午後から二人で買い出しに出掛けた。
2時半頃家を出た。いつも通りウォーキングを兼ねて、遠回り。
今を盛りと咲き誇るアジサイやユリ、バラなど。住宅街のあちらこちらに咲く、人様のお庭の花の美しさに心を奪われながら歩いた。
交通量の多い道路に出て、珍しく夫が花の名前を聞いてきた。歩道の街路樹の足元の小さな花壇に咲くピンクの花。
アサガオみたいな形の花なのに、昼も咲いているから、ヒルガオ。
覚えやすいエピソードも添えて、夫に説明した。ついでに聞かれもしないのに、次の花壇に植えられたマリーゴールドの名前も教えた。
あいみょんの歌の題名にもなっている。
♪麦わら帽子の君が揺れたマリーゴールドに似てる♪
花の実物を目の前にしても、私には思いつきもしない歌詞。あいみょんの才能なんだね。そんな事を思いながら歩いた。
更に角を曲がり国道に出た。
目的のスーパーは道路の向かい側にある。夫は何度か渡ろうと私を促したが、反対側の道は日陰がほとんど無い。日陰を歩きたかった私はそれを理由に、2度ほど“待った”をかけた。もう少しスーパーに近づいてからと。
後から思えば、この時夫に従って道路を渡っておけば良かったのかも知れない。
先頭を歩くのは私。夫は少し私の後ろを歩いていた。
二人で出かける時は、いつもウォーキングコースの選択を任されるので、夫が私の後ろを付いて来るというのがいつものスタイルなのだ。お互いマイペースで歩くので、私と夫との間隔がかなりあくこともある。
夫が「明日お天気がよかったら、マ○キヨに行こう」と言った。
マ○キヨは言わずと知れた大手のドラッグストアチェーン店だ。我が家からかなり離れているのだが、必要なものがあるとウォーキングついでに行く事がある。
後ろから声を掛けられたので、前を歩いていた私は、夫によく聞こえるように一度振り向いて「うん」と答えて前を向いた。それから2、3歩も歩かないうちに、年配の女性の笑いながら話す声が、直ぐ背後から聞こえた。すると夫が「うん、うん」とうなづく声が聞こえたので、思わず振り向いて「私じゃないよ!」と言った。
私達の周囲には誰もいなかった。
午後3時過ぎ。まだ明るい時間帯。
夫は一体誰の話に相槌を打っていたのか…。
その場所は、国道沿いの歩道で丁度石垣がある所だった。その石垣の上一帯は、奇しくもお墓が並ぶ墓地なのである。
声は私の背後の上の方からハッキリと聞こえたのだった。嬉しそうに笑いを含んだ声だった。ただ何と言っているのかまでは判別出来なかった。
墓参りの人の声だろうか?時期的には少し早い。見上げても人は見えないし、人の気配も無い。笑いを含んだ声だったが、その声の他に人の声は全く聞こえなかった。
「不思議だね」「まさかね」等と話しながら国道を渡り、間もなくスーパーに着いて、買い物に集中した。
買い物を終え、帰りながら夫が「しばらく墓参りに誰も来ないお墓の人(霊)だったのかも知れないね」と言った。「お誘いの言葉を掛けられたと思ってうれしかったのかな?」と私。明日マ○キヨに3人で行くことになるのかな?いや、もう着いてきてるよ等。冗談とも本気ともつかないふざけた事を言い合いながら帰宅した。
家に着いて直ぐに麦茶を飲みながら、夫が「うんうん」と答えていたことを思い出し、何と聞こえたのか聞いてみた。すると「楽しみだね」と聞こえたという。だから、てっきり私の声だと思ったと言うのである。えーっ、ホントに?
歳を取るに従って、アチラの世界とコンタクトを取りやすくなるものなのか知らない。
あの声の雰囲気からすると、私とそう変わらない年配の女性の声。あの時、私は夫と距離を取って前にいた。背中を向けた私に向けられた誘いの言葉が、夫が一人で歩いていた為に誤解されたようだ。今更訂正する手だてもない。
明日の買い物には、もう一人見えない人が付いてくるのだろうか。
お墓の前では発言に注意が必要だと知った日だった。
いや、それとも老夫婦の同時“そら耳”だったのだろうか…。