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こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

永遠の恋、不滅の愛。-【33】-

2025年06月26日 | 永遠の恋、不滅の愛。

 

 今回、ここに何書こうかなと思ったんですけど……いえ、「ヴォーグで見たヴォーグ」について、本全体のことではなく、前文としてまとめられそうな程度の文章を一応書いてはいたり

 

 この小説、次回で最終回(予定☆)なものの、今回も次回も本文のほうがちょい長めなもので……前に書いた前文の文章が入らない、他に参考にさせていただいた本のことも書こうと思ってたものの、なんかうまくまとめられそうにないということで、どうしようかな~なんて(^^;)

 

 なんにしても、とりあえず今回のトップ画の本でも紹介させていただこうかと例の(?)月エレベーターに関して調べていた時、最初にすぐ出てきたわけではなく、たまたま偶然メルカリのほうで関連書籍として出てきて「」となった本でした。

 

 まだ読んでる途中なんですけど、とにかくめっちゃ面白いです確か本の届いたのがですね、「宇宙エレベーターじゃなかったら、何でテディとノア博士を月さ行かせるべ☆」ということで、「なんかもーテキトーだけどこれでいーやー」いう感じで、【31】をした三日後くらいに届いた一冊だったと思います。

 んで、「ライトスタッフ」という映画があってですね、簡単にいうとロシアが先に宇宙へ行ったもんで、アメリカも焦って宇宙へ行こうと頑張った――みたいな、宇宙開発黎明期のことがノンフィクションベースで描かれている映画と思います映画の主役はマーキュリー計画に参加した宇宙飛行士七名なのですが、飛行機でマッハを越えてどこまで行けるか……みたいな競争が最初に描かれていて、わたし、ここ見てて思ったんですよね。時代は1950~60年代くらいでもここまでいけたのなら、超音速旅客機とかそれを越えるもので将来的に宇宙へ行けるのかどうかとか、色々。。。

 

 そのですね、第1章のほうに飛行機では難しいとか、それが何故かの理由などについても書いてありました(^^;)それで、宇宙エレベーターは可能性アリだけれども、こういった問題点がある……といったことについても(笑いをまじえて)書いてあって、わたしにもわかりやすかったです。大体同じ日に「宇宙旅行はエレベーターで」も届いて、こちらはまだ軽く目を通した程度ですが、宇宙エレベーターについてより詳しく書いてあるといった印象で、ちょっと読んだだけでもすごく面白いです

 んで、肝心の3Dプリンター。こちらの本のほうにですね、わたしがより詳しく知りたかったことが色々書いてあって超興奮しましたその~、時々ニュースなんかで「3Dプリンターで△□を建設中」であるとか、聞いたりするじゃないですか。でもわたし的にずっと「どやって?」という細かいやり方のほうがですね、よくわからなかったわけです。その点、どういった形で建設していくのかが書いてありましたし、他にインクフードについての「どやって?」とか、臓器プリンターの「どやって?」についても詳しい説明がありました

 

 臓器プリンターについては、前に別冊ニュートンでiPS細胞について書かれたムック本のほうに、再生医療に関連して3Dバイオプリンティングについて書かれたページがあったため、大体のところ「なるほど~」と思ったりはしていたものの……さらに3Dプリンターに関しては「いつになったら宇宙エレベーターで月に行けて、3Dプリンターで臓器が作れるんだい!?」のほうに、「2040年の新世界~3Dプリンタの衝撃~」という本のタイトルが出てきていまして、わたしこれ、すぐ注文しました(^^;)

 

 2~3日前に届いたばっかりで、こちらも軽くしかまだ目を通せてませんが(汗)、最初のさわりをちょっと読んだだけでめっちゃ面白いまだちゃんと読めてませんので断言は出来ませんが、3Dプリンターの原理その他に関してはこちらのほうが詳しいと思います。また、こちらも「たぶん」ということではあるのですが、やっぱりタイトルに「2040年」とあるとおり、2040年くらいにはさらに「こうなってる」という予測が含まれてもいるのかな、という気がします。ただ、わたしの読む限り、かなり現実的な予測であるように思われるものの……確かに結構なところ「衝撃」であるようには感じたり

 

 まあ、わたし3Dプリンターに関しては「そんなになんでもかんでもうまく印刷できるかいな」と懐疑的な気持ちがあったりもするわけですが、でも、ここまで色々な造形のものをなんでも印刷できるとしたら――なんていうか、180度考え方が変わるのもほんとだな、とは今の段階ですでに思ったりはするのです。たとえば、わたしの頭の中に思い浮かんだ変な形の椅子やテーブルなど、下手くそな絵によって描いたものをAIに読み取ってもらい、それをより現実的なものとして存在できるよう補正してもらった場合、結構「いいもの」自体は出来ると思うというか(これは服や靴、バッグなど、その他生活必需品についても同じことが言えると思います)。

 

 問題はまあ、「で、それ作るのにいくらかかるの?そもそも、家庭用3Dプリンターとやらはいくらしてどこまでのことが出来んの?」といった話ですよね。でもこの点については、長い目で見た場合将来的には色々なものが安いコストで作れるようになるということなんでしょうし、最初のうちは高くついても3Dプリンターで「ここまでのことが出来る」というだけでも結構なところ驚きのような気がします

 

