さて、今回も前文に結構文字数使えそうなので……前回に引き続き、自分の好きなことを好き勝手書こうかな~なんて♪
一応、最初に念のため書いておきますと、竹宮先生は漫画家としても人間としても素晴らしい方と思うので、そうしたことに関して何かケチ☆をつけたいとかいうことではまったくなく(^^;)
ただわたし、竹宮先生の漫画ってほとんど読んでない、言ってみれば「白紙」の状態から萩尾先生の漫画とそれぞれ交互に……というか、そこらへんはテキトー☆なんですけど(笑)、それなりに少しずつ順番に読んできて――『一度きりの大泉の話』や『少年の名はジルベール』の感想記事に書いてあったことで、最初はわからなかったことが今はだんだんわかってきたというか
過去に「盗作疑惑をかけたことに関して行き違いがあった」ということを除けば……萩尾先生と竹宮先生って、近い位置にある双子星かというくらい、読者が遠くの夜空の星を眺める分には似てると思います
「花の24年組」、「少女漫画界の大御所」、「漫画の得意分野のひとつがSFである」、「ふたりともBL的設定を使うことが多い」、「デビューして以来第一線で活躍し続け、非常に多作である」、「小学館漫画賞を受賞している」、「紫綬褒章を受章している」などなど、まるで姉妹のよう……とまで言うつもりはありませんが、例の盗作疑惑の件さえなければ、「少女漫画界の双子星」というくらい、共通点が多いように思うわけです。
また、もしかしたらBLのことは横に置いておいたほうがいいのかもしれませんが、萩尾先生も竹宮先生も増山法恵さんも――「こうしたものにわたしは最高の芸術を感じる」とか「<美>を感じる」というポイントも、とてもよく似ているように思います。
でも、とりあえず今のところ萩尾先生と竹宮先生の漫画をそれぞれ読んできてみて思うのは……自分的におふたりが漫画家として対等なライバル関係であったのは、1980年代まででなかったかということなんですよね。『一度きりの大泉の話』には、>>『トーマの心臓』の連載が終わってからも、たまに風の噂が流れてきましたが、1990年頃からはそれもなくなりました。漫画界も読者が変わり、作家もどんどん新人が出て活躍する。時代も変わったのでしょうね。――と書いてあって、ちょうどこの頃、増山さんは竹宮先生のプロダクションを離れて独り立ちというか、そうした関係を(円満に)解消されたわけですよね。
そして、わたしが何より驚くのが、萩尾先生の漫画家としてのトータル的な底力でした。その~、竹宮先生は漫画家として、あとに続く漫画家さんにも多大なる影響を及ぼしたという意味でも、本当にすごい方と思います。ただ、萩尾先生がやっぱり、一漫画家として異常なほど才能のある天才だった……という、これはそうしたことなんだなと、感想記事にあった「萩尾望都と竹宮惠子を比べてはいけない。比べること自体間違っている」(この場合は、それは萩尾望都という天才漫画家に対して失礼だといった意味の文脈)という意味が、自分的にだんだん「なるほど」とわかってきたというか。
なんというか、漫画家さんに限らず、音楽家というか、この場合はシンガーソングライターとしてみたいと思うんですけど、「ヒット曲を出し続ける、作り続ける」って、本当に大変なことだと思います。デビューするまでとか、デビュー後などは、「自分はこれを伝えたい!」、「これを伝えるためにこそ歌い手になったんだ!」という表現したいことがたくさんあっても――プロとしてヒット曲や代表曲も増え、印税も入ってきて、生活も安泰、私生活のほうもそこそこうまくいってます……となった場合、その後も「表現行為をし続ける」って、ある部分苦痛なんじゃないだろうか、なんて凡人なりに想像します。
でもこのあたり、萩尾先生って、汲めども汲めども尽きぬ泉……といった才能があって(あ、竹宮先生にはそれがないという意味ではありません☆)、どちらかというと、才能といった意味では、わたし自身は竹宮先生のほうが普通ではないだろうかというか、竹宮先生だってもちろん、普通でない才能の持ち主だけれど、「30代の頃と同じような体力では描けない」といったことも当然あると思うし、ただ漫画を描くという以上に多くの読者が「間違いなく面白い!」というくらいの漫画を描き続けるためには……まあ、常に極限まで精神力・体力を削り続けなくてはいけないでしょうし、そんなことをずっと続けるうち、「一番描きたいと思った作品も描くことが出来たし」、「代表作となるヒット作もいくつか出た」、「大きな漫画の賞も受賞することが出来た」――以後も漫画に対する情熱はあって、体力が落ちてきた分は優秀なアシスタントさんに頑張ってもらうにしても……やっぱり、スランプ期があったりとか、若干絵のほうも崩れてきたとか、そんなにもう描きたいと思うネタもなくなってきたとか、ちょっと漫画に対して燃え尽き症候群だとか……むしろ、広い漫画界を見渡すと、そんな話はいくらでも転がってそうな気がします(^^;)
