こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

惑星シェイクスピア。-【66】-

2024年06月17日 | 惑星シェイクスピア。

 

 今回は本文のほうが長くて、前文にあまり文字数使えません

 

 なので、何書こうかなって思ったんですけど……ここのところアニメづいて(?)たので、最近見たアニメを三本くらい並べてみようかと。。。

 

「何かよくわからんが、すごいことが起こりそうな予感満載OPだぞッ!!」(BYブレイバーン!!笑)

 

 

「勇気爆発バーンブレイバーン」……いえ、ラジオで一度主題歌聴くなり、すぐに「見よう!!」と思って見たアニメでした。たぶん、ストーリーはこんな内容だとか、「なんかBLっぽいぜ!!」とか、そんなことはまあどーでもいいんだと思う(^^;)わたし自身、特に何も考えず、全12話、美麗なロボットシーンに酔いつつ見終わった……みたいなそんな感じだった気がします(笑)。

 

「筋肉ッ!!軍隊ッ!!そしてBLッ!!」的なネタを、ふたりでボン・ジョビの歌を背景にやればいいよ(笑)

 

 

 

 

「NieR:Automata(ニーア:オートマタ)Ver1.1a」、こちらも見たきっかけは絵の美麗さでした原作はゲームらしいので、きっとゲームやったことのあるファンの方が見るとまた違うんだろうなと思いつつ……わたし的にアダムとイヴが絡んでくるところ以外は「んー、まーまーかな。でも絵が好みだから、なんかつい見ちゃう☆」みたいな感じでした。あ、でもだからといって「面白くない」とか言ってるわけじゃなく、でもVer2.1に続くみたいな感じがするものの、続きは今のところそんなに気になってないかもしれません。すみません

 

 

 

 見たきっかけは、ずっと前に「進撃の巨人」の原作者様が、影響を受けた作品として名前を挙げていたのみならず、「このゲームで受けた傷を自分も他の人に与えたい」みたいな、言葉は違ったと思いますが、大体そんなよーなことがインタビュー記事にあった……というのが見たきっかけですで、見て何に驚いたかというと――まあ、襲ってくるのが巨人か、残酷無慈悲なエイリアンかという違いがあっても、「こりゃ相当過酷な設定だわなー☆」と感じたことかもしれません。それで、1stの第1話目が、わたし的印象として「今まで見たエイリアンものと違う印象」を強く受けたため……途中まで、最後どうなるのか見るのが楽しみでした。でも途中からそれほどでもなくなってきて、それでも最後どうなるのかだけ知りたくて、2の最後まで見終わったような感じかも。。。

 

 たぶん、ゲームやっててファンだったら違ったかもしれないものの、そんなに感動したりカタルシスを覚えるといった感じでもなく(殴☆)、とにかくこちらも絵が美麗なので、何かそうした部分でも楽しめたため、まあ細かいことはどーでもいっか☆と思って見終わったような。。。

 

 そんで今、「ようこそ、実力至上主義の教室へ」というアニメに嵌まっています♪まだ見てる途中&今回前文に文字数全然使えないってことで、感想的なことは書けないものの……今見てるところまでだとすごく好き&超面白いですなので、全部見終わったらたぶん何かいつも通りくだらない駄文を綴る予定でいます(笑)。

 

 それではまた~!!

 

 

       惑星シェイクスピア。-【66】-

 

 メルガレス城砦の開門時間は通常、朝の七時頃である。だが、聖ウルスラ祭のある八日の間は、朝の六時に東と西の大門が開くことになっている。この期間――というよりも、実際に祝祭のはじまる数日前から――隣の州のロットバルト州のみならず、内苑七州などからもこの一年に一度の祭りを見に来る者は数多かった。

 

 とはいえ、宿のほうはあっという間に埋まってしまうし、親類縁者の家を頼る者も多いにせよ、城砦外に広がる城壁町までも、この時期には観光客が集中するため、そのことを見越して幅広く商売する者がたくさんいるのだった。さらには、ここにも宿を取れなかった者たちは、城壁のすぐそばで野宿するという強者まで毎年いたものである。

 

 聖ウルスラ祭の一日目、メルガレス城の麓にある大広場では、ファッションショーの順番を決めるための抽選会が開かれていた。そして、残りの七日の間百組近いデザイナーがひっきりなしに舞台上でそれぞれのコレクションを発表し、服飾ギルドの審査員たちや貴族方、豪商、メレアガンス伯爵夫妻などが審査に当たるわけである。

 

 もっともこの間、馬上試合トーナメントもあれば、野外演劇場における演劇ありと、その他城砦内の広場ではサーカス団が曲芸を披露していたり、評判となる見世物のほうはいくらでもあった。また、メレアガンス城砦に住む人々にとっては、一年で一番の刈り入れ時となる時期とも言え、この一週間の間、結局大して見世物のほうを見るに出かけるでもなく、一日中パンを焼いて過ごしただの、宿の客の世話をしていただの、顔を真っ赤にして竈の前で料理に徹していたといった御当地民も珍しくなかったが――そんな彼らも唯一、祝祭の最後の日に巫女姫方が大きな通りを祝福のため練り歩くという時だけ、聖ウルスラ騎士団に守られた彼女たちを一目見るべく沿道に立ち並ぶのであった。

 