 なんていうか、何点か写真で紹介されているものを見ただけでも――造形美術的な意味で、「ほとんどなんでも可能」と言いますか、第1章にあるとおり「なにもかもSFになる」って本当にその通りみたいな感じがします。ええっと、たとえばこの小説は2097年頃が舞台らしいのですが(笑)、先にこっちの本読んでから書いてたとしたら、文章の描写として細かく書くかどうかは別として、室内のインテリアなどは本当にSF映画に出てくるような、かなりのところ奇想天外なイメージでもまるきりおかしくないんだなって思ったり(^^;)

 >>今から20~30年後の、あなたの人生……

 ……朝起きるつらさは、未来でも変わらない。

 キッチンから、焼きたてのパンの香りが漂ってくる。

 ダウンロードしておいた有名パン職人のレシピデータをもとに3Dプリンタがパンを「プリント」し終えたのだ。オーガニックで低糖な素材をおさめたカートリッジは、フードプリンタ用「グルメシリーズ」のひとつとして販売されていた。

 以前、祖父の結婚記念日用にと、奮発して上等なフードカートリッジを買ったことがある。そして、新鮮なマグロのステーキと、クスクスと、切るたびに違う絵柄が現れるクリームケーキをプリントした。

 祖父はその料理を目にして楽しむまで、なぜあなたが加工食品をプリントしたがるのか、理解できていなかった。

 フードプリンタの登場で、糖尿病に対処するのも簡単になった。

 保険会社が提供してくれた糖尿病患者用フードプリンタは、皮下に埋めた小さなインプラントから出る無線シグナルを読み取って、あなたの血糖値を管理する。朝一番のデータを受信して、調理される朝食の砂糖の量と栄養バランスを調節するのだ。

 

(「2040年の新世界~3Dプリンタの衝撃~」ホッド・リプソン&メリバ・カーマンさん著、斉藤隆央先生訳/東洋経済新報社より)

 

 まあ、といったような具合です

 

 そろそろ文字数限界なので、何やら色々中途半端にしか紹介できなかったものの――わたし、この二冊の本とも、実は350円ほどで購入しました

 

 ええっとですね、科学系の本などには時々、タイトルだけ見て「たぶん、わたしの知りたいことが書いてありそう」みたいに思ったものの、値段がちょっと高め――の場合、わたし、迷わず古本でも内容読めればいいのでそちらを買うことにしてます(^^;)

 

 なんでかっていうと、高い本だったにも関わらず、専門的でよくわかんない文章が並んでるだけだったりとか、たま~にあったりするからなんですよね。あるいは、わたしが知りたかったこととは微妙に的を外したことが書いてあるだけだったとか……でもこちらの本は二冊とも帯付きで新品同様でありつつかつ、内容については知りたいことが書いてあった――という意味で、超お買い得でした!!

 

 なんにしても、小説のほうについては、次回で最終回です♪

 

 それではまた~!!

 

 

       永遠の恋、不滅の愛。-【33】-

 

 ある報告によれば、今この瞬間も地球からは1分間にサッカー場30面相当の肥沃な表土が失われているという。いくらインクフードなるものが生まれ、人工培養肉が安価で美味しいものになったとはいえ――我々人類は今も食物の90%以上を大地からの生産に頼っている。しかも、一度失ったこうした『土』を自然が育むには何千年もの時を必要とするのだ。また、これは今ほどペーパーレス化が進んでいない頃の統計ということにはなるが、1995年から2010年の十五年間に地球から火星までの距離(約2億2千5百キロメートル)木の橋をかけられるほど、アメリカだけでも木材を消費し、地球からは緑が失われたという。

 

 地球における植物たちの生存競争というのはなんともいじましいものだ。地に種が落ちても、その多くは育たない。それでも彼らは慎重に時が熟すのを待ち、環境の整った場所に運良く芽を出したものだけが成長を許され、その後さらに子孫を残してゆく。こうした大地を育むための水は一体何兆ガロン必要なのだろうか……とつい想像してしまうが、地球規模で見た場合、植物が消費する水というのは少ないくらいだという。つまり、必要最低限のいじましい量の水だけで生きようとする緑や樹木や花の邪魔をし、大量に水を消費したり汚染する人間というのはいかに罪深い存在か……そんな話でもあるらしい。

 

 俺はかなり昔のものまで遡って植物学者や地質学者と呼ばれる人々の論文を読み、二酸化炭素を減らし、海流の変化を正常に戻し、海水温を下げて永久凍土がこれ以上後退しないようにする方策について環境特化型AIによってシミュレーションを繰り返した。これは地球環境科といった学科のある大学でも一般に使用しているものではあるが、俺は自分でもシミュレーションして確認を取ると、「間違いなく長期的な目で見れば効果がある」ものの、資金難によってプロジェクトが停滞している研究所などに金を寄付することにした。無論、自分の持っていた例の百万ドルではない。ノア・フォークナー博士に相談し、「こうした時、どういった形で行動を起こせばいいのでしょうか?」と訊いたわけである。すると博士は、「篤志家の寄付ということにしてもいいけど、長期に渡って出資し続ける場合は『一体何者なのだろう?』と不思議がられ、素性を調べられる可能性が高いからね。ほら、向こうは向こうで資金の流れについて明細を出す必要があるだろうし……だから、その筋のいかにもな人物と連絡を取るといいよ。こういう時にも世界中に散らばる裏のCIAは役立つ。ある企業の名前だけを借りたいといった時、大抵の場合彼らのほうで簡単に話のほうをつけてくれるからね」――といったように教えてくれた。