ただ、自分的に竹宮先生の立場のつらいところは、盗作疑惑をかけてしまったのが萩尾望都先生であり、萩尾先生と比べられるとアレなんだけど(ドレ☆)、他の同期の漫画家先生や、(こんな言い方をするのはなんですが^^;)少女漫画界の大御所と呼ぶにはあともう一歩……という先生たちの間にあっては、漫画家としての実力も才能も、きっと抜きんでているのではないでしょうか。。。
そして、萩尾先生の漫画家としてのキャリアにおいて、『残酷な神が支配する』って、やっぱりある種の異常性を感じました。そのですね、『残酷な神~』って、かなりのところ重くて暗い話じゃないですか。言ってみれば、この種の話が描ける場合って、自分もその時人生でつらいことがあって鬱状態で、そうした暗くて重い話を描くことで、わたし自身も描き手として救われた……とか、そういう場合のほうが多いと思うわけです。
あとは、それまでも結構いい漫画描いてきてるのに、編集部のほうでなかなか原稿料上げてくれない……だから、「この漫画こそは絶対ヒットする、いやさせてみせる!我が漫画家魂のすべてをかけても!!」といった裏事情が実はあって、暗い情熱を全力で傾けられた……とかだったら、まだ少しはわかる気がするんですよね(^^;)。でも、周囲からはすでに当たり前のように天才と褒めそやされ、漫画家としてヒット作がいくつも出、賞なども当たり前のようにいただいてから、さらに『残酷な神が支配する』のような漫画が出てきて完璧に描けてしまう――その~、わたし、このことのうちにはたぶん、竹宮先生に対するある種の気持ちというのもあったんだろうなって思いました。
そもそも、『残酷な神~』に至るまで、BL的設定の漫画っていうのがいくつかあって、『マージナル』も素晴らしい作品ですけれども、BL設定の頂点に位置する作品というのが、萩尾先生の中では『残酷な神が支配する』だと思うんですよね。それで、『一度きりの大泉の話』の中では、萩尾先生は増山さんの影響って、「14才という年齢の少年に興味持ったくらい」みたいな、割と「影響って言っても、実はそんなにないっスよ」的雰囲気を感じるわけです。
それでわたし、これは正しいのだろうと思うのと同時に……萩尾先生の中ではBLって(まあ、当時はBLって言葉自体使われてなかったと思うものの^^;)、常に頭の無意識層のどこかに埋まってることだったのだろうな……と、そう思うわけです。また、竹宮先生の『風と木の詩』は読んでおられないわけで、BLに関しては他作品などによって多少なりとも影響を受けたりもした――という、そういうことなのかなって思います(あ、わたし、山藍紫姫子先生の本とか読んだことないのですただ、『残酷な神~』の10巻の解説を読んで、素敵な文章を書く方だと思っただけで^^;)。
でも、自分的にあんなにも増山さんが少年愛に夢中で(というか、少年愛以外興味がない)、そのあたりに関して盗作疑惑をかけられたことから……『トーマの心臓』だけでなく、竹宮先生・増山法恵さんの影響というのはなかったとは言えないような気がしました。
ただ、その「影響」というのが非常にネガティヴな動機に属するもので、「何故ケーコたんやノンたんとこんなふうになってしまったのだろう」ということを考える時、どうしてもBLということが避けがたく思い出されるというか、そういうことですよね
そして、萩尾先生が天才なのは――最初のはじまりの種がそんなところからはじまっていても、いえ、その種に最初に落ちたのが雨水ではなく涙だったことから、恐ろしいまでに優れた作品である『マージナル』や『残酷な神が支配する』にまで、その最初の小さな種子がジャックの豆の木並みに成長したのではないかと……何かそんなふうに思われるわけです。。。
あ、この前文、最初は「竹宮先生をディスる結果で終わったらどうしよう」と思って書き始めたんですけど、少し違う着地点に落ち着いてしまった気がします(^^;)
なんにしても、この件に関してまだ書くことのある自分に対して、何より驚いたり(笑)。
それではまた~!!
