さて、前回わたし、警察機関のことや法務機関のことにまったくまるでまるっきり詳しくないって書いたんですけど……↓のお話の中で、実は今後裁判がはじまるんですよね(^^;)
なので、もしそのあたりの連載が近づいてきたら、法律関係についての本や、裁判のシーンの出てくる推理小説などを数冊読めばいっかななどと、詰めの甘いことを考えておりまして。。。
でも、実際は全然、その予定していた本などを読めていないということで(殴☆)、まあなんというか、裁判のシーンなどはものっっそいい加減に「雰囲気で読んでね」みたいな感じで終わっておりますm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)m
あ、それでもですね……先日たまたま、人と待ち合わせた時間潰しに寄った本屋さんで、裁判関係の本を一冊買ってみたり、他にもう一冊そうした本を密林さんに注文してみることにしました(^^;)
なので、↓以降のそうした描写っていうのは、大体のところわたしが昔見た火サスの裁判ドラマですとか、その他刑事さんが主人公のドラマをなんとなく見てきたという蓄積によるなんとなくなイメージによって描かれていて、非常に(いや、ひっじょおおにっ!)正確性を欠いているということでよろしくお願い致します
あと、アンドロイドのコールガールさんたちというのは、たぶんその分野に特化したロボットというのが、いずれいつか生まれるように思いますけれども、↓に出てくるアンドロイド刑事(デカ)っていうのは、どのくらい現実味があるものかな、なんて自分としては思ったり(^^;)
いえ、映画の世界ではロボコップとかいるので、そういうのは格好いいと思うんですけど、わたしの書いてるの、ただの取調べ専門デカとかいう、なんか超微妙なアンドロイドだったりするので。。。
それはさておき、一番最初に書いた時には「あとで書き直せばいいや」くらいの感覚で書いてるもので(汗)、今読み返してみると「あれ?ここってなんか……☆」というところが色々でてくるというかなんというか(^^;)
もちろん、色々調べてから書き直してできるのが一番いいとは思うんですけど、とりあえず今回も、「それでもまあ、大体のところ大筋の意味は伝わるかな」くらいな感じで終わるということになりそうです
あと、かなりどーでもいいことなんですけど(ほんとにな☆)、↓に出てくる刑事さんのひとりがパンチパーマで……いえ、今から百年後もアフロヘアは流行っててもおかしくないと思うものの、パンチパーマって髪型として生き残ってるのかなと思ったり、なんか読み返してみるとそうした疑問点がいくつも出てきて困ります(笑)
なんにしても、そんないーかげんな小説ですが、もし最後まで読んでいただけたとしたら、とても嬉しいです♪
それではまた~!!
ティグリス・ユーフラテス刑務所-【5】-
留置場に拘留されて、三日目の午後、秀一は刑事たちに随分締め上げられました。今回は例の地味渋系の警部はおらず、中年と若い刑事のふたり組に色々と嫌なことを言われ、「違いますよ……」とか「そうじゃありません」といったように答えると、「声が小さい!」、「ああん、聞こえねえぞ!」、「そんなふうに答えるってことは、自分でも自信がないんだな!?」といったように大声で怒鳴られ……それが長時間続くに渡って、秀一はどんどん精神的に追い詰められていきました。
まず、一番まずかったのが、秀一が自分が無実である根拠として主張していた例の女性――名前はわからないけれども、朝まで飲み、関係を持ってしまったらしい女性――彼女の住む場所へ刑事が訪ねていってみると、当のその女性が死体としてリビングに横たわっていたことでした。
「そんなバカな!?」
まず一番最初にその話をされ、秀一はあとはただ後手にまわることしか出来ませんでした。殺され方も、使われた銃も同一であり、その直前まで会っていたのが彼……秀一はすぐに(これはもうダメだ。俺の人生は終わった。よくわからんが、とにかく俺に罪を負い被せようとしている誰かがいるんだ)と、そう直感しました。
(しかも、その相手はプロだ。警察の人間がそんなことをするとは考えられんが、特捜部というのは警察機関の中でも特殊な部門だと聞く。ということは、その可能性もあるかもしれない……また、なんでなのかはこれもわからんが、例の地下組織が俺に罪を被せて京子のことを殺したという可能性もなくはない。京子が組織を抜けようとしていたとか、自分たちのことを警察本部に売ろうとしていると向こうが感じたとか、何かそんな理由によってだ)
