冬虫夏草の不思議
木の枝先にハエやアブが、しがみついて死んでいる。生きていたのが、まるで突然に凍ったようにじつとしている。体内に寄生した菌が繁殖し虫が死ぬ、そのまま地面に落ちてしまうと、菌にとって繁殖の機会がなくなる。枝先だと胞子を飛ばして、他の虫にとりつく可能性が出てくる。
「冬(とう)虫(ちゅう)夏草(かそう)を探しに行こう」 盛口満著 日経サイエンス社に次のように書かれています。
「冬虫夏草ではないが、動物に寄生する寄生虫の中には、寄主の動物の行動を変化させるものがある。たとえば、吸虫の一種は、幼虫の一時期、アリの体内で暮らす。そして最終的には吸虫はヒツジの体の中で成虫になる。普通、ヒツジがアリを食べるということは、偶然にでも頼らなければありえない。ところが、この吸虫に寄生されたアリは、草のてっぺんに這い上がり、自分の顎で草にかみつき動かなくなるのだ。当然、寄生されたアリはヒツジに草ごと食べられる機会が増える。また、鉤頭虫類を使った実験によると、この虫の幼虫に寄生されたダンゴムシは、寄生されていないものより、乾燥した明るい色の場所に出歩くようになり、結果として、成虫の寄主である鳥に捕食されやすくなることがわかった。野外の観察結果でも、寄生されたダンゴムシは捕食される率がより高かったという。正確には寄生虫が゛指令゛をしているわけではないが、寄主の行動を変え、最終的な寄主に入りやすく成るような何らかの仕組みがあるのだ。そうすると冬虫夏草にも、虫の行動を変えるような仕組みがあると考えてもおかしくないのかもしれない。」
「植物」という不思議な生き方 蓮見香祐著 PHP研究所という本に興味深いことが出ていました。
「レウコクロリディウムという寄生虫に寄生されたある種のカタツムリは実に奇妙な行動をする。カタツムリは、ふだんは湿った日陰で暮らしている。ところが寄生されたカタツムリはあろうことか日当たりの良い葉の上に移動するのだ。催眠術などであやつられている人は、目を見ると正気でないとわかることがあるが、寄生されたカタツムリも目を見ればあやつられていることは一目瞭然である。なにしろカタツムリの突き出た目は先端が異常に膨れ上がり、奇妙な縞模様が動いているのだ。ホラー映画でも見られないような気味の悪い目である。この目の中を動きまわっている縞模様の物体こそが、カタツムリをあやつる寄生虫である。寄生虫はカタツムリの目の中を動き回りながら、縞模様を目立たせ鳥を呼び寄せるのだ。寄生虫が鳥を呼び寄せるのにはわけがある。実は、このレウコクロリディウムはもともと鳥の寄生虫なのである。鳥の体内で寄生虫の産んだ卵は鳥の糞といっしょに体外に出される。そして。カタツムリが餌を食べるときに、一緒にカタツムリの口に入り、体内に侵入するのである。人間のお母さんなら、「だから食べる前に手を洗いなさい、つて言ったでしょ」と怒るところだろうが、残念ながらカタツムリには手はない。さて、まんまとカタツムリの体内に侵入した寄生虫には、最後に難問が残っている。それが、カタツムリの体内から鳥への移動である。これですべてが納得できただろう。
まるで食べて欲しいかのように葉の上に移動したカタツムリの異常な行動は、寄生虫が鳥の体内に移動するためだったのである。こうしてカタツムリと一緒に食べられて寄生虫は無事、鳥の体内に戻ることができる。むろん、カタツムリの命と引き換えに、である。カタツムリはあやつられていたのだ。なんとも恐ろしい話である。」
長々と二つ例を挙げた。自然の仕組みの巧みさに圧倒される。しかし、人間も全く気がいていないが、何が仕組まれたことによって行動しているかもしれないと、ふとそんな気がしました。