 さて、ハムレット一行の、聖ウルスラ祭の過ごし方のほうであったが、彼らにはファッションショーのことは眼中になく、他の演劇団やサーカス団のこともまったく頭になかったのは間違いない。ランスロットとカドールとギネビアは、午前九時からはじまる宣誓式と抽選会に備え、それぞれ違う馬車に乗り込み、円形闘技場のほうへ向かっていた。早速とばかり試合のほうがはじまるのは午後からであるため、この時点では闘技場のほうは満杯には程遠い状態であったが、それでも聖ウルスラ騎士団が全員揃う宣誓式を見るため、駆けつけた客の数は軽く数千人を越えていたものである。

 

 聖ウルスラ騎士団は、それを統べ治める騎士団長フランソワ・ボードゥリアン以下、総勢で147名である。宣誓式に立ち会ったのは、メレアガンス伯爵ではなく、伯爵の子息エレアガンスであり、彼は騎士団長のフランソワが剣を掲げ、レフェリーである紋章官がメレアガンス州の旗を掲げる中、一同が「騎士道精神にのっとり、正々堂々戦う」ことを誓うと、そのことを承認し、馬上試合トーナメントの開始を宣言した。

 

 参加するのは、騎士団の団員のみならず、州内・州外からも賞金目当ての力自慢・技自慢の剣豪や槍使いなどが集まってくるため――抽選をし、トーナメント表が完成するまでにも、結構な時間がかかるということになる。この前日、馬上試合に参加したい者は試合帳に名前や出身などを書き込むことになっているが、ランスロットとカドールとギネビアはそれぞれ偽名を使い、さらには出身州についても偽っていた。とはいえ、ロットランスやテオドール、アビギネなどと名乗っていたというあたり……キリオンが「やれやれ。三人とも芸がないなあ」と笑っていたのも当然のことだったろう。

 

 この日、馬上試合のあったのはランスロット――否、ロットランスひとりきりであり、テオドールとアビギネは翌日の午前と午後にそれぞれ試合があった。ロットランスは聖ウルスラ騎士団の騎士のひとりと当たっていたが、彼、エマニュエル・ジローと槍で戦い難なくこの人物を破った。何分、こののちには互いに味方として同盟を組み、内苑七州を敵とし戦う予定なのだから、ランスロットは礼を尽くして戦い、紳士らしくジローになるべく恥をかかせぬよう留意したつもりである。

 

 結果、このフランソワ派の騎士のひとりであったエマニュエルは、黒い冑によって顔を隠したこの黒騎士に対し、非常な好感を持ったものである。聖ウルスラ騎士団の幕営へ彼が戻ると、「田舎騎士相手に、気が緩んでたんじゃないのか?」とか、「きのうの酒が抜けきってなかったんだろ?」とからかわれたが、ジローは潔く自分の負けを認め、相手騎士の武術を褒め称えていたものである。「最近、鍛錬のほうもすっかり気を抜いていたからな。俺もまだまだだ。これからもっと気合を入れて修練を積まねばなるまいよ」と。

 

 実際のところ、聖ウルスラ騎士団の騎士たちは、ロットランスのようなトーナメントの飛び込み参加者のことを「ワイルドカード」と呼び、毎年のことではあるが本気の実力まで出さねばならぬような相手と当たることはほとんどなかったのである。軍籍にある者は出場を禁止されているが、それでも退役した者は参加が許されるため、そうした出場者の中に「なかなか出来る」人物がいるといった程度である場合が多い。

 

 この翌日、テオドールもアビギネも勝ち上がったが、ランスロットもカドールも、あるいは他の仲間たちにしても――誰もがみな、ギネビアの試合結果のことを一番心配していた。だが、この面頬を下ろした白銀の騎士は、実に勇ましく戦い、聖ウルスラ騎士団の騎士、ジラール・ド・ノワイヨンを打ち破っていた。もっともアビギネはロットランスやテオドールとは違い、余裕を持って優雅に勝ったというのではなく、その戦いぶりは苦労してようやく勝利した……というものではあったが、なんにせよ勝ちは勝ちである。

 

 ジラールは騎士らしくもなく、自ら冑を脱ぎ、悔しさのあまりそれを地面に叩きつけていたが、一方アビギネはと言えば、「甲乙つけがたい良い試合をした」ことにより、闘技場の客たちから拍手喝采を受けていた。そこですっかり気を良くしたギネビアは、彼らの応援に応えるように闘技場を馬で一周すると、「きゃあきゃあ」黄色い声を上げる美しい婦人たちにも手で応え、それから悠然と出口のほうへ消えていたものである。

 

「兄上、実に良い試合でしたね。ええと、あの騎士の名はアビギネでしたっけ?すっかり観衆の心を掴んでしまったようですよ。我がロットバルト州でもそうですが、こうした時、闘技場のどこかでは必ず市民が賭けをしているものですからね……あのアビギネは、これから人気騎士として賭ける人数が一気に増えるのではありませんか?」

 

「ふん。あんな程度の騎士、俺ならば最初の十分……いや、ものの五分で決着をつけてやるところだがな」

 

 貴賓席に座っていたヴィヴィアンは、隣の双子の妹に鼻で笑ってそう答えた。彼は長髪ブロンドの美男子であり、その背の高さや体格を一目見ただけで――彼が何者か知らずとも、喧嘩を吹っかけようと考える愚か者はいなかったに違いない。そのくらい胸板も厚く、腕や脚の筋肉も引き締まっているのが一目瞭然だった。

 

 一方、ヴィヴィアンの妹のブランカは、女性としては全身の筋肉が引き締まって見えるという以外では、美形の兄と似ているように見受けられるところはひとつもない。おそらく、彼らが実は双子なのだと聞いても、すぐにそうと信じられる人のほうが少ないくらいだったろう。ブランカは決して不器量ではなかったが、それでも本人も周囲も「彼女は男だったら良かったのだろう」と思っているとおり、顔のほうも陽に焼けて浅黒く、全体として女というよりも男らしさを漂わせている女性だったのである。

