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衝撃!経産省が環境省の「温室効果ガス削減プラン」を握りつぶした

2018-05-14 | いろいろ

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衝撃!経産省が環境省の「温室効果ガス削減プラン」を握りつぶした

第5次エネルギー基本計画骨子案を読む  経済ジャーナリスト 町田 徹

 取り返しがつかないかも

 経済産業省の頑なな原子力発電の存続策は、日本を地球温暖化対策で世界の異端児にしてしまうのだろうか。

 2年半前のCOP21で採択された「パリ協定」を無視するかのように、4月27日、経済産業省は総合資源エネルギー調査会の分科会に対し、2030年の電源構成目標を見直さない「第5次エネルギー基本計画」の骨子案を提示した。それどころか、10年越しの懸案である2050年までのCO2排出削減計画の具体化策を盛り込まない判断も下したのである。

 筆者の取材で、経済産業省はこの方針を押し通すため、2050年の原発依存度が「9~7%」と2030年目標値(22~20%)の半分以下になる、と指摘する環境省の環境基本計画案を潰した事実も浮かび上がってきた。

 経済産業省の方針は、骨子提示の8日前に、外務省の有識者懇談会が河野外務大臣への提言で「日本の2030年の(CO2排出)削減目標は“Highly Insufficient”(まったく不十分である)との評価を国際的に受けて」いると警鐘を鳴らしたことも黙殺した。

 経済産業省は、今夏にも、この第5次エネルギー基本計画の閣議決定を強行したい考えという。地球温暖化対策を巡って失われつつある日本の国際的信用が、取り返しのつかないほど傷付く恐れが高まっている。


 一切変更なしって…

 「第5次エネルギー基本計画」は、昨年から見直し作業が始まっていた。2014年以来、4年ぶりに改定される予定になっている。

 経済産業省が、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会に提示した骨子案によると、冒頭では、見直しのきっかけが「前回の計画を策定してから3 年が経過するとともに、パリ協定の締結により、2050 年に向けた長期のエネルギー戦略を策定する必要性が生じた」ことにあるとし、「最近の情勢変化を踏まえ、2030 年に向けた施策を深掘りするとともに、2050 年に向けてエネルギー転換・脱炭素化への挑戦に取り組む」との見直し方針を掲げている。

 ところが、立派なのは見直し方針だけで、まったく中身が伴わない「羊頭狗肉の審議会答申」になっている。多くの専門家の意見を無視して、肝心の2030年の電源構成案を、一切変更しないというのだ。

 この結果、2030年に向けて、太陽光や風力など再生可能エネルギーを「主力電源化」するという方針を打ち出したにもかかわらず、その比率は拡大せず従来と同じ「22~24%」に据え置かれた。

 一方、原子力については、前回のエネルギー基本計画と同様、「重要なベースロード電源」と持ち上げながら、原発依存度については「可能な限り低減させる」と、相矛盾する二兎を追う方針を堅持。電源構成でも「22~20%」と、実現性に疑問符が付いている目標をそのまま掲げた。


 出遅れニッポン

 原発は、国内に42基現存するが、電源構成で「22~20%」という目標の達成には30基前後の再稼働が必要。2011年の東京電力・福島第一原発事故以来、再稼働した原発は7基しかない。そのうえ、使用済み核燃料の中間貯蔵地不足や最終処分地が決まらない現実も黙殺した格好となっており、現実味の乏しさを感じずにはいられない。

 こうした姿勢は、福島第一原発事故をきっかけにして、ドイツ、スイス、韓国などが続々と脱原発・縮原発に舵を切ったり、ベトナムに続いてトルコやイギリスでも新規の原発建設の取りやめが取り沙汰される中、仏アレバや米ウェスティングハウスといった原子力メーカーが経営危機に陥っている問題、そして福島第一原発事故の処理費用がかさみ、原発の発電コストが決して安くない事実が浮かび上がったことなどを悉く勘案しない、不誠実な政策対応なのである。

 さらに、国際的な日本批判を勢い付かせかねないのが、骨子案の石炭火力発電に関する記述だ。「重要なベースロード電源の燃料」「老朽火力発電所のリプレースや新増設による利用可能な最新技術の導入を促進する」として、現行の電源構成目標である「26%程度」を維持する方針を掲げた。

 しかし、石炭火力発電をベースロード電源と位置付けていることは、ドイツで昨年11月に開かれたCOP23の関連会合などでも、日本が批判の的になったポイントだ。例えば、ドイツの環境NGO「ジャーマンウオッチ」は、各国の気候変動対策の取り組みをランキング化、この中で日本は50位で、「非常に悪い」という評価を受けた。