ユトレイシア・ユニバーシティ。-【17】-
「へえ~。じゃ、俺のほうではアレだ。その卒業パーティとやらで、コニーちゃんという可愛こちゃんの恋人を演じて、我が大学の栄光輝くランニングバックさまを焼かせりゃいいってとこなわけだ」
電話でなるべく手短に用件を説明しようとすると、「なんかまだるっこしいな。ロイ、おまえヒマなんだったら、うちに遊びに来いよ」ということになり――ロイはギルバートの住むタワーマンションまで遊びに行くことになった。
進級試験なぞ余裕でパスした……というギルバートは、すでにもう二年に上がった時以降の勉強をしているところで、リビングのほうにはその手の医学関係の学術書まで、随分たくさん並んでいたものである。
「実習ってさ、具体的にどんなことすんの?」
ロイは、例の電動で動くソファに置いてあった『外科手術入門』とか、『整形外科手術の基本』といった本を手に取ると、いかにも興味深そうにぱらぱら捲って読んだ。
「もちろんそんなの、二回生の時分にはまだ必要ないよ。患者に対して注射一本、点滴ひとつ打てるってわけでもなし……けどまあ、実際に手術室に入れるようになって鈎引きしたりするようになるわな。それで、指導医なんかがなんちゃら難しい質問をぺーぺーの医学生どもにしたりする――そういう時、ぺらぺら上手く答えられるくらいにはなっておきたいわけだ」
「ふうん。やっぱりおまえはすごいな。オレも、恋人とうまくいっててハッピーハッピー言ってないで、将来の夢に向かってがんばらなきゃ」
「実際、ロイは今でも十分うまいことやってるだろ。誰かがおまえの開発したアプリをダウンロードするたびに、チャリンチャリン金が入ってくるようなもんなんだし……あ、あと、例の動画見たぜ。シューストーカーってったっけ?あんなパッツパッツのトレーニングウェアの美人とキスなんかしちまってまあ。よくおまえの愛しの恋人と喧嘩になんなかったもんだと、驚いちまったよ」
結局のところ、シューストーカーは自動栗剥き機よりも犬の足洗い機よりも、全自動虫殺し機ハイコロサッサーよりも……得点が伸び悩んで最下位だったのである。だが、ロイも彼のチームも落ち込みはしなかった。何故といってこののち、教授の許可を取ってユーチューブのほうへ流したところ、シューストーカーを買いたいという企業が数社現れ――今ロイは経済学部の友人たちと交渉しているところだったからである。
「リズはそこらへん、寛容なんだよ。何分、彼女自身がモテるもんだからさ」
このあと、ロイが少し意味ありげに沈黙するのを見て……ギルバートは(おや?)と思った。確かに彼自身、例のセックス討論会で自分たちをやりこめた女が親友の交際相手だと知った時、つくづく驚いたものである。しかも、ロイはそのことをすぐ話すでもなく話さざるをえなくなるまで、暫く黙っていたのだ。そして、『言いづらかったのはわかるが、それならそうともっと早くにそう言やいいのに』と問い詰めると――意外な返事が返ってきた。『ほら、ギルはモテるだろ?だから、大切な親友と自分の彼女がそういう関係になるとか、嫌だったんだ』などと。『俺が大親友の美人の恋人を横からかっぱらうと思ったってことか?』、『いや、故意にとかじゃなくさ。ほら、ドラマなんかでよくあるだろ。親友の恋人が実は好きで……とかってやつ。それに、そういう気持ちは道徳がどーだの言ったところで、到底止められない。だからさ』、『はははっ。俺は親友に初めて出来た恋人に手を出さなきゃいけないほど、女に飢えてないぜ』だが、ギルバートにしても、ロイはそのくらい彼女――エリザベス・パーカーにぞっこんなのだろうとわかっていた。
「なんだ?テディからはアメフト部の花形クォーターバックさまに体育館の用具室へ呼ばれて締められたとは聞いたがな。他にもまだ何か、問題が持ち上がったのか?」
「いや、うまくいってるよ。すごく……ただ、ちょっと幸せすぎて怖いっていうかさ。だから、すごく用心してるんだ。何かの拍子に急に、『わたしたち、少し距離を置かない?』なんてリズから言われないようにと思って」
