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わんぱく坊主の日記帳Ver.002

TRPGと少年キャラ萌えを等価値に考えるヘンな日記

おお振りSS「負けるな」(ネタバレ注意)

2005年11月05日 | 駄文
※以下、アフタ12月号第26回のネタバレを含みます。
                          
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
田島のバットが、桐青の高瀬が投げたボールを迎え撃つ。
捉えた──ように見えた。けれどスライダーの描く軌跡は、バットから逃げるように離れていく。思いきり伸ばした田島の腕でも、届かない。金属性のバットが白球をかすめる音が、オレの耳にまで届く。捉えきれなかったボールはキャッチャーミットに吸い込まれ、小気味いい音を響かせた。
「トーライッ! バッターアウッ!!」
審判が無情にも三振を告げた。
どよめきと歓声が球場内にこだまする。応援団や観客から見れば、間違いなく白熱した好勝負だったんだろう。けれど、今ここで戦っているオレたちからすれば、好勝負なんて綺麗な言葉じゃ片付けられない感情が渦巻く。勝ちたい。どっちのチームもそう思っている以上、一つ一つのプレーに喜びも悔しさも、楽しさも苛立ちも生まれる。
(──田島)
あいつは、空を見上げていた。左打席に立つあいつの、今浮かべている表情はここからじゃ見えない。不意に胸がずきりと鈍く痛んだ。三振。試合は8回表。打順が下位に回ることを考えると、田島に次の打席が回る可能性は限りなく低い。田島もそれは分かっているはずだ。充分すぎるほどに。
あいつは今、何を思って空を見上げているんだろう。
ネクストバッターサークルで立ち上がりながら、オレは生じそうになる雑念を振り払った。今は田島の心配より、自分の打席に集中すべきだ。まだ1アウト。チャンスは続いている。
バッターボックスへ向かう途中、ベンチへ戻る田島が駆け足でやってきた。深く俯いているせいで、やはり表情は見えないままだ。すれ違う直前、あいつの口が小さく動いた。
「……花井、頼む」
「……おう」
いつもの田島らしくない、かすかに沈んだ声。
能天気までな明るさも、時々怖くなるほどの真剣さも、そこにはなかった。間違いなく、それはオレが全く知らない田島の姿だった。


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ようやく書き上がりました、おお振りSS!
そこそこ長くなったので、冒頭部分だけここにアップ。おお振りサイトにて丸ごと公開中です。

もう、何が言いたいかって、田島君が! 彼の「……くっ……そおお!!!」なくして、このSSはできませんでした。で、花井君視点にしているのは、やっぱり僕が花井君と田島君の関係にすげー萌えているからですw


で、ついでに追記。
mixiのプロフィールをちょっと書き直して、おお振りサイトやショタサイトのURLも貼り付ける予定。注意書きはしっかり書いているわけだし、中に入るなら覚悟もしているはずだし……大丈夫だよね。

困ったことにTRPGゲーマーな僕と、少年キャラ好きな僕はごく当たり前のように両立しているので、どちらかを失くすわけにもいかないし、どっちを優先するとかいうものでもないので。

