転生の宴

アヴァロンの鍵対戦会「一番槍選手権」を主催するNishiのブログ。最近はDIVAとDBACのプレイが多めです。

COJショートショート:ロボトミー・ソルジャー(その2)

2014-10-30 12:51:28 | 創作物(M・o・Aちゃん他)
そんな訳でショートショートの新作公開です。
先日連載を開始した「ロボトミー・ソルジャー」の続きとなります。

本来は夜更新の予定でしたが、
丁度良い頃合いだったので今から更新という形になります。
それではお楽しみ下さい。

――

・過去作品
クエスト・フォー・ザ・ムーン その1
クエスト・フォー・ザ・ムーン その2
クエスト・フォー・ザ・ムーン その3
クエスト・フォー・ザ・ムーン その4
クエスト・フォー・ザ・ムーン その5
クエスト・フォー・ザ・ムーン その6
クエスト・フォー・ザ・ムーン その7(エピローグ)

ロボトミー・ソルジャー その1

切札戦士 ジョーカー13(ワン・スリー) 第14話

バトルトーナメント:あなたが決める禁止カード その1
バトルトーナメント:あなたが決める禁止カード その2

エージェント・イン・スイムスーツ(1話完結)


<<<ロボトミー・ソルジャー その2>>>

作:Nissa(;-;)IKU

《停止》《右旋回》《左旋回》――脊椎を通して送られる信号が、「彼」に周囲の確認を行わせた。カメラアイが取り込んだ画像はリアルタイムでビルの最上階にあるプレゼンテーション会場に送られている。

本来なら既に「敵」――「彼」と同じく脳を生体クラウド端末に換装された「ロボット兵」だ――との模擬戦闘が始まっている時刻であった。だが「敵」の姿は未だに見えない。

物陰からの不意打ちを狙っているのか、あるいは向こうで予定外の事案があったのか――オペレータである太った男は確認の為、ポケットから小型物理モニタを取り出した。そして秘密の回線を通して本社へのIRC通信を試みた。

小型物理モニタがIRCコンソールを映し出すと同時に、彼は専用のIDとパスワードを入力した。そして通信用のチャンネル「51LEVID」を開いた――勘の良い読者なら、これを逆から読むと「DEVIL15」になることに気づいたであろう。

そう、彼こそがオペレータの名目で傘下企業の監視に派遣された、邪悪なるハッカー組織「リバースデビル」の諜報員なのである。

――

旧世紀に結成された、コンピュータ及びネットワークの総合知識と技術を高めることを目的としたハッカー集団の1つが、「リバースデビル」の原型とされている。彼らが異次元空間「アルカナ」の存在を知ってしまったことが、転落の始まりだった。

初めは他の多くの人々と同様、彼らもアルカナをネット上で作られた仮想空間と考えており、ネット上を走る「プログラム」による干渉を度々試みていたという。やがて彼らはアルカナ内に遺されていた旧世紀の「プログラム」と遭遇し、それら御するべくプログラミング技術とハードウエアの開発技術を洗練させていったのだった。

そんな彼らがアルカナ内でしばしば発生する謎の「空間異常」に気づくのには、さほど時間はかからなかった。そしてそれらと現実世界で起きている連続失踪事件との間に、単なる偶然とは済ませられない程の高い同時性があることを突き止めたのである。

やがて彼らは一つの結論に達した――アルカナは単なる仮想空間ではなく実在する異次元空間であり、ここで起きたあらゆる事象は実際の現実世界にも影響を与える。スローガン的にいえば「アルカナを制する者は世界を制する」というのである。彼らが「リバースデビル」を名乗り始めたのもこの頃とされている。

もしアルカナが実在するのならば、「プログラム」などではなく実際に人間を送り込むことが出来るのではないか――そう考えるのは極めて自然である。だがさしもの彼ら――「リバースデビル」にとっても、これは大きな難問であった。

何故なら現実とアルカナの間を「安全に」渡る為には、既にロストテクノロジーとなっていた「量子コンピュータ」の技術が必要とされていたからである。最初の試算では今の技術力でこれを完全再現するには、少なくとも200年はかかるだろうと見込まれていた。

この絶望的ともいえる時間を少しでも縮めるには、潤沢な資金が必要である。彼らはロビー活動を通して資金繰りに挑んだ。大学、電子企業、自治体の研究機関――だがその絵空事とも思える計画に賛同しようとする組織は、そうそう現れるものではない。

彼らの活動は裏社会にまで及んだ。暴力団、人身売買組織、違法研究施設、武装テロ組織――交渉の際の不手際で多摩湾に沈められた者もいたが、そこでの命を賭けたやりとりは、彼らの交渉技術を向上させるには十分であった。

いくつかの違法研究施設に対し、人身売買や人体実験などの非人道的行為の情報のもみ消しと引き換えに、資金と技術の提供を行う契約を結ばせることに成功したのが、数年前のことである。こうして「リバースデビル」の歯車は回り出した。

――

量子コンピュータの擬似的な再現、アルカナでの活動を支援する為の「プログラム」の開発、アルカナへの適応力を高める為の人体改造――リバースデビルの研究は多岐に渡った。例の「ロボット兵」の開発もその中に含まれているのは言うまでもない。

「ロボット兵」の核となる技術の1つが「生体クラウド端末」である。脳死患者の意識の再生や、人工知能への「自我」の構築を目的として作られたそれが、人間の自我を破壊し、オペレータによって遠隔操作される「ロボット」に変える技術に転用されることとなったのは、何と皮肉なことであろうか。

