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吉原毅氏突く原発推進の矛盾 “自然エネは儲かる”が新常識

2018-02-22 | いろいろ

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吉原毅氏突く原発推進の矛盾 “自然エネは儲かる”が新常識

 福島第1原発事故を受け「脱原発」を宣言した異色の金融マンは、絶対に「原発ゼロ」をあきらめない。

 先月には小泉純一郎元首相らと「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」を発表。全ての原発の即時廃止と自然エネへの全面転換を目指す内容に、「原子力ムラ」に毒されたメディアがかみついたが、原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟会長の吉原毅氏は「批判はすべて事実誤認」とあきれ顔だ。多くの国民が知らされていない世界のエネルギーの新常識とは――。


原子力ムラが殺す日本の技術

  ――基本法案について、産経新聞が1月14日付の社説で〈亡国基本法案〉〈夢想の虚論〉〈これでは国が立ちゆかぬ〉と痛烈に論評していました。これに反論したそうですね。

 素晴らしい批判をいただき、感謝申し上げる次第です。おかげで原発推進派の典型的な考え方がよく分かりました。産経新聞でさえ、世界のエネルギー情勢を誤認している。真実を教えて差し上げ、認識を改めていただこうと反論書を送りましたが、いまだ回答はいただけていません。

  ――産経の社説は〈太陽光や風力発電の電気代が年々、家計に重くのしかかっている〉と高コストを指摘していました。

 海外で言ったら、笑われますよ。世界の常識を全くご存じない。自然エネ価格は世界規模で急速に低下し、比較的低コストの石炭や天然ガスよりも安くなっています。太陽光の最安値は1キロワット当たり1・77セント。円換算で2円を切る。風力も肉薄しています。

  ――ところが、政府は「原発のコストは安い」と喧伝し、ベースロード電源の20~22%に組み込もうとしています。

 コスト計算はわれわれ金融機関が専門です。経済人なら、誰もが原発は採算割れだと知っています。さすがに政府もウソをつけないのか、資源エネルギー庁の発電コストの検証資料には、原発だけ「1キロワット当たり10・1円~」と余計な「~」が付いています。「~」とは無限大の可能性もあるということ。苦肉の策の真意を読み取ってあげなければいけません。

 ――発電コスト低下の裏で何が起きているのですか。

 目覚ましい技術革新です。太陽光や風力の発電設備はシンプルで、生産するほど習熟曲線効果で技術は進歩する。大量生産によって製造コストは下がり、設備投資の額も安くなる。特に中国は愚直なまでに品質を年々向上させ、世界中で飛ぶように売れています。ソーラーパネルと風力装置はともに中国企業が世界シェア首位。今や世界一の自然エネ大国です。

  ――日本のメーカーはどうなのですか。

 技術面で後れを取っています。私も各地の自然エネ推進プロジェクトに関わっていますが、太陽光も風力もバイオマスも、まず日本製が採用されない。現場に聞くと、実績がないし、故障が多いと言うのです。「世界に誇る日本の技術」も経験を積まなければ、国際競争に勝てない。原子力ムラの妨害によって、自然エネ開発が遅々として進まないままだと、日本の技術はますます世界から取り残されます。

  ――先日も電力各社が「満杯」としてきた送電線の容量が、実際は平均8割も空いていたとの京大の研究グループの調査結果が報じられました。

 原発再稼働のために確保しているのです。風力発電の供給を検討していた福島の「飯舘電力」は、送電線に空きがないとして、東北電力から20億円もの送電増強費を要求され、事業断念に追い込まれた。こんなバカげた妨害を政府が容認するから、自然エネは拡大しない。政府が原発即時ゼロを決断し、送電線が空けば瞬く間に普及します。

 日本の全原発の廃炉費用は多く見積もっても10兆円でしょう。バブル崩壊後に国内金融機関は110兆円もの不良債権を処理し、旧国鉄の分割・民営化で国は37兆円の債務を処理しています。それらと比べれば、どうってことない金額です。


 国際金融界からツマハジキ

  ――産経は社説で〈日本が資源に乏しい島国であることを完全に無視している〉と書きました。

 米エネルギー学者のエイモリー・ロビンス博士は「太陽光、風力、地熱に恵まれた日本は、ドイツの9倍の豊かな資源がある」と語っています。例えば日本の農地460万ヘクタールを使い、農作業しながら空中で発電を行う「ソーラーシェアリング」の技術を用いれば、日本の電力需要の10倍に当たる1840ギガワットの発電が可能です。

