『蕎麦がき研究入門』

知らない・映えない・バズらない。なのに昔からある食べ物“蕎麦がき”に今、光を当てます。普通に食卓に上がるその日まで。

新時代の蕎麦がきのリアル。「インタビューのポーズは蕎麦がきで!」

2020-06-01 17:07:00 | その他

どうも。蕎麦がきインタビュイー、片手袋研究家の石井です。この写真は数年前にウェブメディア「DANRO」に掲載されたインタビュー時の写真です。この写真、個人的に凄く気に入っておりまして。「そこ、大事」と呼んでるんですが、物凄く深淵なテーマについて語っていそうなのに話してるのは片手袋のこと、っていうギャップが良いんですよ。「DANRO」は3月でコンテンツ配信を休止、掲載されているコンテンツの公開は9月までなので紹介させていただきました。

☆「ろくろを回す」に新たな風を
インタビューに掲載されるインタビュイーの写真、何故か「ろくろを回す」ようなポーズが多いと言われますよね(特にWEB業界の人が多い、という説もあるようです)?
※こういうやつですね

でもこのポーズを表現するのに「ろくろを回す」って言って大勢の人がすぐに理解できるのって、陶芸とかその製作過程が広く共有されてるからじゃないですか?で、私は思ったんです。「蕎麦がきもそこまで持っていきたいな」って。

なので、試しに「ろくろを回す」が「蕎麦がき」でも代用可能か、実験してみます。ちなみに蕎麦がきを作る際のアクションはこんな感じですね。


せっかくなんで、この『蕎麦がき研究入門』のコンセプトをお伝えするインタビューをお届けしながら、徐々にポーズが蕎麦がきになっていく様にご注目下さい。果たして「蕎麦がきポーズ」は新時代の「ろくろを回す」になれるのか?もし気に入ったら皆さんも使ってみてよね!

「蕎麦がき」は日本の食卓の風景を変えるか?今最注目の「蕎麦がき研究家」に見えている景色とは?

「蕎麦がき」。ありとあらゆる食材・料理と日々接する飽食の時代において、あまりに存在感が薄い食べ物である。もしかしたら「一度も食べたことがない」あるいは「聞いたことすらない」という方も少なくないのではないだろうか?しかし、そんな蕎麦がきにスポットライトを当て、静かなる革命を企てる一人の男がいる。

石井公二さん、39歳。我々はそんな蕎麦がき革命家が何を考え、何を達成しようとしているのかを聞いてみることにした。

■「あるのに見えてない」に惹かれ続けてきた人生
ー本日はよろしくお願い致します。まずは、蕎麦がきを研究するようになったきっかけを教えて下さい。

石井:蕎麦がきの話をするには、どうしても片手袋の話をしなくてはなりません。実は私、元々の肩書は「片手袋研究家」なんです。

ー片手袋ってあの道端によく放置型として落ちてたり、拾われて介入型になってたりする、あの片方だけの手袋のことですか?

石井:そう、それです。幼い頃から片手袋を気にしていたんですが、15年前からは研究も始めまして。研究といっても見つけたら死なない限りは必ず撮影する・死ぬまで片手袋にまつわるありとあらゆることを研究し尽くす・人間の生活や都市の変化を片手袋から読み解くといったライトな物ではあるのですが。片手袋に惹かれてしまう理由は沢山あるのですが、「まちの至る所にこれだけ大量に存在しているのに、誰も見てないし気にもしてない」というのも大きな要因です。それって、とても不思議じゃないですか?
※石井さんが実際に撮影した片手袋

ー確かに。石井さんのご著書『片手袋研究入門』を拝読してから、「こんなに沢山の片手袋に囲まれて生活してたのか!」と気づくようになりました。

石井:ありがとうございます。でも片手袋が見えてくるようになった目で世界を見渡すと、他にも「あるのに見えていない」片手袋的なものがいっぱいあることにも気づくんです。で、私はどうやらそういうものを素通りできない体質なんですね。「皆が見てないなら、せめて自分一人は徹底的に見て考えてやる!そして、その魅力を広めるんだ!」という、誰の為にもならない独りよがりな使命感に燃えてしまう、と言いますか(笑)

ーまさに、その対象が蕎麦がきであった、と。

石井:その通り!

■『蕎麦がき研究入門』で大事にしていること
ー石井さん自身はどうやって蕎麦がきと出会ったんですか?

石井:どういうわけか、うちは蕎麦がきを普通に食べる特殊な環境だったんですよね。まあ、徐々にそれが当たり前じゃないことに気づき、驚きましたよ。「え?みんな、蕎麦がきって普通に食べないんだ!」って。それでもたまに蕎麦がきを食べたことある方に出会うんですけど「粋な大人の食べ物だよね」とか、お年寄りの場合だと「あんなマズいもの2度と食べたくない」とか言われたり。でも、僕にしたらそれも不思議なわけです。「いやいや、別に子供でも気軽に食べられるし、めちゃくちゃ美味しいじゃん!」って。それがずっと続いたんで、「これはなんとかしなくちゃいけないぞ」という気持ちが芽生えました。


ーその結果、今年2020年にブログ『蕎麦がき研究入門』がスタートしたんですね。最初にどのようなコンセプトを設定したんでしょうか?

石井:まずは味より何より、「簡単に作れる」ということを前面に出そうと思いました。実際、基本のプレーンな蕎麦がきって必要な食材も材料も極端に少ないんです。5分もあれば誰でもできる。正直、「人生最高の…」とか「死ぬ前に最後に食べたい…」とか大袈裟な旨味のある食べ物ではないんですけど、手軽にしみじみ美味しいものが作れる、って最高じゃないですか?