生体クラウド端末の発展によって量子コンピュータの擬似的な再現に成功し、完成まで200年はかかると見られていた転送技術も実用化の目処が立とうかというところで、思わぬ横槍が入った。政府直属の情報機関「アルカナ監視チーム(AST)」である。

彼らは既に独自の技術でアルカナへの転送システムを完成させ、「エージェント」と呼ばれる特殊な能力者を送り込ませることに成功していたのだ。その中には高校生や大学生などの若者も含まれているという。

元々スクールカーストの最下層や就職浪人などの「社会的弱者」を多く抱えるリバースデビルは、反権力・反体制的な志向が強い。「権力」「体制」の側であろうASTに「一番乗り」を取られたことは、彼らにとって大きな屈辱であった。

事態は更に深刻であった。もしリバースデビルの存在が――そしてそこで行なわれていた非人道的研究が――暴かれたなら、間違いなくASTは彼らを滅ぼしに行くに違いないからだ。

彼らに残された道はただ一つ――逆にASTを滅ぼしてアルカナ全域を支配し、その力を以て全世界を支配することだけであった。一見途方も無い戦争計画であったが、彼らには勝算があった――初期のプログラム技術の際に生み出された小型のプログラム群、「ウイルス」である。

――

そしてASTのエージェントの一組が演習の為にアルカナに潜入したある夜、リバースデビルは遂に作戦を実行に移した。彼らが上空から散布した大量の「ウイルス」は、現実世界のウイルスの様に拡散し、アルカナ内の建物やそこに生息する「プログラム」、そしてエージェント達の端末に取り付いた。

「ウイルス」に感染した「プログラム」達は次々と破壊され、リバースデビルの尖兵として再構成されていった。一方エージェント達の端末に忍び込んだ「ウイルス」は、西東京郊外にある彼らの拠点の1つを探り当てるのに貢献した。

それから間もなく試運転を兼ねての「ロボット兵」による拠点襲撃が始まった。暴力団やテロ組織との協力を取り付けたことで、彼らの武装は正規の軍隊とも引けをとらないものとなっていた。

彼らの襲撃と「ウイルス」による拠点のネットワーク攻撃が行われたのはほぼ同時であった。防火シャッターの誤作動により多くの研究者が建物に閉じ込められ、無事に脱出出来た者もロボット兵の一糸乱れぬ銃撃の前に倒れていった。そしてガスのパイプラインの暴走によって拠点は爆発、火の海に包まれた。

これによって拠点に駐留していた研究者はほぼ全滅、アルカナの転送システムも破壊された。更にエージェントの1人を捕縛することにも成功したのであった。一方リバースデビル側の損失は皆無であり、最初の奇襲攻撃は完璧な成功のうちに終わったのである。

――

そして今、ASTは組織の再構成に追われており、アルカナは実質リバースデビルの「貸し切り」状態となっている。この事実を知った傘下企業の1つ――ロボット兵の開発に携わった企業である――が、その宣伝の為にアルカナを使いたいと打診したことが、今回のデモンストレーションのきっかけであった。

ロボット兵同士の模擬戦闘を通してその性能を理解してもらい、関連組織との商談に持ち込む。アルカナ内でならば重武装による銃撃戦も現実世界に認知されずにこなせる――リバースデビル側としてもこれが重要な資金源となることを理解しており、半日ほどの調整の後、その実施を認めたのであった。

予定では会場側のオペレータが操縦する「最新型」と、本社に駐留するオペレータ――勿論こちらもリバースデビルの諜報員だ――が操縦する「初期型」が戦闘を行う予定であった。その「初期型」の姿が見えないことが、会場側のオペレータに不安を与えた。

秘密の回線を通して本社オペレータとIRC通信を試みる。だがチャンネル「51LEVID」には相手の姿は見えない。10秒、20秒、30秒、――返信を待っていたその時であった。

「最新型」のイヤーマイクが背後で何かが墜落する音を捉えたのである。オペレータは通信を中断し、すかさず《振り向き》《視点下》の指示を送った。落ちていたのはサッカーボール程の緑色の球状の物体――オペレータはすかさず画面をプレゼンテーション用のムービーに切り替えた。

彼の咄嗟の判断には理由があった。それが「ロボット兵」――そう、本来の「敵」である筈の「初期型」のだ――の頭部であることに気づいたからだった。異変に気づいたプレゼンターの女がモニタを覗きこもうとしたその時である。

鈍い衝撃が「最新型」の左耳をかすめ、イヤーマイクを破壊したのである。画面にノイズが走る。急いで《振り向き》《視点上》の指示を送る。カメラが捉えたのは謎の飛行物体であった。

少なくともASTのエージェントではない。「ウイルス」の影響を逃れた「プログラム」の1つだろうか――オペレータはそう判断しかけたが、《拡大》によって映し出されたその姿は、彼を困惑させた。

空から現れたのは白いセーラー服に濃紺色のタイツの少女――いや、ボトムは男児用の一部丈の半ズボンだから少年だろうか。ボトムと同じ濃紺色のキャスケットを頭に載せ、目はオレンジ色のゴーグルで覆われており、ノイズ混じりの画面からは表情は窺い知れない。

「少年」は1丁のライフルを「最新型」に向けて構え続けていた。そして腰から提げられた2丁のライフル状の物体が銃口から激しい噴煙を上げ、「少年」を空中で支え続けていたのである。「天鳥 烏兎(あまどり うと)」――オペレータは思わず呟いた。

<<<その2おわり、その3につづく>>>

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