「ふう~む。なるほどなあ。けど、アレだろ?夏休みにどっか旅行へ行かないかなんぞと計画してるってことは――ま、順調ってことだわな。それに引き換え、俺にはその親友の偽の恋人役を押しつけようってわけだ。面白そうだし、ちょうどヒマだったから引き受けてもいいが、それにしちゃ随分注文が多いな。失恋したばっかだから、その子の心の弱味につけこんでどうにかしようとするなとかなんとか、色々」
――実際、ギルバートのほうではその条件で構わないと思ってはいた。何故なら、ロイから聞かされるまで、そんなパーティがあること自体知らなかったし、ギル自身、もし一応の卒業に当たる年に医師の国家試験に合格しなかった場合、そんなパーティに参加しようという気にすらなれず、終わる可能性がなくもない。そう考えてみると、パーティの主役は今年の卒業生たちでも、その他在校生であれば誰でも出席できるというのであれば……先に少しばかり雰囲気を覗き見るのも悪くないと思っていたのである。
「ギルもアメフトとかバスケ好きなんだから、わかるだろ?コニーの元恋人はあの大学杯の決勝で五人抜きをやったランニングバック、ダニエル・ハサウェイさまなんだよ。で、彼女はチア部の部員なんだけど、リズの話によると、すごくいい子なんだって。オレはほんのちょっと話したことあるって程度なんだけど、なんていうか、いかにも女の子女の子してるっていうのかなあ。惚れっぽいらしいんだけど、一度好きになったら一途に尽くすってタイプの子なんだって。だから、なんていうか、あんましこう……コニーのほうから誘惑してきたとしても、軽い気持ちで手を出して欲しくないんだって」
「そりゃ難しい注文だなあ。大学杯決勝戦の時は俺もユトレイシア・スタジアムで試合見てたぜ。医学部の友達何人かと……コニー・レイノルズって、対戦大学のチア部との応援合戦の時、美女たちが人型ピラミッドになった一番てっぺんで、最後にそこから飛び跳ねて下りてきた子だよな?」
その時も、ギルバートの左右の友人たちから「可愛い子だな~。つきあいてー」だの、「バカッ、あの子はアメフト部のダニエル・ハサウェイのお手つきだぞっ!」といった会話は出ていた。それで、ロイから少しばかり話を聞いただけで(ははーん。あの子か)と、すぐ見当がついていたのである。
「うん。なんだったかな。確か、チア部の中で一番小柄で体重軽かったから、そういう目立つ役に抜擢されたとかって。チア部ってさ、美人ばっかなせいか、少しギスギスするところがあるらしいんだけど、コニーは誰からも好かれてるような子なんだって。リズも、コニーがそういう子なんだってこと、ギルバートにくれぐれも噛んで含めるよう言い聞かせてくれみたいに言ってて……」
「そうか。じゃあまあ、お手々握るのが関の山で、キス及びキス以上のことは絶対するなってことだな。わかったよ」
「えっ!?ギル、おっ、おまえ、ほんとマジ?」
ロイとしては、最終的には渋々承諾するにしても、この点に関しては「だってさ~、向こうから誘ってきたらその場合はな~」などと、いつまでもニヤニヤしてなかなか承知しまいと思っていたのだが。
「いや、俺も何かと脛の痛い身だからな。たまには無報酬で女性に尽くして、日頃の悪行のひとつくらいはそれで帳消しにしろってことなんだろうと思ったまでのことさ。それで?おまえのほうはどうなんだ?そのダニエル・ハサウェイと無二の親友のクォーターバック、マイケル・デバージにバスケットボールで突き指させられた上、背中をどつかれたって聞いたぞ。ロイのほうでは親友の俺にじゃなく、デバージさまにリズ・パーカーを取られることは心配しなくていいのか?」
「う、うん。リズに聞いたらさ、マイケル・デバージとは本当にただの幼馴染みだってことだったんだ。まあもちろん、彼が初めての相手だなんて聞いたら、確かに心中穏やかではなかったけど……色々、込み入った事情があるんだよ。で、リズのほうはマイケルとそういう関係になっても、『友達以上には思えない』っていうのがむしろはっきりして、でも向こうのほうでは――男とか女とか、黒人とか白人とかいうことすら超えて、こんなにわかりあえるのは自分にとってリズ以外ありえないっていうさ。だから、なんていうか、こう……」