 

「兄上は我がロットバルト州一の強者ですからね」と、自分の兄のことを誇りにしているブランカは、からかうような調子で笑った。「おそらくは、この聖ウルスラ騎士団で一番強い男と戦ったとしても、兄上が勝たれるだろうことは間違いないところです」

 

「どうだかな。もし俺も相手がサイラス・フォン・モントーヴァンであったとすれば……そう簡単には勝たせてもらえまいといったところかもしれないが、今の騎士団長の奴、名前なんてったっけ?あいつに負けたとしたら俺も、ロットバルト騎士団長の看板を下ろさにゃならんところかもしれんな」

 

「兄上は声が大きいですよ」

 

 ブランカは囁くような小さな声で兄の大声を戒めた。彼女の兄はそもそも、地声のほうが大きすぎるのである。

 

「この貴賓席には、内苑七州の貴族さまといったやんごとなき方々もいらっしゃるのですからね。口は災いの元ということを、こういう時はよくよく心得ておきませんと……」

 

「チッ。面倒くせえな。ま、なんでもいいけどよ。俺、ちょっくら小便してくらあ」

 

 次の試合に向け準備が整いつつあったが、ヴィヴィアンは一度席を外すことにした。『小便』などという下品な言葉を聞いたせいだろうか、前のほうの桟敷にいた貴婦人の女性が振り返り、「ゴホンごほん」と白々しいような咳をついている。

 

(やれやれ。他州のお貴族さんとのつきあいってのは面倒くさくてやだねえ。カログリナントの親父の奴が『国の一大事じゃぞ!』なんぞと説教垂れやがるから、仕方なくやって来てみれば……あんな試合ばっかずっと見てろってのか?自分が出るのであればいざ知らず、槍や剣を手に取りたくなってウズウズしてくるというあたり、むしろ興奮するだけ無駄な分、体に悪いやな)

 

 ヴィヴィアンは何人かの男と並んで小用を足すと、水飲み場で水を飲み、興奮した市民の男らが「さっきの試合見たかい?」とか、「次はオレ、絶対アビギネに賭けるよ!」だのとしきりに話しているのを耳にした。

 

「いやいや、俺はなんと言ってもやっぱり、黒騎士ロットランスさ!今回のトーナメントの一番の番狂わせはあいつだと思うね」

 

「おりゃあ、きのうは商売の配達のほうが忙しくて見に来れなかったのよ。で、そいつはそんなに凄い奴なのかい?」

 

「結局のところ、騎士団長のボードゥリアンさまがお勝ちになることは間違えねえからよォ、我らが騎士団長さまは掛け率が低いのよな。大穴のダークホースといや、今年は一体誰になるかなあ」

 

(ロットランス?なんだかどこかで聞いたような……)

 

 ヴィヴィアンは一瞬そう思ったが、彼もまたきのうの黒騎士の試合を見てなかったせいもあり、彼が自分と互角の槍と剣術の腕前を持つと感じる男――ランスロット・ヴァン・ヴェンウィックであるとは、すぐに結びつかなかったのである。彼はこの時、揚げパンやクッキーといった菓子類、キャンディなどを売っている売り子とぶつかると、妹の分と自分のをふたつずつ購入した。

 

「へい、毎度!!」

 

 祭りの間は物価が上がるのが普通だが、それでも大通りの店で買うより、軽く二倍の値段がしており、善良な市民らは「あんなの、ぼったくりだ!!」と軽蔑していたものである。だが、ヴィヴィアンは気前よくクラン銅貨で支払い、「釣りはいい」と言っていた。キャンディをしゃぶりつつ、口の端から紐を出して戻ると、妹のブランカは「何やってんですか、兄さん」と、やや呆れ気味だった。

 

「このウエハースとマドレーヌ、結構うまいぞ」

 

「そういうことじゃなくて……」

 

 他の貴賓席に座っている者たちの中には、飲食している者など誰もいなかった。白い日除けの下に座る貴族のみなさま方は、この暑い最中にあっても(二十七度という気温を暑いと感じるか否かは人それぞれとはいえ)、きちんと立派に正装し、ご婦人方は素晴らしい羽飾りや、花房のブローチのついた帽子を被り、リボン付きの扇子でしきりと顔を扇いでいたものである。

 

「ん?兄さん、なんだかいい香りがしますね。まさかこのほんの十分ほどの間に、誰か女性でもナンパしたんじゃないでしょうね?」

 

「馬鹿言え!」と、ヴィヴィアンは豪快に笑った。「なんと言っても女は、我が州ロットバルトの女が世界一だ。俺は他州の女に興味なんぞないね。ただ、おまえにこのパン菓子やクッキーを食わしてやろうと思ってのっそり歩いておったらばだ、なんか香水みたいなもんを突然吹きかけられたのさ。『いい香りでございましょお?恋人へのプレゼントにいかが?』だとよ。しかも一瓶50クランだと。おまえ、どう思う?香水ってのはそんな値段なのが相場か?」

 

「わたしが普通の女でないのは、誰より兄上がご存知じゃありませんか」と、くんくんヴィヴィアンから漂ってくる香りを嗅いでブランカも笑う。「ですがまあ、クチナシのようなスイートピーのような、確かに甘い良い香りですね。意中の恋人がいて、こんな香水をプレゼントされたとしたら、それは確かに心が傾いてしまうかもしれませんよ」

 

「なるほどな。俺、あの香水、お土産に買って帰ろうかなあ」

 