 

 こうして俺はその後長きに渡り、地球の環境保全問題に熱中した。実をいうと地球は百万年前の昔に遡り、十万年の氷期と一万年の間氷期を繰り返しており(当たり前のことを言うようだが、この氷期と間氷期を合わせたものが氷河期である)、それは地球の公転に関係しているため、今まではきっちりとしたサイクルで間違いなく繰り返されて来た。我々のご先祖さまが存在していた今から約二十万年から十五万年前にも氷期や間氷期はあり、最後の氷期の終わったのが約一万三千年前と言われている。そして今は再びいつ間氷期から氷期へ移ってもおかしくない時期が再び来ているというのに――温暖化により、どうやらそのサイクルに狂いが生じているようなのだ。何を言いたいのかというと、正直なところ俺は「単に無駄なことをしているだけなのかもしれない」という自覚のほうは最初から持ち合わせていたわけだった。つまり、今は間氷期で比較的温暖な時期に地球は当たっている。だが一度氷期に入ると、気温のほうはやがてマイナス十五度ほども下がりゆき、今までの生活を維持したい人間は困るだろうし、それは他の動植物もそうだろう。だが、こうした形によって地球それ自身がいわゆる<自浄効果>とも呼ぶべきものを持っているのではないだろうか。

 

 今この瞬間も北極やグリーンランドの氷が解け、海水が増えるのみならず、海水温の上昇により生態系に狂いが生じている。俺はいくつかの大学や環境研究所を持つ企業などに資金を投入し(ノア博士の言うとおり、我々のような科学組織にとって金とはただの数字的概念にしか過ぎない)、北極や南極やグリーンランドの空と氷の間にシールドを張ることにしたのである。このシールドのせいで地上が暗くなるということはなく、これ以上氷が溶けださぬよう熱量を遮断・コントロールするためのものだった。当初、ある科学系の雑誌や新聞などでは「ガン細胞に苦しむ地球に絆創膏を貼る試み」として揶揄されたが、最初にシミュレーションした通り、効果のほうは年を重ねるごと出ているのは確かだった。

 

 他に、国境を越えたあらゆる国々において、ナノサイズの人の目に見えぬ超々小型の精密機械によって傷んだ森林を癒したり、どの国においても穏便に済む形で気象装置を操作するなど(このあたりの計算はすべてAIによる自動制御である)――このあたり、AIの作成した計画書に忠実に従ったからこそ、翌年には二酸化炭素濃度が2%下がったのか、それとも本来であれば3%上がるところが1%上がるに留まったのかなど、正直なところはっきりしたことはわからない。

 

 だが俺は、海からメタンガスを減らしたり、珊瑚の森を甦らせたり、海の掃除屋オオグソクムシよろしく、深海の大掃除を骨折って行ってみたり……サハラ砂漠から大西洋を渡り、アマゾンの熱帯雨林に鉄分が十分運ばれていないようだと検知すると、森に必要な栄養分を行き渡らせるようにもした。気象装置についてはもっとも扱いが慎重になったが、ハリケーンが大きくなり、被害が甚大になるとAIがシミュレーション結果を出すと、それがまだ小さく処置が可能な間に災害が起きぬよう進路を変えさせるなど、出来ることは色々あった。とはいえ、ハリケーンやゲリラ豪雨の増加といったことは、元の原因は海水温の上昇にあると言われるように(言うまでもなく、このこともまた温暖化の影響によるものだ)――根本のところにある問題を解決せぬ限り、対症療法にしか過ぎないことではある。

 

 俺がこうしたことを始めたのは、確かに月から美しい地球を眺めたことがきっかけではあったけれど、とはいえ俺は「地球が泣いてる」とか、「地球が悲鳴を上げている」といったように思ったことはない。いや、少しくらいはそんなふうに擬人化して考えることは時にあったし、そうした考え方をする人々は心優しく繊細なのだろうとも思っている。だが俺はあまりそう感傷的な人間ではなく、すべては自分のためにやっているに過ぎないことだった。俺にとっての「愛しいミカエラ」がいなくなってしまってから……俺は心にぽっかり空いた穴をなかなか埋められずにいた。そこへ、『あの青く美しい星をなんとしてでも守らなくては……』という、ある意味偽善的な思いが忍び込み、そうしたプロジェクトに熱中する間、俺は自分の伴侶を永遠に失ったことも、ラファエルと正式な父親として会えないことについても一時的に忘れることが出来た。<運命の転轍機>は、どんなに人間が頑張ったところでそれを掌中に収めてコントロールすることは出来ない。それがもし戦争といったような歴史的出来事でなかったにせよ、個人レベルの人間の人生ですらそうだ。その単純すぎるほどシンプルな事実について、「地球の環境を少しでもよくする」事業に取り組む間に……俺は本当の意味で受け入れることが出来た気がする。

 