「うわっ!ロイ、おまえ、俺が最初想像してた以上にハードな恋愛してんのな。言ってみりゃそりゃアレだ。マフィアのボスが逃げた自分の情婦を追いかけて、今の夫の背中に銃口押しつけたようなもんじゃねえか。ヘタなことしたら、この界隈――ようするにユトレイシア大学内ってことだよな。ここらじゃ生きてけないようにしてやるぜっていう」
ギルバートはロイに心底同情するあまり、キッチンに備えつけのワインセラーから上等のワインをだし、冷蔵庫からは鴨のコンフィやチーズなど、摘みになりそうなものを出した。彼なりのサービス精神である。
「やっぱ、ギルもそう思うか?テディもさ、ここは大学だから学部さえ違えばどうにかなるけど、これが高校だったらもう転校することを自分なら考えたかもしんない、なんて言うんだ。けど、リズの話を聞く限り――家の問題で色々落ち込んでた時に、マイケルがすごく慰めてくれて、最初からそれは恋人に対する<好き>ではなかったけど、でも幼馴染みとしては大好きだから……みたいな感じで、初めて関係を持つことになったって。でも、マイケルはともかく、リズとしては恋人として恋の感情を持つことは出来なかったっていうんだ。それで、彼女が次につきあった男っていうのが……」
「うんうん、それで?」
ギルは大理石のテーブルにワイングラスをのせると、そこにワインをなみなみ注いだ。ピュリニー・モンラッシェである。
「バスケ部の今の主将のジャック・ウォルシュで、そもそも彼と知りあったのは……」
ここで、ギルはブッと吹いた。一滴たりとも無駄にしたくないワインではあったが、アメフトの花形クォーターバック、大学バスケ界の英雄ポイントガードと名前が続いては、無理もない。
「あっ、あの女……随分大物狙いばっかだな。言ってみりゃ恋愛のジャイアントキリングみたいなもんだぞ。マイケル・デバージもジャック・ウォルシュも――そもそもおまえだって、IQ180の大学内じゃちょっとした有名人だ。親父さんがノーベル賞候補に何度もなってるって意味でもな」
「違うんだよ。リズは自分から相手にアプローチしたことなんか一度もない。それはオレの時だってそうだったんだから。恥かしい話、オレ、まだ実際につきあうずっと前、リズのことをストーカーしたことさえあるくらいだし……ええと、そんなことよりジャック・ウォルシュか。彼とつきあってたのは一年の頃のことで、その時ジャックはまだバスケ部のキャプテンでもなんでもなかったんだ。ただ、向こうのアプローチがあんまりしつこくて、根負けしたらしいんだよ」
「…………………」
確かに、ギルバートにしても、あのセックス討論会の時――勝ちを譲ったというより、言い負かされたような屈辱感解消のため、もし機会があればリズ・パーカーに言い寄った可能性がないとは言えない(そして、一度寝たあとで捨てる)……そう思っていた。まあ、簡単にいえば地味な美人なのだがモテるということだ。
また、マイケル・デバージとジャック・ウォルシュのプレイスタイルを思い返してみても、ようするに勝ちに対する執念が物凄いのだ。そしてそれは、彼らの性格そのものと決して無縁ではあるまいと思われた。つまり、恋愛に関しても然りということである。
「今もそうなんだけどさ、彼女、男女問わず、色々なスポーツ関係の選手たちに声かけまくってるんだよ。なんでかっていうと、障害者スポーツの大会なんかが結構よくあるんだけど、ボランティアの審判が足りないからなんだ」
「つまり?」
「だからさ、バスケでもテニスでも卓球でも……選手のほうが当然、ルールに詳しいわけだろ?オレも時々行くんだけど、点数つけ間違えちゃって叱られたり。やっぱり、やったことある人が審判とかやったほうが絶対いいわけ。でね、ボランティアだから当然お金なんか出ないんだけど、あとから凄く感謝されることが多いんだ。みんな、なんかのスポーツクラブに入ってると、当然練習なんかで忙しくて、『ボランティア?そんなもん行ってらんねーよ』ってなるのが普通だ。でも、最初はイヤイヤながら行ったにしても――頭を横から殴られたみたいに人生観の変わる人って、実際多いんだよ。たとえば、ブラインド・サッカーとかさ、目が見えないのにどうやってサッカーなんか……って思うけど、見てるとほんと、感動する。テニスの選手でもサッカーの選手でも、スランプで煮詰まってたのが解消されたって感謝されたり、そういうところで出来る繋がりとか循環とか、すごく大切なものなんだ」
