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跋扈するヘタレとヒラメ 霞が関全体がサガワ化の世も末
政府が来年の天皇退位と新天皇即位に合わせ、国家公務員が過去に受けた懲戒処分の免除を行う検討を始めたと、7日の毎日新聞が報じた。複数の政府関係者が明らかにしたという。
免除の範囲は「前例踏襲が妥当」とされ、昭和天皇の「大喪の礼」の時の基準を当てはめると、国税庁の佐川宣寿前長官の減給処分や、財務省理財局幹部らの減給・戒告処分などが免除される可能性がある。
定例会見でこの報道について聞かれた菅官房長官は「あり得ない。明快に否定する」と答えたが、「あり得ないことが起き続けているのがこの政権です」と、政治評論家の本澤二郎氏がこう言う。
「首相が国会の場で平気で嘘をつき、官僚にも嘘を言わせ、公文書も改ざんされる。過去には考えられなかったことだらけですが、そうやって首相を守るために泥をかぶった官僚たちが出世していく。こんな政権だから、佐川氏の恩赦もやりかねません。佐川氏は証人喚問で偽証したことが誰の目にも明らかなのに、告発もされない。安倍首相に忠誠を尽くせば、犯罪さえ揉み消してもらえるのです。それを見た官僚たちは、矜持を捨てて官邸のポチになる。霞が関全体が“サガワ化”してしまえば、崩壊の一途です。法治国家とは言えません」
サガワ化しているのは官僚だけではない。与党議員も同じだ。
衆院予算委は3日、参院予算委も6日に理事懇で野党が求めていた議院証言法違反による佐川氏の告発を拒否した。「偽証の疑いがあるとは言い難い」というのが与党側の言い分だった。
■ 「総理のご意向」をカサにゴリ押し
「民主主義は多元性とチェック・アンド・バランスが機能して、初めて成り立つ。行政府にだまされても、偽証が明らかでも異議を申し立てようとしない立法府の方もどうかしています。これは間違いなく安倍1強体制が続いてきた弊害ですよ。干されるのが怖いのか、与党議員は安倍首相の顔色ばかりをうかがって、国会議員としての本来の役割を放棄している。国会の地位を低め、自らの役割を否定しているのです。ヒラメ議員に占拠された国会は、立法機能を失ってしまった。国会議員も官僚も官邸の意向を忖度して動き、モリカケ問題のように首相夫妻やその周辺で問題が起きても、誰も責任を取らない。こういう不正常な状態が続き、政治の私物化が加速してきたのです」(政治学者の五十嵐仁氏)
モリカケで注目を集めたのが、「官邸官僚」の存在だ。安倍政権の5年半、ずっと安倍首相の周囲を固めてきたのが、今井尚哉首相秘書官を筆頭に、佐伯耕三秘書官、和泉洋人首相補佐官、北村滋内閣情報官ら官邸官僚である。安倍との個人的な関係で起用された彼らが、「総理のご意向」をカサに官邸の方針をゴリ押ししてきた。
朝日新聞の連載「安倍政権と官僚」は、その横暴と腐敗の構造をこう分析した。
<安倍と以心伝心の「官邸官僚」たちの指示は、省庁幹部から「首相の威光」と受け止められる>
<人事権を握った官邸に、各省庁は従うしかなく、「官邸官僚」を除く官僚は萎縮と忖度を余儀なくされる>
<官邸主導は本来、二大政党間で政権交代があることを前提に、短期間で政治の結果を出せる仕組みをめざした姿だった。しかし、5年半を超える長期政権で政権交代の緊張感は薄れた。「政治主導」を掲げながら、財務省による公文書改ざんなど、大きな不祥事が起きても誰一人、政治責任を負わないいびつな構造ができあがった>
これが、霞が関の「総サガワ化」を招いた官邸主導の実態である。
■ 安倍政権の側近政治は国を滅ぼす宦官政治と同じ
安倍政治の5年半で、霞が関も国会も与党も官邸の下請け機関に成り下がってしまった。省庁は官邸の意向に合致する政策や数字を提出することだけを求められ、自民党の政調も総務会も開店休業状態。闊達な政策論議がなくなってしまったのだ。
だが、官邸官僚たちが肩で風切り、トップダウンで政策を主導する仕組みは危うい。官邸官僚は基本的に国会答弁に立つことがない。つまり、間違ったことをしても誰も責任を取らない。それに、選挙で選ばれたわけでもない官邸官僚が政策を決めるのは、民主的とは言えないのだ。
そういう官邸官僚が跋扈する安倍政治は、宦官政治とよく似ている。中国の歴史の中で、唐や明は、出世欲と権力欲にまみれて皇帝に取り入った宦官による政治腐敗が原因で滅亡した。国を滅ぼす「奸賊」として語られることが多い宦官の姿は、今の官邸官僚に重なって見える。
「首相官邸の中のひと握りの人間が政治を牛耳り、首相が国家を私物化している現状は独裁専制そのものですが、民主主義の仮面をかぶっているところが悪辣きわまりない。こんな政治を続けさせていいはずがないのに、これほどの腐敗を許して安倍3選を支持する自民党議員には、呆れて言葉もありません。日本ボクシング連盟の理事たちは辞表を突きつけて山根会長に辞任を迫ったというのに、自民党議員はどこまでヘタレなのか。“寄らば大樹の陰”とでも考えているのでしょうが、根っこから腐った木に寄りかかってどうするんですか。情けないのは自民党議員と官僚だけではありません。大メディアもヒラメ化して権力批判を忘れてしまった以上、どこに怒りをぶつけていいのかも分からない。国家のガバナンスを破壊した安倍政治は、もはや災害レベルです。安倍3選なら世も末で、ますます霞が関のサガワ化が進むのは確実です。亡国へのカウントダウンが始まっています」(本澤二郎氏=前出)
■ 「凡庸なる悪」が3選を支える
ユダヤ人哲学者のハンナ・アーレントは、何百万ものユダヤ人を強制収容所へ移送する指揮的役割を担ったナチス戦犯のアドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴。著書「エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告」で、彼を「凡庸なる悪」と評した。もともと残虐非道な嗜好を持った凶悪犯ではなく、ヒトラーの意向に忠実なだけの役人。アイヒマンは自らの官僚としての出世のために「ユダヤ人問題の最終的解決」に尽力した。ただ「思考欠如」の状態にあっただけだというのだ。そこが恐ろしい。
安倍1強にひれ伏し、思考停止状態の官僚が安倍の意向を忖度し、忠実に実行する。アイヒマンと同じだ。トップの意向に身を委ねれば、職務を忠実に遂行しているだけだと自分を正当化し、自身の出世欲は曖昧になり、悪事を働いているという意識も薄れる。佐川氏もそういう忠臣のひとりだった。そして、今は自民党議員の大半が、そういう気分で安倍3選を支持している。
「ポストを得るため、自分の地位を高めるために安倍首相の顔色をうかがう自民党議員には、自浄能力も自己変革能力もないことがハッキリしました。主権者である国民が意義申し立てをするしかありません。世論調査でも、多くの国民がモリカケ問題での首相の説明に納得していない。首相や官邸への忖度も行き過ぎていると考えている。この不満を直接の意思表示ができる次の国政選挙まで忘れないことです。選挙区の自民党議員に訴え続けることも必要です。主権者だということを忘れてはいけません」(五十嵐仁氏=前出)
アーレントが批判した「思考欠如」は、すべての人に向けられている。声を上げなければ、抵抗しなければ、暴政を支持しているのと同じだ。政治の私物化を是としないのなら、地元の議員に「総裁選で安倍に投票する気か」と確認することから始めてはどうか。
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