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わんぱく坊主の日記帳Ver.002

TRPGと少年キャラ萌えを等価値に考えるヘンな日記

「盟約の剣」 第三章

2005年02月10日 | 駄文
「──3つ!」
両刃剣が閃く。“シュトロハイム”の装甲は厚く、並みの剣では傷をつけるだけで精一杯だ。しかしディックの振るう戦神の剣は、最新式のアーマーギアを易々と切り裂いた。本来なら重さで叩き潰す両刃剣で。
全身の力を失った灰白色の鎧が、失速しながら後方へ流されていった。
「ちい……っ!」
「小僧が!」
敵を斬り捨てた勢いそのままに、ディックは剣先を列車の屋根に突き立てる。時速300kmで走る巡礼列車の周囲にはエネルギー・スクリーンが展開し、極寒の冷気と風を緩和しているが、速度による足場の不安定さはそのままだ。迂闊にバランスを崩せば、一瞬で列車から放り出される。
だが、それでもディックの表情から笑みは消えない。
「小僧呼ばわりするのは勝手だけど、負けてるのはあんたらの方だぜ」
「──殺せッ!」
おそらくはこの部隊のリーダーであろう男──のはずだ──が叫び、同時に機関砲が唸りを上げる。が、それよりも早くディックが動いた。刺していた剣を抜きながら、そのまま円を描くように一回転。屋根の装甲板が刃とぶつかって火花を散らす。
「おおおおおおおっっ!!!」
吹き荒ぶ風の音を打ち消す咆哮。半ば強引に間合いを詰めたディックが“アレス”を振るった。
ギィィィンッ──!
しかし、刃は虚しく空を切る。敵はディックの動きを把握しつつあった。これまでは不安定な足場から強引に攻撃を仕掛け、彼らが“シュトロハイム”の性能に甘えて回避行動を疎かにしていたことを利用していただけだ。
それを見抜かれ、飛行能力をフルに使われてしまうと、空を飛べないディックは手も足も出ない。
(くそっ、連中も馬鹿じゃないか)
せめてあと1人倒せていれば──ディックは舌打ちしながら、意識を集中させた。
「鋼の護りよ! 堅牢なる大地の意思を、我が身に在れ!」
次の瞬間、無数の機関砲弾がディックの周囲で炸裂した。


「──やはり集中の仕方に無駄があるようだな、ディック」
「そう言われてもなぁ」
ディックは流れる汗をタオルで拭いつつ、隣に佇む黒衣の男を見つめた。珍しく稽古相手をしてくれるというから思う存分付き合ってもらったのだが、汗まみれのディックに対して彼は涼しい顔をしている。彼我の実力差を思い知らされたようで、ディックは溜め息をついた。
男──“死の卿”は淡々とした口調で告げる。
「流派によるところもあるが、多くの魔術で必要とされるものは2つしかない」
「2つ?」
 コンセントレーション イマジネーション
「  集中力  と  想像力 」
「……俺の“力”は魔術じゃないぜ、兄貴」
そんな大層なものじゃない。人間が造った、偽物の能力だと吐き捨てるディックに、しかしアレックス・タウンゼントはゆっくりと首を横に振った。
「超常能力も魔術も、根本においては同一のものだ。どちらも自我を制御することにより発動するのだから」
「じゃあ、俺の“力”も兄貴と同じようなやり方でもっと上手く扱えるようになるってこと?」
「さあ、それはどうかな」
アレックスは苦笑した。
「俺のやり方が100%流用できるとは限らない。要はディック、君の意思を制御しやすいキーを作り出すことだ」
「キーって何さ?」
「呪文や魔法陣の類がそれに当たる。ああいったものの多くは、それ自体には何の効力もない。使うことで己の意思を制御する、力を行使するための触媒であり、術を発動に導くための数式だ」
夜色のコートが風に翻る“死の卿”の姿は、まさしく魔術師と呼ぶに相応しい雰囲気を放っていた。
「魔術は人の心そのものだ、ディック。心を解き放て」


