面白い日本語と英語の慣用句(イディオム)とことわざ

日本語と英語の慣用句やことわざには、表現や発想がよく似たものがある。
たとえの面白さをいろいろな角度からながめる。

面白い日本語と英語の慣用句(イディオム)とことわざ(22)

2008年05月31日 | 日本語の慣用句、英語の慣用句
21.9 日本語と英語で使われている動物や植物が異なる例

 ほぼ同じ意をもつ日本語と英語の慣用句であって、両者で使われている動物や植物が異なる例を示す。

 (1) 雨後のタケノコのように増える  sprout like mushroom (after the spring rain)

 「急速に生じる、急成長すること」のたとえとして、日本語は「タケノコ」、英語は「キノコ」を選んでいる。どちらも急成長するのが「雨の後」としている点が一致している。

 (2) 牛の歩み  at a snail's pace

 「のろいこと」のたとえとして、日本語は「ウシ」、英語は「カタツムリ」を使っている。非常にゆっくりとした動作を表現するとき、日本では「ウシのように」や「カメのように」というが、「カタツムリのように」とはいわない。あまり使われないが、日本語にも「カタツムリ」を使った「蝸牛の歩み」ということばがある。

 (3) 瓜二つ  (as) like as two peas in a pod

 「そっくりであること」のたとえとして、日本語は「二つに割ったウリ」、英語は「さやの中の二つのマメ」を選んでいる。

 (4) 陸に上がったカッパ  like a fish out of water

 日本語は「カッパ」、英語は「サカナ」とどちらも泳ぎの得意な動物を選んでいる。「場違いで、勝手が違って」のたとえとして、これらの動物が「水から離れ、泳げない状態にある」とした発想が一致している。。

 (5) 鬼のいぬ間に洗濯  When the cat is away, the mouse will play.

 「気づまりな人、こわい人のいない間に思う存分くつろぐこと」を日本語は「オニ」、英語は「ネコ」と「ネズミ」を使ってたとえている。「オニ」は創造上のおそろしい生き物で、厳密にいえば動物ではない。

 (6) カエルの面に水[小便]  water of a duck’s back

 「何か言われたり、ひどい目にあわされたりしても動じないこと」を日本語の「カエル」に対し、英語は「アヒル」を使ってたとえている。どちらも水をはじく体をもつ動物を選んでいる。

 (7) 借りてきた猫のようにおとなしい  (as) meek as a lamb

 英語の「(as) quiet as a mouse」も近い意をもつ。「おとなしいこと」のたとえとして選ばれたのは日本語では「ネコ」、英語では「子ヒツジ」あるいは「ネズミ」である。

 (8) 窮鼠猫を噛む  Even a worm will turn.

 両者とも「弱いものでも追いつめられると、死にものぐるいになって刃向かうから、とてもかないそうもない強いものをやっつけることがある」の意。「窮鼠ネコを噛む」は中国・前漢時代の書『塩鉄論』の中の文句がのちにこのことわざになったものである。「Even a worm will turn.」は古いことわざ「Tread on a worm [worm’s tail] it will turn.」から。「普通では怒りを爆発させることのない弱い立場の人」を、日本語は「ネズミ」、英語は「ムシ」でたとえている。

 (9) 鶏口となるも牛後となるなかれ  better be the head of a dog than the tail of a lion

 両者とも「上位集団の末端に連なる位なら下位集団のリーダーになる方がよい」の意。下位集団のリーダーを、日本語では「ニワトリのくちばし」、英語では「犬の頭」で、上位集団の末端を、日本語では「牛の尻」、英語では「ライオンの尻尾」でたとえた似たような表現になっている。日本語は「ニワトリ」と「ウシ」、英語は「イヌ」と「ライオン」を選んでいる。

(10) 犬猿の仲  on cat-and dog terms

 「仲の悪いこと」のたとえとして選ばれたのは、日本語では「イヌ」と「サル」、英語では「ネコ」と「イヌ」である。

(11) ゴマをする  polish the apple

 「自分の利益のために、人にへつらい機嫌を取るように振るまうこと」を日本語の「ゴマをする」に対し、英語では「リンゴを磨く」でたとえている。「polish the apple」は、生徒が先生の機嫌を取ろうとする場合、ぴかぴかに磨いたりんごを先生に持って行ったアメリカの昔の習慣から。

(12) 植物人間  vegetable

 「ガス中毒などのため脳の機能がおかされ、からだは生きているが精神生活を失った人」のたとえとして、日本語は「植物」、英語は「野菜」を選んでいる。「植物」と「野菜」の違いはあるが、発想は似ている。

(13) すずめの涙  chiken feed

 「取るに足らないもの」を日本語は「スズメ」、英語は「ニワトリ」を使ってたとえている。どちらも「取るに足らない金、はした金」の意で使うことが多い。

(14) 大根おろしに医者いらず  An apple a day keeps the doctor away.