「で、それがジャック・ウォルシュとどう関係する?」
将来は医者を目指している割に、ギルバート自身はボランティア全般に関し、淡白なほうだった。偽善とまでは思わないし、大切なことだとも思うが、やりたい人間だけでやっていただいて、強制すべきものではないだろうといったくらいの考えである。
「ええとね、ジャック・ウォルシュに対しても、リズはそういった意味で声かけしたってことなんだよ。出来れば障害者バスケの審判をやってもらいたいって……まあ、今バスケ部のキャプテンやってるくらいだし、人望があって、高校時代だって結構モテたんだろう。だから、ジャックのほうではこう思ったわけだ。『ははーん。あの子は俺に気があるな』みたいに。ところが、言われたとおり審判やっても、デートひとつしてもらえるわけでもない。けど、人気者の彼が運動部の連中に声かけしてくれたお陰で、テニス、サッカー、卓球その他、色んな競技の選手たちがボランティアに協力してくれるようになったんだ。だから、リズのほうではジャックに対して悪いと思ったわけだ。それでつきあうことにしたんだって」
「ふう~ん。マイケルに続いて、随分消極的な交際理由だな。俺としちゃアレだ。どっちかっていうと、ジャックの奴がバツバツシュート決めてるのを見て、『ジャックうっ、あなたったらなんてカッコいいのうっ!!』みたいに、すぐキャーキャーなるような女のほうに好感を持つね、どちらかというと。まあ、人には色々タイプがあるんだろうからそれはいいとして……別れた理由はなんだ?俺としちゃそのあたりがなんだか気になるな」
ここで、ロイはボウルの中のナッツを口に入れ、ぽりぽり齧りつつ、白ワインを飲んだ。ウォールナッツにはリノール酸やリノレン酸がたっぷりで、健康にいいと聞いたことがある。
「ようするに、リズのほうがさ、ボランティアに熱心すぎたってこと。向こうは大学の勉強とバスケの練習、リズとのデートってくらいで手いっぱいだろ?でも、そのデートの日なんかにリズはしょっちゅう『その日はなんとかのボランティアがあって……』みたいになるわけだ。で、ジャックはとうとう怒った。『自分は一体なんのために君とつきあってるのかわからない』って。そりゃボランティアだって大切なことだと思うけど、俺とのデートのことだって同じくらい大事にして欲しいみたいに」
「そりゃ正論だ。俺でもジャックに一票だね。しかも相手はあの大学バスケ界の雄、ジャック・ウォルシュさまだぞ。つきあおうと思えば他にも女なんかいくらでもいるだろうに、そんな割の合わない話もないだろうしな」
(やれやれ。思った以上にめんどくせえ女だな)
というのが、ギルバートのリズ・パーカーに対する率直な感想だったが、何分、大の親友の初めての本格的な恋愛相手である。彼としては(自分はそういう女とは絶対その気になりそうにない)ということを、とりあえず喜ぶことにした。
「で、その時リズも思ったんだって。ボランティア活動と最初からそんなに好みでもなかったジャック・ウォルシュ……彼がなんのために自分たちはつきあってるんだ、と言ったみたいに、自分がやりたいと思ってることを犠牲にしてまでジャックとつきあうことに意味なんてあるのだろうか、いや、ない――といった感じのことで、ふたりは別れたらしい。でも、マイケルともそうだけど、リズはジャックとも普通に親しくしてる感じだよ。まあ、向こうは向こうで今つきあってる彼女がいるとか、そういう事情もあるのかもしれないけど」
「ふう~ん。それでおまえ、あの女……いやいや、リズ・パーカーとつきあってて幸せなのか?俺はそこのところがなんだか気になるね。てか、俺なら絶対リズ・パーカーとはつきあえない。俺は大学ではどこのクラブにも所属してないよ。で、そいつは今後、勉学が忙しくなると思ってるからで、女遊び以外の時間は真面目にそっちに時間を使ってるからだ。しかも、デートのたびに『この間なんとかいう施設にボランティアに行って~』なんて話されたら、だんだんイライラしてきてとても堪らないだろうな。おまえ、そこらへんどう?本当はもうボランティアなんか大してしたくもないんじゃねえの?だって、リズ・パーカーとは恋人同士になれたわけだし、そうなれば、自然目的は達したってことになって、彼女と一緒に必ずしもボランティアなんつー面倒なことしなくても、今後ともつきあっていけるわけだし……」
