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古賀茂明「森友学園の“特例的な内容”の原点は大阪府だった」
森友学園に関する決裁文書改ざん問題の急展開で、安倍政権は窮地に立たされている。
その一方で、本件不正のそもそもの始まりである、森友学園が小学校を作ることになる過程で不正が行われた疑惑についてはほとんど忘れ去られてしまった感がある。
ここでは、近畿財務局の決裁文書改ざんで消し去られた「特例的な内容」という言葉がカギになる。
国有地を売却するときは、当たり前だが、国が代金を全額もらうのと同時に買い主に土地が引き渡されて登記も行われる。しかし、森友学園は、一度に払うだけのお金がなかったので、遅くとも10年後には買い受けるという約束で、それまでの10年間は借地契約として、毎年借地料を払うことになった。しかも、全額支払い前に小学校を建設しても良いという話だ。
この契約には、国にとって大変なリスクがある。それは、仮に小学校がオープンしたとしても、途中で経営難になり、森友学園が借地料を払えないことになった場合でも、だからと言って、在校生がいるのに小学校を廃校にしろということは非常に難しいことだ。そうなると、最悪の場合、1年生が卒業するまで6年間借地料を取りはぐれて倒産という恐れが出てくる。したがって、そんな契約はできないというのがルールだった。しかし、財務省は、安倍政権の圧力なのか忖度なのかはわからないが、破格の条件での契約に応じたのだ。したがって、この契約の内容は「特例的な内容」ということになるわけだ。この特例的な契約のおかげで、本来は不可能だった小学校建設が可能となったのである。
一方、このような特殊な契約を行うに当たっては、森友学園にとっては、もう一つのハードルがあったことは、今ではほとんど忘れられている。この話は、あまり大きく報道されていないので、そもそも、そんな問題があることを知らなかったという方も多いだろう。そこで、事実関係をごく簡単に解説しよう。
大阪府内の私立小学校については、大阪府がその新設について審査をしたうえで認可する決まりになっている。その審査に当たっては、恣意的なものにならないように客観的な基準が定められており、それに沿って審査が行われる。
森友学園が小学校を設立するためには、この審査基準に適合する形で認可申請することが必要だ。しかし、森友学園側には、この基準をクリアするのが難しい事情があった。
実は、2011年までの大阪府の審査基準では、森友学園のように、幼稚園しか経営していない学校法人は、借入金で小学校を開校することはできなかった。規模の小さな幼稚園しか経営していない法人は、自己資金で学校を作れるくらいの財力がないと、持続的な学校経営は難しいと行政が判断していたためだ。
しかし、2011年7月頃、籠池泰典理事長(当時)はこの条件が厳しすぎるとして、当時橋下徹氏が知事を務めていた大阪府に緩和を要望。その後、松井一郎現知事が12年4月に規制緩和を決めた。
その結果、森友学園の学校は15年1月、府の私学審議会から条件付きで認可されることとなった。規制緩和後、この緩和を使った小学校の設置申請は森友学園1件のみだという。これではまるで、橋下、松井両氏による規制緩和は、森友学園に便宜を図るためのものだったかのようだ。森友問題が明るみに出ると、この点が批判の対象となってきた。
ただし、この規制緩和は、正式な手続きを経て行われている。パブリックコメントも実施されているし、陰に隠れて行ったものではない。つまり、これを不正だということは難しいのだ。
ここまでは、報道などでも取り上げられたので知っている人もいると思うが、この話には、まだ続きがある。しかも、驚くべき話だから、是非知っておいてほしい。
大阪府の審査基準には、「学校の土地は原則“自己所有地”でなくてはならず、(一部例外はあるものの、その例外の場合でも)特に校舎だけは“借地”の上には建てられない」とある。借地の場合、たとえば学校の経営難やその他の事情で、借地契約が解除されたときに、教育が安定的に続けられなくなったりして大きな混乱が起きる。だから、教育に絶対に欠かせない校舎だけは借地に建てないでほしいということなのだ。したがって、物置などであれば、そこまで厳格にする必要はないので、例外はいくつか認められている。
森友学園は、資金不足のため、本件土地を最初から買い取るだけのお金がなく、そのため、財務省と10年以内に土地を買い取るという約束で当初10年は借地とする契約を交わしたことは前に述べたとおりだ。
しかし、その契約だと借地の上に校舎を建てることになる。ということは、この小学校の新設は規制緩和後の大阪府の審査基準に照らしても、基準違反であるのは明らかだった。
このような場合、本来は、2014年に森友学園が大阪府に申請書を提出した段階で、受理してもらえないのが普通だ。それなのに、明白な基準違反があるのに申請を受理したということは、事実上、府の職員が森友学園に対して、借地でもなんとか審査を通しますという約束をしていたようなもの。つまり、ミスではなく、「故意」である。