中年男&若い男の攻め口というのは、常にワンパターンでした。「おまえがやったんだろおおっ!?」、「早く吐いて楽になっちまえよおおっ!?」と、大体これに類することを、手を変え品を変え、脅迫口調で繰り返すのです。
「もうおまえ以外、犯人なんかおらんやろがあっ。早くゲロって楽になったほうが、オマエの身のためやぞおおっ!?」
「そうだぞーおうっうっ。早く凶器のありかと、殺害動機をゲロっちまえっ。どうせ、アレだろ、オマエ。彼女はもともと女遊びが激しかったようだからな、『やっぱりわたし、女がいい』とか、そんなふうに言われたんだろ?それとも何か、男のくせに夜のテクニックが物足りないとでも言われたか!?それでカッとなって殺害。そして、そんなはずはないと思い、別の女性とも寝たが、何か性的に気に障ることでもまた言われたんだろう!?ええっ!?」
「ち、違いますよ……」
ですがこのあと、さらに秀一にとってマズい点を突かれました。パソコンの中にあるダウンロードしたアダルト動画の数、見ている種類の傾向、さらには家にあったバーチャルセックスのためのリアルドールのことなど……秀一は(そんなことが一体、事件とどう関係あるんだ!?)と言ってやりたかったのですが、恥かしさのあまり俯くことしか出来ませんでした。
「とにかくネタは上がってるんだよっ!!これ以上俺たちの前で恥をさらしたくなきゃ、さっさと吐いちまいなっ!あーあ、まったく、これと似たようなことは絶対法廷でも聞かれるぜえ。おまえ、おふくろに申し訳ないとは思わんのかっ!?ああん?」
「あ、アダルトビデオくらい、誰でも見ますよ。それにバーチャルセックスだって、男なら誰でもやってることです。確かにあらためてそんなふうに言われたら恥かしいけど、刑事さんたちだって聖人君子じゃあるまいし、大体のところ心当たりがあるんじゃないですか!?」
この秀一の反撃によって、中年&若い男のふたり組は、はたと顔を見合わせて黙りこみました。そして、パンチパーマの中年刑事は(一本取られたな)といったような顔をし、若い男のほうは「ま、そりゃーなー……」と言いかけて、ゴホッ!と咳をついていました。
こうして五時間にも渡る長い尋問時間をどうにか耐え抜いた秀一でしたが、これからこんな尋問が毎日のように続くのかと思うと――確かに『僕はやってないけど、やりました』と言ったほうが……無駄に苦しむことなく楽になれるのではないかと、彼は早くも心が折れそうでした。
そしてこの翌日の午前中、留置場生活四日目のこと、接見室に会いにきた二階堂涼子に、秀一は弱音を洩らしました。というのも、もうこの最初から<ハメられた>状況を覆せるとは彼にはとても思えませんでしたから。それどころか、罪を認めるまでダウンロードしたアダルト動画のことや(『おいおい、随分たくさんコレクションなさってるぞ』)、リアルドールの特徴から推察した女性の好みについてなど、もう一度それとなくその件に触れられただけでも、秀一は嫌で堪らなかったのです。
「だから、今の状態っていうのは、逆に引っくり返る可能性が高いとは思わない!?京子のことも、もうひとりの……秀一さんは名前もわからないって言ってたけど、安達紗江子さんっていう方なんですって。京子も、彼女も、まったく同じプロのやり口で殺されてるんですもの。素人が聞いたって、こんなの絶対おかしいってわかるはずよ。刑事さんたちだって本当は薄々わかってるはずだもの。確かに、今は証拠がすべて秀一さんのほうを向いてるかもしれない。だけど、もっと捜査が進んだら――必ず何か新しい事実がでてくるはずよ。わたしたちもがんばるから、秀一さんも……」
「いいよ、もう。俺は間違いなくハメられたんだ。しかも相手はプロなんだし、滅多なことじゃボロは出さないだろう。だが、警察は誰でもいいからとにかく犯人が欲しいんだ。俺はもうおあつらえ向きの捧げものといったところさ。この流れに逆らって一生懸命この激流の中を泳いだところで……最後は滝の下へ落っこちるってパターンだ。それなら、最初から滝つぼに飲まれたほうが、間に無駄な努力を挟めるよりずっと楽でいいよ」
「そんな……秀一さん、諦めちゃダメよ。確かにそりゃつらいでしょうけど、姉さんの女性関係について、わたしも今色々調べてるところなの。そしたらその、安達紗江子さんっていう人、姉さんが不倫してた女性の正妻さんだったのよ」
「ええっ!?」