そんなわけで、これからもTRPGと少年キャラ萌えに頑張りますw

兄弟小話その4 ~お見通し?~

2005年08月10日 | 駄文
「なあ、あやっ。ここはどーすんの?」
「ん? ああ、そこはね──」
綾人くんの綺麗な声が静かな部屋の中で、音楽みたいに流れていく。陣を苦しめる算数の計算式も、綾人くんにかかると誰も知らない名曲に変わるんだ。教えてもらっている陣も、そしてすぐ傍で自分の宿題をこなしている僕も、その旋律に心がどきどきと騒ぐ。
やっぱり綾人くんは……すごい。
「──こんな風に解けばいいんだ。分かる?」
「あやって……きれーだな」
丁寧な説明を終えた綾人くんを見つめて、陣は夢の中にでもいるみたいな口調で呟いた。
「そうかな?」
「きれーだって! なんていうかさ、心がふわーって空に浮かんでスーって消えてく感じ!」
「ありがとう」
要領を得ない陣の言葉にも、綾人くんはにこりと微笑む。その笑顔を横から見る羽目になった僕は、思わず赤面した。本当に綺麗なんだ、綾人くんは。声はもちろん、整った顔立ちも、思慮深い瞳の色も、少し長めの髪の毛も。
何もかも。
「それに焔兄と違って優しいしさぁ~」
むかっ。
ちらりと目を動かすと、陣の視線とぶつかった。『へへーん、うらやましいだろ』と言わんばかりの目!
陣の奴……さっき宿題は自分でやれって言ったの、根に持ってるな。確かにちょっとキツく言いすぎたかな、とは思うけど。だいたい、陣はちゃんとやればできるのにやろうとしない。その上、僕や綾人くんに甘えて、まず自分で考えようとしないんだ。
そんなんじゃ、いつか自分が困ることになる。──そう思って言ったのに。
「オレ、あやが兄ちゃんだったらよかったなぁ」
無視無視。僕は解きかけの問題に気持ちを切り替える。
「そう? 僕は焔くんの方がいいと思うよ」
「えーっ、なんで!?」
「だって焔くん、陣くんのことをいつでも気にかけてるから」
(っ!?)
綾人くんのさり気ない一言に、僕が持っていたシャーペンの芯がぽきりと折れた。
見抜かれてる。
思わず上げた視線が、真っ直ぐ綾人くんの瞳にぶつかった。僕の動揺とか気恥ずかしさとか、そういう全部をひっくるめた上で、綾人くんはにこりと笑う。嫌味の欠片もない、だけど悪戯が上手くいった時に浮かべるような、笑顔。
「ね、焔くん?」
「いや、そ、それは……」
だって、僕が物心ついた時にはもう、陣は僕の隣にいて。泣いたり怒ったり笑ったり、素直に気持ちをぶつけてくるこいつに振り回されてきた。危なっかしくて、1秒だって目を離してられないんだ。
けど、それは嫌なことばかりじゃない。陣のたった一言が、僕に気づかなかったことを教えてくれたことは、何度もある。宿題なんかよりもっと大切なことを、その答えを、陣は分かってるんだ。理屈じゃなくて、心で。
──だけど。
「へっへへ~♪ へぇ~、そうなんだぁ、焔兄?」
「…………」
僕は黙ったまま身を乗り出すと、陣の頭を殴りつけた。ごん、という鈍い音がはっきりと聞こえる。
「ってぇーーーーーっ!! 何すんだよ、焔兄っ!!」
「うるさいっ! お前、綾人くんがこっち見た隙に問題集2ページ、見もしないでパスしただろ! ちゃんとやれ!」
「……じごくめだま」
「そんな単語はない! ほら、早くやる! 楽師の仕事もあるんだからな!」
「ちぇーっ」
ぶつくさ文句を言っている陣を叱りつけた後、気がつくと綾人くんが口元を抑えて体を震わせていた。思いっきり、笑ってる。
「あ、綾人くん、ごめんっ。うるさくしちゃって」
「ううん、いいよ。焔くんと陣くんの喧嘩って、仲がいい証拠だから」
「そ、そういうんじゃ……!」
慌てて言い訳しようとした僕を、綾人くんはたった一言で止めた。
「──陣くんの問題集、ちゃんと見てたね」
……うあ。
僕は恥ずかしさで、顔が熱くなるのを感じた。やっぱり綾人くんには、お見通しなんだ。

兄弟小話3 ~願い事~

2005年07月07日 | 駄文
「んじゃ、いってくるー!」
「陣、気をつけるのよぉ!」
夕暮れが迫る頃、出かける支度を終えた僕たちを、珍しく締め切りに余裕があるらしい母さんが玄関で見送ってくれた。陣は楽祈を持って、もう外に飛び出している。せっかちなのは今日も変わりない。
「焔兄、早く!」
「はいはい……それじゃ、いってくるから」
「陣のこと、お願いね」
「うん」
陣には聞こえないようにこっそり囁いてくる母さんに、僕も小声で頷いた。無茶ばかりする弟の面倒を見るのは、長男の僕の役目だ。正直、陣の相手は疲れるし、骨が折れるけど──。
「えーんにぃーーー!!」
「……やれやれ」
僕が玄関を出ると、待ちかねたように陣は走り出した。
目的地は龍浪神社。父さんが僕と陣に与えた指令は、『七夕に相応しい竹を取ってくること』。七夕は楽師たちにとっても、儀式を行う重要な日なんだ。
「行こうぜっ、焔兄!」
陣には、あまり関係ない……んだろうな。
僕は少しだけ笑うと、跳ね回るように先を進む陣をゆっくり追っていった。