「兄上の場合、五十瓶は買って帰る必要があるんじゃないですか?でもまあ、あっちの女性こっちの女性と、気のある婦人が多すぎて、まったく同じ香水をプレゼントされたと彼女たちが知ったら、それはそれで喧嘩になりそうですけどね」

 

(やぶへびだったか)と思い、ヴィヴィアンは口の中でキャンディが小さくなると、ヴァリヴォリ頑丈な奥歯で噛み砕いた。今、円形闘技場では聖ウルスラ騎士団の騎士ふたりが剣を交えていたが、それはその前に使用していた槍が双方とも折れてしまったからであった。白熱した試合であり、誰もが固唾を飲んでこの試合の行く末を見守っている。

 

「はん!こんな試合、ただの八百長じゃねえか」

 

 ヴィヴィアンは口のまわりをぺロリとなめると、上品な貴婦人の仕種で手を立て、隣の妹にそう囁いた。一応、自分のこの意見が周囲の人々の気に障ってはいけないと配慮してのことである。

 

「素人見にはわからねえのも無理はねえ。だが、本気の槍や剣のやりとりってのはあんなもんじゃねえからな。ま、大方シナリオのほうは最初から決まってるのよ。『おまえがこう打ち込んできたら、オレはこういくから、馬を引いてうまくかわせよ。そいで……』なんて具合にな。なんとも馬鹿らしいこった」

 

「兄上もやはり、そう思われますか……」

 

 オレンジ味のゼリー菓子をしゃぶりつつ、ブランカは溜息を着いた。いや、騎士同士でぶつかる時には「観客を楽しませる要素を盛り込みつつ、それなりの試合を」というのが悪いとは言えない。事実、ふたりの騎士は真剣に切り結んでいるようにしか見えないし、馬の扱い方のほうも素晴らしかった。だが、本物の騎士である彼らふたりの目にはあちらこちらに演技的要素が光って見え、そのたびに興醒めとばかり、白けた気分にならざるを得ない。

 

「ま、これはこれでしょうがないやな。こんな模擬戦みたいなもんで怪我なんぞしたところで、誰か褒めてくれる人があるわけでなし。実際に戦争が近くて野外で訓練も兼ねて戦うって時にゃあ、怪我人どころか死人が出ることだってある……本当の戦いってのはそういうもんだ。一応タテマエとしてはな、勝利した側が負けた相手の武具一式を剥ぎ取ることが許されてるというそうしたルールだが、結局奴らは同じ騎士団の所属だものな。それを打ち直して自分の武具にするってんじゃなく、あとから相手に返すってことになるんだろう。何分騎士って奴は金がかかるから貴族にしかなれん職業とはいえ……そんなことを本当にしてたらのちのち内輪揉めするってことにもなりかねんだろうしな。それよりは観客の目を楽しませつつ、お上品に戦ったほうがなんぼかお利口さんな犬ってことになるだろうよ」

 

「我々ロットバルト騎士団のように、仮に死ぬことになろうとも、戦う時には常に真剣勝負……というわけにはいかないんでしょうね。我がロットバルト騎士団の騎士同士の戦いを見たとしたら、ここにいる上品なご婦人方はみな失神してしまいそうだ」

 

「ま、ようするにそーゆーこった」

 

 レプラコーンの焼印の押されたパンが美味しかったため、ヴィヴィアンは妹の分まで食べてしまった。そして勝負のほうは、彼が「たぶん、騎士団内でも位階が上なり、同じ貴族でも力関係において上か、あるいは年上だったりするほうが勝つんじゃねえか」と言っていたとおり――ジョルジュ・ドートリッシュ対メラヴ・オーヴェロンの試合は聖ウルスラ騎士団内において、ボードゥリアン騎士団長の信任も厚く、彼より年上であり、ウリエール卿の親戚でもあるドートリッシュが勝利した。

 

 ふたりは馬から下りると、互いの健闘を称えあうかのように抱きあい、握手している。すると、拍手喝采と口笛がそこここから上がったが、ヴィヴィアンなどは(試合を盛り上げるのに、そういうサクラまで雇ってるんじゃねえだろうな)などと邪推してしまったほどである。

 

 だが、そんな彼ではあったが、この翌日やその翌々日に――ロットランスの素晴らしい快進撃といっていい戦いぶりを見、驚くと同時に笑いだしていた。この謎の黒騎士の存在は、初日からすでに聖ウルスラ騎士団内でも噂になっていたが、彼はその後も順当に勝ち上がっていき、このままいくと七日目にはシード選手となっている五人の騎士のいずれかと間違いなく当たることになるだろう……また、その際にはエレアガンス・メレアガンスは別として、他のフランソワ・ボードゥリアン騎士団長はもちろんのこと、残りの三騎士であるリチャード・ドーン・マイヤンスもガロン・ル・ブルゴワンもアルゴン・ド・アスブルモンも、騎士団の名誉にかけて決して負けるわけにはいかなかったろう。

 

 この輝かしき馬上試合トーナメントの最終日には、決勝戦の試合のみが行われることになるわけだが、その前日、聖ウルスラ騎士団の四天王といっていい四人の騎士と当たるべく、勝ち上がってきた四名の戦士は以下の者たちであった。すなわち、黒騎士ロットランス、青銅の騎士テオドール、白銀の騎士アビギネ、そして残りの一名がフランツ・ボドリネールだったのである!