「本来であれば、こうなるはずだった自分の未来」――そんなものを何かの理由で捻じ曲げられたのは、人類史はじまって以来、俺が初めてというわけでもない。それはわかっていた。もっとひどい環境下で生きることを強いられ、後世の人々の目から見て結局のところ犬死にしたようにしか見えない人々だって今までたくさんいたことだろう。そうした人々に比べたら、自分が今悩み苦しんでいることなど些末なことだと、どうにか言い聞かせようとして出来なかった。けれど、これもまた他の人間にはまったく理解不能だったことだろうが、俺は環境シミュレーション装置の中の地球を見るうち、その表面上を例の星屑と月虹の舟に乗ってミカエラがぐるぐる周っているように感じはじめていたのだ。そして彼女は時々、俺に向かって手を振る。『テディ~!!どうしてそんなところにいるの~?こっちは悩みも苦しみもなくて、いつでも幸せに楽しく過ごせるのよ。あなたも速くこっちへやって来たらいいのに』そして、地球の裏側へ行って見えなくなる時、ミカエラはやっぱりまた名残惜しそうに手を振るのだ。『テディ~!!大好きよお~。またもうすぐ会いましょおねえ~』と……そして、そんな夢を見た時、俺は俺らしくもなく感傷的な気分になり、環境シミュレーション内に浮かぶ、美しい地球を見ながらこう思った。もしかしたら少しばかり自分の住む星のために善いことをしたから、そんなプレゼントを彼女(地球)が与えてくれたのかもしれない……と、何かそんなふうに。

 

 ここオカドゥグ島の研究員たちが、それが不老不死の研究に関わるものであれ、アンドロイドのそれであれ、サイバー兵器の研究であれ、その他なんでも……お互いに多少なり技術的に被るところがあり、そうした意味で敵対関係というほどではないが、多少なりライバル意識があって競っているところがあるというのは事実だった。もっとも、それゆえに食堂などで顔を合わせてもお互いの姿が見えていながらしゃべることさえ滅多にない――ということではないらしいのだが、その点俺は彼らのやっている研究のうち、どこにもほとんど関わりのないことを専門にしていたわけである。

 

 俺自身はまったく意図しないことだったが、研究員たちは成果の確かめようのないことに俺が血道を上げていると思ったらしく、「そんなことして一体どーすんの?」といったように、よく話しかけてきたものだった。俺のほうでは単に「だけど、この地球の環境がどうかなったら、君たちがいくら優れた研究を続けたところで意味なんかないんじゃないか?」と、至極まっとうなことを口にするのみだった。けれど、彼らはそれ以上は特に何も言わず、ただ肩を竦めて答えの代わりにしていたものである。

 

 最初は「一体いつまで続くやら」と危ぶまれた俺の地球環境保全計画だったが、その後十年、二十年……と続けていくうち、他のラボの研究員たちの中にも興味を持つ人々が出てきた。アフリカでは絶滅寸前だった動物たちの数も増え、アマゾンの密林では緑が潤い、ハリケーンといった気象災害も減り、海洋汚染のほうも浄化が徐々に進んでいった。俺はこうした研究を長く続け、実行に移し続けたことで――結果としてその後、二十名ほどの部下を持つラボの所長のような存在となり、他のラボの研究員たちとも概ね良好な関係を築き、その友好関係を保持していた。

 

 ゆえに、その後さらに時が経ち、二百年ほどが過ぎた時……ノア・フォークナー博士は、俺にこの科学機密機関の長としての座を譲り、とうとう永遠の眠りに就いていたのである。もっともノア博士は、IQが250程度ある人間の十兆倍も賢いAIの中に、彼個人のバランスの取れた道徳観や倫理観を反映した、一部博士の人格に近いものを超AIとも呼ぶべき人工頭脳の中へ残していたのである。これはノア博士の本意ではなく、彼自身は自分の痕跡が一切残らぬ完全死を望んでいたが、人間の十兆倍も賢くとも、その一部には人間性に近いものがパーツとして必要であるとわかった時――研究員たちはみな、ノア・フォークナー博士のそれを望んだわけである。

 

「結局のところあれは、僕でもなければ僕の残骸でもないまったくの別物だから、べつにいいっちゃいいんだけどね」と、最後に、これまで生きてきた三百年もの人生を移した生体チップを俺に渡し、博士は白い棺に納まると、その中で痛みも苦しみもない眠りに就き、最後には細胞レベルで凍りつくと、それが粉々に砕かれたことにより絶命していた。「一応、この生体チップをアンドロイドの人工組織にでも埋め込めば僕という人間は復活する。でも、それはあくまで最終手段と思ってくれないか?この地球が滅亡するであるとか、よほどの事態でも起きない限り……僕のことはもう二度と起こさないでくれたまえ」――これがノア・フォークナー博士の残した、唯一最後の遺言であった。

 

 俺には博士のように天才的な頭脳があったわけでもなんでもなかったが、「野心のない奴」、「自分たちの研究に害を及ぼさない奴」、「人間として割といい奴」……といったような奇妙な理由によって、また今後は超進化した第二のノア・フォークナー博士の人工知能に組織的決定についてはお伺いを立てれば良いということもあり――俺自身は彼の補佐役といった形で、総帥の椅子に座ることになったわけである。

 