龍浪神社は学校に行く途中にある古い神社だ。昔から僕と陣はここで遊んでいた。楽師として修行を始めてから強い力を持つモノがいることを知って以来、この神社は僕たちにとって別の意味を持つようになった。
僕たちが知らなかっただけで、街には色々なものたちが住み着いている。神様だったり、お化けだったり、そして──僕たちが『凶』と呼ぶものであったり。
『お久しぶりです、龍浪の神』
『────』
僕たちの前に音もなく現れたのは、この神社の主である龍浪の神。この辺りの凶が大人しいのは、龍浪の神の力が今も強く及んでいるからだって、父さんから聞いたことがある。実際、姿を現しただけで周囲の空気が綺麗に澄んでいくような気がする。
僕は気圧されそうになりながら、持ち凶の古雅と協力して龍浪の神と“交渉”を始めた。と言っても、凶との“交渉”と違って戦いにはならないから、僕も安心して出来る。
『今年も敷地に育った竹を頂きに参りました』
『──────』
『等軍家当主の名代として、僕たち2人が足を踏み入れることをお許し下さい』
『──』
龍浪の神は無口な神様だ。訳属性の僕だけど、龍浪の神の声を聞いたことはほとんどない。一応、こっちの言うことに機嫌を損ねていることはないはずだけど、表情が読めないからちょっと困る。
僕でさえそうなんだから、隣にいる陣はかなりイライラしてるみたいだった。
「あーっ、もうアイサツなんていいじゃんか! さっさと竹取ってこうぜ、焔兄っ!」
「そんなわけにいくか」
「だってさぁ、龍浪の神だったら別に何も言わなそーだろ? いっつも黙ってるし」
あっけらかんと言い放つ陣。僕がわざと大きくため息をつくと、むっとした顔になる。
「なんだよー!」
「お前の言ってることは、相手が何も言わないなら勝手に人の物を持って行ってもいい、っていう泥棒の理屈なの」
「……う~~」
唸っている陣を放っておいて、僕は龍浪の神に向き直った。
『申し訳ありません。弟は未熟なもので』
「あっ、焔兄! 今オレの悪口言っただろ!」
『このような浅慮の身ではありますが、どうかご容赦下さい』
『────』
結局、最後まで口を開くことなく、龍浪の神は姿を消した。陣の態度に怒ったわけではなさそうだし、僕は「まあいいか」と納得しておいた。神と呼ばれるものは龍浪の神ほど極端じゃないとしても、考えが分かりにくいものだし。
だけど陣は何が不満なのか、しきりに文句を洩らしている。
「ったくさー、龍浪の神もアイソがないよな」
「神様の態度にケチつけてどうするんだよ、お前は」
楽祈で軽く陣の頭を小突いた僕は、神社の裏手へ向かう。後ろで陣が何やら叫んでいたけど、聞こえない振りをしておくことにした。
罰当たりな奴。

烏森余話(1) ~伝えたい言葉~

2005年06月18日 | 駄文
「力も扱えない奴が、頭領に気に入られるわけねーだろ!」
「なんだよ、その目は!」
「生意気なんだよ!」
何発殴られ、蹴られたのか分からない。志々尾限は全身に降り注ぐ暴力を、ただ黙って浴び続けた。痛くないわけがない。限がそうであるように、同年代の子供たちである彼らも、妖の力を有している。並みの人間ならば、命を落としても不思議ではない。
「……ぅっ……っ!」
それでも、限は悲鳴一つ上げない。歯を食いしばり、耐えていた。力を振るおうと思えば、できる。ほんの少し衝動を解放すれば、彼らを叩きのめし、後悔させることも簡単だ。
いや、いっそのこと殺してしまえば──。
(──駄目だ!)
それをすれば、もうここには居られなくなる。“夜行”。人としての行き場を失った限の、唯一の居場所。
(嫌だ。俺は……)
限の脳裏に、どこか捉えどころのない笑みを浮かべる男の姿が思い浮かぶ。
墨村正守。“夜行”の頭領。暴走する自分を止め、力を制御する道を示してくれた人。居場所を与えてくれた人。
(あの人の傍にいたい)
拳を握りしめる。暴れそうになる力を、必死に押し止めた。
子供たちを殺してしまうことより、正守の差し伸べてくれた手を見失ってしまうことの方が怖い。
だから限は、身を丸めて耐え続けた。