 

 フランツは、毎年の伝統通り、かなり早い段階で「負けること」を強要されていたが、「それは出来ない」として断っていた。彼は「今年の聖ウルスラ祭における馬上試合において、もし自分がボードゥリアン騎士団長に勝てなかったとすれば退団する!!」と宣言し、今回のトーナメントに臨んでいたのである。ノリス・ヴォーモンといったサイラス派だった騎士団員たちは、真剣勝負のある程度のところで最終的にフランツに勝ちを譲っていたし、フランソワ派の騎士たちにしても、フランツの並々ならぬ決意に感じ入るものがあったのだろう、それとわからぬ形により、あえて彼に勝利を譲った者もいたようである。

 

 こうした試合の成り行きを見て、驚いたのは闘技場へ試合を見に来た貴族や民衆たちだけではない。騎士団長であるフランソワの元には「聖ウルスラ騎士団の名折れだ」として、各方面から苦情が来ていると知っていたレイモンドではあったが、彼は連日異母弟フランツの試合を見て気づいたことがあった。弟が(相当腕を上げたな)ということがわかり、驚くと同時、彼らの父であるオリヴィエがこのことをどれほど喜び誇りとしていることだろうかと思うと――レイモンドはその瞬間、なんとも不思議な感慨に囚われていた。

 

 彼は毎年、聖ウルスラ祭にて、馬上試合トーナメントを見るたび、騎士としての本能が心奥で疼くものを感じる。すなわち、自分が馬上で槍なり剣なりを手にして戦っているところを想像してしまうのだ。無論、他の民衆たちにしても当然そうしたところはあったろう。だが、レイモンドには彼らにはないある視点があった。すなわち、自分ならばこうした戦術を取り、このように動く……といった、剣術や馬術に長けた者の最良の戦略が見えるのである。

 

 もっとも、レイモンドには、ヴィヴィアン・ロイスのように、試合を見ていて野獣の血のたぎりを覚える――ということまではなかったが、けれどもそういう時彼は、(三つ子の魂百までというべきか、腐り切った俺の心にもまだ、騎士道精神というやつが生き残っていたらしい)と思い、失笑せずにいられないのだった。

 

 ゆえに、そんなレイモンドであったればこそ、馬上試合トーナメントの多くの試合を見ていて気づいたことがある。黒騎士ロットランスはもちろんのこと、青銅の騎士(彼は青みがかった甲冑を身に着けていたことからこう呼ばれた。本当に青銅の甲冑を着けていたわけではない)テオドールも、白銀の騎士アビギネも……正規に訓練を受けた騎士であり、このことの裏には何か他州の思惑が絡んでいるのではないかということだった。

 

 無論、レイモンド当人がそうであるように、何かの事情により騎士団より破門にされた、あるいは戦争時などに騎士らしくなく人道に反する勝ち方をした、婦女子へ暴行を働いたなどして強制的に退団を余儀なくされるということはあったろう。だが、レイモンドは直感的に(この三人は間違いなくそうではない)と感じていた。他のいわゆる「ワイルドカード」と呼ばれる選手たちは、仮に賞金をもらえなかったにせよ、その勇敢な戦いぶりが評価され、高待遇により軍の一員に迎えてもらえる、またこれは例として極めて少ないが、騎士の一員になれるということも不可能なわけではない。

 

 レイモンドはこのあたりのことに関して、まずは親友のフランソワに探りを入れた。「闘技場に張り出されたトーナメント表を見る限り、おまえの相手は副団長のフランツだ。実力から言っても勝てるという意味で問題はあるまい。だが、残りの三名はどうなんだ?アスブルモンもブルゴワンもマイヤンスも、みなともに名門騎士の出だぞ。ひとりでも負ければ聖ウルスラ騎士団の恥、とんでもない名折れということになる」と。

 

「もちろんわかっているさ」

 

 その日の試合が終わってのち、自陣の幕営にて他の騎士団員らに渇を入れたばかりのフランソワは、珍しく機嫌が悪かったものである。

 

「だが、相手選手がワイルドカードである以上、結果についてはなんとも言えんものがある。何分、連日『明日こそオレがあのロットランスの奴を仕留める』、『青銅の騎士の奴はこのオレが』と言っていながらこのザマなのだからな。もっとも、責任の一旦については当然この俺にもあるだろう。どうせ今年も大した選手なぞ現れまいと思い、騎士団員たちに発破をかけても来なければ、あまりしごいてもこなかったのだからな。もっと厳しく鍛錬させときゃ良かったなんぞと今さら後悔したところで、まさに後の祭りというやつだ」

 

「一年に一度の聖ウルスラ祭なだけに、なんぞというのはまったく笑えんぞ」

 

 このあと、レイモンドはあの三人の騎士の正体について心当たりはないのかとフランソワに聞いた。

 

「騎士団員の全員に聞いてみたが、誰も心当たりはないそうだ。だが、すでに試合で負けた騎士に命じて、彼らの素性を探らせようとはしてみた。ところが三人とも、それぞれ別の旅籠に宿泊しているらしく、冑を被ったまま宿に入り、それから次の試合のために宿を後にする時にも、冑を被ったまま出てくるんだと!俺は三人それぞれに尾行までつけさせたんだぞ。それなのに、三人とも顔さえわからんと来てる。こんな話、あると思うか?」

 

「事実、今俺たちの目の前で起きていることがそうだ」

 

 フランソワとレイモンドは、この件に関し考えられる他州の陰謀について話しあったが、結局のところ何もわからなかった。だが、(何かがおかしい)ということだけは確実にわかっており、その拭い難い印象については、他の聖ウルスラ騎士団のメンバー全員も感じていることだったのである。

 