(それをもっと早く言えよ)と思いつつ、秀一は涼子の話に食いつきました。しかも、相手が愛人ではなく、愛人の正妻とは……秀一は同性愛の世界についてはよく知りませんでしたが、そこには何か深い理由が潜んでいそうでした。
「じゃあ俺、そのアダチサエコさんっていう人と、絶対寝てないよ。だって、映画とかじゃさ、知らない間に綺麗な女の人にお持ち帰りされてたけど記憶ないとかってあるけど、俺、そういうの見るたんびに『絶対うっそだーっ!』って思ってきたもん。そうだよな、やっぱしそうなんだ。でもその京子の元愛人の奥さんがなんであんなこと……」
「彼女、職場が京子と一緒だったのよ。それで、一口に特捜部って言っても結構人数がいるから、同じチームになったりとか、そうしたことがあったのかどうかっていうのはわたしにもわからない。ただ、安達さんの行動が、なんらかの京子に対する恨みに基づくものなのか、それとも偶然どこか上のほうから命じられたもので、彼女は私情を挟めず、ただ言われたとおりにしただけだったのか……」
「だけど、その彼女自身も殺されてるわけだしな。つまり、これってどういうことなんだろう。京子とアダチサエコを殺した人間が同一人物とは限らないけど、もしそうであると仮定した場合、京子の死亡推定時刻が零時から三時くらいまでの間ってことだったから……俺はたぶんその頃、家で酒飲んでもうリビングのソファとかで寝てたはずなんだ。つまり、意識のない俺を誰かが家から運んで、アダチサエコのマンションのベッドに寝せたってことだよな。そいつが京子を殺した犯人である可能性もある。だって、京子を殺してから俺の家にやって来て、アダチサエコのマンションに俺を運ぶことは時間的に十分可能だ。むしろ、コイツに自分の罪をなすりつけられると思ったら、足取りも軽く俺の体を運んだろうな。で、その後何かの事情があってアダチサエコも実は邪魔でぶっ殺し――コイツ、たぶん男なんだろうな。だって、そうだろ?女の殺し屋の中にも冷酷なのはいるだろうが、男の俺の体を女が運ぶっていうのは難しいからな。まあ、そのあたりは忠実な部下か、あるいはアンドロイドにでもやらせたって可能性もあるか……」
秀一が独り言でも呟くようにブツブツそんなふうに言うのを聞いて、涼子は少しだけ安心しました。口では諦めるようなことを言っていながらも、彼はもう暫くの間は耐えてくれるだろうと、そう思えたからです。
「なんにしても、きのうは刑事さんたちにこってり絞られたぜ。あの人らに言わせたら、俺は京子のことを殺しー、アンド、アダチサエコのことも殺しーみたいな、変態殺人鬼ってことになるらしい。しかも、なんだっけな……京子には男のくせにセックスが下手みたいに言われてカッとして殺して、で、そんなことはないってことを証明するのにべつの女ともコトに及んだところ、大したことないとか小さいとか言われて、アッタマ来て殺したんだって。そんなことあるか!?向こうに怒鳴られてる間は、俺も思わず恐縮して聞いちまってたが、今よく考えてみると、なんか笑えてきたな」
「秀一さんはそんなことありません。だって、と……とてもお上手ですもの」
たぶん、こんな間に透明な間仕切り板さえなかったら――『あ、やっぱりそう思う?』などと言いながら、秀一もちゃっかり涼子の体の肩か腰でも抱き寄せていたかもしれません。けれど、透明な板ごしにちらと涼子のことを覗き見るだけでも、秀一はこの時、十分満足でした。頬を少しばかり赤く染め、目を伏せている涼子の様子は……(あ、この女、たぶん俺に惚れてる)と、彼にとってはそう思える態度でしたから。
そのようなわけで、秀一は涼子との接見を終えて留置場のほうへ戻ってくると、きのうの取調べが終わったばかりの時とは違って、少しばかり上機嫌でした。(実際には、絶対そうだと言い切ることまでは出来ないものの)涼子が自分に惚れてるらしいとわかったことで――彼は彼女の言葉通り、将来に希望の光を見ることが出来ましたから。
また、今日か明日にでもまた、厳しい取調べがあるだろうと覚悟していたにも関わらず、秀一は取調室に呼ばれませんでした。そこで、彼は留置場の貸し出し本棚のところから法律関係の本などを借りて読んでいたのですが、本を読みながら考えていたのは、まったく別のことだったかもしれません。
