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古賀茂明「安倍総理は国益を売る日朝首脳会談をやってはいけない!」

2018-04-05 | いろいろ

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古賀茂明「安倍総理は国益を売る日朝首脳会談をやってはいけない!」

 佐川宣寿・前国税庁長官が、国会の証人喚問で、森友問題について安倍晋三総理夫妻、官邸、財務省首脳の関与はないと断言したことを受けて、安倍政権は、「これで疑惑は晴れた」と幕引きを始めた。

 もちろん、ただ逃げるだけでは幕引きは難しい。そこで、安倍政権が持ち出すのが、「待ったなし」の外交案件だ。

 しかし、安倍政権の目の前にある外交課題はいずれも一筋縄ではいかないものばかり。下手をすると、これまで巧みなイメージ操作で作り上げてきた「外交の安倍」という蜃気楼が一気に消え失せるかもしれない。

 とりわけ、支持率が30%台前半まで落ちてもなお残る右翼的思考に取り憑かれたいわば岩盤層と言われる安倍支持層には、外交で日本の強さを示すことに非常に強い期待がある。森友から逃げるために外交に焦点を当てても、万一そこで成果が出ない、あるいは、「惨めな安倍」「譲歩する安倍」を見せてしまうと、岩盤層が一気に「反安倍」に転じる可能性もある。

 これまで安倍総理は、世界一の強国のリーダー・トランプ大統領と並んで「100%ともにある」と言ってもらうだけで、いかにも安倍総理が強いリーダーであるかのような錯覚を国民に与えることに成功してきた。しかし、その頼みの綱であるトランプ大統領に無条件で依存することも難しくなっている。

 例えば、困難な課題の一つである日米通商問題では、トランプ大統領が、日米間の貿易不均衡解消のための具体的措置を求めてくる可能性が極めて高い。

 その第1弾として、トランプ政権は3月23日に、鉄鋼とアルミニウム製品の輸入について、「安全保障上の脅威」を理由に、おのおの25%と10%の追加関税を課す措置を発動した。カナダ、メキシコ、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチン、韓国、EUは適用除外とされたが、トランプ大統領と世界一仲良しである安倍総理が率いる日本は除外リストに「入れてもらえなかった」。安倍総理の面目は丸つぶれである。

 さらに、トランプ大統領は、「他の首脳も含め」と言いながらも、わざわざ安倍総理一人だけの名前を挙げて、「彼は微笑みを浮かべているが、こんなに長い間米国をうまく利用できる(take advantage of The U.S.)とは信じられないと笑っている(smile)のだ」「もうそんな時代は終わった」と述べた。これは、明らかに、日本に対する貿易戦争の予告である。これまでは、武器の大量購入と、世界の首脳たちに馬鹿にされるトランプ大統領へのあからさまなすり寄りで恩を売り、日米蜜月を演じていたが、そんなステージは、トランプ大統領による安倍総理への冷たい言動で終止符が打たれたかに見える。

 実は、米国は、かねてから、日米FTA(自由貿易協定)の交渉を希望してきたが、日本側がのらりくらりとこれをかわしてきた。しかし、米国は、NAFTA(北米自由貿易協定)の改定交渉がカナダ、メキシコとの間で進み、韓国ともFTAの見直しで一定の成果が得られたのを受け、いよいよ、日本にも貿易上の大きな譲歩を求めるための交渉を迫ることにしたのだろう。その場合、焦点となるのは、農業分野だけではない。米国から日本への自動車輸出などについても、強硬な主張をしてくることが予想される。トランプ大統領は、今秋の中間選挙対策で、米国産業界が喜ぶ成果を上げることを最優先している。安倍総理がいくら媚を売っても、そう簡単に矛を収めてくれることはなさそうだ。

 そんな難題が待ち受けるのに、安倍総理はわざわざこの時期に首脳会談を行ってくれとトランプ大統領に泣きついた。その理由は、北朝鮮問題で、日本が全く関与できないまま、南北首脳会談が発表され、さらに米朝首脳会談にトランプ大統領が応じるなど、「蚊帳の外の安倍総理」という見方が国民の間に広がる事態になったからだ。

 とりわけ、「外交に強い安倍」を支持する右翼の岩盤支持層にアピールするためには、トランプに見捨てられたという懸念が広がるのは何としても避けたかった。そうした安倍総理の心理は容易に推測できる。

