真実を求めて Go Go

今まで、宇宙についての話題を中心に展開してきましたが、今後は科学全般及び精神世界や歴史についても書き込んでいきます。

「宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか」

2014年03月13日 | 宇宙

「宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか」という本が、今年の1月15日に新潮社から出版された。

 著者は、ロジャー・ベンローズその人である。

 ペンローズは、あの「車椅子のニュートン」と呼ばれる天才物理学者として、良く知られているホーキング博士の師匠といわれている。そして、ペンローズが、まだ子供の頃に版画家エッシャーの不思議絵の科学的なヒントを与えた人物としても有名である。

 しかし、ペンローズの本当の専門は「一般相対性理論」で、この理論を駆使した論文をたくさん書いている。そして、彼の最新の理論は、「革命的な宇宙論」であり、その内容の過激さゆえに、物理学者たちを震憾させている。

 この本のペースになった論文は「Proceedings of EPAC」に二〇〇六年に発表されたもので、論文の題名は「ビッグバンの前:ばからしいほど新しい観点と、その素粒子物理学への影響」である。ほぼ、4ページの短い論文の中身が、今回、そのまま一般向けに336ページの本に化けたように思われる。また、ペンローズは自説を「CCC」(Conformally cyclic Gosmorogy 共形・循環・宇宙論)と名づけている。この頭文字をとった略称は、いかにも学者らしい。

 本の題名から察しが付くことですが、この本のスタートから、現代の物理学者を悩ませている難問というか矛盾について熱力学の第二法則を語っています。

 ビッグバンの頃、宇宙は熱くて小さかった。本来、熱くて小さい物体のエントロピーは大きいはずである(おおまかに、整頓された状態はエントロピーが小さく、不規則でばらばらな状態はエントロピーが大きい)。エントロピー増大の法則が正しいのであれば、そもそも宇宙の始まりのエントロピーは小さかったはずである(最初は小さくないと、その後、どんどん大きくなることはできない)。

 ところが、宇宙の始まりを計算してみると、熱くて小さいので、とてもじゃないが、整頓された状態とは程遠い。つまり、宇宙の始まりのエントロピーは大きかったことになる。宇宙の始まりは秩序だっていた(=エントロピーが小さい)のか、それとも、混沌としていた(=エントロピーが大きい)のか?

 この矛盾に対して、なんと、ペンローズは、宇宙の始まりと終わりが「同じ」だと主張する。つまり、この宇宙がどんどん膨張して、薄まっていって宇宙が終わったら、それは実は、宇宙の始まりのビッグバンだというのである。

 宇宙の始まりと終わりが「同じ」だなんて、神話に登場するウロボロスの蛇そのものである。たしかにペンローズが自説を「ばからしいほど新しい」と形容する理由が分かる。しかし、そこはペンローズのこと、単なる思いつきではなく、きちんと納得できる理論的な裏付けが存在するはずである。

 そもそも、アインシュタインの相対性理論では、速く動く物体の時計は光速に近づくに従ってだんだんゆっくり進み、光速で移動する物体の時間は「静止」する。光子のように重さがゼロだと常に光速で移動する。すなはち、光速で動き回る物体にとっては、時間が経つことはない。

 ペンローズは、数学的、物理的な理由から、宇宙の始まりと終わりでは、重さゼロの粒子しか存在しないと論じ、そこでは長さや時間が意味をもたなくなり、物理的に重要なのは「角度」だけになると主張する。長さや時間よりも角度のほうが基本的な意味をもつであろうことは、数学や物理学の世界では、自然と納得できる主張なのである(この角度の重要性が「共形」という専門用語であらわされる)。

 そして、その数学的な同等性を根拠に、ペンローズは、「宇宙の始まりと終わりは同じだ」という驚愕の結論に達する。また、その過程で、宇宙の始まりのエントロピーが小さかったと結論づけるのである。

 つまり、ペンローズが正しければ、われわれは、永遠に循環する「サイクリック宇宙」に棲んでいることになる。


 私は、このブログで、数回にわたりペンローズの新しい宇宙論について書き込んでいます。
 その理由として、「宇宙の始まりと終わりは同じだ」とする考え方こそが、人類の宇宙に対する想いに革命をもたらす可能性があると思っています。それはちょうど、コペルニクスやガリレオが地動説を唱え、人類の宇宙観を変えた状況に似ている。
 いまのところ、ペンローズの主張が正しいのかどうか、誰にも判断がつかないが、コペルニクスやガリレオと同時代の人々も、地球が動いているのか、天が動いているのか、判断がつかなかったはずです。われわれはみな、宇宙の住人である以上、この宇宙の過去と未来についての革命的な主張を知ることは、われわれの住処を知ることにほかならない。
 ペンローズは、数理物理学者なのだから、本来は四ページの論文を書いて、それっきりでもいいはずです。しかし、ペンローズが、難しい数式は全て附録に「押し込め」、あえてこの本を書いた理由は、専門家だけでなく、一般の人々にも自らの革命的な宇宙論について知ってもらいたいと願ったからなのでしょう。