阪神間で暮らす-2

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中村逸郎氏が看破 プーチン大統領の外交戦略はアジア支配

2018-01-24 | いろいろ

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中村逸郎氏が看破 プーチン大統領の外交戦略はアジア支配

 2014年のクリミア併合で欧米から経済制裁を食らい、G8から追放されても、ロシアの国際社会への影響力は衰えない。シリア内戦への介入に続き、核・ミサイル開発に猛進する北朝鮮問題へも首を突っ込む。舵を取るプーチン大統領は3月18日実施の大統領選で再選され、通算4期目突入が確実視されている。四半世紀に迫る独裁政権の下、2018年のロシアはどう動くのか。日ロ関係はどうなるのか。テレビなどでおなじみのロシア政治専門家、筑波大教授の中村逸郎氏に聞いた。

■北朝鮮問題はロシアのロードマップ通り

  ――ロシアは北朝鮮問題の仲介に積極的ですが、北朝鮮は韓国に急接近。2年1カ月ぶりに南北対話が始まりました。プーチン大統領の戦略は失敗したのでしょうか。

 全く逆です。北朝鮮問題はプーチン大統領の思い描いた通りに進んでいます。出発点は昨年9月6日から極東のウラジオストクで開催された東方経済フォーラムでした。北朝鮮危機を煽って緊張を極限まで高め、最後は自分の手で刈り取ろうとしているのです。

 ――どういうことでしょう?

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は昨年9月3日、6回目の核実験を強行しました。その直後の9月5日、プーチン大統領は中国・アモイで開かれたBRICS首脳会議で「経済制裁は意味がない。北朝鮮は雑草を食べてでも、自国の存立のために核開発を継続するだろう」と言及した。

 緊張を高める一方、ホスト役を務めた東方経済フォーラムで韓国の文在寅大統領と首脳会談を行い、北朝鮮問題を解決するロードマップを提示しました。韓国に対して北朝鮮と友好関係を築くプランを提案した可能性が高い。北朝鮮を取り巻く状況はプーチン大統領のロードマップに沿って変化しているとみています。

  ――北朝鮮は9月15日に新型中距離弾道ミサイル「火星12」の発射を断行しましたが、1週間も経たない9月21日に韓国は北朝鮮に対する800万ドル(約9億円)の人道支援を決定。チグハグな韓国の行動はそうした流れをくんでいたんですね。

 文在寅大統領は対北融和政策を訴えて昨年5月に当選しましたが、いくらラブコールを送っても北朝鮮は無視。それどころか、核・ミサイル実験を強行し、重要課題である平昌五輪の成功は遠のくばかり。

 そうした中、北朝鮮に対して最も強い発言力を持つのはプーチン大統領だと判断したのでしょう。圧力一辺倒の日米との協調だけでは、事態は悪化するだけだと。そこでロシアのシナリオに乗って北朝鮮に具体的な秋波を送り続けた結果、南北閣僚級会談につながったのでしょう。

  ――ロシアは旧ソ連時代の朝鮮戦争で北朝鮮を支援した伝統的友好国ではありますが、なぜプーチン大統領はそこまで肩入れするのですか。

 狙いは極東サハリン産の天然ガスの販路拡大です。プーチン大統領の最大の政治課題は経済的に困窮する極東の復興。天然ガスのパイプラインをウラジオストクから北朝鮮に延ばし、さらに韓国の釜山まで敷設しようと考えているんです。中国への供給網は西シベリアからのパイプラインがありますが、それだけでは不十分なので北朝鮮から中国へも支線を引っ張りたい。実現すれば、北朝鮮は電力不足を改善でき、通過料として恒常的に外貨を獲得できる。液化天然ガスをタンカーで輸入している韓国はコストを大幅に下げられます。

 ――極東は潤い、東アジアの繁栄にも寄与する。

 もちろん、政治的にもうまみがあります。プーチン大統領はパイプラインを通じて朝鮮半島と中国を支配下に置くことができる。歯向かうことがあれば、天然ガスの圧力バルブを下げ、兵糧攻めにすればいい。ウクライナはこの手口でひどい目に遭っています。

 再選が確実視されるプーチン大統領の今後の外交戦略はアジア支配です。2012年の前回選挙以降、シリア介入を通じて中東を手に入れましたから、次はアジアに覇権を広げようと画策しています。

 月内に「米ロ朝」首脳会談の可能性

  ――ロシアは2015年8月にシリアへの派兵を始め、イランとともにアサド政権を支援。2016年12月にアサド政権が反政府勢力最大拠点アレッポを制圧、シリア全土での停戦を発効しました。

