さくらんぼ

さくらんぼ中でも輝く実を手折り
蜘蛛の巣の獲物見さだむ揺れ動き
蚊といえど多くの命奪われし

清水

静かなる水音奏で清水湧く
山桃にざらつく熟れし実のなりし
新牛蒡歯応え残す柔らかさ

蜥蜴

立ち止まり逃げる蜥蜴の身の速き
建替えの庭にひょっこり蟇蛙
雲海の果てなく続く空の旅

夏の夜

地球儀に指で見つけし夏の夜
片影に帽子の跡の汗を拭き
行軍の渇きの中に田水沸き

虎が雨

ひめゆりの天翔る日や虎が雨
風通る輝く木肌の森林浴
土と化す堆肥の恵蚯蚓肥ゆ

紫蘇の葉

厨より紫蘇の葉摘んでと声かかる
愛らしき実を付け南瓜の花開き
新聞少年の笑顔の先に紅の花

茄子の花

路地裏に色に振り向く茄子の花
梅雨に揺れ見え隠れするビルの影
十薬の誇らしげに咲く花の白

蚊

耳元で鳴きし蚊を待ち眠られず
南天の花の冠梅雨晴れ間
烏の子守る親鳥声荒らし

栗の花

実を囲み長き穂揺らす栗の花
屋根覆う重なり合いし蔦茂る
新しき壁に三筋の蔦青し

黒南風

黒南風に母は気遣う新生児
五月雨に夕べは増えし川面かな
月影をしばし待たるる五月闇