(たぶん、俺のことを締め上げたのは、一応一通りのお約束みたいなことで……もちろん、あれでそのまま俺がゲロったとしたら、それはそれで刑事さんたちにはラッキーだったにしても――涼子の言うとおり、警察もそんなに馬鹿じゃないってことだ。むしろ、アダチサエコの死体が出てきたことで……ますます俺に罪をなすりつけようとしてる何者かの犯行っていうことに傾いたんじゃないだろうか。てか、むしろそうじゃなきゃ日本の警察はよっぽど無能ってことになる……)
けれどもこののち、事態はさらに急転直下、秀一は他にも自分がやっていない事件を押しつけられるということになったのです。それは、アンドロイドのコールガールばかりを狙った、連続殺人事件で――みな、暴行されたあと、体を切り刻まれていました。この時代、こうしたアンドロイドのコールガールたちはみな、セクサロイドと呼ばれ、日本においてはある程度人権のようなものが保証されていました。確かにセクサロイドは人かロボットかでいえばロボットではあったでしょう。けれど、女性の人権団体などが、こうした女性と同じ思考回路や考え方、感じ方を持つ、より人に似せた存在を性の奴隷にすることに猛抗議したため(もちろん、セクサロイドの男性体もあります)、こうしたアンドロイドのコールガールを人の女性と同じように扱わない店は、警察の摘発対象になっていました。
もっとも、法の抜け目というのはいくらでもあるもので、暴行・殺害されたセクサロイドたちは、そうした違法な店で働かされていた娘たちでした。秀一は、次に取調室に呼ばれた時……そうしたセクサロイドの女性たちの姿を十人ばかり写真で見せられ、一瞬ギクッとしたものです。というのも、その中にふたりほど、自分の部屋に呼んだことのある女性がいたからでした。
「この女たちに、当然見覚えがあるだろうな、ええっ!?」
取調官は前と同じ、中年のパンチパーマ&人相の悪い若い男のコンビでした。
「ネタは上がってるんだぞ、おおう!?今日ばかりはオマエももう、言い逃れは出来ないものと思えよっ!!」
二日前に会った時よりも、ふたりの態度はさらに硬質で冷たいものに変わっていました。そしてその時の感触で、秀一にはわかったのです。彼らは何か、自分にとって不利ななんらかの新情報を得たのだと。
「確かに、この女性の中のうち、ふたりには見覚えがあります。それぞれ、一度か二度だったと思いますが、部屋に呼んだことがありますから」
「ハハハ。とうとう認めやがったな」
人相の悪い男のほうが笑うと、パンチパーマも一緒に「わっはっはっ!!」と腰に手を当てて笑っています。
「こいつ、よっぽど下半身に抑えの利かないタイプと見える。いや、見た目はどっちかっていうといわゆる草食タイプだ。だが、本当はロールキャベツ男子とかいうやつなんだろう。見た目草食の、中身はガツガツした肉食男子ってやつだ。アンドロイド相手にさんざん自分の変態性欲ってやつを満たしたあと――なんだろうな、もしかしたらテメェの中には女を犯したい欲望と同時に、女を汚らわしいとも感じるとかいう、複雑な心理ってやつでもあんのか?それで、さんざんっぱら機械の女に突っ込んでおいて、最後はそんなアンドロイドどもを汚らわしく感じて惨殺した……それとも、アンドロイド女にまでテクニックが稚拙だとでも言われて笑われたか!?」
「ち、違いますよ。それに、惨殺したってなんですか?確かに俺は……」
十枚ある写真のうち、肩のところで髪を切り揃えたアジア系女性と、ブロンドのロシア娘のふたりの写真を抜き取り、秀一は続けました。
「この二人の女性のことは、確かに部屋に呼んだ記憶があります。でも、ただ自分の部屋で酒を飲んで、そのあと料金に見合う分だけ楽しませてもらったというそれだけです」
「ざけんなよ、コラァ!!」
パンチパーマが言いました。
「こっちはもう、すっかりテメェがやったっていう証拠を掴んでるんだ。もう言い逃れできねえぜ」
ここでパンチパーマは、ワンサイドミラーになっている窓の向こう側へ、何かの合図を送りました。すると、秀一が一番最初に取調べを受けた、例の身なりのいいアンドロイド尋問官が意気揚々と室内へ入ってきます。そして、彼は手にしていたパソコンを秀一の目の前で開き、ある動画を再生したのです。
その五分弱の動画を見終わるまでの間、秀一の体内の血は文字通り凍ったかのようでした。その動画の中では……そうと最初に知らされなければ、本物の人間の女性と差のない容姿の、美しいアンドロイドが、手足を鎖でつながれ、暴力的なセックスを受けたあと――男からナタのようなもので、手足を切断されていたのです。そして、凶器のナタを手に持ったその男というのは……他でもない、桐島秀一自身でした!!
