春めく

足音の春めく街を走りぬけ
運針に尽くせし後の針供養
次々と命譲りてシクラメン

菠薐草

住替えを告げる便りに菠薐草
春菊の束なす香りにくすぐられ
荒波の若布を磨くしなやかさ

春浅し

浮き雲に淡き光の春浅し
陽はかげり残る寒さは忍び寄り
玉となりぽつりと落ちる春の雨

木の芽時

木の芽時生まれ出る日々のときめき
時を待つ沈丁花の濃ゆくなり
建国の日今昔の感深まりて

冬の梅

咲初の四方に漂う冬の梅
寒椿絞りに混じる赤二つ
枯れ草の風格覗く崖っぷち

寒木瓜

群れて咲く寒木瓜の花ふっくらと
冬の蝿飛ぶ距離縮め日の明かり
菜の花に白菊添えし墓前かな

猫の恋

声変えて行きつ戻りつ猫の恋
付き添いに言葉ずくなの受験生
寒菊のわずかに華やぐ待合室

冬夕焼

裸木の幹突き抜ける冬夕焼
一夜明け豆踏む音に振り返り
太く鳴き縄張り示す寒鴉

寒明け

寒明けの満月一際輝きぬ
節分や雲の動きにのどかなる
節分の豆を備えて夕を待つ

寒明け

早足に寒明けとなる日の強さ
春めくや身軽となりて庭に立ち
春の香は苦味を添えて蕗の薹