原発事業「0円買収」の暴走
半導体メモリー事業の売却や6千億円の巨額増資により、経営再建へ一歩を踏み出した東芝。140年の歴史を持ち、日本を代表する名門企業はなぜ未曽有の危機に陥ったのか。
買収は異様な手順を踏んだ。対象は債務超過に苦しむ建設会社。かつて経営破綻した前科もある。それなのに意思決定に欠かせないリスク・資産査定(デューデリジェンス)は後回しだった。債務が膨らむリスクを無視したまま、買収額を0円(債務超過のためWHはのれん代105億円を計上)と算定した。
東芝本体の経営会議は不都合な事実を見過ごし買収を承認した。「複雑な訴訟の解決には買収しかないとの説明だったが、他部門の役員はつっこみようがなかった」。ある幹部は当時を振り返り弁解する。
当時は「原発ルネサンス」のさなかにあり、世界で原発建設に追い風が吹いていた。米ゼネラル・エレクトリックと並ぶ米名門企業のWHだ。入札には三菱重工業や日立製作所も参戦し、2千億円と見込んだ買収額はみるみるつり上がった。
高騰する買収額に取締役会では異論もあがり、推進派だった原発担当副社長の庭野征夫も「2800億円を超えると投資回収できない」とブレーキをかけた。「何言ってるんだ。リスク背負わなきゃ、将来もないだろ」。西田は一蹴する。「佐々木の言うことが正しい」。強気の戦略に同調したのが、庭野の部下で常務の佐々木則夫だった。取締役らの懸念はかき消された。
表面上はうまくいっているように見えた。WH買収後、東芝の株価は上昇基調に入った。同時期に次世代DVDの開発撤退を決めるなど東芝は選択と集中の花形企業となっていく。「成長産業の原発は東芝の柱になる」。西田の声は社内でさらに大きくなり、佐々木の原発部門も「エリート部隊」に押し上げられた。
17年2月、社長の綱川智は巨額損失の発覚を受けて原子力事業を社長直轄にすると発表した。WH買収から11年。経営トップが初めてWHのガバナンス強化に直接乗り出した。WHが経営破綻し連邦破産法11条による再生手続きを申し立てたのは、その1カ月後だった。資料:日経
半導体メモリー事業の売却や6千億円の巨額増資により、経営再建へ一歩を踏み出した東芝。140年の歴史を持ち、日本を代表する名門企業はなぜ未曽有の危機に陥ったのか。
買収は異様な手順を踏んだ。対象は債務超過に苦しむ建設会社。かつて経営破綻した前科もある。それなのに意思決定に欠かせないリスク・資産査定(デューデリジェンス)は後回しだった。債務が膨らむリスクを無視したまま、買収額を0円(債務超過のためWHはのれん代105億円を計上)と算定した。
東芝本体の経営会議は不都合な事実を見過ごし買収を承認した。「複雑な訴訟の解決には買収しかないとの説明だったが、他部門の役員はつっこみようがなかった」。ある幹部は当時を振り返り弁解する。
当時は「原発ルネサンス」のさなかにあり、世界で原発建設に追い風が吹いていた。米ゼネラル・エレクトリックと並ぶ米名門企業のWHだ。入札には三菱重工業や日立製作所も参戦し、2千億円と見込んだ買収額はみるみるつり上がった。
高騰する買収額に取締役会では異論もあがり、推進派だった原発担当副社長の庭野征夫も「2800億円を超えると投資回収できない」とブレーキをかけた。「何言ってるんだ。リスク背負わなきゃ、将来もないだろ」。西田は一蹴する。「佐々木の言うことが正しい」。強気の戦略に同調したのが、庭野の部下で常務の佐々木則夫だった。取締役らの懸念はかき消された。
表面上はうまくいっているように見えた。WH買収後、東芝の株価は上昇基調に入った。同時期に次世代DVDの開発撤退を決めるなど東芝は選択と集中の花形企業となっていく。「成長産業の原発は東芝の柱になる」。西田の声は社内でさらに大きくなり、佐々木の原発部門も「エリート部隊」に押し上げられた。
17年2月、社長の綱川智は巨額損失の発覚を受けて原子力事業を社長直轄にすると発表した。WH買収から11年。経営トップが初めてWHのガバナンス強化に直接乗り出した。WHが経営破綻し連邦破産法11条による再生手続きを申し立てたのは、その1カ月後だった。資料:日経