 とはいえ、あれから二百年もの時が過ぎた頃、最早生きた人間にはさしてすることはなかったかもしれない。おそらく、こうした組織においては誰かしらが今俺のいる地位に就きたがるものであり、そのために愚にもつかぬ権力闘争が繰り返されたり、派閥同士で互いに互いを牽制し合ったりするのではないか……と、そのように想像するのが普通だったろう。だが、不思議に思われることだろうが、誰もそこまでのエネルギーを持っている者はすでにいなかったのである。また、誰が組織の長に就くべきかなどもAIに聞けば確率論的な答えが返ってくるものであり、人々はそうした決定に従うことに慣れてしまっていた。それぞれ個々人が抱えている研究課題以外にさして関心を持つでもなく、全体を俯瞰して見ることの出来る統括者の地位に興味がないわけではないにせよ、すでにそれはある意味誰が就任しても同じような地位でもあるわけだった。

 

「わたしはあなたであり、あなたはわたしである」――いまや、この研究所の組織員たちは、誰しもが自分の頭脳よりも数兆倍も賢いというのがどんなことか、垣間見ることの出来る技術を持っていた。無論そんなことをすれば、一般の人間の生身の脳では情報処理が追いつかず、発狂してしまうと想像されることだろう。だが、自分の生身の限界ある頭脳を他の制御装置に繋ぎ、そこからまたノア・フォークナーⅡ世へとアクセスするなら……そこで、すべての研究員たちは心・精神・魂だけのような存在としてコミュニケーションをはかることが出来るのである。

 

 オカドゥグ島のものほど技術レベルは高くなかったにせよ、地上の国々においてもそのような研究は進んでおり、結果として戦争をなくすことが出来るだろうと想定されていた。サイバー戦争による危機であれば何度となく経験していたにせよ、壊滅的な事態を防ぐために、裏のCIAは実にうまく機能していたものである。こうして、平和でより良き未来というのは段階を経て着実に訪れ、人類はいまや太陽系外にまで可能性を求めて進出を果たしていたわけだった。

 

 もしかしたら一応ここで、俺とミカエラの息子ラファエルがその後どうしたかの説明が必要になるかもしれない。俺はその後、一年に一度、ラファエルの誕生日にだけ、彼が幸せかどうか、何か困ったことはないかとアンドロイドをハッキングするなどして様子を見ることにしていた。ミカエラ・ヴァネリはその後、四十二歳でオペラ座のエトワールを引退すると、スイスのアーウィン・バレエ団のほうへ籍を移し、その後もバレエダンサーとして世界中のファンを魅了し続けていたようである。ルネとの愛情やパートナー関係もうまくいっているようで、俺は年々彼らが息子を挟んで幸せそうな様子をしていることに――以前はまったく考えられないことだったが、最早苦痛は感じず、毎年ほっと安堵するものすら感じるようになっていたものである。

 

 実をいうと俺はラファエルが七歳くらいの時、一度だけ会いにいったことがある。両親が天才的なバレエダンサーであったりすると、息子にもその遺伝子が受け継がれていると期待されるものなのだろう。だが、ディアナが「あの子はまったく才能がないわね」と首を振りながら断言するのを聞いた時……俺は父親として実に胸が痛んだ。明らかにその点においては、ミカエラの遺伝子よりも俺のそれの発現が阻害要因になっているのでないかと思われたからである。

 

 それまでもラファエルが、幼い頃から特に宇宙に興味があるらしいとは、誕生日に見た様子からわかることがあった。俺はパリへまだ赤ん坊だった彼のことを抱きにいった時、ルネに月旅行のお土産として月の砂の入った小さな瓶を渡していた。何故かラファエルはそのレゴリスの砂を大切にしており、誕生日にVR月旅行パックであるとか、火星探検パックといったものをプレゼントされると実に喜んでいたものである。火星探検パックに至っては、ストーリーがあってゲーム感覚でミッションをひとつずつ果たしていくのだったが、幼い彼はその世界に随分夢中になっていたようだった。

 

 一度だけ会いにいった……などと言っても、俺は息子に対して具体的に父親として何かしたわけではない。ただ、火星や木星の小惑星群の開発が現在どのくらい進んでいるか、土星の衛星開発のことや、いずれ我々は太陽系の縁にあると言われるオールトの雲すらも越え、太陽系外へと進出していくことだろう――といったような、宇宙のうんちく話をして帰ってきたというそれだけだった。

 

 これはあとからわかったことだが、ラファエルがのちに宇宙飛行士を志したのは、父親である俺が月の砂を残していったことや、「バレエなんかもうやめたい」と心底思っていた時に、突然現れて宇宙のことを色々話してくれたおじさんがいたこと――ルネが「もしかしてテディだったんじゃ……」と察し、彼にそのことを語ったことなどが、多少なり関係してなくもなかったらしい。この日以降「お母さん、バレエのことでは僕のことは諦めて!!」とラファエルははっきり宣言し、DNA選別によって自分に向いている職業のひとつとして出ていた<宇宙飛行士>のところに赤ペンで何回も丸を描くと、それを再び学習机の下のほうへしまったわけだった。

 

 けれど、その約三十六年後、ミカエラと自分の息子がまさか本当に宇宙飛行士となり、人類として生まれて初めて冥王星の地を踏んだ人物として歴史に名を残すことになるとは……俺は想像してもみなかった。彼にはすでに子供が三人いて、俺はおじいちゃんでもあり、テレビに家族の様子が映しだされると、なんとも言えない気持ちで胸がいっぱいになった。

