さて、このお話たぶん、次回で最終回なんですけど……そんなわけで、ここの前文にも何書こうかな~なんて(^^;)
とりあえず、萩尾先生関連でいうと、HKの漫勉がようつべに上がってたので、それ見ましたww本当はこれ、不正視聴なんでわ……と思うものの、他に清水玲子先生や他の漫画家さんのもつい見てしまいましたm(_ _)m
いえ、こちらでも例の手塚先生の『新選組』の件に関して言及があって、萩尾先生17歳の時でしたっけ?親友同士が殺しあうことになってしまい、どうにかその事態を避けることは出来なかったかどうか、もう何通りもの物語の組み合わせを考えたみたいな(ある意味これもタイムリープみたいなものですよね^^;)。
これは漫画家さんでも作家さんでも、あるいは映像作家さんとかでも、みんなそうした初期衝動みたいのがある気がします。たとえば、清水先生が萩尾先生の漫画を読んで、萩尾先生のような漫画家になりたいと思ったのにも似て――誰かの作品を読んだり見たりして感動したことが、「わたしも同じように誰かに感動を伝える作品を描きたい!」という激しい情熱や衝動に取って代わるという。。。
それで、自分的に萩尾先生の回で一番驚いたのが、「一日ひまがあったらずっと絵を描いているわけです」というところだったんですよね。それは歌手の人が毎日歌を歌ったり、お笑いの人が毎日ネタを考えているのにも似て――「やめなさいと言われても、やめられるもんじゃないですね」と、当たり前のようにあっさり言ってる萩尾先生を見て、つくづく天才だなって思いました(^^;)
いえ、やっぱりそこらへん、プロになっちゃうと大変と思うんですよね前に少し感想書いた『ルックバック』に>>「だいたい漫画ってさあ……私、描くのはまったく好きじゃないんだよね。楽しくないし、メンドくさいだけだし、超地味だし。一日中ず~っと絵描いてても、全然完成しないんだよ?読むだけにしといたほうがいいよね。描くもんじゃないよ」みたいなセリフがあって、これってほんとにそうだなって思うんですよ。漫勉の時は萩尾先生『王妃マルゴ』を連載中で――わたしまだ読んでないんですけど(汗)、でも時代考証のみならず、当時の衣装とか、特に女性のドレスなんて描くの、本当に大変と思うわけで……でも、本当に「こういうものを描きたいんだ!」っていう情熱がずっとあるわけですよね。しかも萩尾先生の場合、その情熱にデビュー当時から衰えや陰りのようなものが作品自体を見る限りまるで見当たらないというあたり――本当にすごいなあとつくづく思ってしまうわけです
んーと、これは清水玲子先生の回もそうだったんですけど、清水先生の場合も絵のほうが美麗すぎて、いくらアシスタントさんがいるとはいえ、「こうした情熱がよく続くなあ」みたいについ思ってしまうんですよね。ただ、『秘密』はストーリー的に質の高いことが多いので、その伝えたいストーリーのために、それに見合ったクォリティの高い絵を……とか、そうした情熱については少しくらいはわかるんです。でも、やっぱりそのネーム作ってる時の苦労たるや――いえ、人間頭の中で妄想してる時が一番楽しいっていうのがあるので、この「ああでもない、こうでもない」作業が苦しいのと同時に、時として快楽を伴うくらい楽しい……いわゆる創作の苦楽しいについても一応わかるとはいえ――でもまあ、本当にすごい世界と思うわけです(^^;)
その~、これはあくまでわたし的に思うにっていうことではあるんですけど……萩尾先生はずっと御両親の漫画に対する反対ということがあって、『ポーの一族』といったヒット作が出るまでは漫画家として苦しんだところがあったと思うんですよね。それで、清水先生の場合は一度社会人になったけれど、漫画を諦めきれず、デビュー後、仕事がない時期も大好きな歌舞伎のビデオを見てその絵の動きをスケッチブックに描いて練習したり……ある意味、「漫画描いてそれで暮らしていける」って、「それを当たり前と思うなよ」っていうんでしょうか。最初の頃に漫画家として破らなければならなかった壁があったことで――その後、「この調子でいけば大体仕事は来るだろう」となっても天狗になるでもなく、作品の質が落ちるでもなく……まあ、それが「プロの仕事というもの」と言われてしまえばそうなんだけれど、やっぱり、「ある一定以上の水準以下のものは絶対許せない」というか、そういうプロのプライドをただ「持ってる」んじゃなく、「ずっと持ち続ける」って大変なことだと思う、というか。
いえ、なんにしても本当に「いいもの」を見せていただきました