ラグエン小話その1 ~帰り道~

2005年06月06日 | 駄文
「焔兄ぃーーーっ!!!」
「……なんだよ、陣。うるさいぞ」
放課後、下駄箱で靴を履き替えている僕のところに弟の陣が駆けて来る。息せき切ってやってくるなんて、一体どうしたんだろう。
陣は呼吸を整えた後、妙に嬉しそうな顔で言った。
「焔兄焔兄っ、明日の給食って何か知ってるか!?」
「給食の献立を覚えるのは、お前の得意技だろ」
勉強が苦手だとか言うくせに、そういうことに関してだけ陣の記憶力は桁違いだ。
陣はこくこくと頷くと、相変わらずの大きな声で言い放った。
「明日さ、納豆が出るんだって!」
「………………え?」
「だから、納豆だよ! な・っ・と・う・!」
わざわざ一字ずつ区切らなくたって分かる。分かるから、僕の反応は遅れたんだ。陣の奴、いつもの仕返しのつもりか。
「へへー、焔兄、納豆残すなよ」
「……残さないよ。お前じゃあるまいし」
僕は、納豆が苦手だ。というか、ぬとぬととしたものがダメなんだ。昔、ある出来事がきっかけで……う、思い出しちゃった。
好き嫌いの激しいところのある陣は、僕や母さん、それに父さんにもよく叱られる。だから、こうして給食や家の食事に納豆が出る時になると、途端に反撃に出るんだ。
……まったく。
「ゼッタイだな!?」
「うん、絶対」
「オレ、見に行っていい?」
「いや、来るなよ。迷惑だから」
「何でだよー!」
無茶苦茶な奴。
僕はため息をつき、陣に背中を向けた。「置いてくぞ」と振り向かずに声をかけると、慌てて靴を履き替えて追いかけてくる陣の気配が分かった。
「待てよっ、焔兄!」
「お前の相手は家に帰ってから」
「一緒に帰るくらい、いいだろ!」
何だかんだ言っても、僕は陣のこういう素直なところが好きだ。いつだって陣は、僕の後ろにくっついてきた。大きくなるにつれて、少しずつ僕たち兄弟の距離は変わってきたけれど、それでも今はまだ。
「焔兄っ、明日の昼休み、ゼッタイ行くかんな!」
「あーもう、ホントうるさい」
「オレ、うるさくねーもん!!」

こんな風に一緒に帰る、この距離が僕の楽しみの1つ。

「盟約の剣」 第七章

2005年05月23日 | 駄文
刹那──。
何が起こったのか、ディックには理解できなかった。呆気なく折れた“アレス”の刀身と、彼の肩口から迸る血潮が目の前でゆっくりと舞っている。
(……なんだ……?)
これは自分の持っていた剣なのか。これは自分自身に流れていた血なのか。
痛みはなかった。一流のカタナであれば痛みすら与えず命を奪うことが可能だと聞いたことがある。あの死神を名乗る女性は、間違いなくその領域に身を置いている。少なくとも、自己流で剣を振るっているディックなど及びもつかない実力の持ち主だ。
「……っ!」
身体から力が抜ける。いや、生命そのものが奪い去られていく。たまらず膝をついたディックの横を、“雪色の死神”が悠然と通り過ぎていく。その名が示す通り、彼女の雪色のコートには一滴の血すらついていない。穢れなき新雪の美しさそのままに、彼女は生命を奪う。
「しっかりしねぇか、若ぇの!」
「無駄だ。あるじの剣をその身に浴びて、冥府に落ちぬ者はいない」
声を上げるローランドに対し、鴉が嘲笑を浴びせた。
「そして──貴様もだ」
「!」
それはまさしく、死の宣告。ローランドが銃を構えるより早く、死神の剣が舞う。本能的に生命の危険を察知したのか、ローランドは咄嗟に銃を撃つことを諦めて身をよじる。だが、それも虚しい足掻きに過ぎないとでも言うかのように、刃は無慈悲にローランドを切り裂く──。

ギィィィンッ!!

「……」
それまで一切の感情を見せることのなかった死神の顔が、わずかに動いた。老冒険家を間違いなく死へ至らしめるはずだった一閃。それが。
「…………はぁっ……はぁっ……」
ボタリ、と落ちた血の塊が足元の床を汚す。
致命的な傷を負った“鋼の衛士”が、もはや武器としての役目を成せない愛剣を使い、死神の魔手からローランドを守っている。無理矢理動かした肉体は鮮血で染まり、明らかに危険な出血量に達しているはずだ。しかしディックの双眸は、虚ろになりながらも光を失ってはいなかった。
それどころか──。
「……俺の知り合いに……死神の盟約、に……従う……男がい、る……」
漆黒をその身に纏う男は、今もディックの目指すべき標だ。
その背は遥か彼方、まだ辿り着くことさえできていない。“銀の守護者”の導きがあっても、果たしてこの手が届くのか分からない。いや、届かないのではと思っていた。だから、素直に自分の前にある道を選ぶことはできなかった。それがもし駄目だとしたら……自分が歩むべき未来は、どこにも存在しなくなってしまう。
嫌だ。このまま死ぬことよりも、誰かを守れないことよりも、夢を断たれてしまうことの方が怖い。あの男の強さに辿り着けないのならば、カブトであることも、そして生きていることさえも意味がない。
自分の命は、夢を叶えるために。
ただ、それだけのために。
「俺は……その男を……越えなきゃなら……ない。……だから」
「──馬鹿な」
死神の剣を押し返し、ディックの蒼い瞳が炎を吹き上げるように輝く。
「だから……死神なんかに、負けてたまるか!!」
「……!」
ディックの渾身の力に気圧され、死神が2,3歩踏鞴を踏んで後退する。迸る意思に呼応したのか、ディックの周囲の床がひび割れ、砕け散っていく。その亀裂は、“雪色の死神”の背後で眠り続けている“盟約の剣”にまで達した。
その瞬間、“盟約の剣”が激しい光を放つ。まばゆい輝きに包まれ、その場にいる誰もが息を呑んだ。
「なんだ……!?」
「──あるじよ……これで……」
「……」
死神たる彼女が、かすかに浮かべた表情が何であったのか。それを知るのは、ただ“盟約の剣”のみ──。