 しかし、こちらからどうしても会ってくれと頼んだら、頼んだ方の立場が弱くなる。おそらく安倍総理は、日米首脳会談終了後に、「日米は100%ともにあることが確認できた」と胸を張るだろう。また、鉄鋼・アルミの輸入規制では、例外措置を認めてもらえるかもしれない。元々、日本の鉄鋼製品などは、他国のものと違い、性能品質面で差別化されていて、それがないと米国の産業界が困ると言われていたもので、量的にも大したことはない。しかし、その程度の「成果」でも安倍政権は大はしゃぎしながら、「安倍総理とトランプ大統領の固い絆の証し」だとアピールするはずだ。それが安倍総理のイメージ外交だ。

 しかし、仮にそういうことが起きたとしたら、その裏では、発表がいつになるかは別にして、FTA交渉開始に合意するなど、日本側が大きな譲歩を強いられたと見た方がよい。結局、この会談は、自分のメンツと支持率のために、国民の利益を犠牲にするというやってはいけない外交の典型となる可能性が高い。

 もう一つの外交課題としては、日ロ首脳会談が5月26日に開催される予定だ。ここで北方領土返還交渉を大きく進めることができれば、森友幕引きには大きな効果が期待できる。今回この問題には深入りしないが、米ロの対立が深まる中で、ロシア側が、返還の話をしてくれたとしても、歯舞・色丹返還の場合に、そこに米軍基地が置かれないことの保証を最低限の要求として出してくる可能性が高い。その場合は、米国との関係で、日本側が譲歩するのが難しくなる。かくして、表面的に日ロ友好が進んでいるかのようなイメージ作りだけで終わる可能性が高い。その際、北方領土について、プーチン大統領に望みをつなぐ発言をしてもらうために、共同経済活動などで大盤振る舞いを強いられるのは確実だ。ここでも、安倍内閣の延命のために国民の税金の無駄遣いが起きるのだ。

 森友事件から国民の目をそらすためには、日米、日露の首脳会談の成果では力不足だとすれば、安倍総理が期待をかけたくなるのが北朝鮮問題での局面打開だ。昨年末までは、ことあるごとに北朝鮮の脅威を強調して、今は国を挙げて国難に当たるべきと主張してきた安倍政権だが、「残念ながら」、年明け以降は、北朝鮮と韓国に主導権を握られ、完全な対話モードに転換してしまった。今、「森友より北朝鮮の危機」と言うだけでは、あまり国民の心に響かない。しかも、この対話モードは、5月下旬と言われる米朝首脳会談までは続く可能性が高い。

 そこで、今、安倍総理が模索していると言われているのが、日朝首脳会談である。しかし、仮に日朝首脳会談が実現したとしても、大きな成果は全く望めないどころか、日本の国益を大きく損なう可能性が極めて高いと考えるべきだ。

 まず、今回は、日本の立場の方が圧倒的に弱い。北朝鮮は、既に中国との首脳会談を終えて、その後ろ盾を確保した。韓国、さらには米国との首脳会談も間近だ。米中韓とのパイプを確保した北朝鮮から見れば、米国の属国に過ぎない日本との対話には意義を感じない。さらに、これまで、トランプ大統領の威を借りた安倍総理が、世界中で対北朝鮮経済制裁の旗振り役を演じてきたことに非常に強く反発している。今年に入って韓米との対話モードに転換した後も、日本や安倍総理だけは名指しで最大級の侮辱と非難を繰り返してきた。

 そんな北朝鮮に、「是非首脳会談をお願いします」と言ったらどうなるか。北朝鮮側は、「安倍政権は森友学園問題で窮地に立たされている。ざまあみろだ」と言って断るか、受けるとしても、足元を見て、法外な要求を吹っかけてくるだろう。

 安倍政権としては、表向きこれに乗ることはできないが、赤十字などを通じた間接的な人道支援などの名目で大金を払うとか、さらに闇に紛れた方法で金正恩氏に個人的な利益供与、すなわち実質上の「賄賂」を渡すというような手段も使って首脳会談を実現しようとするだろう。

 しかし、こうして首脳会談が実現したとしても、その先には、安倍総理にとって受け入れがたいさらなる不幸が待ち受けている。

 日朝間で、正式に対話を始めれば、北朝鮮が最初に取り上げるのは、戦争責任だ。平たく言えば、「先の太平洋戦争の全責任は日本にあったことを認め、北朝鮮人民に対して土下座して詫びよ」ということになる。そして、それとともに出てくるのが、戦後賠償の問題。法外な金額を要求されるだろう。ただ、金銭の問題であれば、交渉は不可能ではない。