 レイモンドはフランソワと一度別れると、次は随分長くその敷居を跨いでいない貴族街のボドリネール家へ弟のことを訪ねていくことにした。もっとも彼は、自分の父とも義母とも顔を合わせたくないため、裏門のほうから誰かが出てくるのを待つことにしたのだが。すると、通いの家政婦のひとり、アンヌが出て来て「まあ、レイ坊ちゃま!」と、彼女はすっかり驚いていたものである。

 

「やあ、アンヌ。何故俺が表門から入らず、コソ泥のようにこんな場所にいるか、賢いおまえならわかるだろう?フランツは今屋敷のほうにいるかい?」

 

「フランツ坊ちゃまであれば、たぶんモントーヴァン邸のほうにいらっしゃるかと……」

 

 このあと、ふたりは並んで歩きはじめた。というのも、彼女は城砦の中流階級の人々が住む第八区に暮らしていたが、モントーヴァン邸へ行くには途中まで道が一緒だったからである。

 

「モントーヴァン家といや、あの気の毒なラウール騎士団長の屋敷のところだろう?アンヌ、あいつはここのところよくラウールおじさんのところへ行くのかい?」

 

「さあ……わたくしにはなんとも………」

 

 アンヌが困ったような顔をするのを見て、レイモンドもそれ以上何も聞かなかった。そこで、突然話を切り替え、彼女の夫やふたりいる息子や娘の話、そこから最近初孫が生まれたということも知り、レイモンドは「おめでとう!今度何か贈り物を送るよ」と言って祝福し、気の優しいこの女中と途中で別れた。

 

 ラウール・フォン・モントーヴァンの屋敷は、レイモンドにとってかつての自分の実家などより、よほど敷居の高くない場所であった。無論、もし彼が親友のフランソワ・ボードゥリアンが元騎士団長の跡取り息子を死に追いやっていたと知っていたとすれば話は別だったろう。だが、この件に関してレイモンドは「不幸な不慮の事故」といったように思ってきたため、そのことで落ち込む親友のことを慰めてさえいたわけである。

 

 また、聖ウルスラ騎士団内にて、ラウールほどレイモンドのことを気遣ってくれた者はなかったほどでもあるのだ。ラウールは親友でもあるオリヴィエ・ボドリネールが再婚してのち、レイモンドが苦しい立場にあるらしいと察し、実の父以上にこまやかな気遣いと愛情を持って「それとなく」色々な相談にも乗ってくれたのだった。

 

 正直、レイモンドは実の父親の顔とボドリネール家の家名に泥を塗るのはさしてどうとも思わなかったが、最後の最後まで彼を騎士団に居残らせたものは、ラウールが騎士団長としてかけてくれたあるひとつの言葉だったに違いない。『早まるんじゃないぞ、レイ。騎士でなくなることはいつでも出来る。だが、一度失った名誉を取り戻すことは……もう二度と出来んかもしれぬのだからな』と。

 

 この言葉を、その後もレイモンドは何度となく思い出すことがあった。ラウールは何かくどくどしく説教することはなく、どちらかというと短く、一見なんの関係もないような言葉によって『おまえのことはちゃんと見ているし、よくわかっているぞ』と態度で示してくれるような人だった。

 

 自分が騎士に叙任されるというその晴れの日、結局のところレイモンド・ボドリネールが姿を現さなかったことで、実父はともかくとして、モントーヴァン騎士団長のことを深く悲しませ、失望させたであろうことは――今もレイモンドの心の奥深くに、苦い悔恨として残っていることでもあったのである。

 

(だが、あれからもう随分長い時が過ぎた……)

 

 サイラス・フォン・モントーヴァンの葬式の時も、レイモンドは教会の外でオスティリアス修道院長やフランソワ・ボードゥリアンの弔辞の言葉を聞き、それからサイラスの黒い棺が墓に葬られるところを遠くの樹の下でじっと見守っていたものである。

 

(あの頃であれば、まだ俺も……ラウール騎士団長にお会いする勇気まではなかった。だが、おじさんにとって俺は騎士から穢れた身分に落ちたどうしようもない人間であるにせよ……今ならばおそらくお互い、なんのわだかまりもなく色々なことを話せる気がする)

 

 とはいえ、これもまた三つ子の魂百までと言うべきか、レイモンドは実際にモントーヴァン邸が近づいてくると、胸に徐々に動悸を覚え始めたものである。というのも、それはラウールが鍛錬においては鬼のように厳しかったからであり、(おじさんも体を悪くしてからは、人間が丸くなっただろうしな……)などというのはただの幻想であって、やはり『一体何をしにきた!!』、『貴様は親父の悲しみをわかっておるのか!!』、『ボドリネール家の面汚しめ!!』と、かつてと同じ怒声により雷を落とされる可能性というのも、まったくゼロではないと、そう思い至ったからであった。

 

 だがこの日、レイモンドが彼らしくもなくモントーヴァン邸の門前でうろうろ迷っていた時のことだった。「せいっ!!」だの「やあっ!!」だのいう掛け声とともに、カツカツいう槍を交える音や、カシーンカシーンと剣を交えているらしい音などが聞こえてきたのである。もっとも、それとても「よく耳を澄ませば聞こえる」といった程度のものであり、誰の声のものなのかまでは、レイモンドにも皆目見当がつかなかったと言える。

 

(フランツの奴が腕を上げたように見えたのは、もしかしてラウール騎士団長に厳しく稽古をつけてもらっているそのせいなのか?)