『我──標なり──汝、──者よ──いざ、盟約を──』

厳かな声が、神殿内に響き渡った。

散りゆく花、彷徨う雷鳴

2005年04月03日 | 駄文
「──嘘、だろ……?」
自分でも信じられないほど、唇から漏れ出た声は動揺していた。
そもそも客が来ない店ではあるが、今はたった一人──雨宮響の他に客の姿はない。彼女とカウンター越しに話している青年・志生蛍の術で、普通の人間はこの店には近づけないようになっているからだ。
「……本当だよ」
蛍の穏やかな表情が、苦しげに歪んでいる。これまで仲間たちを優しく諭してきたリーダー格の彼も、今回のことでひどく憔悴していた。
「絵理香ちゃんは……死んだ」
「……っ」
響は息を呑んだ。高樹絵理香。この店“ID”に訪れる者たちの一人であり、大切な仲間。その正体は現代において創造された、森の高貴な妖精たるエルフ。儚い印象を与える少女ではあったが、その芯の強さは誰もが惹きつけられる輝きを放っていた。
その、彼女が。
「何で!」
バン、と両手をテーブルに叩きつけ、響は腰を浮かせた。その表情は怒りと、これまで誰にも見せたことのないもう一つの感情が滲み出ていた。込み上げてくる感情の迸りを抑えるように俯くと、艶やかな黒髪が流れ落ちて彼女の顔を隠す。
「何であいつが死なないといけない!?」
「……君が前から言っていた通りのことだよ」
「……?」
相対する青年にも怒りや悲しみがあったが、その眼差しは穏やかだった。数百年の時を過ごしてきた蛍は、数多くの別れを経験してきている。無論、それで悲しみに慣れてしまうわけではないが、激情を押さえ込むことだけはできた。何より目の前の、まだ二十年ほどしか生きていない響がいる前で、彼が感情に振り回されてしまうわけにはいかない。
「絵理香ちゃんは優しすぎた。目の前に自分を傷つける者がいても、それが本意でないと知ってしまったら……彼女は傷ついてでも戦いを止めようとするから」
「あの……馬鹿……!」
絞り出すように、響が声を上げた。
「だから言ったんだ! いつかその優しさが命取りになるって……! なのに、あの子は……!」
妖怪によって母を殺され、その復讐を誓った響にとって絵理香は甘すぎる考えの持ち主だった。戦いを好まず、敵にさえ情けをかけてしまいかねない少女が、響には理解できなかった。戦わなくては殺される──理屈も感情も関係のない、それが真理だ。
だが、絵理香は響の考えに賛同しなかった。最後の最後まで。
「……馬鹿だよ、本当に」
「でもそれが彼女の選んだ道だよ、響」
蛍がそっと、項垂れる響の肩に手を置いた。
「後悔がなかったわけじゃないだろう。彼女にはまだ多くの時間があったんだから……。それでも、彼女には譲れないものがあったんだ。たとえ命を懸けることになっても、退くことができない理由がね」
「だからって死んだら何の意味もない! 生きていなきゃ声は届かない! 触れ合うことも、この手で止めてやることもできないだろう!? 死んだら、それで終わりなんだ!」
ぽたり、とテーブルに滴が零れ落ちる。
涙を流したのは、母を殺された時以来だ──激しく悲鳴を上げる心の、まだわずかに残された冷静な部分がそう囁いていた。誰かのために流せる涙があったことが、響には信じられなかった。こんな弱々しいものは、とうに捨て去ったつもりでいたのに。
「くそっ……なんでオレが……」
「響」
目の端を拭う彼女を見つめながら、蛍は悲しみを帯びたまま微笑んだ。
「君のその涙が、絵理香ちゃんのいた意味の一つじゃないのかな」
「…………」
「君はまだ怒りに全て染まってしまったわけじゃない。君には友人の死を悲しむ優しさが……絵理香ちゃんと同じものが残っている。だったら、その想いを大切にすべきだ。彼女の死を、無意味なものにしたくないのなら」
「勝手なことを言うな……っ!」
顔を上げた響の瞳から、もはや涙は完全に消え去っていた。
「オレはあいつとは違う。優しさなんか……必要なものか!」
背を向けて立ち去っていく響。
蛍はそれを黙って見送った。彼女が駆るバイクのエンジン音が遠ざかっていくのを耳にしながら、蛍は小さく溜め息を洩らした。高樹絵理香の死がネットワーク“ID”に与えた影響は計り知れない。特に若い妖怪たちの動揺は大きく、彼らの心に暗い陰を落としている。
「……動くべきなのかもしれないな」
可能性は低く、望む全てを取り戻せるかどうかも分からない。
だが、それでも賭けてみるべきだと蛍は感じていた。何より絵理香の周りには、大切な人間たちがいる。自分たちの失策のために彼らが悲しむのは、あまりに不条理だ。
「たとえ命を懸けることになっても──」
蛍は決意を宿した瞳で、淡い輝きを放つ己の右手を見つめた。