あ、あと、これは竹宮先生に関することなんですけど……萩尾先生に関しての動画を見てて思うに、なんで竹宮先生が萩尾先生と一緒に暮らしたいというか、暮らしても大丈夫みたいに思ったのか、なんかすごーくわかる気がするんですよね(^^;)なんていうか、萩尾先生はきっと水面下で物凄く色々なことを鋭く分析する能力のある方と思うんですけど、性格的におっとりしてるように見えるじゃないですか。だから、萩尾先生と会った人はきっと、「この人とだけは絶対喧嘩になんてならない。もしなったとしても、そう大事に至ることはない」……みたいな、他の漫画家さんには感じない特別な空気や雰囲気を竹宮先生も感じたんじゃないのかな、なんて。。。
また、この延長線上のこととして、『少年の名はジルベール』といった本に書かれたことに関して、萩尾先生のほうから異議申し立てと言いますか、そういうものが具体的にその後出てくるとは、竹宮先生が想像しなかった気持ちもすごくわかる気がするんですよね。性格的に優しくて、反論して争うとか、そういう人でない……ということもあったのでしょうし、萩尾先生は大泉の思い出に関して人に話す時には「竹宮先生のお陰で上京できましたので、感謝してます」とか、そんなふうにインタビューに書いてあるのを、わたしも実際読みました。だから、自分の嫉妬云々について書く分においては何も問題はない――そう判断されても無理はなかったんだろうなあと、あらためてそう思ったりしました
なんにしても、↓に関しては、次回で最終回の予定です♪
それではまた~!!
ユトレイシア・ユニバーシティ。-【25】-
その後、九月になり――ロイは大学の二回生、リズは三回生となった。テディもギルバートもアレンも……ミランダもコニーも、いつの間にかロイとリズが一緒に暮らしているらしいと知った時には、みんな驚いたものである。それも、ふたりで新居にでも同棲しているというのであればまだわかる。だが、ロイの実家で一緒に暮らしているということに……一番驚いたわけである。
「ええっ、リズ、あんたマジ!?一言いってくれたら、引っ越しの時だって手伝いに行ったのに……」
ミランダは一夏ですっかり陽に焼けていた。それも、チア部の他の女子たちがアメリカのフロリダで焼いた、カリブ海に浮かぶ島々をクルージング中焼いた、あるいは地中海沿岸の国で……というのではなく、ほとんど恋人のアレンにつきあうようにアルバイトしていたところ、むしろ彼女たちよりも綺麗な感じですっかり肌が焼けてしまったのであった。
「ああ、いいのよ。吝嗇家の大家が信じられないことには裁判にならないようにって、引っ越し代とか出してくれたもんだから……業者に頼んだの。そしたら、五階で階段なしなんていう最悪な条件なのに、プロってすごいわね。あっという間にすんだわ」
「リズが美人だから、引っ越し業者の人たちも、いつも以上に頑張っちゃったんじゃない?」
コニーが看護テキストを広げたまま、からかい調子に笑う。
「まさか。ロイも一緒だったもの。でも、すごく感じのいい人たちだったわ。また、そういう機会でもあったら同じところに頼もうかなっていうくらい。ミーアキャット運送ってところなんだけど……そういえばコニー、看護学部に移動して何日か経ったけど、そっちはどう?」
「今のところ、問題なしよ。まわりの子たちもみんな親切でね、『わかんないことあったらなんでも聞いて』みたいな、そんな感じ。ねえ、それよかミランダ、あんた寮暮らしの苦学生くんとつきあってるって本当?」
「まあね。ケイティたちがなんて言ってるか、聞かなくても簡単に想像出来るけど……いくつもアルバイト掛け持ちしちゃって、バイトの鬼みたいになってる奴なのよ。よほどの守銭奴かと思ったら、田舎のお母さんに送金してるって話。いい奴なのよ、ほんと。適度にユーモアセンスもあるし、なかなか鋭い洞察力も持ち合わせてるし……一緒にいて何より楽しいの。あと、体の相性がいいっていうのも大きいかな」
「キャーッ!!ミランダ、大学のカフェテリアでそゆこと言っちゃうわけえ!?」
コニーが突然カマトトぶったような反応をしてみせたので、ミランダはむしろ笑った。三人は今、それぞれ午前の講義を終えて、カフェテリアでハンバーガーやBLTサンドなどを食べているところだった。
「何よ、コニー。ギルバートとじっくりたっぷり愛しあってどーしたこーした、事細かくあたしとリズに知らせてきたあんたらしくもない言い種ね。けどまあ、とりあえず今のとこ、ギルとあんたのことは心配しないわよ。他にも女が複数人いそうなのに、都合のいい女として利用されてるとか、そういうわけでもなさそうだし。ま、ギルへの愛があんたが看護師になるための活力になるっていうんなら、それも悪くないんじゃない?」