「これこそまさに、動かぬ証拠ってやつよ。で、店のほうは摘発を恐れてこうした監視カメラの存在については隠し続けてたんだ。ところが、流石にこんな事件が界隈で十件もあったとあっちゃ、そりゃ警察に届け出ようっていう気にもなるわなあ。他の九件についても、大体のところやり口は同じだ。で、腹のあたりなんかに<雌豚>とか<淫乱機械>だのと文字を書きつけてある……これにはアンドロイド仲間のケビンも、怒り心頭に発しているとよ」
ケビンという名前だったらしいアンドロイド尋問官は、「君は、アンドロイドにも劣る最低の人間だ!!地獄へ落ちたまえ」と言い、その瞳に怒りの炎をたぎらせていました。
「でも……俺はやってない!!」
混乱の極致にありつつも、それでも秀一は、即座に自分の犯行を否定しました。
「これは、何かの間違いだ!!俺は、二階堂京子のことも、アダチサエコのことも殺してなんかいないんだ!その上、今度は十人ものセクサロイドを殺しただって!?冗談じゃないぞ!きっと誰かが、こうしたすべての罪を俺におっ被せようとしてるんだ。これは何かの陰謀だ!!絶対にそうだっ」
パンチパーマも人相の悪い刑事も、はたまたアンドロイド刑事のケビンまでもが――一様に苦虫を噛み潰したような顔をしていました。無理もありません。これまではともかく、これでもう桐島秀一も地獄で閻魔大王にでも出会ったかの如く、すべての罪状について認めるに違いないと確信していたのですから。
「さーて、今夜は長い夜になるぜえ。何しろ、この可哀想なアンドロイドのお姉さんたちが殺された夜のアリバイについて、テメェに聞きたいことは山ほどあるからなァ」
まず聴取のほうは、たった今動画を見せられた、アンドロイド・コールガールのシェリーのことからはじまりました。ですが、彼女が殺されたのはすでにもう二年も前のことでしたから、その年の9月30日に何をしていたか、他のセクサロイドが惨殺された日のことについても――秀一は当然記憶になどありませんでした。
ですが、刑事たちのほうではすでに、秀一の自宅から押収した執事ロボットとメイドロボットのメモリーを調べて、蓄積された記憶映像の中から、その日秀一が家にいたかどうか、出かけたかどうかを調査していたのです。にも関わらず、何故そんなふうに先に秀一に話を振ったのかといえば、彼の反応を見るためでした。「そんな前のこと、覚えているわけがない」と秀一が目を逸らして言うと、刑事たちはますます彼のことを『あやしい』と感じたようでした。
「ハハハ。だがなあ、貴様の自宅の執事ロボットとメイドロボットのメモリー(記憶装置)を調べたところ、なんとかギリギリ二年前までの記録が残ってたんだよ。するとな、この気の毒なセクサロイドが殺された日ってのはな、桐島さんよォ、大体お宅出かけていることが多いようだね。家を出た時間と帰宅時間のほうは秒に至るまでわかってる。あんた、その間お外で一体何をしてたんだね?血と女に飢えて界隈をうろついていたんじゃないのかね!?ええっ!?」
人相の悪いほうの刑事が机を叩くと、なかなか凄みがありました。何より、彼とパンチパーマとアンドロイド刑事が<正義>と信じているもののために、自分を憎悪しているのを感じると……秀一はどこか歪んだところのあるその力に呑まれてしまいそうでした。
「もちろん俺は去年の4月9日の夕方からどこへ出かけて何時に帰ってきたのかなんて、記憶にありません。だから、クラークやサラ(メイドロボットの名前)が記録として残していることのほうが正しいんだろうなとは思います、基本的には。だけど、そもそも京子が死んだ夜だって、俺は外に出かけた記憶なんかないんだ。あんたたちは馬鹿げてると思うだろうがね、刑事さん。だけど、間違いなく酒か何かで正体不明になった俺のことを、アダチサエコの部屋へ運んだ奴がいるんだ。で、京子とこの人と、アンドロイドの女性を十人殺したっていう罪を俺に着せようとしてるんですよ。とにかく、俺は無罪を主張します。逆に、このセクサロイドたちが死んだ時、一度でも俺に確かなアリバイさえあれば……すべてが引っくり返る可能性だってまだありますからね」
「この期に及んでまだそこまで言えるたぁ、どうやらテメェの精神鑑定をする必要がありそうだな」
そう言ってパンチパーマは笑いました。下卑たような、嫌な笑い方でした。
「それともあんたはもしかしたらジキルとハイドみたいな二重人格で、今俺たちに見せているのとは別の殺人鬼の人格が今は眠っておるのかもしれんな。ハ、ハ、ハ。いやはや、大したもんだ」
アンドロイド刑事(デカ)までもが、まるでパンチパーマの真似でもするみたいに、いやらしい笑い方をしています。
「呆れて物が言えないとはまさにこのことだな、ニンゲン!!パイセン方、オレ、コイツのこと一発殴ってもいいスかね?……」