「くそっ……くそっ……!」
制限速度を大きく超えたまま、響と彼女の駆るバイクは夜の道路を走り抜けていた。
全身に吹きつける風はひどく冷えきっており、普段感じる爽快感など欠片も感じられなかった。自分の鼓動と重なる瞬間が楽しみだったエンジン音さえ、今はただ不快なだけだった。
「くそっ……くそっ……畜生ぉっ!!」
叫んだ。今はもう会うことのできない、友人に向かって。
響はひたすらに吠え続けた。

己の中にある怒りを、より高めるために。
己の中にある弱さを、二度と見せぬために──。

「盟約の剣」 第六章

2005年04月01日 | 駄文
それは──運命だと思った。
今こうして目の前に立っていること、いや……ここへ来ること自体があらかじめ定められていたことなのだと、天啓のように閃いた。そうした考え方が嫌いなディックでさえ、それを見つめた瞬間に魅入られたように動きを止めていたのだ。
盟約の剣。
神殿と呼んでも構わない巨大な建築物の、その最深部に眠っていた両刃剣。
鈍い輝きを放つ刀身は深々と床に突き刺さって半ばまで姿を隠しており、柄には入口で見たものと同じ2匹の竜が意匠化されていた。だが何よりもその気配──神々しいとも禍々しいとも言えない、独特の雰囲気がディックとローランドをその場に縛りつけていた。
「本物だな……こいつは」
微かに震える手で、ローランドは頬を伝う汗を拭う。
「“聖杯”に“聖銃”……その手の代物はいくつか見てきたが、こいつも同じ匂いがしやがる」
「おっさん、本気でこれをいただいていくつもりか?」
「……いや」
ディックの問いに、ローランドはお手上げだと言わんばかりに首を横に振った。
「こいつは、無理だな。俺が持つには重すぎる」
「……だよな」
同感だと、ディックも頷いた。武器に限らず、美術品などにも強い力を放つ物品は多く存在する。そして、そうした物品は往々にして持ち主に奇妙な運命をもたらすのだと、聞いたことがあった。
「どうする?」
「まあ、仕方ねえ。映像記録だけでも録って──」
「──それはできぬ」
「!」
不意に現れた気配に、2人は振り向いた。だが、入口の方には誰の姿もない。
一瞬、気のせいかと緩んだ意識の隙間を、その声は嘲笑った。
「ここだ」
「っな!?」
再び盟約の剣へ向き直ると、その傍らには2人に無防備な背を晒して白い人影が佇んでいた。馬鹿な──ディックは戦慄が走るのを感じながら、突如として現れた存在に対して身構える。背後にいた時の気配も、それどころか剣に近づかれた動きさえディックには感じ取れなかったのだ。尋常な存在であるはずがない。
「愚かな侵入者よ、招かざるべき定命の者よ」
そう口にしたのは、人影の肩に止まっている鴉だった。
「この地は汝らのものにあらず。早々に立ち去るがよい」
「……おい、鳥が喋ってるぞ」
「おっさんは黙ってろって」
ローランドを後ろに下がらせ、彼を庇うように立ちはだかる。この状況でも全く怯えていないのはさすがに冒険家らしい胆力だが、目の前にいる者は危険すぎるとディックの本能が警鐘を鳴らしていた。あの独特の雰囲気には覚えがある。人間の世界の裏側に潜む者、深い闇の世界で蠢く魔性の存在。
アヤカシと称される、人外のモノ。
「特殊部隊の次は化け物かよ……ったく、ブロッカーの目算狂いすぎじゃないのか……」
ディックは強がるように笑みを浮かべながら、“アレス”を抜き放つ。
「お前は……誰だ?」
「…………」
雪色のコートが静かに翻り、振り向きざまの冷たい眼差しがディックを射抜いた。
まるで雪か氷の結晶から作り出されたような整った美貌。唯一色彩の異なる真紅の双眸。どこか危うい儚ささえ漂わせながら、身体に纏うのは濃厚な死の匂い。化け物と呼ぶには何かが不釣合いで、それでいてこの世ならざる雰囲気が漂う女だった。
「あるじはこう言いたいのだ」
依然として沈黙したままの女に代わり、鴉が再び告げる。
「私は定命の者に冷たき運命をもたらす使者。幾千幾万という儚き終わりを見届ける傍観者……。故にお前たちは私をこう呼ぶだろう──“雪色の死神”と」