 農家にもお金が回り、耕作放棄地もなくなる。地方に新たな産業が興れば、さまざまな関連ビジネスや雇用が生まれる。若者も希望を持って帰ってくる。こうして自然エネに転換したドイツやデンマークは、地域経済の活性化に成功しました。自然エネは、安倍政権が掲げる「地方創生」の切り札なのです。

  ――ワクワクします。

 産経が大好きな国防面も盤石です。原油に頼らなくなれば、ホルムズ海峡の封鎖は心配無用。逆に危険な原発が54基もあれば、「さあ、ミサイルを撃ってくれ」と国を差し出すようなもの。産経的には北朝鮮の脅威が高まる中、それでいいのでしょうか。

  ――皮肉ですね。

 何より海外に支払う年間25兆円もの化石燃料費が丸々国内に返ってくる。それだけの富が国民に幅広く行き渡るのに、原発温存による「政策障害」が、日本の経済発展を阻害しています。

  ――中国の方がよっぽど進んでいますね。

 昨年10月の共産党大会で、習近平国家主席は「エネルギー革命を起こす」と宣言。2050年までに自然エネを全電力の8割に拡大させる国家目標を掲げました。中国が自然エネに力を入れるのは単純に儲かるから。利にさとい国ですから、儲からないことはやりません。太陽光も風力も燃料費ゼロ。設備の寿命も40年はもつ。設備投資の減価償却を終えれば、近い将来、コストゼロの電力で経済を賄えるのです。

  ――なるほど、儲かるに決まっています。

 “自然エネは儲かる”が、世界の常識。新たな産業革命ともいわれています。低コストで効率良く、安全性が高い。今や電力の主役です。太陽光の総発電量は毎年純増し、380ギガワットを超えた。風力も500ギガワットを超え、両者で1000ギガワット目前。原発1000基分に匹敵します。

 加速度的に市場は拡大しているのに、日本だけが立ち遅れている。自然エネに舵を切らなければ、それこそ「亡国」につながりかねません。

  ――自然エネには世界の金融機関が、かなり投資しているそうですね。

 ゴールドマン・サックスが27兆円、シティ・グループは16兆円など景気のいい話が飛び交っています。また、事業運営の自然エネ100%調達を目指す「RE100」には、アップルやNIKE、BMWなど日本でも有名な世界企業122社が加盟していますが、日本企業はリコー、積水ハウス、アスクルの3社のみ。

 もはや環境意識の高い企業でなければ、国際金融界から相手にされません。追い込まれた日本の財界や大企業は悲鳴を上げ始めています。原子力ムラのせいで、国際金融界から日本企業が排除されかかっているとは、由々しき問題です。


戦艦大和の過ちを繰り返すのか

  ――自然エネはいいことずくめなのに、政府はなぜ、かたくなにデメリットだらけの原発に固執するのでしょうか。

 簡単に言えば、原子力ムラのエゴイズムです。従来の方針を続ければ、とりあえず目先の利益や自分たちの利権は守られる。「今だけ、金だけ、自分だけ」の発想です。

 そして政官財ともリーダー不在で、誰もが政策転換の責任を負うのを恐れている。戦前の日本軍も、「航空主兵論」が世界の趨勢だったのに、時代遅れの「大艦巨砲主義」に固執し、戦艦大和に莫大な資金と労力を費やし、無用の長物と化した。その結果、この国は一度、滅びたのです。現政権は同じ轍を踏んでいるように見えます。

  ――目先の利益といえば、アベノミクスの異次元緩和策にも相通じるものを感じます。

 株価上昇が目的なら、問題です。株式投資は一種のバクチ。資産を持つ人が、その資産によって、また儲かる仕組みです。カネがカネを生むような風潮を政府が助長すれば、人々の勤労意欲や社会貢献の気持ちを逆なでします。

 拝金主義の蔓延でモラルが崩壊し、国家の衰退を招きかねません。原発の背後でうごめいているのは「原子力ムラ」の住人だけではない。拝金主義の蔓延で増殖した利己主義、自己中心的となった日本の世相が深く根を張っています。

(聞き手=本紙・今泉恵孝)

 ▽よしわら・つよし 1955年東京生まれ。77年慶大経済学部卒業後、城南信用金庫入職。2010年11月理事長就任。15年6月に退任し、相談役に。17年6月から顧問。東日本大震災以降、被災地支援を精力的に行うと同時に、原発に頼らない安心できる社会を目指して「脱原発」を宣言。17年4月に全国組織「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」を創設、会長に就いた。
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