木の枝先にハエやアブが、しがみついて死んでいる。生きていたのが、まるで突然に凍ったようにじつとしている。体内に寄生した菌が繁殖し虫が死ぬ、そのまま地面に落ちてしまうと、菌にとって繁殖の機会がなくなる。枝先だと胞子を飛ばして、他の虫にとりつく可能性が出てくる。
「冬(とう)虫(ちゅう)夏草(かそう)を探しに行こう」 盛口満著 日経サイエンス社に次のように書かれています。
「冬虫夏草ではないが、動物に寄生する寄生虫の中には、寄主の動物の行動を変化させるものがある。たとえば、吸虫の一種は、幼虫の一時期、アリの体内で暮らす。そして最終的には吸虫はヒツジの体の中で成虫になる。普通、ヒツジがアリを食べるということは、偶然にでも頼らなければありえない。ところが、この吸虫に寄生されたアリは、草のてっぺんに這い上がり、自分の顎で草にかみつき動かなくなるのだ。当然、寄生されたアリはヒツジに草ごと食べられる機会が増える。また、鉤頭虫類を使った実験によると、この虫の幼虫に寄生されたダンゴムシは、寄生されていないものより、乾燥した明るい色の場所に出歩くようになり、結果として、成虫の寄主である鳥に捕食されやすくなることがわかった。野外の観察結果でも、寄生されたダンゴムシは捕食される率がより高かったという。正確には寄生虫が゛指令゛をしているわけではないが、寄主の行動を変え、最終的な寄主に入りやすく成るような何らかの仕組みがあるのだ。そうすると冬虫夏草にも、虫の行動を変えるような仕組みがあると考えてもおかしくないのかもしれない。」
「植物」という不思議な生き方 蓮見香祐著 PHP研究所という本に興味深いことが出ていました。
「レウコクロリディウムという寄生虫に寄生されたある種のカタツムリは実に奇妙な行動をする。カタツムリは、ふだんは湿った日陰で暮らしている。ところが寄生されたカタツムリはあろうことか日当たりの良い葉の上に移動するのだ。催眠術などであやつられている人は、目を見ると正気でないとわかることがあるが、寄生されたカタツムリも目を見ればあやつられていることは一目瞭然である。なにしろカタツムリの突き出た目は先端が異常に膨れ上がり、奇妙な縞模様が動いているのだ。ホラー映画でも見られないような気味の悪い目である。この目の中を動きまわっている縞模様の物体こそが、カタツムリをあやつる寄生虫である。寄生虫はカタツムリの目の中を動き回りながら、縞模様を目立たせ鳥を呼び寄せるのだ。寄生虫が鳥を呼び寄せるのにはわけがある。実は、このレウコクロリディウムはもともと鳥の寄生虫なのである。鳥の体内で寄生虫の産んだ卵は鳥の糞といっしょに体外に出される。そして。カタツムリが餌を食べるときに、一緒にカタツムリの口に入り、体内に侵入するのである。人間のお母さんなら、「だから食べる前に手を洗いなさい、つて言ったでしょ」と怒るところだろうが、残念ながらカタツムリには手はない。さて、まんまとカタツムリの体内に侵入した寄生虫には、最後に難問が残っている。それが、カタツムリの体内から鳥への移動である。これですべてが納得できただろう。
まるで食べて欲しいかのように葉の上に移動したカタツムリの異常な行動は、寄生虫が鳥の体内に移動するためだったのである。こうしてカタツムリと一緒に食べられて寄生虫は無事、鳥の体内に戻ることができる。むろん、カタツムリの命と引き換えに、である。カタツムリはあやつられていたのだ。なんとも恐ろしい話である。」
長々と二つ例を挙げた。自然の仕組みの巧みさに圧倒される。しかし、人間も全く気がいていないが、何が仕組まれたことによって行動しているかもしれないと、ふとそんな気がしました。