「そうよね。わたしもびっくりしたわよ、急に学部変更なんて……まあ、文学部でもうコニーと一緒に講義受けたり出来ないのは寂しいけど、時々はこうして学内でも会えるってことだものね」
「でもさあ、どっちかっていうとわたしよか、リズのほうが看護師向きって感じがするのよねえ。ね、どーお?リズも学部変更して一緒に看護師目指してみない?」
「そうねえ。わたしも、少しくらいは考えてみなくもなかったんだけど……」
「リズは駄目よお」と、ミランダはくすくす笑って言った。「この子はあたしと同じく、本に恋してるのよ。ほら、ヴァージニア・ウルフも言ってるじゃない。『彼女たちに天国はいらない。何故なら彼女たちには本があれば他に何もいらないからだ』って」
「確かにね。それでいったらわたしもミランダも、天国の門のところで聖ペテロに追い返されるってタイプだもの」
「そっかあ。まあ、わたしも自分が看護師に向いてるとは思ってないんだけどさあ……そういえばヴァージニア・ウルフって、最後は鬱病が重くなって、服のポケットなんかに大きな石とか入れて入水自殺しちゃったんだっけ。わたしも、『灯台へ』とか好きだったなあ」
――この時、ロイとテディもまた、午前中の講義が終わり、それぞれバーベキューサンドや照り焼きチキンバーガー、それにコーラやペプシをトレイにのせ、どこへ座るか席を探しているところだった。
この時間、カフェテリアはいつも混み合うことから……リズもロイも、お互いのことを見かけても、一緒に食事する必要まではないと考えていた。何より、今はもう同じ屋根の下に暮らしており、家に帰りさえすればいつでも同じ時間を過ごせるからだ。
そしてこの時、テディはジェニファー・レイトンが、珍しくたったひとりでスマートフォン片手に食事しているのを見て――胸に石でも詰まったように息が苦しくなった。何故なのかは、彼自身にもよくわからない。ただ、卒業パーティのあったあの日以降、彼はジェニファーのことをよく考えていた。(これは良くない徴候だ)と思いつつも、何かの中毒症状のようにどうしてもやめられないのだった。
「よう、ワン・エイティ!今、ちょっといいか?」
テディがジェニファーの姿に気を取られていた時、ロイの背後からそう声をかけてくる人物の姿のあった。マイケル・デバージである。彼は珍しく、その背後に誰ひとり取り巻きを引き連れてはいない。
「もしかして、リズのことかい?」
「まあ、もしかしなくてもそうだ。というより、俺とおまえの間で、あいつのこと以外、一体どんな話すことがある?」
(そりゃそうだ)と思い、ロイは空いていた窓際の座席に座った。マイケルのほうでも、彼の向かい側に腰掛け、手に持っていた食後のエスプレッソを飲む。
「遠慮しないで食えよ。話のほうはおまえがバーベキューサンドを食いながらでも構わないからさ」
「で、話って?まさか、リズとオレが一緒に暮らしてることに対する抗議とか?」
マイケルはニヤリと笑った。と言っても、彼のその笑い方はどこか友好的な、優しげともいえる笑みではあったが。
「いつぞやは、確かに悪かったよ。が、まあリズのおふくろさんも込みで面倒みてくれるなんて……俺としちゃおまえのことを少しばかり見直したわけだ。何分、あいつは絶望と否定の女王だからな。最初はきっとおまえとも長くは持つまいと思ってた。けど、こうなったらあとはもう、おまえとリズがうまくいくことを願える自分に、むしろ俺はほっとしたのさ」
「絶望と否定の女王って……」
「どう言えばいいかね。ほら、リズのおふくろのことまで引き受けようということは、大体そこらへんの事情もお宅はもう知ってるわけだろ?親父がとんでもない飲ん兵衛のギャンブル好き。最後はマフィアの麻薬にまで手を出して金すっちまったもんだから、ユト河に死体が浮かぶことになっちまったわけだ……左岸の一番治安が悪い地域じゃ年間、一体何件そんなことがあるか、あのあたりを管轄してる警察のほうじゃろくに数えてもいないだろうよ。けど、リズとリズのおっかさんにしてみたら――自分たちがそんなたくさんある家庭のひとつだなんて、当然思えるわけがない。俺の家だってそうだ。自分の家っていうのは唯一無二なわけだからな。ようするに、俺とリズは双子みたいにそのあたりの空気がわかる人間同士ってことだ……だから、おまえみたいなぬくぬくした温室無菌栽培で育ったようなもやし野郎とは、きっとそのうち価値観が合わなくなるだろうと思ったわけだが、どうやらそういうことでもなかったってことか」