「……馬鹿な!」
「悪いね」
肉塊に変わったはずの人間が、硝煙をその身からたなびかせながら走る。
信じられない光景に、“シュトロハイム”の動きは無様なまでにぎこちなくなった。そこへ一気に接近し、剣を振るう。
「俺、結構頑丈なんだ。“鋼”って名乗るのも伊達じゃない」
「が、は……っ」
自分の肉体を硬化させ、機関砲弾のダメージを最小限に食い止めたのと同じやり方で、ディックは“アレス”を強化している。呪文による意識の集中を用いるようになって以来、彼の力の行使は以前とは比べものにならないほどスムーズになった。
(悔しいけど、こりゃ兄貴に感謝しないとな)
越えるべき目標である男の背中を思い出し、ディックは敬意と悔しさの混じった想いに口元を歪める。
「さあて、あと2人!」
「調子にのるなよ、小僧が──!」
「待てッ!」
リーダーの制止を振り切り、部下が“モータルストーム”を撃った。半ば恐怖に駆られての行動。最新型のアーマーギアと30mm砲弾を以ってしても倒れない人間など、いるはずがない。だが目の前の青年は笑みさえ零しながら、こちらへ向かってくる──!
「うあああああああっっ!!」
恐怖に耐えかねたのか、迫るディックから逃げるように後退。決して刃の届かない位置まで下がった。
「……ふ。はは、ははは……」
これでもう奴は何も出来ない。その安堵から漏れた笑い声は、しかし。
「さすがに訓練されてる奴は違うね。──間合いの取り方が完璧だ」
悪魔のように嘲笑うディックを見た瞬間、絶望へと変わった。
「喰らい尽くせ!」
ディックが吼えると同時に、雪に覆われた地面が爆発した。いや、隆起したのだ。まるで生き物のように蠢きながら、空に浮かぶ“シュトロハイム”目掛けて一直線に。
「……っ!」
獰猛な肉食獣の顎の如き形状になった土砂が、アーマーギアを咥え込んだ。ぐしゃり、という耳障りな音。わずかに土砂からはみ出した左腕が二三度痙攣し、だらりと垂れ下がる。不気味なオブジェをその場へ置き去りにしたまま、列車は走行を続けていく。
リーダーはあっという間に視界から消えていった部下の姿を見送った後、大きく呻いた。
「バサラか……!」
「残りは1人。あんただけだ……いや」
剣を突きつけたディックは、小さく肩をすくめた。
「もう、終わりか」
「な──」
銃声。
つい数十秒前、乗客たちに不意の死をばら撒いた男が、自分もまた己が撃たれたことを信じられないまま息絶えた。
彼が倒れると、腹這いの状態で銃を構えるローランドの姿がディックの目に映った。手筈通りだ。アーマーギアの装甲の薄い部分を狙った彼の腕ならば、確かに生命力旺盛なヒルコをも一発で仕留めることが出来るかもしれない。
「やるね、おっさん」
「何、英雄は最後に決めるもんだからな」
不敵な笑みを浮かべたローランドは、しかし屋根に倒れ伏す骸を見て表情を改めた。
「一体どうなってやがる……こんな連中が」
「詳しい話は後にしようぜ」
列車の向かう先に視線を向けていたディックが言った。
「もうすぐ駅に着く。大騒ぎになる前に退散しないとな」
「……つくづく思うんだがな。お前さん、ナイト・ワーデンとコネのあるカブトにゃ見えんぞ」
「苦情はブロッカーに回してくれよ」
“鋼の衛士”は振り向き、悪戯に成功した少年のような笑顔を覗かせる。
          スタイル
「これが俺のやり方なんだからさ」