 しかし、この先に、「安倍政権にとっての鬼門」がある。それは慰安婦問題と徴用工の問題だ。この問題について、北朝鮮が、日本政府の法的責任と安倍総理の正式な謝罪を求めてきたらどうするのか。特に慰安婦問題については、安倍政権は、これまで何とかして、日本政府の法的責任を回避しようとする態度をはっきりと示してきた。

 もちろん、そのリスクを排除できなければ首脳会談をしない、あるいは、会談冒頭で決裂という選択をすることも可能ではある。

 しかし、その場合でも、北朝鮮は、これを世界中に宣伝する可能性がある。北朝鮮が進める非核化平和外交に日本が消極的なのは、安倍総理が、日本の戦争責任を認めない歴史修正主義者であるからだと声高に叫ぶ。さらに、慰安婦問題で日本政府が責任を認めないことを挙げて、安倍総理は、女性の人権を無視する男だというアピールもするだろう。

 そうした非難も北朝鮮が叫んでいるだけなら国際社会へのインパクトは弱い。しかし、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領や中国の習近平国家主席が、北朝鮮の主張に加担し、安倍包囲網を作る可能性がある。これは、在日韓国大使館関係者の話だが、韓国は、今年に入って、韓国が南北首脳会談を目指して必死の努力をしているときに、日本政府が裏で韓国の悪口を言いつのり、何とかそれを阻止しようと動いてきたことに心底怒っているという。表向きはともかく、裏で日本批判に乗る可能性は大きい。中国もしかりである。

 中朝韓が揃って声をあげると、その効果は非常に大きくなる。特に、米国をはじめ世界中でMe Tooキャンペーンなどのセクハラ告発運動が盛り上がる中では、慰安婦問題が致命傷になる可能性が高い。詩織さん事件を安倍政権がもみ消したということも再びクローズアップされるだろう。そうなれば、安倍政権のみならず、それを支持している日本人全体への評価も大きく損なわれる。トランプ政権も表立ってこの問題で安倍支持に回るのは難しい。

 結局、北朝鮮問題での積極的役割を果たすというのには程遠く、国際社会の非難で火だるまになって、すごすごと引き下がるしかないという事態に陥るのではないか。

 日本政府は、慰安婦問題には触れないように事前に北朝鮮に根回しするだろう。しかし、それは一時的なものに過ぎないし、そのために莫大な見返りを要求される。したがって、日朝首脳会談が開催され、慰安婦問題などがクローズアップされないという結果が出た場合、実は、その裏で日本が大きな代償を支払っていると見なければならない。

 こうしてみると、安倍総理は八方塞がりで、唯一残る望みは、米朝首脳会談の開催中止である。その可能性はまだ残っている。中止になれば、「ほら見たことか。俺が言ったとおりだ。北朝鮮に時間稼ぎさせただけに終わったじゃないか」と言って、胸を張ることができる。さらに、米朝間の緊張が高まって、一触即発という状況になれば、「国民の命に関わる緊急事態だ」「森友なんか議論してる場合じゃない」という記事をマスコミに書かせることもできる。

 さらに、この国難の時に総理を代える余裕はないということで、秋の自民党総裁選でも3選の可能性が高まる。つまり、「日本が危なくなれば、安倍総理が喜ぶ」という究極の利益相反の事態となるのである。

 そもそも、日本が世界のリーダーでいなければならないというのは誰が決めたことだろうか。1980年代に、Japan as No. 1と言われて飛ぶ鳥を落とす勢いだった頃ならまだわかるが、世界での経済的地位がどんどん下がって、もう先進国としては最下層に位置する日本が、今頃、世界秩序を作るリーダーを気取るのは滑稽であるばかりか、日本にとって有害である。実力もないのに、無理してリーダーになりたいと思うから、無駄な代償を払わされて、そのツケが国民に回り、揚げ句の果てには、国民の命まで危険に晒されることになるのだ。

 安倍総理に言いたい。

 自分の政権維持という私利私欲のために国民を犠牲にする外交を直ちにやめて潔く辞職し、政権を次のリーダーに譲るべきだ。
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