この問題を職員のチェックミスかもしれないと考える人もいるかもしれないが、それは行政の現場を知らない人の見方だ。学校新設というように大きな認可案件では、申請者が大阪府に相談しながら、府の指導を受けて、必要な条件をそろえていくという手順を踏む。したがって、突然認可申請が出てきて、慌てて書類に目を通した結果、間違って申請を受理するなどということは起きない。
大阪府は事前の相談の段階で、借地問題をあえて不問に付し、申請を受理した。その後、私学審議会に設置認可しても良いかと諮問したが、もちろん、審査基準に違反しているという説明はしていないはずだ。基準違反だと審議会委員が認識していたら、認可適当という答えは出てこない。結局、森友学園の小学校は設置認可適当という答申を得て、大阪府は認可を出した。
そこで出てくるのが、どうして、こんなに明白な法令違反を犯してまで、大阪府は設置認可をしたのかという疑問だ。私の経験では、役人が自分だけの判断でこんな「故意事件」を起こすことはない。松井知事の指示があったのかどうか、あるいは外部の政治家の圧力があったのか。そういう疑問を持つのが自然だろう。
国レベルでは、今、安倍総理や昭恵夫人の関与があったのかどうかという議論が行われているが、大阪府の場合は、職員が総理夫妻のことをそんなに気にすることはないだろう。財務省が森友学園側にいろいろ親切に対応しているのを見て、大阪府もそれに付き合ってしまったというような話もあるが、それもおかしな話だ。
私が昨年、本件を担当している大阪府の私学課関係者に取材したところ、当時、基準違反であることは認識されていたが、府庁内に本件は推進すべき案件だという雰囲気があり、基準違反だから止めるべきだという話にはならなかったということだけ聞くことができた。比較的正直に答えてくれた人は少なかったので、これだけでは確たることは言えないが、それでも、国と似た構造が浮かび上がる気がする。
それは、当時は、大阪における維新一強という状況があったということと関係する。マスコミでも、橋下前大阪府知事や松井知事を強く批判する勇気のある記者は非常に少なかった。
また、今回近畿財務局の改ざん文書で削除された内容の中に、維新の国会議員などが森友学園の幼稚園を訪問していることなどが含まれていた。森友学園のバックに維新の国会議員などがいるということを、近畿財務局の職員が強く意識していたことは確実だ。維新の政治家の意向ということであれば、近畿財務局職員よりも大阪府の職員に対して強い影響を与えるだろう。つまり、橋下、松井両氏をはじめ維新の政治家の力を意識しながら、本件について、審査基準違反という役人がやってはいけないことを行ったのではないかという疑いが出てくる。国のレベルで行われた財務省の国有地不当安値売却と同じような構造があったのではないかということだ。
橋下前知事は、昨年、ツィッターで「(規制緩和後の)審査体制強化をワンセットでやるべきだった。ここは僕の失態」、「財務状況の確認がなかった。府の判断はミス」と繰り返し「ミス」だったことを強調した。自分の「ミス」が事務方の「ミス」を呼び、不適切な認可につながったというストーリーだ。自分のミスを素直に認めて、謙虚で真面目な姿勢をアピールする。そして、ミスなら仕方がない、しかも正直に認めて謝っているのだから、もういいじゃないかという庶民の素朴な反応を期待したのだろう。しかし、重大な法令違反問題については明確に触れないという姿勢は、問題を隠そうとしたのではないかという批判を受けても仕方がない。
3月14日の記者会見で、松井大阪府知事は、大阪府が設置認可したことが、森友問題の引き金を引いたということについての責任を感じるかと質問された。質問したのは大阪府の記者クラブの記者ではなかった。ネットニュースIWJの記者だ。それに対して、やや不機嫌そうな顔で、設置基準の規制緩和をしたことについて、それは、大阪の私立学校の間で、もっと切磋琢磨させるためであって、森友に便宜を図ったものではないから、責任は感じていないという趣旨の発言をした。ここでも、設置基準の規制緩和については言及するが、あえて、審査基準に合致していなかったことについては触れなかった。大阪の記者たちもそこを突くことはなかった。忘れてしまったのか。あるいは、タブーになっているのだろうか。
繰り返して言いたい。森友学園をめぐる疑惑の核心は、国有地を8億円値引きして売却した財務省ルートだけではない。森友学園の小学校の設置が、審査基準に違反しているのに認可されたという大阪府ルート。この疑惑についても同様に解明がなされなければならない。
当事者に自浄能力がないことははっきりしている。マスコミが、この点を取材し、正確な情報を国民に知らせる努力をすることを期待したい。
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