「まあ、オレが無菌栽培で育ったもやしだっていうのはいいとして……それでいくと、あんたとリズは雑菌だらけの環境で育った栄養満点のスプラウトかなんかってことか?」
ロイの比喩を面白いと思ったのかどうか、マイケルはエスプレッソを飲みながら笑った。
「まあ、俺の言った、リズが絶望と否定の女王だって説明の続きだ。ようするに、あいつは母親が父親から虐待される姿を小さい頃から見せられ続けたことで……男って生き物に絶望してんだよ。表面だけどんなに紳士面してようと、どんな男も一皮剥くなり似たりよったりの暴力の衝動やらセックスの衝動やらを隠し持ってて、そういうどうしようもない男の中で比較的マシに見える相手と女はつきあうしかないみたいな……ようするに、そうした考えなわけだよな。で、それよりもっといいのは、自立した女とかいうのになって、経済力を得ておふくろさんのことを引きとりふたりで暮らすっていう、そんなような考えでいたらしい。俺はな、もし自分が将来アメフトでプロリーグに入れたとしたら――リズのこともレベッカのことも引き取るか、あるいはいい家に暮らさせてやって何不自由ないようにしてやりたいと思ってた。けど、たぶんリズにとっては……あのまま誰ともそう深いところまでつきあわず、大学を卒業後はキャリア・ウーマンとしてバリバリ頑張るとかいうより、今の状態のほうがきっとずっといいんだろうと、俺にしても初めてそう思えたのさ」
「リズのお母さんは、うちの家族の誰からも好かれてるんだ。もちろんオレも好きだし……変な話、あんなに誰の邪魔にもならない普通の人っていうのもいない感じがするっていうか。あ、悪い意味っていうんじゃなく……なんて言ったらいいのかな。あんな純朴な感じのする人に、暴力を振るう人間がいるだなんて想像しただけで身の毛がよだつ。だから、オレは温室育ちの弱々しいもやしかもしれないけど、リズの気持ちは少しくらいならわかってるつもりなんだ。リズのお父さんは、娘にだけは暴力を振るわなかったってことだけど、でも彼女の話じゃ、父さんには透明人間みたいに自分の姿が見えてないみたいだったってことだから……誰より大切な母親がひどい目に合わされるのを止めることも出来ずに見てるだなんて、それだってやっぱりひどい暴力だよ。その上、そんなことが原因で精神病院にまで入ることになったなんて……」
マイケルはIQの測定値では、確かにロイに敵わなかったにせよ、彼はいわゆるEQ値の高い人間であり、スポーツ推薦でユトレイシア大学へ入ったとはいえ、成績のほうも良かった。ゆえに、ここまでロイの話を聞いただけでも、その雰囲気だけでわかっていた。リズも、彼女の母レベッカも、今きっと幸せなのだろうということが……また、彼が少しばかり心配していたように、他人の家で肩身の狭い思いをしているといった、そうした事情もおそらくないのだろう。
「あんた、オレが思った以上にいい奴なんだな。まあ、IQだけの高い変人のオタクってことだけはないとわかって、ほっとしたよ。最悪、これから何かあってリズとあんたが別れて、リズのおっかさんもあんたんちを追い出されるかなんかするって時は、まあ、俺に連絡してくれ。ふたりとも、俺が引き受けてやるから」
マイケルは立ち上がると、ロイに対して右手を差し出し、握手を求めてきた。ロイのほうでも立ち上がり、彼の右手を取る。
「もちろん、そんなことはないと思うけど……でも、オレのほうでもあんたがただの筋肉アメフト馬鹿じゃないってわかって良かったよ。今シーズンも、きっとスタジアムへ応援に行く」
「ああ。クォーターバックってのはな、ただ監督に言われたとおりにする馬鹿には務まらんポジションなんだよ。広い視野で物の考えられる、頭の回転の速い奴じゃねえとな。そういう意味で……俺はまだゲームセットになったとまでは思ってないってことを、一応頭の隅のほうに覚えておくんだな」
マイケルが立ち去っていったあと、ロイはテディがいないことに初めて気づいた。きょろきょろ辺りを見回すと、彼が大きな観葉植物の鉢が並ぶエリアで、ジェニファー・レイトンと何か話しこんでいるのが見える。
もちろん、ロイはジェニファーとテディが従姉妹同士であると知っていたし、小さな頃は仲が良かったが、その後口も聞かない関係になっていったことも知っている……だが、そのふたりが何事か話している姿を見て、その間に入っていくのはやめにすることにした。何より、高校時代にほんの三か月ほどとはいえ、一応つきあっていたと思しき相手でもあったから。