「盟約の剣」 第五章

2005年02月20日 | 駄文
2人の足音が広大な空間に響き、吸い込まれていく。ローランドが用意した携帯用のライトが階段を下りていく度に不安定に揺れ、視界はひどく狭かった。何とか闇に慣れ始めたディックの目に映るのは、岩石そのものを削り出して作り上げられた街並みだ。
「すげえ……」
優美な芸術品でも、技術の粋を凝らして建てられたものでもない。しかし、ディックは感嘆するより他に無かった。
「たいしたもんだろう?」
周囲にすっかり気を奪われているボディガードへ、ローランドは若干困ったような笑みを向けながら口を開いた。
「“災厄”の最中、何とか生き延びた連中が辿り着いたのがこの地下都市なんだとよ。地上が地獄に変わっている間、誰が用意したかも分からないこの場所で人々はひたすらに祈りを捧げたらしい」
「ふぅん……」
その手のことに関心を持てず、ディックは生返事を返すだけだった。ふと壁に手を触れてみると、岩の壁は驚くほど綺麗に成形されており、滑らかな感触を彼の指に残した。
余所見をしている青年を放って、ローランドの説明は続く。
「やがて“災厄”は終わりを迎え、生き残った者たちは神に感謝したんだそうだ。自分たちを選び、救い出してくれた大いなる存在に」
「選ぶ?」
「そう錯覚してもおかしくない代物だろう、この街は」
些か皮肉げな台詞に、ディックは少し考えた後、頷いた。ローランドが見つけた伝承によれば、この地下都市には水や食糧が充分に蓄えられており、明らかに災害に対する備えが完備していたという。当時の人々がそれに何らかの超常的な存在を夢想したとしても無理はない。
「どうだ? お前さんは何か感じないのか?」
「別に。俺、そういうのには疎いから」
期待されても困る、といった風にディックは答えた。
そして素っ気ない自分の態度に苦笑するローランドへ、今度は自分が問いかける。
「それより、あんたの目的……そろそろ教えてくれないか」
「宝探しさ」
「……ふざけんな」
「俺はいたって真面目なんだがね」
とても真面目に言っているとは思えない口調が、ますます気に障る。アーマーギアで武装してくるような連中と戦って、今度も勝てるという保証はどこにもない。そもそも受け身に回ること自体、ディックの気性には向いていない。反撃の機会を得るには、連中の狙いを知る必要があるのだ。
だというのに──。
しかし当のローランドは気にした様子もなく、目を細めた。
「ガキの頃に見た映画のヒーローに憧れてなぁ……未知の遺跡に足を踏み入れ、危険な罠の数々を潜り抜け、遺跡の奥で眠る秘宝を手にする……あれにすっかり騙されちまった」
「騙されたって分かってるくせに、今でも続けてるんだな」
「まあ、な」
明かりに照らし出された顔に刻まれた、隠しきれない老い。世界最高の冒険家と謳われた男は確実に衰え、だがそれでもなお彼の双眸は強く輝いていた。
「結局、俺にはこの道しかなかったんだろうよ。……現実にゃ宝の眠る遺跡なんざ滅多にないのが少々残念だが」
「……この道しかない、か……」
「お前さんだってそうだろう?」
問われて、ディックは何も言えず押し黙った。それは彼がずっと自分自身に問いかけていたことだ。
進むべき道が決められているような感覚、そのことに対する感情的な反発──しかし本当に夢を叶えるためなら、それが正しいはずなのだ。
何故、自分はその道を選ぶことを恐れている──?
「俺は……」
「──着いたぞ」
ローランドがかざしたライトに照らし出されたのは、巨大な白亜の門だった。扉には向かい合うような形で2頭の竜のレリーフが描かれ、2人を睥睨している。また扉の各所に文字が刻み込まれているが、ディックにはまるで理解できない代物だった。が、その複雑な配置には見覚えがある。
「……魔術回路……なのか、これ……」
「そういや答えてなかったな」
門を見つめるディックに、ローランドが今思い出したかのように言った。
「この奥に眠るお宝を手に入れるのが、俺の目的だ」
「お宝?」
「“盟約の剣”──そいつは、そう呼ばれてるらしい」