「いやいや、それはいかんよ、ケビン刑事」
普段は、『あんな機械野郎、いても邪魔なだけですよ』と言っている人相の悪い男がやんわり優しく言いました。
「のちのち、暴力的な取調べを受けたのなんだのいうことで、訴えられたりするといかんからな。第一、ロボット三原則にのっとって、すべてのアンドロイドはニンゲン様に怪我をさせたりできないようにプログラムされてる。だから、べつに許可したっていいわけだが……」
「面白いから、やらせてみようぜ」
パンチパーマがにやにやしながらそう言いました。ケビンはこの疑いの濃厚な――彼の人工頭脳の計算によれば、88.4%の確率で有罪――被疑者のことを殴るつもり満々だったのですが、秀一くんの鼻のちょっと手前で、やはり手を止めていました。
「あれ?どうしてだろう。なんでオレ、コイツを殴れないのかな……」
ケビンは不思議そうに自分の拳を眺めますが、秀一くんは本当に殴られるかもしれないと思っていたため、冷や汗が流れました。アンドロイドやロボットには、『何がどうでもご主人さまの命令に従う』、『プログラムの命じるとおりに行動する』側面がありますので、何かの不具合から彼らが狂ったり暴走したりすると、とんでもないことになるということは、一般によく知られていました(ですから、『人間の健康診断なんかより、ロボットのメンテナンスのほうがよほど重要だ』というジョークまでアメリカにはあります。何故なら、自分の病気は自分の責任かもしれませんが、自分が所有しているロボットが他の人に迷惑をかけた場合――それが時にとんでもない賠償金の支払いとなることがあるからです)。
「ま、そいつがおまえらアンドロイドの限界ってやつよ」
人相の悪い若い男は、慰めるようにケビン刑事の肩に手を置いていました。
「なんにしても、本当にぶん殴られるかと思って、ちったあビビったか、ああん!?さて、そろそろ取調べの続きといこうじゃねえか。夜明けまではまだたんと時間もあることだしな」
「無駄ですよ、刑事さん。それより、俺の弁護士に会わせてください。これから、夜明けまでえんえん俺のアリバイについて調べたってしょうがないですよ……それこそ、お互い精神を消耗するだけ無駄ってものだ。刑事さんたちだって、一年前の三月十日の晩メシに何食ったのかなんて答えられないでしょう?たまたまその日、偶然同窓会でもあってかつての旧友と飲んでたとでもいうのでない限り、一年前のアリバイについてなんて記憶にないほうが普通だ。それより、俺は俺で弁護士を通じて、なるべく正確な自分の行動ってやつを主張したい。で、お宅らのほうで「それは違う」とか、「間違いだ」とか、何か主張したいことがあったら反駁したらいいんじゃないですか?」
「へええ。事ここに至っても、そこまで主張なさるとはね。いやはや、大したもんだな、大将。だが、気ィつけな。今回、こっちの検事は相当のやり手だからな。にも関わらず、お宅のあの可愛い弁護士さんは、殺された二階堂京子の双子の妹なんだって?まあ、姉と交際してたってことは、姉の結婚相手ともつきあいがあって、最初は『秀一さんがそんなことするはずないわっ!』とか思ってたんだろうが、ところがどっこい、こっちには動かぬ証拠というやつがある。あれをあの可愛い弁護士先生が見ようもんなら、どん引きするわなあ。ハハハ。同情するぜ、桐島さんよォ」
最後、そんなふうに言われて、秀一はパンチパーマに肩を叩かれながら、取調室をあとにすることになりました。そして、再び手に手錠をかけられ、留置場に戻ると――彼は布団の中へもぐりこみ、絶望のあまり頭を抱えこみました。
(あの男は一体誰なんだ……少なくとも、絶対に俺じゃないことだけは確かだ。しかも、他人の空似や世界には三人似た顔の人間がいるとかいうレベルじゃない。実は俺には生き別れの双子の兄か弟がいたってくらいの激似だ。この場合、当然DNAだって同じなわけだからな。それに、今の時代、こっちのDNA情報をなんらかの形で入手して、複製人間を造ることだって簡単に出来る。そのかわり、こっちはバレたら間違いなく死刑になるがな……)
この世界で唯一、世界各国の諜報機関だけが、『国益のため』という名目によって、こうした種類のタブーを破っているというのは、秀一も聞いたことがありました。果たして、京子の所属していたという特殊捜査部や地下組織のほうでは、<そこまでのこと>に手を出していたのかどうか……(わからない)と秀一は思いました。
(だけど、可能性としてはありうる。だとしたら、俺はどうすればいい?いや、殺されたアンドロイドのコールガールは十人もいるんだ。そのうち、アリバイの証明できるケースがあれば――それとも、その三件については別に模倣犯がいたとか、そうした話の流れになってしまうんだろうか?)