「なんだ、ロイ。マイケル・デバージと知り合いだったのか?」
アレンは寮生かつ奨学生でもあるため、実はカフェテリアの食事は毎日無料で食べることが出来る。そこで、カツカレーのメガ盛りを頼んでいた。あとは最近はまってるウーロン茶もトレイには一緒にのっている。
「オレじゃなくさ、リズがマイケルと幼馴染みなんだよ。で、リズがうちに引っ越して来たって、誰かから聞いたんだろ」
「ふうん。そういや、おまえの金魚のフンのテディは今日はどうした?」
「その言い方やめろって。テディ、そういうふうに言われるの大嫌いなんだ。あとは、オレとホモなんじゃないかとか、そういうネタ全般。それよりアレン、ミランダとうまくいってるんだって?」
「ああ、まあな」
アレンは自分でも、その事実に今も驚いていた。しかも、いつか彼女のような美女とつきあえたとしたら……きっと周囲の人間に「なっ、いいだろいいだろ、俺が羨ましいだろ?くう~っ!!」みたいに絶対なるだろうと思っていたのに、案外人に自慢せずに済んでいる自分にも驚いている。
「そういや今度、ミランダがおまえとリズと俺の四人でダブルデートするのはどうかだって。あと、コニーも誘うから、ロイのほうでギルバートのことを誘ってくれたら完璧だとかなんとか」
「うん。まあ、いいけど……でもそういうことなら、夏休み中に声をかけてくれたら良かったのに」
「ああ、夏休みの間は俺もバイトに狂ってたし……ミランダともふたりで色々盛り上がってたんだ。だから、リズやロイを誘ってダブルデートとか、そういう発想もお互い思い浮かばなくてな」
「ふうん。ラブラブってやつか」
「そりゃ、おまえのほうこそって奴だろ?まだお互い大学生なのに一緒に暮らしたりして大丈夫なのか……なんて、野暮な質問なんだろうな。ロイは俺なんかより遥かに頭がいいし、そんなのはリズにしたって同じなんだから。まさか学生結婚しようってわけでもないんだろ?」
辛口カレーを食べる合間にウーロン茶を飲みつつ、アレンはそう聞いた。
「うん、それはね。けどまあ、なんか最近そういう届けを出して結婚式挙げてないってだけで……実質的にリズとは結婚してるんじゃないかって思うこともある。本当はリズもオレも、結婚どころか同棲もまだ早いって思ってはいたんだ。何よりまだつきあいはじめて一年にもならないんだし、もっと恋人気分を味わってたかったっていうかさ」
「でも変な話……ロイんちってびっくりするくらい広いにしても、あの時とかどうするんだ?ほら、たとえばさ、発射寸前に親のどっちかがたまたま部屋に入ってきたとか、そういう……」
「はははっ!まあなあ、うちの親はふたりとも、なんか用事のある時しか二階には来ないんだよ。そこらへんはね、思った以上にオレもリズも気にしてない。二階にもバスルームはあるしさ、特に親の存在を意識するとか、そういうことはあまりないんだ」
「へえ……」
ここでアレンは、ざわつくカフェテリア全体を見渡して、ふとテディが大学三大美女のひとりに数えられるジェニファー・レイトンと一緒にいるのを見て――スプーンをカレーの中へ落としそうになった。
「ああ、テディはジェニファーと従姉妹同士なんだよ。小さい頃は仲良かったらしいんだけど、その後思春期のなんとかで自然と口も聞かなくなっていったみたいな……」
「ふう~ん、従姉妹同士か。けどまあ、あのチビにも早く春が来るといいな。まあ、今は秋だけどさ、うちの寮の闇鍋パーティを毎回楽しみにしてるようじゃ、あいつの人生、何かが終わってるだろ」
いまやテディ・ライリーはユト大男子寮のアイドルにも等しかった。女の子のように可愛らしい容姿も手伝ってか、たまにふらっとやって来ただけで、下にも置かない待遇がいつでも待ち受けている。また、寮生の中には彼をそうした目で見ている輩も多少いるらしいとアレンは聞いていた。もっとも、本人はそんな視線に一切気づいてもいなかったにせよ。
「はっくしゅん!」
テディは照り焼きチキンバーガーを食べ終わると、何故か急にくしゃみが出て驚いた。ポケットからティッシュを取りだし、一度洟をかむ。
「いやあねえ、テディ。もしかして誰か、あんたの噂話でもしてるんじゃない?」
「ぼくはそんな迷信しんじないよ。だってそうだろ?くしゃみをするたびに誰かが自分の噂をしてると思うなんて、ナンセンスも甚だしいよ。というか、そんな奴ただのナルシストだ」