 背景にあるのはロシアとトルコの急接近です。NATO加盟国のトルコは米国とともに反政府勢力側に立ち、ロシア機撃墜で両国の関係は一触即発まで悪化しましたが、2016年8月にエルドアン大統領がモスクワを訪れ、首脳会談で和解。要するに、経済制裁で締め上げるプーチン大統領に屈したのです。イランがロシアに牛耳られるようになったのは、包括的核合意をまとめ、欧米に経済制裁解除を働きかけたのがプーチン大統領だったからです。

 親米国のサウジアラビアも情勢変化を受けてロシアに近づき、昨年10月には旧ソ連時代を通じて初めて国王が訪ロしています。こうしてプーチン大統領はOPEC(石油輸出国機構)への影響力を強め、減産調整に成功。原油相場はこの1年で1バレル当たり20ドル以上も上昇し、資源輸出頼みのロシア経済は好転した。これが昨年までのプーチン外交の成果なんです。

 ――今年からアジア支配へと動くと。

 その足掛かりが北朝鮮です。文在寅大統領は五輪期間中の南北首脳会談開催に期待を寄せていますが、僕は参加申請締め切りの1月29日までにウラジオストクでロシアの仲介による米朝首脳会談、あるいはプーチン大統領、金正恩委員長、トランプ大統領による3者会談が行われる可能性があるとみています。

  ――トランプ大統領はこのところ前のめり発言を繰り返していますが、金正恩委員長はそこまでプーチン大統領に信頼を寄せているんですか。

 崩壊寸前だったアサド政権を守り抜いたのがプーチン大統領です。一時はシリア国内の支配権を8割も失ったのに、ロシアの支援で盛り返し、イスラム国を壊滅状態に追い込んだ。金正恩委員長はプーチン大統領が後ろ盾になれば、アサド大統領同様に生き延びられると踏んだのでしょう。金正恩委員長は昨年、アサド大統領にたびたび祝電を送っていますよね。

  ――米国の対イラク、リビア政策を見て核・ミサイル開発を加速させたのとは対照的です。米国は前提条件なしの米朝対話まで譲歩しているものの、いずれは非核化交渉に切り替える。プーチン大統領に妙案はありますか。

 そこが対北対話の肝なんです。非核化の見返りに体制維持の保証、経済補償は当然必要になるでしょう。問題はその先で、核放棄プロセスを誰が管理するのか。ロシアしかいない、プーチン大統領はそう考えています。

 技術供与や人的支援などの経緯もありますが、ロシアは1996年にウクライナの核兵器を移管させた経験がある。ソ連崩壊時、ウクライナは世界3位の核保有国でした。そうした実績をもとに北朝鮮の核兵器もロシアが引き取るシナリオで動く。だから、米朝会談では事足りず、ロシアの出番となるわけです。

■蚊帳の外の安倍政権はATM扱い

  ――南北関係は安定し、朝鮮半島へのロシアの影響力はますます強まる。

 文在寅大統領は昨年末に訪中して習近平国家主席と首脳会談を行い、連携を確認した。いま、ロシアを軸に中国、北朝鮮、韓国によるひとつの勢力圏ができつつあります。日米韓が分断されるどころか、トランプ大統領が北朝鮮問題から逃げ出せば、制裁一辺倒の日本は孤立しかねません。

  ――安倍首相はプーチン大統領と20回も首脳会談を重ねているのに、日本は蚊帳の外。日ロ関係では北方領土問題を抱えますが、日本からの経済支援しか話題になりません。

 そもそも、日ロ首脳会談では領土問題はクローズ。行われているのは平和条約締結に向けた交渉です。経済支援をジャンジャン引き出し、結果として平和条約を結ぶのがロシアの着地点。ところが日本は1956年の日ソ共同宣言に基づき、平和条約締結後に領土返還協議が始まると考えている。この大きな違いをプーチン大統領は最大限に利用しようとしているわけで、日本はさながらATM扱いです。「平和条約」というパスワードを打ち込めば、お金がどんどん下ろせるんですから。

  ――5月のサンクトペテルブルク国際経済フォーラム、9月の東方経済フォーラム。安倍首相は今年も2回、プーチン大統領と顔を合わせます。

 プーチン大統領からすれば、ボーナスを年2回も手にするチャンスです。首脳会談では、前回まとまった経済協力の達成度をチェックした点検評価表が安倍首相に渡される。これは進んでいない、どうなっているんだと詰めていき、日本が追加支援を持ち出す。欧米追随で対ロ制裁をする一方で土下座外交。こういう世界なんです。

 (聞き手=本紙・坂本千晶)

 ▽なかむら・いつろう 1956年、島根県生まれ。学習院大大学院政治学研究科博士後期課程単位取得退学。モスクワ国立大などに留学。近著「シベリア最深紀行」で梅棹忠夫・山と探検文学賞。
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