 発電のオン・オフに手間取り、使い勝手は悪くても、安定供給が望めない再生可能エネルギーのバックアップとして石炭火力発電の存続の必要性を説明するような戦略転換が必要になっているのに、頑なな姿勢が災いして柔軟さを欠いたのだ。

 さらに深刻なのは、2050年に向けた温暖化対策の具体策を提示しなかったことだろう。

 2008年のG8(主要8カ国)洞爺湖サミットで、当時の福田康夫首相が「低炭素社会・日本を目指して」と題するスピーチで、2050年までに温暖化ガスの排出を60~80%削減すると国際公約して以来、その具体策の策定・公表は10年越しの懸案となっているからだ。

 その後、日本は2050年の目標を「80%削減」に一本化。2016年のG7伊勢志摩サミットでは、その詳細を「2020年よりも十分に先立って提出する」と対外公約した。カナダやフランス、メキシコ、ドイツなどはすでにそれぞれの2050年に向けた対策を策定して国連に提出済みにもかかわらず、日本は出遅れている。

 経済産業省の姿勢は、日本が早期に計画を策定すべき立場にあることをわきまえないものなのだ。


 「原発の最大限の存続」が一番の目的

 そして、今回の取材で判明したのは、環境省が2050年に温暖化ガスの排出を80%削減する具体策のたたき台として詳細なエネルギー供給に関する試算を実施しており、その内容を今年2月に、中央環境審議会・地球環境部会の長期低炭素ビジョン小委員会の報告案として公表しようとしたにもかかわらず、経済産業省が反対して潰したという信じ難い事実だった。

 この試算は、ひと言で言うと「原発低減シナリオ」になっている。廃炉が決まっていない原発がすべて20年の運転期間延長を認められるほか、建設中の原発の運転も認められるものの、実際に稼働に漕ぎ着けるのはそのうちの半分という仮定を置いているからだ。

 試算結果は、2030年目標で「22~20%」となっている原発依存度が2050年には「9~7%」程度に下がるという内容だった。

 福島第一原発事故に伴い原発の安全審査は厳しくなり、対応のためのコストは急騰している。環境省の試算は、難しくなっている原発の再稼働と運転期間延長の実情を反映したものになっている。加えて、エネルギー基本計画の骨子案が示した「(原発依存度を)可能な限り低減させる」という方向性に沿うものと言って良いだろう。

 ところが、経済産業省は難色を示し、環境省がエネルギー基本計画案を固める前に試算を公表することを断念させたという。潰した動機は定かではないが、経済産業省は本音のところでは「原発の最大限の存続」に凝り固まっており、原発依存度提言シナリオを公表させたくないという配慮が働いたとみられている。

 経済産業省が気に入らないからと言って、きちんと前提条件を置いて行った試算の存在隠しをやっているようでは、真っ当な政策が打ち出されるわけがない。これでは、国際社会はもちろん、国内からも、政府と経済産業省への不信感が募るのが当然のことだろう。

 もう数年前になるが、安倍政権は、原発政策の見直しによって選挙における政権支持率が低下することを嫌い、「官邸に、票にもならない(原発)政策をあげて来るな」と指示したことがあり、以来、原発を含むエネルギー政策全般がおざなりになってしまったと関係者は嘆き続けてきた。今回も、経済産業省ははなから「エネルギー基本計画」の電源構成比率の目標見直しを行わない方針を固めていたと聞く。

 しかし、本来ならば、人口減少や生産性の向上を踏まえて必要な電力量の自然減が起きないかをしっかりと精査して将来のエネルギー需要をはじき出し、そのうえで、徹底した省エネの普及、大胆な原発依存度引き下げ、再生可能エネルギーの最大限の増強、石炭火力を含む化石エネルギーの位置づけを再生可能エネルギーのバックアップと変更するなど、必要な措置を勘案して、新たな「エネルギー基本計画」を策定するのが筋のはずだ。

 まだ、閣議決定までは時間的な余裕があるし、間に合わなければ、さらに数カ月かけて検討し直すことも選択肢だ。いま一度、真っ当なエネルギー基本計画作りにチャレンジしてほしいものである。


  
       経済ジャーナリスト。1960年大阪府生まれ。
       少年時代、ウォーターゲート事件や田中角栄元首相の金脈問題などの報道に触発されて、ジャーナリストを志す。日本経済新聞社に入社、金融、通信などを取材し、多くのスクープ記事をものにした後、独立。2007年3月、月刊現代 2006年2月号「日興コーディアル証券『封印されたスキャンダル』」で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」大賞を受賞した。現在、ゆうちょ銀行社外取締役も務める。著書に『日本郵政-解き放たれた「巨人」』(日本経済新聞社刊)、『巨大独占NTTの宿罪』(新潮社刊)など
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