 

 だが、そのラウール・フォン・モントーヴァンも、今は老齢にあるのみならず、半身不随の身と聞いている。(ということは、セドリックあたりが相手をし、ラウールおじさんが近くで見ながら檄を飛ばしてでもいるのだろうか?)レイモンドはそう思ったが、結局のところ何もわからなかった。しかも、庭の奥のほうを覗き込もうとしていると――彼がその姿を心に思い浮かべたばかりのセドリックが、よく整えられた前庭を横切り、ずんずんこちらへ近づいて来るではないか。

 

「何か?」

 

 セドリックはこの招かざる客のことを生垣越しにジロリと睨んだ。サイラス・フォン・モントーヴァンの死に関し真実を何も知らぬレイモンドであったが、セドリックにしてみれば違った。彼はフランソワ・ボードゥリアンの親友としてレイモンドはすべてを知っているものと想像していたし、それどころか毒を使うようレイモンドが入れ知恵した可能性すらあると考えていたのである。

 

「いや、弟のフランツに用があったんだ。家のほうで聞いたら、フランツはモントーヴァン家へ出かけていると聞いたもので……」

 

(フランソワ・ボードゥリアンから何かを聞き、探りを入れにきたのか?)

 

 そう想像したセドリックは、渋面を作ったまま言った。

 

「それでは、フランツさまのことをお呼びしてきましょう。少々お待ちくださいませ」

 

 口調こそ恭しかったが、セドリックの態度はいかにも慇懃無礼だった。門を開けてももらえなかったことから……その瞬間、レイモンドにしても流石に悟った。やはり自分はモントーヴァン家にとっては二度と顔すら見せて欲しくない客という、そうしたことなのだろうと。

 

 暫くしてフランツが庭先に姿を見せ、それから小径を通って門を出てくると、この異母弟もまたセドリックの顔の表情をまったく移したような渋面をしていた。その苦虫を噛み潰したような顔を見ても、レイモンドはこの弟に対しては、それでも気安い態度を取れたものである。

 

「なんだ?馬上試合を見ていて腕を上げたとは思っていたが、ラウール騎士団長に稽古でもつけてもらってるのか?」

 

「何言ってんだよ、兄さん。今の騎士団長はフランソワじゃないか」

 

「いやまあ、そりゃそうだが……」

 

 フランツのほうでは、あることを警戒していた。自分の異母兄は、普段は滅多なことでは実家のほうへ寄りつかず、モントーヴァン邸へやって来ることも、おそらくここ数年なかったことであろう。それなのに、わざわざこうしてやって来た――そこには何かの策略や理由がなければおかしいのである。レイモンド・ボドリネールという彼の兄は、そうした計算高い男なのだから、歩いて費やした労力分のことは何かしら請求するだろうことはまず間違いないところである。

 

 実は、事はこうしたことだったのである。ランスロットとギネビアがボドリネール邸へやって来たあの翌日から、フランツはランスロットやカドール、それにギネビアに連日稽古をつけてもらっていた。カドールとランスロットは別としても、何よりギネビアは女性である。それなのに、トネリコの長い棒でやりあって、フランツは彼女から一本も取ることが出来なかった。フランツは、聖ウルスラ騎士団内において、決して腕前が劣るほうではない。だが、ランスロットにしてもカドールにしても……彼の所属する騎士団内に果たして勝てる者がいるかどうか、その時点でフランツは焦燥を覚えはじめていたものである。それまで、聖ウルスラ騎士団は他のどの騎士団と戦っても、互角かそれ以上の力を発揮することは間違いないと信じ切っていただけに。

 

 黒騎士と青銅の騎士と白銀の騎士とは、それぞれ三人とも別々に旅籠を取っているのは本当のことである。というのも彼らは多額の金を積み、「自分のことを聞かれても、誰にも何も答えないように」と宿の主人に頼み、試合が終わり、一度旅籠へ戻ったあとはこうして今後の相談のために、モントーヴァン邸にて稽古と食事を共にするということを繰り返していたのだから。

 

 この日もフランツは、レイモンドが門前をうろついているとセドリックから聞かされなかったら、みなでわいわいと楽しく夕食の場に参加してから自宅へ戻る予定であったのに――そういうわけにもいかなくなったことでも、機嫌が悪かったのである。

 

「フランツ、おまえ凄いじゃないか。よくは知らんがフランソワから聞いた話じゃあ、ボードゥリアン騎士団長さまに試合で勝てなかったら退団するって宣言したんだって?確かに、おまえが腕を上げたってことは認めるが、かと言って急にどうしたんだ?第一このこと、そもそも親父が知っているとはとても……」

 

「うるさいな!僕が聖ウルスラ騎士団を退団しようがどうしようが兄さんには関係ないことじゃないか。第一、そのほうが兄さんには好都合なんじゃないかい?そうなれば父さんは、出来の悪い息子をふたりも持ったってことで、ラウールおじさんとはまったく別の意味でもう表を出歩かなくなるかもしれないね。ラウールおじさんは体のほうが不自由なんだから仕方ないさ。でも父さんはもともと世間体ってものをすごく気にするほうで見栄っ張りなのに、兄さんに続いて僕もそんなことになったと知ったら……母さんの大きな胸でよよと泣く程度のことじゃ事は済まないに違いないよ」

 

 レイモンドは思わず隣のフランツのほうを見返した。ふたりはすでに通りを自分たちの実家のほうへ向け、歩きはじめていたが――彼は無論、ボドリネール邸のほうへ立ち寄るつもりはない。ゆえに、話のほうは手短に済ませねばならなかったが、レイモンドはこの瞬間、何かのはっきりした意識の変化が、間違いなくこの異母弟に起きたのだと察していた。

 