「盟約の剣」 第四章

2005年02月13日 | 駄文
「──報告いたします」
その部屋にやってきた秘書官は緊張を滲ませながら、窓の前に佇み風景を眺めている上司を見つめた。男は秘書官の言葉に何ら反応を示さず、背を向けたままだった。それが男の了承の意であると判断し、秘書官は極秘回線で送られてきた内容を報告した。
「例の特殊部隊から組織されたチームは全滅。目標の奪取に失敗したとのことです」
「……全滅?」
微かにだが男が反応を示す。
「はい。間違いありません。……未確認ですが、ローランド・ガイエは東京新星市で“銀の守護者”と会っていたようです。おそらく護衛を雇ったものと」
「たかが一介の護衛程度に、か……。使えん連中だ」
男の口調に混じった嘲笑の響きに、秘書官は自らに向けられたものではないと理解しながらも冷たい汗が流れるのを止めることはできなかった。男がその気になれば、自分はすぐにでも命を奪われる──比喩ではなく、言葉そのままの意味で。
「こちらの手間を省いてくれたことには感謝せねばならんだろうがな、その有能なボディガードには」
「ですが、このままでは……」
「構わん」
意見を口にしようとした秘書官より早く、男が鋭く言い放った。
「ローランド・ガイエは所詮、宝探し気分の老人だ。万が一“あれ”を手に出来たとしても、奪い返す手段などいくらでもある」
「は……」
「役立たずどもにつけていた監視をローランドに回せ」
「承知しました」
恭しく頭を下げた後、秘書官はその場から去っていった。廊下に出た彼が小さく安堵のため息をついたことも、その歩みが逃げるような速さであることも、部屋の中にいながらにして男は全て把握していた。彼にとって秘書官は、己の影響力を測る物差し程度の存在でしかない。
恐怖による支配──だが、中途半端な恐怖は反発も招きやすい。屈服させるには絶対的なものでなければ、無力な人間でも牙を剥く。男はそれをよく知っていた。だからこそ、わずかでも反抗の手がかりになりえるものは排除しなくてはならない。
「忌々しいものだな……人間如きが作り上げた代物に手を打たねばならんとは……」
男は部屋に広がる闇の中へと姿を消した。
そう、窓の外では陽光が降り注いでいるというのに、この部屋には闇が渦巻いているのだ。
決して見通すことの出来ない、深い闇が。



寒い、という言葉を知ったのはいつ頃だろうか。
彼女は白に覆われた世界にただ一人立ちつくし、そんなことを思う。冷気を帯びた風の中で、彼女はわずかにでも身を震わすことがない。その身に纏った雪色のコートも翻ることはなく、彼女を守っているかのようだった。
寒いとは、寂しいことだ。
彼女はそう理解している。後に“災厄”と人々が名付けた地球規模の異変で、多くの大地は氷に覆われた。そこに住んでいた人間たちも、街も、何もかも飲み込んだ。彼女はそのほとんどを目の当たりにしてきた。それが彼女の役目だったのだから。
死んでいく人間たちは、「寒い……」と洩らすことが大半だった。そして涙を流しながら「……寂しい」と言い残して息絶える。多少の違いはあっても、人間は寒さに身を震わせる時、その傍らに誰かがいないと寂しいと感じるらしいのだ。
寂しければ、人は死ぬ。
彼女はそう理解している。人間たちは孤独に耐えられない。耐えられなければ、死んでいく。あまりにも弱く、脆いものだ。
「──あるじよ」
彼女が携える古風な長剣。その柄の部分に器用にとまっている一羽の鴉が、人の言葉を嘴から紡ぎ出した。
「あるじは、何を思う?」
「…………」
「あるじが何を告げようとしているのか、分からない」
鴉の言葉は、どこか悲しげだった。
彼女は自分を見つめる鴉の背に、そっと指を滑らせた。漆黒の羽根は暖かく、温もりを失っていた彼女の手を優しく包む。
「…………」
「あるじよ、北へ向かおうというのか」
彼女はこくりと頷いてみせた。

「…寒い…。もう歩けないよ…」

ずっと心に引っ掛かったままの言葉。あの時の少女の姿。
あれが始まりだったのだ。彼女の心にできた小さな傷が、時を経ていつしか傷口を広げていた。寒さなど感じないはずの自分が、その身を震わせたのは何故なのだろう。寂しさなど感じないはずの自分が、傍らに寄り添う誰かを求めたのは何故だろう。
そして──。
「…………」
「……承知した、わがあるじよ」
鴉が翼をはためかせ、剣の柄から彼女の肩へと移った。
「北へ行こう。あるじの望みを叶えるために」
彼女は赤い瞳を細め、自らが向かおうとする地──人間が聖母領と呼ぶ、どこまでも続く氷原を、ただじっと見つめていた。