「あんた、ほんとすっかり変わっちゃったのね。小さい頃はそんな屁理屈なんて言わない、素直な優しい子だったのに……あの卒業パーティの時だってそうでしょ?こっちは危うく貞操を失うとこだったっていうのに、なんか冷たくてよそよそしい態度だったわ。ああいう時はねえ、嘘でもとりあえず、『君、大丈夫?あいつ、まったくひどい奴だね』とかなんとか言って女の子には優しく接するものよ。それなのにテディ、あんたときたら……」
「そりゃあね。ぼくだって助けた相手がジニー以外の誰かだったら、きっとそうしてただろうね。でもあの時点でぼくが心の底から深く同情したのはジニーのほうじゃなくて、ヘンリーの奴のほうだったんだ。きっとすごく傷ついたよ……だからぼくのほうではあの瞬間のヘンリー・オルデンの滑稽な一幕のことについては記憶から一切消去することにしたんだ。おまえも、ヘンリーが勃起したペニスにゴキブリ・ボンバーを喰らってあたふたしてたなんて、誰にも一言も洩らすんじゃないぞ。それが人の道ってもんだ」
ジェニファーは憧れているモデルのインスタをチェックする手を止めると――突然、発作でも起こしたように笑いだした。
「人の道って……テディ、そんなこと言ってるあんたのほうがよっぽど残酷じゃないの。わたしのほうではね、あんたが言いだしさえしなかったら、ヘンリーのへの字も言うつもりなんてなかったんだから」
「そっか。ならいいんだ」
テディはジェニファーの向かいに座っていたが、ふと気を変えて、彼女の隣に移動した。そして、ジェニファーの華奢な手の中に収まっているスマートフォンの画像に目をやる。
「ぼくさ、あれからジニーのインスタ、初めて見たよ。おまえのママが部屋の片隅に娘が撮影場所までこさえてるって溜息着いてた場所で、こういうの撮ってんだなって思った。ほら、他に友達なんて誰もいないのに、いるっぽい雰囲気を醸してたり、自分のことを一番いい角度から撮ったりしてるやつ。ジェニファーのママ、時々この角度からこういうふうに撮ってくれって言われて言うとおりにしてるのに、おまえがなんだかんだ文句つけてくるって呆れてたよ。『今の若い人はあんなのがいいのねえ』って、さも理解できないってふうに首を振りながらさ」
「もう、ママったら!余計なこと言って……まあ、テディんとこのママとうちのママは姉妹仲いいから仕方ないけど、友達いるっぽい雰囲気って何よ。高校の時の親友のメグやオリビアとは今も連絡取り合ってるし、そもそも写真っていうのは写りのいいのを選ぶのは誰でも同じでしょ?というより、みんなやってることよ、そんなの」
「ふうん。ぼくはジニーほど人からどう見られるか気にしてる女の子に会ったことないからわかんないけど、SNS病にかかってる連中ってのは、まあ大体似たようなこと言うもんなんだろうってことは一応理解するよ。ちなみに、ぼくがジニーのツイッターやインスタの中で一番いいなって思ったのは犬の動画だけど」
「あっそ!言わせてもらいますけどね、そんなこと言ったらテディ、あんただって十分異常よ。この猫も杓子もSNSって時代に、ツイッターもインスタもやってないだなんて……同年代の平均から見て、自分のほうがちょっとギークで頭おかしいって気づいたほうがよろしいんじゃなくて?」
ギークというのはオタクという意味である(一応念のため)。
「そんなことない。フェイスブックはやってるもん。たまにしか更新しないけど……」
「ああ、わたしも見たわよ。あんたの、ユト大男子寮での闇鍋パーティの写真や動画。わたしにして見たらあれこそ無駄な時間の浪費よ。食べ物だってもったいないし、あんた、絶対今後SDGsなんて言葉、口にするんじゃないわよ。世界の食糧事情云々について、少なくともテディには何か語る資格なんてないわ」
「でも、少なくともぼくには友達がいる。ジニーは中途半端に男子学生に色気を振りまくから、男は結局ヘンリーみたいのしか寄ってこないし、女学生のほうはおまえがそんなだから誰も近くにすら来たくないんだ。だって、自分との比較で添え物みたいにされるか、あるいは都合よく子分みたいに使われるだけだって、なんとなくみんなピンと来るんだろうよ」
「…………………」
テディはジェニファーが言い返してくるだろうと思ったが、彼女は黙りこむと、くるりとテディに背を向けた。テーブルの上にあった紙ナプキンに手を伸ばすと、不覚にも目尻から溢れた涙を拭く。
「えっ!?ジ、ジニー、まさかおまえ泣いてんの?ごっ、ごめん。図星さしすぎちゃったかな……だからさ、ぼくが言いたかったのはなんていうか、その……ぼくたち、前みたいになれないかなっていう、そういうことなんだけどさ」