「盟約の剣」 第二章

2005年02月04日 | 駄文
『答えを今すぐ出す必要はない。じっくり考えてみてくれ』

仕事の打ち合わせを終え、去り際にブロッカーが放った言葉。ディックを正式にナイト・ワーデンの一員として迎え入れたいと告げられた時、己の胸に過ぎった感情は何だったのか。喜びはあった。“銀の守護者”に認められるということは、若いカブトたちにとって1つの目標だ。
しかし、ディックは首を縦に振らなかった。普段なら迷いなどとは無縁の自分が、答えを出すことを躊躇していた。
(……くそっ)
苛立つ。何よりも自分に対して。
ブロッカーの提案は魅力的で、しかもディックの現状をよく理解したものだ。実績を持たないボディガードを雇う者は少ない。だがナイト・ワーデンに所属すれば、“銀の守護者”の保証がつく。無論、それに見合う実力を要求されるが、実力があれば経験を積んでいける。ディックが一流を目指すのであれば、答えはたった1つしかないのだ。
「──おい、若ぇの」
「……何ですか」
口調こそ丁寧だが不機嫌そうな態度を見て、向かいの席に座るローランドが笑う。
「随分と機嫌が悪そうだな」
「……」
あんたには関係ない、と言い返そうとした口を閉じ、ディックは窓の外の風景に視線を移した。
荒れ狂う吹雪によって凍りついた大地が、ひたすらに広がっている。白一色に覆われた、何もない静寂の世界だ。聖母領。極点に存在する聖地ドゥームド・モスクを中心に広がる、真教教会の領地。人が生きていくには余りに過酷な環境だが、真教徒たちの信仰心が途絶えることはない。
ディックとローランドは、聖地を終着駅とする聖母領縦断鉄道──別名“巡礼列車”に乗り込んでいた。大陸連合鉄道会社によって敷設されたこの列車の利用者は、大半が真教徒だ。時折聞こえてくる祈りの声や経典の朗読は厳かな空気を列車内に漂わせ、信仰と縁のないディックには少々居心地が悪い。
「……息が詰まりそうだ」
「そう言うな。部外者はむしろ俺たちの方だ」
「ったく……」
「だいたい、お前さんが苛ついてるのは列車のせいじゃないだろう?」
代わり映えしない風景から目を逸らし、再び目の前の男と正面から向き合う。射抜くようなディックの眼差しに対し、ローランドのそれは笑みさえ滲ませている。
「何が言いたいんだよ」
口調を改めることも忘れ、ディックは彼を睨む。
「そんなんじゃ“銀の守護者”には遠く及ばねえってことだ」
「……あんたに口出しされることじゃない」
「そうかい。ひどく煮詰まった面してるがなぁ」
挑発されているだけだ──頭の中ではそう分かっていながら、訳知り顔で図星を指されるのは面白くなかった。少し昔なら、苛立ちは相手に拳でぶつけてやればよかった。たとえ一時的な解消に過ぎなくても、暴力は更なる暴力を呼び、後はその流れに従っていれば何もかも忘れられた。
しかし今は違う。ローランドを殴ったところで何も変わらない。変わるとすれば、ブロッカーとの契約関係が終わりになることくらいか。
「……それも1つの手か」
「おい」
ローランドの声の質が変わった。見ると彼は窓に張り付くようにして、上空を見上げている。
「何だよ」
「何か……いるぞ」
「!」
ディックも同じような姿勢になり、灰色の空に視線を向ける。雪のせいで視界が悪く、ローランドの言う“何か”を見つけるのに数秒を要した。
「あれは──」
息を呑む。人型だが、背中から翼のようなものが突き出しており、全身は白に近い灰色。よほど目を凝らさなければ、視認するのも難しいだろう。だが降下しているらしく、徐々にその姿が鮮明に捉えられるようになり、ディックは呻き声を上げた。
「“シュトロハイム”……!?」
「何だと!?」
ローランドも驚きの声を上げる。
“シュトロハイム”は飛行形態への変形を可能とする、最新型のアーマーギアだ。しかし現在はまだ北米軍の一部で、試験的に運用されているだけのはずだ。
しかも、その数は6つ。明らかに部隊編成された、一糸乱れぬ陣形を組んでいる。
「なんであんな物騒なのが……!」
ディックはローランドの肩を乱暴に掴み、張り上げそうになる声を必死で押さえ込みながら囁いた。
「あんたを狙ってるのか?」
「……分からん。これまではせいぜい監視されている程度だったからな」
「ちっ……ブロッカーの奴、何が『観光旅行も兼ねて行ってくるといい』だ。いい加減なことを……!」
この場にいない人間に悪態をついても始まらない。ディックはわずかに腰を浮かし、車両をぐるりと見回した。まだ事態に気づいている者はいない。いずれ嫌でも理解するだろうが、今のディックにはどうすることもできない。
「お前さん、得物は?」
「ここにある」
座席の下に置いておいた長細い布包み。それを剥ぎ取ると、一振りの長剣が姿を現した。“アレス”──戦の神の名を冠した、ディックの愛剣だ。
それを見たローランドが小さく口笛を吹いた。
「どうやって持ち込んだんだ、おい?」
「ナイト・ワーデンらしからぬ手段、とだけ言っとくよ」
「なるほど」
笑いながら、ローランドも懐から拳銃を抜いた。ニューロエイジでは時代遅れのリボルバーに、ディックは呆れた声を出した。
「R27かよ……役に立つのか、それ?」
「これで死国のタイラントを仕留めたことがある」
「笑えねえジョーク」
「本当のことだ。そもそも骨董品に近いって意味じゃ、お前さんのそれも大して変わらんよ」
違いない、とディックも笑いながら頷いた。その様子にローランドが微かに首を傾げる。
「急に上機嫌になったな、若ぇの」
「ストレス解消の相手が見つかったんだ。思いっきり暴れさせてもらう」
「……とんだボディガードだな。っと、来るぞ……!」
6体のアーマーギアが散開し、氷原を駆け抜ける“巡礼列車”の左右を併走する。不意に姿を現した灰色の翼に、列車内のほとんどの者が呆然とそれを見つめるだけだった。次の瞬間、“シュトロハイム”の機関砲によって自らが殺されたことに気づいた者は、どれだけいたのか。