 「食べていれば健康が保て、医者にかからずに済む食べ物」のたとえとして、日本語は「ダイコン」、英語は「リンゴ」を選んでいる。

(15) 脱兎の如く  like a bat out of hell

 「非常に速いこと」を日本語の「ウサギ」に対し、英語は「コウモリ」を使ってたとえている。ただし、どちらもただの「ウサギ」や「コウモリ」ではなく、「脱兎」であり、「地獄から来たコウモリ」である。

(16) タヌキ寝入り  play possum

 「possum」 は opossum(南米産の有袋類、フクロネズミ)のことで、危険にあうと死んだふりをすることで知られる。「play possum」は、動物については「死んだふり」、人については「死んだふり」と「眠ったふり」の意味で使うのがふつう。「眠ったふりをすること」を表わすのに、日本語では「タヌキ」が、英語では「フクロネズミ」が使われている。

(17) 捕らぬタヌキの皮算用  count one's chicken before they are hatched

 「まだ手に入るかどうかわからないことをあてにして、その利益を計算したり、あれこれ計画を立てたりすること」を日本語は「タヌキ」、英語は「ニワトリ」を使ってたとえている。

(18) トラの威を借るキツネ  an ass in a lion's skin

 日本語は強者に「トラ」、英語は「ライオン」、その力を利用しようとする弱者に日本語は「キツネ」、英語は「ロバ」を選んでいる。

(19) 鳥肌が立つ  get goose flesh

 人が「恐怖・寒さにより総毛立つ様、ぞっとする様」を、日本語は「トリの肌」、英語は「ガチョウの肌」を使ってたとえている。「トリ」と「ガチョウ」のわずかな違いがある。

(20) 飛んで火に入る夏の虫  It’s like a moth flying into the flame.

 「おろかにも自分から進んで危険なことに飛び込むこと」を日本語は「虫」で、英語は「蛾」を使ってたとえている。「ムシ」と「ガ」のわずかな違いがある。

(21) 猫の目のように変わる  (as) changeable as a weathercock

 「(気分・決心などが)非常に変わりやすいこと」のたとえとして、日本語は「猫の目」、英語は「風見鶏」を選んでいる。「ネコ」と「ニワトリ」の違い。

(22) 猫に小判  cast (one's) pearls before swine

 両者とも「その価値も分からない人に貴重なものを与える」の意。価値のあるものに少しも興味を示さない動物として選ばれたのは、日本語では「ネコ」、英語では「ブタ」である。新約聖書『マタイ伝』に由来することわざ「Do not cast your pearls before swine.」は日本にも入って「豚に真珠」の形でかなり定着している。

(23) 猫の目のように変わる  (as) changeable as a weathercock

 「weathercock」はニワトリの形をした風見である。「変わりやすいもの」をたとえるために登場したのは、日本語では「ネコ」、英語では「ニワトリ」である。

(24) 猫をかぶる  a wolf in sheep's clothing

 「a wolf in sheep's clothing」は新約聖書『マタイ伝』からとられた文句で、「強者が弱者の姿を借りて、おとなしそうに装う」という意である。おとなしい動物として、日本語の「ネコ」に対し、英語は「ヒツジ」選んでいる。

(25) ネズミ算式に増える  multiply like rabbits

 「急速に増えること」のたとえとして、日本語は「ネズミ」、英語は「ウサギ」を選んでいる。

(26)虫も殺さぬ  would not hurt [harm] a fly

 「虫も殺さぬ」は殺生などできないような非常にやさしい穏やかな顔のさま」をいう。実はひどいことをするというような場合に使うことが多い。同じような意を表現するのに日本語では「ムシ」、英語では「ハエ」を選んでいる。

(27) 女狐  a bitch

 「女狐」は「男をだます悪賢い女をののしる語」。一方、「a bitch」は「尻がる女、意地悪女、あま」の意で、やはり「女をののしる語」である。日本語の「女キツネ」に対し、英語は「雌イヌ」を選んでいる。

