阪神間で暮らす-2

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鹿島茂氏が一刀両断 「安倍政権で少子化は克服できない」

2018-02-27 | いろいろ

より

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鹿島茂氏が一刀両断 「安倍政権で少子化は克服できない」

 安倍首相によれば、この国の少子高齢化は北朝鮮の脅威と並ぶ「国難」だそうだ。消費増税分も少子化対策に回すと明言。今国会では「教育無償化」や「人づくり革命」が大真面目に議論されているが、保育施設を増やし、教育を受ける環境を整備すれば「国難」を突破できるのか。「セックスレス亡国論」(斎藤珠里氏との対談)を書いた仏文学者・鹿島茂氏がバッサリ斬る。


■ 親子孫3代同居が理想の安倍政権

  ――安倍政権の少子化対策をどう評価されますか。

 根源的なところを見誤っていますね。どこを手直ししようと現状打破は無理でしょう。

  ――手厳しいですね。

 僕は以前から言っているんですが、世界中の少子化国をリストアップし、共通する問題をあぶり出せば解決策はおのずと浮かび上がってくる。世界地図を広げると、少子化ベルトが横たわる地域がある。日本はその東の外れに位置しています。それが韓国へわたり、中国につながり、ロシアへと広がって、東欧を進んでドイツにたどり着く。

 ――どんな共通点があるんですか。

 家族類型です。父親の力が強い権威主義的な直系家族類型の国々(日韓独)と共同体家族(中ロ)なんです。とりわけ日中韓で共通するのが「嫁」という言葉。女偏に家と書くでしょう。まさに、女性が家から家へと移る概念を表しているんです。英語の「bride」(新婦)にはそうした意味はありません。

  ――結婚が家単位で行われる権威主義的家族の社会で、女性が自由に目覚めた。それが結婚の妨げになっているんですか?

 そう、家に入ることに対する拒否権の発動です。この男性とは結婚したいけれど、男性が背負う家とは一緒になりたくない。当然の考えですよね。1960年代の高度成長期に男性の進学率上昇に伴い、嫁になる女性にも高学歴が求められた結果、女性の進学率も高まり、「私を産む機械と考えないでちょうだい」という考えが広がった。

  ――そうした時代の変化に自民党を中心とした保守派は気づいていないようにみえます。

 安倍政権を支える「日本会議」は父親の力が強く、親子孫3代がひとつ屋根の下で暮らす権威主義的な直系家族の志向が強いでしょう。

 現実に自民党改憲草案には〈家族は、互いに助け合わなければならない〉という「家族条項」があって、家族の在り方まで憲法に書き込んで強制しようとしている。女性が発動する拒否権に目をくれようともしない。こういう発想でいる限り、子どもを持つ家庭にどんなケアを施そうが、解決策にはなりませんよ。


■ 恋愛環境の整備が必要

  ――「セックスレス亡国論」でセックスレス社会の元凶をこう指摘されています。面倒くさいことを嫌がる人間心理と、面倒はカネで解決する資本主義が結びついた結果、薄利多売のアダルト業界が発展。オナニーで満足する男性が増え、晩婚非婚が加速したと。これもストンと落ちました。

 日本の男性の面倒くささがどこから来るのか。権威主義的な直系家族の仕組みが伝統的に男女に恋愛の自由を与えなかったことに由来しています。嫁も婿も家(=親)が選ぶ。

 かつて見合いが盛んだったのは、ラクだったからです。自由意思での配偶者選びに変わって、恋愛は面倒くさくてコストもかかるからセックスにも積極的になれない。「やらせていただく」よりもオナニーの方がいいや、という男性は激増しているんです。

  ――アダルトグッズがあふれていますし、そちらに流れるのは必然ですね。

 まして、世の中にはモテない男性の方が圧倒的に多い。女性はイイ男の中から選ぼうとする。モテない男性はさらにあぶれてしまう。出会いなんか面倒くさくなるわけです。

  ――面倒くさい男女を引き合わす手立てはありますか。

 出会いの制度化でしょうね。僕が小学校の時代はフォークダンスを男女の児童が踊っていました。照れくさいし、嫌でしょうがなかったけれど、何となくうれしい気持ちもあった。そういう強制でもしない限り、日本の男女がくっつくのは難しいでしょう。

 セックスは誰でもできると思うのが大間違い。放っておくと、直系家族の日本人はますますセックスが面倒になり、衰退していく。回避するには、自由意思に任せきりにせず、恋愛する環境を制度化することですよ。僕は舞踏会をやるのが最終結論だと思う。