「まあね」
(ギルなら絶対、そう言うと思ってたよ)
そう思い、ロイは笑った。
「ボランティアってのはさ、そこまで無理してたら、そもそも続かない性質のものなんだよ。だから……どう言ったらいいかな。リズは確かにボランティアの面白さとか素晴らしさを教えてくれたきっかけになった人ではあるけど、ようするに、オレのほうでも老人福祉施設とか、盲学校とか聾学校とか――好きで行ってるんだ。つまり、オレとリズはそういう意味でもすごく気が合うし、オレがもし彼女の心を射止めんとして、イヤイヤながらボランティアやってるだけだとしたら、そういうことも彼女は見抜いていたろうなと思う。だから、リズのほうでもたま~にオレにこう聞いてくるんだ。『わたしって、めんどくさいやな女じゃない?』ってね。で、オレのほうでは驚いたようにこう答えるわけ。『いいや。なんで?』って、心底心外だ、みたいにね」
「そりゃもう、ごちそうさまって奴だな。ようするに、それがおまえのノロケの終着駅ってことだろ?やれやれ」
ギルバートは美味しい鴨のコンフィを食べつつ、ソファに引っくり返った。そして、自分にしてもいつか――こんな日がやって来るかもしれないとは思っていたのだ。ロイにしてもテディにしても、誰か、堅実に愛せる相手を見つけて、表面上だけ異性に関し華やかに見える自分を追い越し、幸せになってゆくのだろうと……。
「それがさ、これで終わりじゃなくて、このノロケにはまだ続きがあるんだ」
ギルバートは起き上がってくると、隣の親友の首をがしっ!と羽交い絞めにした。
「なんだ!?早く全部言っちまえよ。どうせ俺は、時々プロの娼婦をこの部屋に呼ぶことさえある、うら寂しい哀れな奴さ。長期でひとりの女と親密な関係ってのを築くこのできない欠陥人間でもある。あ~あ、いいよなあ。俺なんか絶対、運命の女みたいのを見つけたところで、傷つけて別れたあとであいつがそうだったみたいに気づいたもののどうにもならず、それほどでもない相手と結婚して『人生こんなもんだ』とでも言い聞かせて生きていくしかないんだろうよ」
「そんなことないよ。ギルはギルで、きっとそのうちそういう相手が現れて……『この人の浮気は病気なんだ、でも本気なのは私だけ。そんならいいわ、許してあげる』――みたいな女性と結婚すればいいんだよ」
「ふん。そんな物分りのいい、天使のような女がいればいいがな……で、なんだ?おまえのノロケの続きってのは」
ギルバートは白ワインの二杯目を注ぎつつ、面白くもなさそうにそう聞いた。
「あはは。それがさー、リズ、オレのことが本当の初恋だっていうんだ。最初のマイケル・デバージと次のジャック・ウォルシュなんかは、向こうの押しが強くて流されちゃったけど、『なんか違った』みたいな感じだったわけだ、彼女としては。だけど、オレのことは自分のほうでもほんとに好きだから、これが本当の恋っていうことなんだと思うって……」
「くっそー!そうか。そういうことだったか。それでおまえは、マイケル・デバージみたいな黒人野郎に脅されても、存外ケロッとして自信満々な態度だったってわけだな。けっ、こりゃごちそうさまを通り越して、胸焼けがしてきたってやつだ……なあ、ロイ・ノーラン・ルイス先生。ひとつ聞きたいんだが、俺みたいな男は実際のとこ、どうしたらいいもんかね?ほら、初めての相手だった女が床上手の人妻で、こーゆー風にすれば女は気持ちいいだのなんだの、色々細かくご指導くださったわけだ。で、それはいわゆる一夏の体験というやつで、向こうは若い男と楽しめて良かった、俺のほうでは童貞を卒業できたのみならず、ただで女のアソコのなめ方だなんだ、教えていただき、有難いことだったわけだ。そうなると、今度はどうなる?同じ方法で寝た場合、他の女はどんな反応を示すか知りたくなる――それが普通の男が辿る道ってもんだ。まあ、性病その他気をつけねばならんことはあるが、俺はとにかくひとりの女では我慢できない。あ、セックス専門のカウンセリングに行けなんて言うなよ。ただ、俺はおまえやテディが羨ましいんだ。ひとりの女とじっくりつきあうとか、そういう相手が現れないなら現れないで、べつにどうだっていいや……いつか、自分がノーベル賞でも取る前に、自伝に書くのに恥かしくない女性と結婚できればそれで、みたいになれるあいつのことがな」
