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この政権に改憲なんてできるか 邪な思惑と薄っぺらな動機
まっ、中身が何であろうが、とにかく改憲にこぎ着けたい。そんな思惑、本音がアリアリだ。
自民党の憲法改正推進本部(細田博之本部長)が20日の全体会合で取りまとめた改憲4項目の論点整理。注目の9条については、1項(戦争放棄)、2項(戦力不保持)を残しつつ、〈自衛隊を憲法に明記する〉とした安倍首相の案と、「国防軍」の創設を盛り込んだ党改憲草案をベースに、2項を削除して〈自衛隊の目的・性格をより明確化する改正を行う〉とする案の両論が併記された。
推進本部は来年1月に再び全体会合を開き、衆参両院の憲法審査会の議論が本格化する春までに一本化を図る見通しというが、分からないのはなぜ、今、慌てて改憲論議を急ぐ必要があるのかということだ。
朝日新聞が11月に実施した世論調査では「首相に一番力を入れてほしい政策」は「社会保障」(32%)や「景気・雇用」(20%)で、「憲法改正」はたった6%。一刻も早く改憲してほしい、なんて思っている国民は皆無に等しい。それなのに安倍は19日に開かれた都内の講演会で、2020年の東京オリンピック開催を挙げつつ「新しい時代の幕開けに向けた機運が高まる時期だからこそ、憲法について議論を深め、国の形、あり方を大いに論じるべきだ」と訴えたというのだ。オイオイ、オリンピックと改憲にどんな関係があるのか。てんで意味不明だ。そもそも改憲の発議権は国会に与えられたものであって、内閣にはない。しかも、総理大臣を含む閣僚は「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)があるのだ。
■安倍首相は改憲の実績が欲しいだけ
本来は憲法を尊重し、擁護する義務が課せられている総理大臣が「与党、野党を問わず、具体的な案を持ち寄って憲法審査会の静かな環境のもとで議論を深めていただきたい」と率先して改憲の旗振り役を務めているから呆れてしまう。現行憲法すら踏みにじる首相が、一体どのツラ下げてもっともらしく改憲を語っているのか。バカも休み休み言ってほしい。
だいたい、推進本部が取りまとめた9条改憲案も、両論併記とかいってボカしているが、結局はどちらも同じだ。そろって自衛隊という軍事組織を憲法に明記し、憲法上の正当性を持たせる意味で大差ないからだ。自衛隊が憲法に明記されたら大変だ。海外での武力行使を含む集団的自衛権の行使を“追認”する形になるのは見えているし、「力による平和の維持」を掲げる米国と一緒に自衛隊は地球の裏側まで出掛けて戦う可能性が飛躍的に高まることになるだろう。
安倍が卑怯なのは、改憲に対して国民から猛反対の声が噴出することが分かった上で、あえて〈2項を残す〉案をブチ上げたことだ。1項、2項を残すのであれば「現状維持」であって、自衛隊を確認的に明記するだけ。2項削除の自民改憲草案よりもマシだと“錯覚”する国民も少なくないだろう。早速、党内からも安倍の案に対して「現実的」との声が出ているらしいが、まさに、それが安倍の狙い。改憲さえ実現すれば、後から理屈はどうにでもなる。なし崩し的に、いかようにもできる――という薄っぺらな野望が透けて見えるのだ。政治学者の五十嵐仁氏がこう言う。
「どのメディアの世論調査でも、国民が政府に真っ先に取り組んでほしい政策は、年金医療や福祉、介護などの社会保障や経済対策で、改憲はほとんどいません。それなのに、このタイミングで改憲案を出しているのは、北朝鮮問題に対する国民不安が高まっている今なら、改正の国民投票が通りやすいのではないか、と考えているからでしょう。とにかく改憲したという実績がほしい安倍首相のワガママですよ」
特定秘密保護法に安保法、共謀罪……。次々と憲法違反の法律を強引に決めてきた悪辣政権が改憲なんて言語道断だ。
■ モリカケ問題そっちのけで改憲に突き進めば国民の怒りは大爆発
