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元SEALDsの諏訪原健「綾瀬はるかの『世界平和』の夢を笑うな!」
なぜこの社会では、平和を求める語りが、馬鹿げたもののように扱われるのだろうか。2月10日にオリコンが配信した記事で「綾瀬はるか、夢は『世界平和』 壮大過ぎる願いに周囲があ然」と題したものがあった。記事の中では、実現させたい夢として「世界平和」を挙げた女優・綾瀬はるかの発言が、突拍子のない発言のように扱われていた。彼女の真摯な発言を、ある種の笑い話にするような論調は、読んでいて不快だった。
【写真】手を取り合う金与正氏と文在寅大統領に目もくれず、ひとり遠くを見つめる安倍首相
自分も特定秘密保護法や安保法制など、平和を遠ざけるような政治の動きに対して、声を上げてきたが、その度に、そのような行動を冷笑するような言葉を浴びせられてきた。平和という理想を語ることは、頭の中が「お花畑」であるかのようにあざ笑う人々が、この社会には数多くいる。先ほど挙げた記事の論調には、この社会の「平和」に対する空気が反映されているように感じる。
北朝鮮情勢に対するこの社会の人々の認識にも、そのような風潮を見ることができる。2月13日に発表されたNHKの世論調査では、「五輪での南北融和の動き」に対して、「大いに評価する」が5%、「ある程度評価する」が21%なのに対して、「あまり評価しない」が37%、「まったく評価しない」が28%だった。この社会においては、融和に向けた動きは否定的に捉えられているというのが現状だ。
このような状況は、北朝鮮情勢をめぐる日本政府の対応を後押ししているように思う。2月9日に行われた日韓首脳会談の中で、安倍首相は、米韓合同軍事演習を冬季五輪後に予定通り実施するよう求め、「北朝鮮のほほ笑み外交に目を奪われてはならない。対話のための対話では意味がない」などと文在寅大統領をけん制した。それに対して、文大統領は、演習の実施は内政の問題だとして不快感を示すとともに、日本政府が対話に向けて動き出すことを願うと語っていた。
北朝鮮と韓国、そしてアメリカの動きを見ていくと、このような日本政府の対応には違和感を覚える。2月10日、北朝鮮の金与正氏は、文大統領に対して、南北関係の改善への意志を示した親書を手渡すとともに、大統領の訪朝を求めた。文大統領は、米朝の早期の対話が必要だとの認識を示しつつも、訪朝に向けた環境を整えていく意志を表明した。アメリカのペンス副大統領も、北朝鮮に対する厳しい姿勢を崩してはいないが、北朝鮮が望めば対話を行う可能性を示唆している。
そのような対話に向けた動きが進もうとする中で、「対話のための対話には意味がない」として、一貫して強硬な姿勢を貫いている日本政府は、国際社会の動向から取り残されているのではないかと思う。「朝日新聞 映像報道部」のTwitterアカウントが、2月9日に投稿した写真には、それが象徴されているようだった。平昌オリンピックの開会式で、手を取り合う金与正氏と文在寅大統領。そしてそれには目もくれず、ひとり遠くを見つめる安倍首相。日本政府は、南北関係の融和に向けた動きを、真摯に受け止めるべきではないだろうか。
さらに言えば、政府に加担しているかのような一部報道もある。NHKニュースの公式Twitterは、「北朝鮮の狙いが、米韓同盟の分断にあるのは間違いありません」と南北融和の動きに否定的な見解を示した。2月11日の毎日新聞の社説は、「北朝鮮が文氏に会談提案 平和攻勢に惑わされるな」と題して、「南北の首脳会談を必要としているのは北朝鮮である。そこを見誤ると、核を温存したまま国際包囲網を突破しようとする北朝鮮に手を貸すことになってしまう」としており、「対話のための対話には意味がない」という政府の姿勢とつながるような見解を示している。
私には、このままでは日本社会が、南北の対立を深めることに手を貸してしまうのではないかと思えてならない。そうならないために、大切な事は、私たち自身が、この東アジアに何を求めるのかをきちんと考え、表明することのように思う。私たちには、政府に態度を改めるように迫るだけの力があるはずだ。
政府の高官になったような気持ちで、北朝鮮には圧力をかけなければならないなどと、平和に向けた取り組みを一蹴するのは簡単なことだ。しかし軍事的な対立にまで至れば、苦しむのは私たちと同じ一介の民衆ではないのか。あるいは戦火が広がれば、私たち自身も無関係ではいられないのではないか。そんなことに加担してはいけない。
朴槿恵大統領(当時)の弾劾訴追案が可決された2016年12月9日、私はソウルにいた。その時、現地の人々は歓喜しているというよりも、むしろこれからの韓国社会がどうなるのかということに憂慮していた。ある人は、今後の懸念として、「韓国では、政治家が北朝鮮に対して融和的な態度をとれば、北朝鮮のスパイなどと非難される。韓国では進歩主義的な政治家であっても、強行的な姿勢をとることを求められる。今後どんな人がトップになるのかが重要だ。」と語っていた。
その言葉を聞いていたからこそ、文大統領が、南北融和に向けた取り組みを進めていることは、本当に尊いことだと、私は受け止めている。彼の行動を、あるいは彼を大統領に押し上げた韓国社会の人々の意志を、無下にするようなことはしてはいけないと思う。対話から生まれる平和の可能性にも、私たちは目を向けるべきでないだろうか。(諏訪原健)
諏訪原健(すわはら・たけし)/1992年、鹿児島県鹿屋市出身。筑波大学教育学類を経て、現在は筑波大学大学院人間総合科学研究科に在籍。専攻は教育社会学。2014年、SASPL(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)に参加したことをきっかけに政治的な活動に関わるようになる。2015年にはSEALDsのメンバーとして活動した
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