ロイは笑った。まだ酔っているわけではなかったが、感じのいい、陽気な笑い方だった。
「そりゃギル、普通は逆だろ。ギルくらい頭がよくて顔もよくて、放っておいても女が磁石に吸いつく砂鉄のようにいくらでも寄ってくるとなったら……しかも、家は金持ちで将来は医者ときたもんだ。非の打ちどころのないほど完璧だから、もしかして神さまはそんな快楽による苦しみをおまえに与えたんじゃないかという気さえするくらいだからね」
「まあな。実際のとこ、俺だってこのことでそんなに深刻に悩んでるわけじゃない。ただ、時々ニュースなんかであるだろ?将来を約束された男、プロミシング・マンがレイプ事件なんかを犯して実刑を受け、せっかくのアメフト選手としてのキャリアを棒に振ったとか、そういう話がさ。俺も一度そういう痛い目にでも遭わない限り、女遊びというやつを絶対やめられんと思うわけだ。もちろん、今だって一応これでも注意はしてるつもりではあるんだぜ。せっかく苦労して国で一番の大学に入ったんだし、絶対に腕のいい外科医になりたいとも思ってる。そのキャリアを台無しにするようなタイプの女とは絶対つきあわんと決めてるし、特にユト大の関係者とだけはそういう関係になったりしないよう気をつけようともしてるのに……ハッと気づけば、ユト大付属病院の看護師と寝てたなんてことに、今の時点でなってるわけだから」
「大丈夫だよ。結局ギルは紳士だし、もしそんな事件が持ち上がったとしたら、とりあえずオレはおまえの口から真実を聞かない限りは絶対信じない。相手の女性のほうが何かの件で恨みに思ってギルのことを嵌めようとしたって可能性のほうがおそらく高いだろう。まあ、もし最悪そんなことになったとしても、最後までオレはおまえの味方だよ。それに、結局ギルは愛されキャラだから、女性のほうでも見逃してくれる公算のほうが高いってあたり……やっぱりギルは何かとお得な星の下に生まれてきてんだよ」
「…………………」
表面的に見た場合、ギルバートのこれまでの人生というのは、フェザーライル・パブリックスクールという、こちらも国で一番と言われる寄宿学校へ入り、そこからストレートでユトレイシア大学に入学できているというあたり――ユトランド共和国のすべての親という親が羨むような学業成績でもあるわけである。そして、ギルバートの父親のテレンス・フォードは、この出来のいい息子を溺愛しているし、医学界でも高い地位を占めるこの父の世間体に泥を塗らないためにも、ギルバートとしては唯一女性関係については今後とも細心注意する必要があると思っているわけである。
「あ~あ。持つべきものは友ってのはほんとだな。俺、寄宿学校でも今の大学の医学部にも、友達ってやつはそれなりにいるんだ。でも、ロイやテディほどの繋がりを感じない。それはたぶん、成績が良くてプリーフェクトにも選ばれてるからギルには恩を売っとこうとか、俺の父親がヘルニア工場の工場長で金持ちだから、仲良くしとくに越したことはない……とかいう、そういう利害関係が一切ないからかもしれないな」
「考えすぎだよ。ギルは女遊びが激しい割に、男同士の約束みたいのがあった場合、絶対そっちを優先させたり、結局友情に厚い奴だからな。それで、みんなそういうおまえのことが人間として好きなんだ。簡単にいえばそういうことだよ」
「ロイ~っ、おまえってやっぱいい奴~!!」
ギルバートが突然がばっと抱きついてきたため、ロイは手にしていたポテトを落としそうになった。このあとふたりは、男だけの夏のバカンス旅行について計画を立てはじめ――テディの意見も聞くために電話したところ、「まだるっこしいから、ぼくもこれからそっち行くよ」と彼が言ったため、この日は最後に三人で風呂に入り、昔話をしてはげらげら笑いあったのだった。
>>続く。