それにしても、である。日本は多くの犠牲者を出した先の大戦による敗戦の反省を踏まえ、憲法で〈政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意〉し、〈平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した〉はずだ。9条2項を削除しようが、残そうが、軍事組織の自衛隊を憲法上の「国家機関」として固定化することは、恒久平和の理念に完全に反するではないか。
詰まるところ、推進本部の論点整理なんて、単に改憲ありき、スケジュールありきの安倍にせっつかれて取りまとめられたに過ぎない。「大いに議論を深めていく必要がある」と大ハシャギしているのは安倍ぐらいだ。それなのに、大新聞テレビはロクに批判もせずに自民改憲案を垂れ流しているからクビをかしげてしまう。本来なら、大新聞テレビは改憲執着政権の独り善がりの「ムリヤリ改憲案」に付き合う必要は全くない。それよりも、いまだに何の疑惑も晴れないモリカケ問題のオトシマエをつけさせる方が先だ。特別国会閉会後も次々と新たな証拠が見つかっているではないか。
例えば、20日付の東京新聞のスクープ記事によると、森友の国有地売却をめぐって昨年3月、学園と財務、国交両省が協議した音声データには、学園の工事業者が「(ごみが)3メートルより下にあるか分からない」と、虚偽報告に懸念を示したのに対し、国側から「9メートルまでの範囲でごみが混在」との表現を示して説得に当たっていたという。
もはや8億円もの不可解な値引き額が、学園と国による口裏合わせで決まっていたのは動かしようがない事実として、国有地を売る側がなぜ、買う側を懸命に説得する必要があったのか。名誉校長だった安倍の妻・昭恵氏の関与は本当になかったのか。首相夫人付だった経産省の谷査恵子氏は財務省とどんなやりとりをしたのか。売買契約の際に「売り払い前提の定期借地契約」や「瑕疵担保責任免除の特約」「延納特約」といった前例のない特例がなぜ、森友だけに認められたのか。理財局長として答弁した佐川宣寿国税庁長官はなぜ「事前に金額のやりとりはない」と虚偽答弁を繰り返したのか。全く明らかになっていないのだ。
■貴乃花親方よりもモリカケの当事者を取材しろ
加計学園獣医学部の問題でも、文科省の大学設置審の複数の委員が文科相に認可答申するギリギリまで、教育カリキュラムについて異論を唱えていたことが分かっている。
とりわけ〈先端ライフサイエンス研究〉を看板に掲げながら、学園の計画書で、専任教員75人のうち、19人が6年後に定年を迎えることが問題視され、特別国会では野党議員が「教員の年齢が高く、新たな分野の研究、指導ができるのか」と詰め寄る場面もあった。それ以外でも、官邸の関与の有無や、規制緩和に至った根拠はいまだに明らかになっていないのだ。
ワイドショーでは朝から晩まで、酔っぱらいモンゴル人力士の傷害事件と相撲協会の動向ばかり報じているが、どう考えても「横綱の品格」よりも「総理の品格」の方がよっぽど重要だろう。貴乃花部屋に記者を張り付けるのであれば、昭恵、谷、佐川の3氏のほか、当時の近畿財務局担当者や加計孝太郎理事長を直撃した方がいい。大新聞テレビは、モリカケ問題は終わったことにして、正月からは改憲報道――なんて、安倍政権のムードづくりに加担しているのではあるまいか。元共同通信記者のジャーナリスト、浅野健一氏はこう言う。
「森友問題では昭恵氏の関与がますます濃厚になっているし、加計問題では今後、今治市と一緒に補助金を支出することになっている愛媛県の県議会がどういう判断を下すのかも注目されている。要するにモリカケ問題はまったく終わっていない。それなのに記者クラブメディア、特にテレビは官邸の意向に従って疑惑の幕引きを図ろうとしているとしか見えません。あまりにも国民をバカにしていますよ」
モリカケ問題にフタをして、このまま改憲に突き進めば国民の怒りは大爆発だ。やれるものならやってみろ、である。
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