「なんだ、おまえ、フランツ……まさか、ずっと遅れて反抗期のほうがやって来たというわけでもあるまい?家で親父と何かあったのか?いや、俺はそもそも、半分しか血が繋がってないからだのいう理由によってではなく、おまえに兄貴面するつもりはないんだ。むしろ、半分しか血が繋がってないにも関わらず、こんな奴が兄貴でおまえには悪いなとすら思ってる。そんなボドリネール家の面汚しの俺が、おまえに何か説教できる筈もない。だが、一体どうしたんだ?もしかしてアレか?平民の娘と婚約破棄したってことで、今ごろになって親父があれこれうるさく言いだしたってことか?」

 

「そうだよ!!」と、フランツは怒鳴るように言った。話を誤魔化すために、渡りに船だとすら思っていた。「父さんが、今さら誰か貴族の娘と結婚しろって色々うるさくせっつくから、今うちじゃ父さんと母さんがよく喧嘩してるんだ。ほら、母さんは自分が平民の出だろ?だから父さんが貴族の娘貴族の娘って、呪文でも唱えるみたいに僕に縁談を薦めるもので、『平民の出の娘の一体何が悪いのよ!!』ってわけでさ、途端に機嫌が悪くなるんだ。こっちはまったくいい迷惑だよ」

 

 このあと、レイモンドには流石に言葉もなかった。無論、だからといってそれが「ボードゥリアン騎士団長に馬上試合で勝てなければ退団する」ことに何故繋がるのかは、彼には謎以外の何ものでもない。だが、レイモンドはそれ以上「何かが変わった」今の弟に、さらに質問を重ね、事情のほうを詳しく聞くような真似は出来なかったのである。

 

「あ、うちの門灯が見えてきた」

 

 フランツは角を曲がるとそう言い、わざと意地の悪い顔と口調をしてこう言ってみせることさえしたものである。

 

「兄さん、寄っていくかい?夕食の席ででもさ、僕が見合いすることになる貴族の娘さんってどんな人なんだいって聞いてみればいいよ。そしたら、途端に母さんはムッツリして、父さんは父さんでゴホンゴホンって白々しいくらい咳き込むに違いないからね。兄さんはずっとそれが望みだったんだろ?自分が出ていったあとのボドリネール家が、今みたいに目茶苦茶になるっていうそのことがさ」

 

「い、いや。そこまでのことは……」

 

 レイモンドは珍しく狼狽して、フランツの前で口篭もった。少なくとも彼は、今のような弟の姿を一度も見たことがなかった。フランツはいつでも、人の立場に立って物を考えられる優しい人間だったが、そのかわり優柔不断で気の弱いところがあった。だが、婚約者が貴族の娘か平民出の娘かということが、突然ここまで彼を変えたということでもあるまい。レイモンドには結局のところ、この時も何がなんだかわからないままだった。

 

 ボドリネール邸まで、もうほんの十メートルもないというところでレイモンドは立ち止まると、弟に別れを告げた。フランツのほうでは当然自分の兄はそうするだろうとわかっていたのである。

 

「じゃあ、試合がんばれよ。観客席のほうで応援してるからな」

 

「ああ、うん。なんかさっきはごめん。僕もここのところ色々あって、気が立ってるもんだからさ。とにかく、うちはそんなことになってるから、今なら兄さんが帰ってきても、あれから随分時間も経ってるし、どうということもないと思うんだ」

 

(どうということはあるさ)と、レイモンドは思ったが、手を振ってフランツと別れた。彼はこのあと、一時間以上もかけて第十区にある自分の別邸のひとつへ戻ったが、その間目まぐるしく色々なことを考ずにはいられなかった。この時期によく見る、観光客と思しきたくさんの人々と通りすぎたり、「聖ウルスラ祭おめでとう!」と囁きかわす地元民の群れと行きかいつつ……レイモンドはどれほど考えてもやはりわからなかったものである。

 

 推理するには情報のパーツが少ないというそのせいだったが、それでいてレイモンドは聖ウルスラ騎士団の今後につき、何故だか暗澹たる未来しか思い描くことが出来なかったのだ。彼は親友だからではなく、フランソワ・ボードゥリアン騎士団長が、フランツにも、あの勝ち上がってきた三騎士にも負けるところが想像できなかったが、それでももし、フランソワが黒騎士か青銅の騎士、あるいは白銀の騎士にでも負けたとしよう。確かに、こんなことは聖ウルスラ祭はじまって以来の大きな恥となることである――だが、それであの三騎士の内の誰かに、賞金を得るということ以上に何か得にでもなることでもあるのだろうか?

 

(動機としてあるとすれば、聖ウルスラ騎士団自体に何かの恨みがあるという可能性だが……それでいくと彼らは、リア王朝からやって来た間者か何かだということだろうか?いや、まさかそんな馬鹿なこと、あるはずがない……)

 

 最後にはそんなことまで考えていたレイモンドであるが、とにかくこの翌日、彼は弟フランツのことで親友のフランソワに詫びを入れていた。家のほうが何やら荒れているらしいこと、それで何やらフランツが自暴自棄となり、自分と同じく父のオリヴィエが恥を見ればいいと考えたことが、退団だなんだと口にした理由であるらしいこと……「悪いんだがな、つまりはそういうことだから、あいつは結局のところおまえに負けるにせよ、そのあとのことはうまく他の騎士団員たちに取り成してもらえないかな」と頼んでいたわけである。

 

 フランソワのほうではレイモンドのこの意見を快く了承していた。「もちろん、最初からそのつもりだったさ」と……だが、フランソワとフランツの試合の行方のほうは――実は意外な結果によって終わるということになるのである。

 

 

 >>続く。

 

 

 

 

 


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