  ――自治体なども支援していますが、婚活パーティーはどうですか。

 婚活パーティーなんかダメ。目的が露骨過ぎます。いきなり「きょうセックスしませんか」と誘うバカはいないでしょう。人間には本音とは別に口実が必要なんです。


 フランスは「個人が産み国家が育てる」

  ――少子化ベルトにのみ込まれていない地域はどこが違うのでしょうか。

 少子化を免れているフランス、イギリス、アメリカなどの国々は核家族類型です。直系家族と異なり、子どもは早い段階で自立心を持ち、親子は互いに干渉しない。子どもは自力で結婚相手を選ばなければなりません。

 そこで、核家族社会では、はるか昔から結婚相手を見つけるマーケット、つまり出会いの場が制度化されているんです。かつての舞踏会であり、ダンスパーティーであり、今でいう出会い系パブのようなものがあった。アメリカやイギリスの映画を見れば、そうしたシーンが出てくるでしょう。

  ――日本はどうすればいいでしょう?

 思い切って価値観を転換するのなら、子づくりと結婚の分離です。アメリカでは広がっています。金も名誉も得た女性が子どもも欲しくなったら、精子バンクで自分好みの男性の精子を買い求める。アメリカの自由な考え方はそこまで進んでいる。最終的な進化の形態は、精子バンクに頼った女性の単性生殖になるかもしれない。遺伝子組み換え種子最大手のモンサントのような精子業者が出てきて、世界中の精子を独占してしまう。SFの世界に近づいていくような気もします。

  ――何だか気が遠くなります。

 現実的な解決策を打ったのがフランスで、結婚と出産を切り離した。きっかけは、99年に施行されたPACS(民事連帯契約)です。事実婚と結婚しか選択肢がなかったところに、結婚とほぼ同等の法的権利を認めたPACSを設けて同棲へのハードルを下げた。

 カトリックの影響が強いフランスでは離婚には裁判所の手続きが必要で、同性婚は認められなかった。それで、パートナーへの財産分与を求める男性同性愛者向けにPACSが導入されたのですが、結婚よりも緩い契約で家族を築けることから男女間にも広がりました。婚外子率は6割に達しています。すごい数字ですよね。

  ――フランスは家族政策も充実しています。妊娠出産の諸費用は無料で、8割超が通う公立校は小中高の学費も無料。世帯年収約7・3万ユーロ(約970万円)未満で3人の子どもを持つ家庭には、20歳まで1人当たり約296ユーロ(約4万円)が支給され、追加手当も豊富です。

 個人が産み、国家が育てる。フランスの考え方は徹底しています。もっとも、子どもは嫁が育てるものという保守的な考え方が浸透している日本で同じ政策をとるのは難しいと思います。


■ 日本の救いは西日本、投資は西へ

  ――フランスのコピペでは根付かない。

 ただ、日本にも救いがあります。東日本は直系家族ですが、西日本には双処同居型核家族も存在する。夫婦どちらの親とも同居する家族類型です。投資すべきは西日本で、少子化からの復興は西から進めるべきだと思いますよ。典型的なのは、日本で最も古い文化が残る沖縄。沖縄は大和朝廷が興る以前の万葉集時代の日本の姿をとどめている。都道府県別出生率は沖縄がトップでしょう。

  ――合計特殊出生率の16年全国平均は1・44。都道府県別では沖縄が1・95で断トツ。島根1・75、長崎と宮崎1・71、鹿児島1・68と続き、西日本勢がズラリです。

 双処同居型核家族の性生活の論理を突き詰めていくと、子どもの父親が誰であるかは問わないという結論に行き着く。フランスもそういう考え方です。こういう考え方が広がれば、少子化対策になるでしょう。

 ただ、直系家族かつ、男系法律を持つ日本でそれが受け入れられるとは思えない。男女別姓の壁もある。これを乗り越えるには思い切って姓を女系にするしかない。母親のお腹から出てきたことだけは確かなんですから。だけど、男系直系家族を重んじるアベ応援団の志向とは相いれませんね。

(聞き手=本紙・坂本千晶)

 ▽かしま・しげる 1949年、神奈川県横浜市生まれ。東大文学部仏文学科卒、東大大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学。「馬車が買いたい!」でサントリー学芸賞、「子供より古書が大事と思いたい」で講談社エッセイ賞、「職業別パリ風俗」で読売文学賞受賞。古書コレクターとしても知られる。明大国際日本学部教授。
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