秀一は他に、パンチパーマ刑事の言っていた『こっちの検事は相当のやり手』という言葉も気になっていました。それに、涼子もいずれあの動画を目にするでしょう。あの動画を見ても、「それでもあなたはやってない」とは、流石に彼女も言ってくれまい……そう思うと、このまま涼子とは一切連絡をとらず、他の弁護士に担当を変えたいとさえ秀一は思うくらいでした。
(そりゃそうだよな。俺が逆の立場でだって、絶対そうだろう……)
秀一は、(今度こそ自分の人生は本当に終わった)と、そう思いました。また、あの動画はこれから日本で、あるいは世界でニュースとして流されることでしょう。『ところが被疑者の桐島秀一は「ここに映っているのは自分ではない」などと主張しているのです』と、どこかの局の美人アナウンサーが言っているのが耳の内に聞こえる気さえするくらいでした。
両親も、友達も、他の誰も――自分の言うことなど何ひとつとして信じてはくれまい……そう思うと、秀一は今まで以上にさらに自分の精神世界が絶望の黒色に染め上げられていくのを感じました。最初、逮捕された時には(ここが今までの自分にとって、最低の人生の底だ)と感じたものでした。「どん底といえるうちは、まだ本当のどん底ではない」と言いますが、秀一にとっては今こそが人生の本当のどん底でした。
この翌日、「弁護士を変えたいと思っている。それと、もう二度とここへは来ないでくれ」と言うつもりで、秀一は弁護士の二階堂涼子と接見室で会いました。きのう、秀一は長時間に渡って刑事たちに締め上げられたというわけではありません。けれど、顔のほうは一夜にして少しばかりやつれたような、疲労の影が濃く漂っていました。
「涼子、もうここへは来ないでくれ。俺は弁護士も君以外の誰かに変えようと思ってる。これは俺を犯人に仕立てようとする陰謀なんだ。背後にいるのが誰なのかはわからない。けどもう、たぶん逃れる術はないと思う……」
「そんなことないわ、秀一さん!あの、例のアンドロイドのコールガールたちのことはわたしも聞いたけど、まだ希望はあるわ。わたしは――あなたが京子のことも、安達紗江子さんのことも、あるいは他の誰のことも……殺したんじゃないって信じてる。もう少しの辛抱よ。きっと疑いは晴れて、無罪放免ってことになるわ」
この時、秀一は涼子のどこか清らかな輝きを持つ瞳を見返すのが恐ろしかったのですが――それでもちらと彼女のほうを見返してみた時、彼女が心から本当にそう信じているらしいことがわかりました。
(そうか。じゃあ、まだあの決定的な動画を見てないのかもしれないな……)
秀一はそう思いましたが、聞いてみると涼子はすでにもうその動画も見たといいます。
「それなのに、どうして……」
「過去に、自分にそっくりのアンドロイドを造ってアリバイ作りをしたとか、そうした犯行例はいくらでもありますからね。だから、このことの裏にもきっと何かトリックがあるはずよ。秀一さんには本当にがっかりだわ。わたしがこんなことくらいで信じなくなるほど初心だと思っていただなんて……」
涼子は透明な間仕切りの向こう側で涙を流していました。そして、その涙を見た瞬間、何を言われないでも秀一にもわかったのです。そのことを知った瞬間、きっと自分が今ごろ絶望のどん底にいるだろうと思い、そのことで彼女がどれほど胸を痛めたのかが……。
「あ、ありがとう……俺、もう涼子には軽蔑されているものとばかり……」
「何言ってるのよ!弁護士っていうのはね、本当に何人も人を殺してる人の弁護をしたり、あるいはあなたと同じように無実の罪で苦しんでる人の弁護をしたりするのよ。お互いに信頼関係がなかったら、弁護できるものも出来なくなるわ。わたしはあなたが思ってるほど甘ちゃんのエリートお嬢さまってわけでもないしね。これでも世の中の現実についてはあなたと同じくらいかそれ以上に知ってるくらいだと思うわ」
「…………………」
(そっか。どうして俺が京子と涼子を同一人物と思ったのか、今、初めてわかった気がする。彼女は強い……それは京子の場合、体を鍛えるとか、そういう気の強さっていう部分が大きくて、たぶん彼女は精神的に強いんだ。どちらかというと……)
こうして、殺害された姉の双子の妹である涼子に弁護を依頼する不安が、秀一の中では完全に払拭されたかもしれません。涼子は、秀一の家の執事ロボットとメイドロボットの記録を調べて、記述したものを彼に見せました。
・アンドロイド・シェリー。2127年、9月30日機能停止。
・アンドロイド・ミミ。2127年、10月22日機能停止。
・アンドロイド・マナ。2127年、11月16日機能停止。
・アンドロイド・レイラ。2127年、12月13日機能停止。
・アンドロイド・イザベラ。2128年、1月11日機能停止。
・アンドロイド・クロエ。2128年、2月12日機能停止。
・アンドロイド・リリー。2128年、3月14日機能停止。
・アンドロイド・ナターシャ。2128年、4月9日機能停止。
・アンドロイド・カミラ。2128年、5月4日機能停止。
・アンドロイド・ステラ。2128年、6月7日機能停止。
「こんなこと告白するの、俺も恥かしくて嫌なんだけどさ……」
そう断った上で、秀一はアンドロイド・コールガールのシェリーとナターシャの写真を指差して言いました。