虐殺が、始まった。

「盟約の剣」 第一章

2005年02月03日 | 駄文
「遅いですよ、ディックさん」
「あー、はいはい」
よりによって今日のオペレーターは“委員長”だった。
ディックは納まりの悪い茶色の髪を掻きながら、大きく欠伸をした。昨日は仕事の前祝いと称して、知り合いと飲みすぎた。頭痛がないのが不幸中の幸いだが。
彼の吐息からアルコール臭を感じ取ったのだろう、些か古臭い型の眼鏡をかけた少女が冷たい視線を向ける。
「感心しませんね」
「いいだろ、別に。俺はここの一員じゃないし」
「そういう問題じゃありません。ディックさんがナイト・ワーデンから仕事を請ける以上、貴方の素行不良は社のイメージを損なうんです。だいたい──」
また始まった。少女の説教を聞き流し、もう一つ欠伸。
近くのロビーでたむろする先輩格のカブトたちが、こちらの様子を眺めて笑っているのが見えた。もはやこれはナイト・ワーデン名物といっていい。
ディックはある程度話が落ち着いたところで口を挟んだ。
「そろそろ行っていいかな、委員長」
「……その呼び方、止めてください」
怒りを押し隠そうとして失敗している“委員長”──睦島千歳の表情を見て、ディックは軽く笑い声を上げた。大人が子供を構いたくなる気持ちというやつが、何となく理解できる。もっともディックと千歳は3つ程度しか歳の差はないのだが。
「ところで、依頼人って誰?」
「社長に直接会って確かめたらどうですか?」
それだけ言うと、千歳はトロンに向かって作業を始めてしまった。
やれやれ、と小さく呟いた後、ディックは社長室へと向かった。多くの腕利きを擁するナイト・ワーデン社の社長、かつて“銀の守護者”として勇名を轟かせ、現在は若き騎士たちを育て上げる男──ブロッカーの元へ。