 

(ミカエラ、見ているか、ミカエラ……!!俺たちの息子が人類史上初めて冥王星の土地を踏んだぞ……っ)

 

 もちろん、ミカエラ・ヴァネリは夫のエルネスト・アーウィンと一緒に、スイスの自宅から息子ラファエルのことを見ていた。そして、小さな頃からバレエのことで厳しくしたことについては悪かったと思っている……などと嬉し涙を浮かべながら謝罪していたのである。

 

『いいんだよ、お母さん。それに、お父さんも……俺のことを今まで育ててくれてありがとう』

 

 実際には冥王星から通信が届き、それがまた地球からのメッセージとして返信が向こうへ渡るには四十分以上の時間がかかる。ゆえに、テレビ中継はライブでなかったこともあり、おそらくは編集されたものではあったろう。けれど、そんなことは関係なく感動的なものとして世界中へ届けられたはずだった。

 

 ある意味、ここから俺の第二の人生ははじまったとも言える。ミカエラ・ヴァネリもエルネスト・アーウィンも、深刻な病気になる前にそうした要因をすべて防ぐナノロボットを体内に入れており――この目には見えぬサイズの超々小型ロボットが「この時点で死亡するのがもっとも苦しみが少ない」と判断した時期を受け容れ、さらにはお互いの死亡日時まで合わせ、ふたりはまったく同じ日と時を選んで死に、隣りあった墓のほうへ納められていたのである(ふたりともすでに百歳を越えていたが、まるでオペラ「アイーダ」のようだと俺は思った)。

 

 ラファエルもまた、肉体をさらに強化・改造して長生きをし、今度は太陽系外へまでも飛び出すぞ……とまでは考えていなかったらしく、その後は欧州宇宙局にて最新型の宇宙船エンジンを開発するため、技術部門の長となっていたようだった。けれど、彼の宇宙飛行士としての遺伝子は、子や孫、曾孫へと伝わったらしく、ラファエルの曾孫のガブリエラ・アーウィンはプロキシマ・ケンタウリ開発調査団に名を連ね、ここで宇宙の輸送における技術的限界点を超える出来事があり、ガブリエラの玄孫はアンドロメダ銀河開発調査団の一員となっていたものである。

 

 さて、俺がその後四万年も生きた――ということの意味の一端が、これでおわかりいただけただろうか?確かに、自分のことを祖先として記憶してもいない自分の遥か先の世代の子孫たちが死亡してのちも俺は肉体を替え生き続けていたのだから、ある意味このことは異常なことだったに違いない。地球において、例の科学機密機関はやがて存在する意味を失い、自然と瓦解する道を辿った。それ以前に俺は総帥の椅子を別の「彼女ならば相応しい」と感じる人物に譲り、まずは火星や木星の小惑星群、それから土星や天王星の衛星、さらには冥王星へと……独自の技術で生み出した特殊な宇宙船によって旅をするようになっていた。

 

 俺にこの意識の変化をもたらしたのは、何よりラファエルが冥王星の地を踏んだこと、それから彼の子孫らが必ずほとんど宇宙に興味を持ち、類まれなるフロンティア精神によってそこを開拓しようとしていったことが大きい。簡単にいえば、俺は彼らのことが心配だった。そしてあのまま地球にいたのでは、火星に移住した孫のひとりがその後どうしたか、さらにそこから枝分かれした子孫が木星の小惑星群でどのように暮らしているのか――どうしても確かめずにはいられなかったのだ。こうして結局、プロキシマ・ケンタウリに都市が建設された時にもそこへいたし、アンドロメダ銀河へ自分から数えて三十三代目の子孫が旅立つという時には……同じ宇宙船に乗ってさえいたわけである。

 

 こうして地球人類が宇宙の遥か彼方まで旅する間、俺は自分の血に連なる者が存在し続ける限り、そのあとを追っていき、ある時は命の危機を助け、友情を結ぶこともあれば、恋をされそうになり姿を消したこともありと――色々なことがあった。無論、そんなこんなでハッと気づいたら四万年もの時が過ぎていた、などと言うつもりは俺にもない。それでも、遠く宇宙から宇宙へ、惑星から惑星へと旅する間、コールドスリープによって長く眠っていたりと、そうした実際には起きて活動していない時間までも加えると、宇宙において四万年という時は果たして長いと言えるのか?という、そうした話でもあったろう。

 

 アンドロメダ星雲からさらに外の銀河系外惑星へと人類は進出してゆき、その後ある時、母星である地球が滅んだと聞き、俺は一度だけそちらへ戻ったことがある。ノア博士の創設したあの科学機密機関は自然と瓦解する道を辿ったわけだが、数は少ないながらも俺には今も肉体を替えて生き続けるそちらの筋の友人がいた。彼らもまた、同じように宇宙船によって旅を続けていたり、他の惑星へ一時的に腰を落ち着けていたりと、その消息のほうは様々だった。

 

 その中のひとり、火星へ移住して軍諜報部のほうへ籍を置いている元同僚が、「地球がなくなった」ということを教えてくれたのである。「驚くなよ。いや、そう言われても驚くか。テディ、君があれほど大切にしていた地球が……一瞬にして滅んだんだからな。まあ、あれから一万年もの時が過ぎ、昔は人口爆発で人類は他の惑星へ移住を余儀なくされるとか、人工知能に乗っ取られて滅んでいるだろうとか、環境悪化により人間の住めない惑星へと変わっているだろうとか、色々なことが予測されていたが――結局、ブラックホール発生装置によって文字通り消えてなくなったんだよ」