「その二人のことは、確かにネットで申し込みして、家に来てもらったことがある。シェリーちゃん一回、ナターシャちゃん二回くらいな感じで。だけど、それだってかなり前の話だし、あとのアンドロイドの女の子たちとは本当に接点がない。ただ、どうなんだろう……アンドロイドっていうのは、どこか具合が悪くなったら、バラして使える部分を再利用したりするだろ?その際、記憶装置のメモリーは消去されて再利用されることがある。だから、もしこの中の誰かが……つまり、シェリーはそろそろ型も古くなってきたから、一度停止させよう、それで使える部分についてはリリーに使うことにしようっていうことがあるのだとしたら……やっぱり人間の意識を支えるのに<記憶>っていうのは大きいだろ?その人の生きた証しともいえるようなものだ。だから、シェリーの脳の中に埋め込まれていたそのメモリーを取りだして記憶をデリート、その後リリーに移植――ということがあるのだとしたら、俺は彼女のことも知ってるっていうことになるのかな……」
「一応、他の人が所有しているロボットやアンドロイドを破壊すると、それは器物損壊罪に当たります。だけど、アンドロイド・ロボット人権宣言が日本で採択されて以来……もちろんこれは、アンドロイド・ロボット世界人権宣言を元にして作られたものなんだけど、秀一さんも知ってのとおり、国によってそれはまったく守る必要がなかったり、あるいは法的拘束力がそんなに強くなかったりもするのね。つまり、アンドロイドやロボットに人権に近いものを認めはするし、彼らに人間に似た意思や感情がある以上、それも尊重はするけれども、今のところロボットやアンドロイドというのは法的には<物>、誰かの所有物、あるいは商品と見なされるってことよね。でも、これも秀一さんも知ってのとおり……ずっと長く一緒に暮らしてきたロボットを盗まれ、それが部品を売って金にするためだったという事件が起きるたび、日本ではとても激しく世論が揺れることになるわ。アンドロイドに人権を国は法律としても認めるべきだというアンドロイド・ロボット人権運動がそのたびに起こるくらいだし……今回の事件も、このことで裁判員たちの心証が悪くなるっていうのが一番問題だっていうことなの。アンドロイドを破壊したり、バラバラにして売ったという場合でも、刑期は3~5年くらいなものだし、相手に十分な賠償金を支払えば示談に持ちこむことだって出来る。ただ、秀一さんの場合問題なのは、京子と安達紗江子さん殺害の件とこのことを絡めて、こうした危険な人物だから、ここまでのことをしてもおかしくはない……という方向に検事のほうで話を持っていきたいっていうことなのよね」
ここで、涼子は顔の表情を少しばかり曇らせて、「はー」と重い溜息を着いていました。
「まあ、そりゃそうだよな。誰がどう見たって変態性欲こじらせた男がアンドロイドをレイプして殺害するだけじゃ満足できず、とうとう人間の女のことまで……みたいな話に聞こえるものな。俺がなんで落ち込んでるかって言えば、何よりその点だよ。仮にいつか俺の無実が証明されたとしても――あの事件の容疑者だった男だってことで、いついつまでも『おまえが犯人だ』みたいに言われ続ける可能性が高いってことだよ。で、家の前にも色々落書きされたりペイント弾撃ち込まれたりするんだろーな……その上、友達はみんな離れていくだろーし、高校時代の大して仲良くなかった奴までが『あいつ、マジやべえよ』、『ソッチの人間だったんだな』とかチャットなんかでしゃべってくれちゃったり……はーあ。マジでヘコむわ」
「でも、わたしはこれからも絶対、秀一さんの味方だから大丈夫!天国へ行く時も地獄へ落ちる時も、一緒についていくわ」
(いや、あんたがどんなに頑張ってくれても、結局のところムショで服役すんの俺だから……)と、そう秀一は思うのですが、涼子の真剣でどこか真心のこもった面差しを見ていると、(ま、いっか)と思えるのが不思議でした。
「それでね、秀一さん」と、涼子は肝心の話のほうを続けます。「秀一さんのほうでは、このアンドロイドたちが殺害というか、機能停止した日のアリバイについてはほとんど記憶にないのよね?」
「うん……俺、SNSとかもやってないからさ。友達のはよく見たりするけど……あ、そうだ!もしその日、友達とかに会ってたら、向こうはいつもバシャバシャ写真撮る奴らばっかだから、俺も写ってると思うんだ。なあ、涼子。悪いんだけど、これから言う友達のSNS調べたりとかしてもらえないかな?」
「ええ、もちろん!」
――このあと、涼子と別れると、秀一は底を破ってまたその底に落ちたような暗闇から、少しだけ自分が上がれたような気がしていました。これから、家族も友人も、あるいは他のすべての人が敵に回るだろう……そう秀一は覚悟していました。けれど、もし涼子が自分の味方でいてくれるなら、これからも何かを耐えてゆけそうな気がしました。もちろん、これから彼女が自分から離れてゆかない保証などどこにもないのですが、それでも秀一は今のこのどん底を突き破ってさらに底に落ち、ここが今度こそどん底だと思っていたその底に落ちたにも関わらず――まだ、自分には菩薩の垂らした縋れる糸が残っているということに、ただ純粋に驚いていたのです。
>>続く。