ディック・リューベルツが“銀の守護者”と会ったのは、彼がカブトとしての生き方に目覚めた頃のことだ。ディックが今も目標として目指す男──“死の卿”という一流のボディガードに紹介してもらったのが始まりだ。
あの時はこっぴどくやられたんだよな、ディックは身体の奥に残る痛みを思い出し、唇を噛んだ。ストリートで若者同士の喧嘩に明け暮れ、それなりの実力を持っていると過信していた少年を、“銀の守護者”は徹底的に打ちのめした。ディックはブロッカーの身体どころか服にさえ触れることが出来ず、地に叩き伏せられたのだ。あの時の敗北感は、忘れようとしても忘れられない。
その後、何度か勝負を申し込んでいる内にブロッカーから仕事を回された。

『──私に勝ちたいのなら、まず私のやってきたことを知ってみるといい』

そんなもっともらしい言葉に騙され、いつの間にかディックはナイト・ワーデンから仕事を任される戦力の1人になってしまっていた。それ自体にどうこう言うつもりは無い。実際、経験を得たことは否定できないのだから。
だが──心に刻まれた敗北感が時折疼く。“銀の守護者”の下にいることに、激しく嫌悪し抵抗しようとする自分がいる。結局、自分はストリートでうずくまっていた頃と何も変わっていない。強さだけを欲し、自分に相対する者を倒さなければ負けるだけだと、そう信じていたあの頃と。

「──遅かったな、ディック」
「すいません、少し所用で」
ブロッカーが座るソファーの向いには、おそらく今回の依頼人であろう男がいた。ディックはやむなく口調を可能な限り丁寧なものに近づける。何度かお偉い連中と顔を合わせることはあったが、これだけは全く慣れない。
ブロッカーもそれを分かっているのか、彼の礼儀を咎めはしなかった。
「まあ、いい。それより紹介しよう……こちらはローランド・ガイエ氏。君も知っているだろう?」
「ローランド…ガイエ……って、ええ!?」
ディックは目を剥き、まじまじと男の顔を直視した。ヴィル・ヌーヴ系の血を感じさせる顔立ちと、それとは不釣合いに日に焼けた肌。がっしりとした体躯は老齢に差し掛かっているとは思えないほど健康的だ。男は少々無礼な視線に対し、豪快に笑った。
「おいおいブロッカー。こいつはまた随分と若ぇのを引っ張ってきたな」
「若いが、優秀です」
「ほう」
皺の寄った目尻が、更に皺だらけになった。灰色の双眸がディックを真正面から捉える。
「まあ、お前さんの推薦だ。任せるぜ」
「ありがとうございます」
「って、ちょっと待てよ! マジでローランド・ガイエ!? アフリカ縦断や死国の最深部にまで行った、あの冒険家の!?」
興奮のあまり、ディックは2秒で口調を改める努力を放棄していた。
ローランド・ガイエ。“災厄”によって地球上に再び生まれた未知の秘境へ挑み、そして必ず還ってきた世界最高の冒険家。最盛期には英雄とまで評され、彼の手記は爆発的な反響を呼んだ。
「……本物かよ……」
「当たり前だろう」
ブロッカーが苦笑した。
「正真正銘、本物のガイエ氏だ。ディック、君には彼の護衛に当たってもらう」
「N◎VAに滞在してる間ってことか」
「いや、違う」
早合点したディックに、“銀の守護者”は首を横に振った。その時、ブロッカーの表情に困惑の色が見えたのは、気のせいだったのだろうか。
「君にはガイエ氏に同行してもらう──目的地は、聖母領だ」
「はあぁ!?」
「そういうわけだ。よろしくな、若ぇの」
驚くことしか出来ないディックに対し、ローランドが些か人の悪い笑顔を浮かべた。