 

「まさか」と、俺はエイプリルフールに真っ赤な嘘でも聞いたような気分で呟いた。だが、無論わかってはいた。彼――レイ・ロドリゲスは苦労して俺の消息をつかみ、わざわざ連絡してくれたのだったから。「だって、ブラックホール発生装置なんて、今じゃちょっとした宇宙ゴミの片付け程度にしか使われていないはずだからな。それよりは、反物質兵器から地球と同じ質量のエネルギーが放射されたことにより地球は滅んだ……とでも聞いたほうが、俺としちゃ少しは説得力がある」

 

「もちろんわかってるよ」と、レイは深く頷いて言った。彼は昔はココナツクリームのような肌の黒人だったのに、今回は東洋系の黄色人種として生きることにしたらしい。「こんな話、俺がテディの立場でも到底信じられやしないものな。だが、これが現実なんだ。俺たちの予想じゃ、地球は戦争によって滅ぶ確率がもっとも高いように思われた。何分、多くの国が核を越える兵器を持ち、俺たちは核兵器のみならず、ナノ兵器をも瞬時にして解除するための措置を講じるべく動いていたんだから。それでも何かのミスや不手際が生じれば……その後即座にではないにせよ、地球は死の惑星になる可能性が高かった。その他、恐竜が滅んだ時のような隕石がやって来ようとも、破壊の手段を講じられるだけの科学技術も完成させていたっていうのに――ブラックホール発生装置だって?なんだそりゃって話じゃねえかよ」

 

「何故どうしてそんなことになったのか、理由はわかっているのかい?」

 

「表向き、反地球テロリストグループの仕業ってことになってるが、実際の事情は違う。何分、一度地球を離れて別の惑星へ移住したとなりゃ、次の世代のガキどもにとっちゃそこが母星ってことになる。もちろん、自分の両親や祖父母や高祖父やら高祖母やら……祖先にとっての母星ってことはわかってるし、何より地球は美しい。ただその一事の理由によってだけでも攻撃しようなどとは誰も考えぬほどに。けどまあ、地球はその後特権階級だけの住む、一度外の惑星へ出ていった人間どもには冷たい場所になった。いや、そうせざるを得なかったのよな。いくら外からの宇宙船から戻ってきた人間どもを消毒しようとなんだろうと、ウイルスってやつがほんの微量残ってただけで致命的な病いの流行ることがわかったからだ。何分、癌なんてものも病いの皇帝の座から引きずり下ろし、エイズにもマラリヤにもワクチンが出来、その他どんな病気のことも創薬マシンが新しい薬を生みだして治療してしまう。まあ、人それぞれ色々事情というやつはあるだろうが、地球を出ようとしない人間どもというのはすっかり臆病になっちまって、己の幸福な現状維持だけを考えるひ弱な存在に成り果てちまったわけだ。だが、一度外惑星から戻ってきた人間どもが原因で、このまま人類は滅ぶのかというくらいのウイルス性の病いが流行して以降――地球への渡航はなかなか許可されないことになった。そこと、俺たち火星もそうだが、外惑星連合との摩擦ってやつは長いことあったとはいえ、ブラックホールにあの美しい地球を飲み込ませるなんざ、それが誰であれ気違いとしか思えんし、赦すことなぞ到底できん」

 

「それで……一体誰が本当の犯人なんだ?」

 

(事と次第によっては、宇宙の果てまでもその人物、あるいはグループを追っていき、目にもの見せてくれるぞ)と、俺は内心でそんなことを考えていた。俺は今までの宇宙旅行ですでに何度か死にかけるほど危険な目に遭っており、性格のほうも随分ワイルドなほうへ変わっていたのだった。

 

「昔の俺たちみたいな組織が、いまやこの宇宙の影の支配者みたいになってるらしいぜ」

 

「ええっ!?そんな組織が何故地球を滅ぼすべく動くっていうんだ?少なくとも昔、地球の裏の支配者とも言える俺たちっていうのは、地球やそこに住まう人類の平和に貢献するためにこそ存在してたっていうのに」

 

「俺は火星の軍の諜報部にいるんだが、そちら経由でも情報が制限されていて、正体のほうはよくわからないんだ。で、俺はこういう仮説を立てた……俺たちのあの地球における裏の組織ってのは、<不死クラブ>とか<ジ・イモータル>とか、<ビッグ9>とか、くだらん変名をいくつも使っていたが、その影の宇宙組織の変名のひとつが<ビッグ13>とかいうらしい。まあ、ただの偶然だという可能性もある。だが、こうは考えられんか?テディ、おまえも俺もあれから一万年経った今も、こうして生きてる。まあ俺も長く宇宙を旅して火星まで戻ってきたもんでな、その間ずっと起きてたってわけでもねえし、何より宇宙って場所じゃ時間の流れ方が違う。というわけで、俺たちのうちの生き残りの誰かが――今度は宇宙における影の支配者とやらになって、何かの理由から地球を消したんだ。わかるか、テディ?昔、これは俺たちの間でも懸念されていたことだ。長く生きるうち、AIの弾きだす計算結果こそがもっとも正しいとして、神の声にでも従うみたいに、よく考えもせず使徒としてそれを実行に移してしまうというな」