もちろん、ジェニファーのほうでは目頭を押さえて、そのまま席を後にしても良かった。けれど、確かに彼女のほうでも今、まったく同じことを思ってはいたのだ。正確には、卒業パーティの時、久しぶりに話したそのあとからずっと……。
「い、いいわよ。テディがどうしてもって言うならってことだけど!」
「そっか、良かった。じゃあまたもう一度、友達からやり直そう」
――このあと、ふたりは午後から受ける講義が一コマだけお互いあったため、それが終わったら待ち合わせて一緒に帰る約束をした。テディは表面上そう見せないようにしていたにせよ、実際は上機嫌だったし、ジェニファーのほうではテディ以上に彼と元の関係へ戻れそうなことを喜んでいた。
そもそも、ジェニファーとテディの間には、今から遡ること約七年ほど前からある誤解が横たわっていたのである。ジェニファーのほうではテディに、『あんたみたいなチビ、恥かしいから……』といったように言ったこと自体、まったく覚えてはいない。ただ、バーバラが自分の従兄弟が好きだと言った瞬間から、彼とは少し距離を置く必要性があると思い――そんなふうに少しキツい言い方をしたのだろうと記憶しているというそれだけである。
そして、その時バーバラが告白の手紙の返事としてテディからもらったという手紙も読ませてもらったのだが、バーバラの容姿や性格の美点を慎重に並べ立てたあと、テディは『君の気持ちは嬉しいけど、実は他に好きな人がいて……』といったことを最後のほうに書いており、その手紙を受け取ったバーバラ以上にジェニファーは激しいショックに襲われていたのである。
(テディが好きな人って、一体誰だろう……)
その後、ジェニファーはそれとなくテディの周囲を探ってもみたが、彼のまわりにいるのはいつでも男友達ばかりで、ガールフレンドひとりいる気配はなかった。だがもちろん、気持ちは胸に秘めたまま、遠くからじっと見つめているという可能性はあるだろう。
しかも、テディはその好きな女の子のために肉体改造まではじめたらしいと、ジェニファーは自分の母親経由で聞いてもいた。シルヴィアが笑って言うには、「毎日背を伸ばすために大嫌いな牛乳を無理に飲んだり、おかしな健康器具につかまって、一生懸命足を伸ばそうと必死なのよ」ということだったから……。
(そこまでするってことは、テディのほうではその子によっぽど本気なんだわ)
自分の言葉が原因だとは思ってもみないジェニファーは、すっかり打ちのめされた。バーバラとはおそらく、高校では別れることになるだろう(というのも、彼女はさして成績のほうが良くなかったから)。それまでは彼女の目のないところでテディとは話したりすれば十分だと思っていた。けれど、よほどその女の子のことしか頭にないのだろう。テディは一切家に遊びにも来なくなったし、学校では次第にジェニファーのことなど目にも入っていないという態度を取るようになったのだ。
(ふーんだ!だったらわたしだって……)
こうして、ジェニファーのある意味華やかと言える恋愛遍歴がはじまった。アメフト部やバスケ部のレギュラー部員、生徒会役員のズバ抜けて成績のいい優等生、親が宝石商の金持ちの子息などなど……けれど、誰ともそう長続きはしなかった。それもそのはすで、ジェニファーがいつでも嫉妬とともに恋をしているのはセオドア・ライリーただひとりだけだったのだから!
そうこうするうち、あるひとつの噂がテディの周囲を漂いはじめるようになった。背こそ標準より低いとはいえ、テディの顔立ちは貴公子然として凛々しかったため――そんな彼が誰ともつきあわないのは何故だろう……ここで、同級生たちはこう思った。彼はいつでも男子生徒とだけつるむのを好むのみならず、誰か女子が話しかけても、いつも一定以上には親しくならない、冷たく突き放した態度なのだ。ということは、きっとセオドア・ライリーはホモに違いない!絶対間違いない――というわけで、テディに対して憧れる女生徒の数はその後一気に激減していったという。
また、この噂にはジェニファーも多少加担したと言えなくもない。「ねえ、ジェニー!あんた従兄弟なんだから何か知ってんでしょ!?」みたいに聞かれると、決まって必ず「まあ、確かに昔からそれっぽいところはあったわね。今はあんまりしゃべらなくなったからわかんないけど……」と、そんなふうに黒に近い灰色だと、半ばホモ説を認めるような態度を彼女はよく取っていたのである。
(他のメス豚どもにも、男にだってテディを取られたくなんかないわ。第一、小さい頃に結婚する約束もしたのに、そんなこともすっかり忘れたみたいなあの態度……絶対許せないっ!!)