ー食べるものを手作りする、という重要性もありますしね。

石井:ああ、それは違うんです。私自身は外食やコンビニの料理を否定する気は全くないです。『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』という、料理研究家辰巳芳子先生主演の素晴らしいドキュメンタリー映画があります。辰巳先生は映画の中で終始一貫して、食べるものを丁寧に手作りすることの大切さを訴えておられて、とても尊敬できます。しかし現代のライフスタイルにおいては、その考えによって苦しめられたり罪悪感を背負ってしまう人もいるはず。一方、料理研究家土井善晴先生の『一汁一菜でよいという提案』という本では、「まあ、無理せずご飯と具沢山の味噌汁くらいあれば良いんちゃう?」という提案がなされています。人によってはそれですら重く受け止めしまうかもしれないんですが、多分土井先生が仰りたいのは「料理を作ることをそんなに重く受け止めなさんな」っていうことだと思ってて。何しろ「究極、作ったもんが不味くても良いじゃん」みたいなことまで書いてあって。優しい物腰ですけど、あの人はパンクですよ。何より家庭料理の第一人者である土井勝先生の子供がそれを言う、ということに意味がありますよね。「肩に力を入れすぎなさんな」って。


ーでは、『蕎麦がき研究入門』では何を訴えたくて、それをどう表現しようと思っていますか?

石井:ですから、忙しい日々の中でちょっと時間がある、と。その隙間に簡単に作れるものの選択肢の中に、蕎麦がきが新しく加われば良いと思ってます。「蕎麦がきが普通に食卓に上がる日を目指す!」という野望があるんですが、その為にはむしろ気軽で手軽であることが重要だと思ってて。だから基本的な作り方や分量は提示しつつ、「蕎麦粉は国産であれ!」とか「これは絶対にこの分量を計らなきゃ駄目!」みたいな書き方はしてません。毎回、私自身が失敗もありうる状況で新しいレシピにチャレンジしつつ、方向性だけ伝われば良いと思ってて。「今回はトマトソースを試してみるけど、トマトソース自体は色々ググってみて!」くらいのノリで。今時、レシピなんて幾らでも見つかるんで、私は「蕎麦がきを使って何が出来るか?」という可能性だけ提示するに留めてます。見た人が「じゃあ違う作り方してみよう」も全然OK。こういったところも片手袋に通じるんですよね。私は世界で唯一の片手袋研究家でありますが、それ故に今は研究の土台を築き上げて可能性を提示してる段階なのです。これからは色んな人が色んな考え方やり方を気軽に持ち込んで欲しいんです。


ーなるほど。あくまで手軽さが重要なんですね。とはいえ、作るのが若干面倒臭そうなレシピもありますね。

石井:そうですね、揚げたりするのはやはり手間が掛かりますね。手軽だ、簡単だ、というのを主軸にしつつ、アレンジしたり手が込んだものを作る可能性も残しておきたいんですよね。忙しい中で何がなんでも手作りのご飯を用意する必要はないけど、たまに時間がかかるものを作って自分や人を喜ばせたい、というのも自然な欲求じゃないですか?特にコロナ禍において自宅生活が長引いた時、家で何かに作る楽しさに目覚めた人もいると思います。蕎麦がきはその意味でも最適で、あっという間に作れる手軽さと、多様なアレンジを加えても受け止めてしまう懐の深さと両方兼ね備えていて。ただ塩だけつけて酒のツマミにしても良いし、明太子とチーズを挟んで揚げてもいける。万能選手ですよ。


■今後の展望
ーこれまでブログをやってきて、新しい発見はありましたか?

石井:私自身、こういう機会がなければ「水じゃなくて牛乳で蕎麦がきを作ってみよう」とか思わなかったので、毎回発見の連続ですね。実はブログを始める前は新たなレシピの蕎麦がき料理を、毎回「マニアブログフェスタ」参加者の方々に試食してもらおうと思ってたんです。コロナによってその企画は実現できなくなりましたが、逆に「リモート蕎麦がき」なんていう企画ができました。あの企画のおかげで、「蕎麦がきにはナンプラーや蜂蜜が合う」なんていう発見もできました。


ー今後やってみたいレシピや企画はありますか?

石井:レシピはもっと大胆な冒険をしても良いですね。今はまだ置きにいってるんで。失敗する可能性がかなり高い挑戦もしてみたい。チョコでコーティングする、とか。あとは「リモート蕎麦がき」みたいに食べる環境や状況自体の模索もしたいですね。「アウトドア蕎麦がき」なんて面白そうだな、と思ってます。一人で突き詰めるのも良いんですが、色んな人と一緒に試行錯誤してみたいですね。

ーありがとうございました。最後に何かありましたら。

石井:本当に簡単に作れるものなんで、ぜひ試してみてください。一つだけ注意があるとすれば、フライパンはテフロン加工のものか、〇〇コートみたいなやつを使うこと。そうすれば極めて失敗の少ない料理なので。あとは「こんなのやってみて」とか「こんなことやりませんか」なんてご提案があったら、お気軽にご連絡ください。


■取材を終えて
身振り手振りを交え、熱く蕎麦がきを語る男の姿。途中から実際にフライパンや出来立ての蕎麦がきが我々の目に浮かんでくるような、そんな生々しいインタビューとなった。この男、まだまだ世の中をかき回していくに違いない。そう、それはまるで蕎麦がきを作るように。(インタビュー収録:6月1日 取材・構成:石井公二)


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