 

「他にも、地球が消えて栄える惑星はあるんじゃないか?それに、一部の特権階級の支配による歪みであるとか、問題なら地球の抱える政府にだっていくらでもあった。つまり、現在の宇宙の全体像を引いた位置から見た場合……もはや地球というのは我々人類の首都、あるいは首惑星かい?そうしたものとはなりえないにも関わらず、やはり母星として大切な場所であることに変わりはなかった。だが、地球さえなくなれば、他の星が地球になりかわるような重要な惑星になりうる……その線における可能性はないか?」

 

「まあな。だが、その場合一番疑われそうなのは我らが火星といったところだ。とはいえ、俺は軍の諜報部にいるからこそわかるんだが、この場合火星はシロだぜ。となると、太陽系惑星連合のうち、くさいのは冥王星のカイパーベルト独立軍……いや、あいつらにはそこまでの資金もなければ優れたリーダーもいやしねえ。むしろ、そういうところのテログループにあちらさんは罪をなすりつけようとしてるんだからな」

 

「なるほどな。それで、レイ、君は俺を含め、今も――まあ、この場合は<ビッグ9>としておこうか。地球の裏の組織だった我々の生き残りのどれくらいとコンタクトを取れたんだ?」

 

「テディ、君でちょうど十三人目さ」と、通信画面の向こうのレイは肩を竦めている。「十三ってのはたまたま偶然だがな。オカドゥグ島の研究員で今のところ連絡のついたのはおまえで最後だよ。他は消息不明か、あるいはある段階で死を選ぶか何かしたってところだ。それで、少しばかり話して腹の探りあいをしただけでわかる……みんな、俺がレイ・ロドリゲスであることがわかると、懐かしがって泣いちまったりとか、何かそんな感じなんだ。また、現在どこでどうしてるかってことを聞いただけでも――実はそんな宇宙の裏機関に所属していて協力した、なんて雰囲気ではまるでないって感じだし」

 

「わかるよ。俺たちの中に、この超科学技術によって地球の支配者になろうなんていうクレイジーな奴はひとりもいなかった。一応理論上は永遠にも近く生きられるにしても……むしろだからこそわかるんだ。そんなことをして一体なんになるということがな。昔読んでたSF小説なんかじゃ、そんな宇宙の帝王だの支配者だのいう存在が出てきて「あのお方」なぞと呼ばれていたもんだったが、こんなだだっ広い宇宙を本当に治めようとするだなんて、実際のところただの気違い沙汰だぜ」

 

 ここでレイは「まったくその通りだ」と言って、アッハハと愉快そうに笑った。

 

「とにかく、テディ、こうしておまえと話せて嬉しかったよ。あの時代、オカドゥグ島の研究員たちにとっておまえはアイドルみたいなもんだったからな。みんな、テディのことが好きだったし、おまえが無邪気にわかんないことを順に聞いてまわったりしたからさ、本来ならわざわざ一から説明したりしないことも、「そんなことも知らねえのか」って態度になるでもなく教えたり……天才級に頭のいい連中ってのは、ちょっと気位が高くて性格に難があったりするもんだけど、テディはスポンジみたいにうまく間に挟まって――いや、違うな。この場合は緩衝材かな。そんなふうに特段意識もせず、みんなのことをひとつにまとめることが出来たんだよ」

 

「そんなことも全部、結局のところはノア・フォークナー博士あってのことさ」俺は照れくさくなって、軽く頭をかいた。「だが、地球が消えて、消えたあとのぽっかりした虚空を見せられても……フェイク画像でも見せられてるとしか思えないものだな。近いうち、一度そちらへ戻って確認しようと思う」

 

「本当かい!?じゃあさ、火星を通る時には必ず連絡してくれよ。ほんの短い間でもいい。少しでいいから話でもしようぜ。昔、オカドゥグ島でよくそうしてたみたいに……」

 

「ああ。俺もレイが今どうしてるのか、詳しく知りたいよ」

 

 ――とはいえ、地球から遠く離れた座標に宇宙船が漂っている以上、普通に考えた場合、軽く十年以上は帰還に時間がかかったことだろう。だがその後、ワームホールと太陽系惑星との間を繋ぐ航法が開発されてから、時空間を飛び越えることで移動にかかるコストを相当減らせることがわかったのである。こうして俺は、一番近くに存在するワームホール・ステーションへ出向くと、水星と金星の間まで、約一年ほどもかからず到着することが出来ていた。

 

 けれど、地球がその昔あった場所にないことを確認すると、俺は自分が実は間違った水星と金星の間に飛び出たのではないかと疑わざるを得なかったものである。レイの話では、人工的に発生したブラックホールは、地球を飲み込んだあとも存在し続けているため、付近ではパトロール船が見張っていて、近づきすぎると警告を発して拿捕されるという話だったのだが。

 

 そして俺は、地球が消えたことが夢ではないという証明のために、そのまま火星へ向かった。そこのドーム内にある星都イクサスにて、その昔3Dプリンターによって建設されたという、まるで神殿のようなレイ・ロドリゲスの個人宅へ招待されたというわけである。

 

 

 >>続く。

 

 

 


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