けれど、高校に上がってテディがロイと同じクラスになると――ジェニファーにしてもだんだん、(もしかしてテディは本当にそうなのだろうか)と疑うようになっていった。濃いブロンドの髪に、アドリア海のような深く青い静謐な眼差し……テディは小さい頃から色白ではあったが、瞳のまわりを彩る長い睫毛といい、女の子でも憧れそうなうっすらと赤いさくらんぼ色の唇といい――長身のロイと並んでいると、ふたりは遠目に恋人同士がふざけあっているようにしか見えなかったものである。
そしてジェニファーは、テディのことをどうにか理解しようと、BL本まで読みあさり、(男の子同士のセックスってこんな感じなのね……)と頭がくらくらした彼女は、とうとう最終手段に訴えることにしたわけである。何より、いつまでもこんなふうにモヤモヤしているのはイヤだと思ったジェニファーは、ロイとつきあってみることにしようと決意したのだった。
けれど、その時のロイの自分に対する、他の男とまったく同様のデレデレ感から見て――彼女にはすぐわかった。本当に、彼とテディの間には何もないのだと……そのことさえわかれば、ジェニファーにはもうロイ・ノーラン・ルイスに用はなかったといってよい。とはいえ、テディが恨みがましいオーラを発しながら血走った目で自分を見てきたことから、この時彼女はある意味ハッとした。バーバラの手紙にあった『好きな人がいる』という『好きな人』というのは実は、ロイのことだったのではないかと……。
(それならすっかりすべて、合点がいくわ!)
ジェニファーはこの瞬間、はっきり自分の初恋が終わったことを悟ったのだが、大学進学後、ロイが一年上のリズ・パーカーとつきあいはじめるのを見て――幼馴染みの心中を想像するとテディのことが少し可哀想になった。もっとも、彼のほうがもっと自分を深く傷つけたと信じ込んでいるジェニファーとしては、テディの失恋に対し、喜ぶ気持ちのほうが強かったと言わざるをえなかったとはいえ……。
そして、卒業パーティの終わったあの瞬間から、ジェニファーは再び、昔と同じようにテディのことばかり考えるようになった。あの場合、理想的なヒロインの救出法というのは、間違いなくヘンリー・オルデンの肩をぐいと掴み、『この野郎!ぼくのジェニファーに何をするんだ!!』とでも言って、ズボンを履いてないヘンリーをボコボコにするというものではあったろう。そして、他の多目的教室から『なんだなんだ』とばかり人が駆けつけ、『この変態レイプ野郎がぼくのジェニファーを傷つけようとしたんだ!!』と叫び、ヘンリーは急いでズボンを履いて逃げようとするものの――その恥多き姿はいつまでもその場にいた人々の脳裏に深く刻まれ、消えることはなかったのである……そんなふうになっていたら、どんなに素敵だったことだろう。ジェニファーはそう思い、事実とは違う自分の妄想のほうにうっとりした。
そのあと、テディのことをしつこく呼びとめて自分を送らせようとしたのも、ジェニファーにしてみれば彼の本心を知りたかったからである。もちろん、彼は知らなかったろう。テディと同じ高校へ進むために、いかにジェニファーが勉学に励んだか、大学に至ってはテディの第一志望がユトレイシア大学と知った時、彼女がいかに絶望したかということも……けれど、ようやく久しぶりにふたりきりで話せたというのに、テディはすぐ帰ってしまった。ジェニファーは自分の部屋にある例の馬鹿げた撮影場所を片付け、テディの目から隠したかっただけなのに――彼女がそうした整理整頓に気を取られているうちに、テディは帰ってしまったのである。
何分、小さな頃から自分がヴァージンを捧げる相手はセオドア・ライリーだと心に定め、その種の妄想をする時にはいつでも、テディとキスしたり、彼にそれ以上のことを許してきたジェニファーである。だから、テディが本当に同性愛者でないかどうかというのは、彼女にとって非常に重要な意味を持っていたし、多目的教室が百匹以上もの偽ゴキブリで満たされたということはさておき、テディがあの時あの瞬間助けてくれたということは――ジェニファーにとってはやはり、運命としか思えない出来事だったのである。
(そうね。今はまだ、友達に戻ったっていうそれだけかもしれない。だけど、もしテディが同性愛者じゃなくて、異性愛者なら……今度こそ絶対必ず、わたしのほうに振り向かせてみせるわ)
この日、ジェニファーは嫌がるテディと携帯で写真を撮ると、その日のうちにすぐインスタとツイッターにアップした。そこにはただ一言短く、「従兄弟と仲直り❤」と、そう書き記しておいたようである。
>>続く。