても男らしいと思ってしまう。

高校を卒業してからは、スカートは、はかずにマニッシュな格好を好んでしていた。
ストライプの紺のパンツスーツに、ピンクのシャツ、それに黒のネクタイを締めたりした。
小柄なので、いささか男性に間違われる事はなくなった。

最近はすっかりおしゃれから縁遠くなってしまった。
見た目も男感などすっかり失せた、小さな普通のオバサンだ。

それでもたまに、年に一度も無いけれど、スカートをはく事がある。そんな時、女装した感が拭えないのは、我ながら困ったものだ。


名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「日記」カテゴリーもっと見る