 H20.10.4 一部追加


面白い日本語と英語の慣用句(イディオム)とことわざ(21)

2008年05月20日 | 日本語の慣用句、英語の慣用句
21.8 日本語と英語で使われている動物や植物が同じである例

 ほぼ同じ意をもつ日本語と英語の慣用句であって、両者で使われている動物や植物が同じである例を示す。

 (1) いいカモ  a sitting duck
 
 「sitting」は「止まって休んでいる」の意で、「a sitting duck」は撃たれやすい無防備な状態にあるわけである。つまり、日本語でいう「いいカモ」なのである。単に「カモ」ともいう。格好の獲物は両者とも「カモ」で一致している。

 (2) 金のなる木はない  Money doesn't grow on trees.

 両者とも「木」を使っている。日本語は「金のなる木」が、英語は「金」が主語になっていて、表現に少し違いがある。しかし、金が容易に手に入ることを「金が木になる」とたとえている点、そして「そんなものは存在しない」と否定している点が一致している。

 (3) 壁の花  a wallflower

 「(ダンス・パーティーで)誰からもダンスに誘われない女性」をどちらも「花」でたとえている。

 (4) 牛飲馬食  eat like a horse

 「大食」のたとえにどちらも「ウマ」を選んでいる。

 (5) サルまね  Monkey see, monkey do.

 母親が子供に向かって、また教師が生徒に向かって「サル真似はやめなさい」とたしなめるときに「Don’t do that. “Monkey see, monkey do.”」とよく言う。まねのうまい動物として、両者が「サル」を選んでも不思議はない。

 (6) ニワトリが先か卵が先か  Which came first, the chicken or the egg?

 二つの密接に関連した見方・論拠・情報などについて、「どちらが原因でどちらが結果か」を問う慣用句である。両者が「原因」と「結果」のたとえとして「ニワトリ」と「卵」を選んだ点が見事に一致している。

 (7) ぬれネズミ  look like a drowned rat

 「ずぶぬれになった状態」を表現するのに、どちらも数ある動物の中から「ネズミ」を選んでいる点が注目される。

 (8) 馬車馬のように働く  work like a horse

 「働き者」のたとえに両者が選んだのは「ウマ」である。(4)に示したように「ウマ」を「大食漢」に選んだ点でも両者は一致している。

 (9) 蜂の巣をつついたよう  stir up a hornet nest

 日本語の「蜂」に対し、英語は「hornet(スズメバチ)」を選んでおり、厳密にいえば両者には違いがある。しかし、「大騒ぎを引き起こすこと」をどちらも「ハチ」を使ってたとえている点は一致している。

(10) 張り子のトラ  a paper tiger

 「張り子」は木型に紙をはって形を作り、かわいてから型を取り去って作ったものである。張り子は内側が中空でできているところから「張り子のトラ」は「名ばかりのトラ」の意で、実力もなく虚勢を張る人間を軽蔑することばである。「paper tiger」は中国の政治家毛沢東の言葉から。両者とも、「見かけだけのもの」を「紙で出来たトラ」でたとえている点で一致している。


面白い日本語と英語の慣用句(イディオム)とことわざ(20)

2008年05月10日 | 日本語の慣用句、英語の慣用句
21.6 日本語と英語で、使われている色が同じである例

 ほぼ同じ意をもつ日本語と英語の慣用句であって、両者で使われている色が同じである例を示す。

 (1) 黒字  in the black

「利益が出ていること」を両者とも「黒」を使ってたとえている。逆に、「損を出していること」を日本語では「赤字」、英語では「in the red」といずれも「赤」を使ってたとえている。

 (2) 腹黒い  black-hearted

「心に悪だくみがあること」を両者とも「黒」でたとえている。

 (3) 真っ赤になって怒る  red with anger

「激怒すること」を意味する類似の英語表現として「see red」がある。怒ると、人間は洋の東西を問わずに「赤く」なるようである。

15.7 日本語と英語で、使われている色が異なる例

 ほぼ同じ意をもつ日本語と英語の慣用句であって、両者で使われている色が異なる例を示す。

 (1) くちばしが黄色い、尻が青い  be green  (as) green as grass

 日本語の「黄」あるいは「青」に対し、英語では「緑」を使って「未熟であること」をたとえている。「くちばしが黄色い」はひなのくちばしが黄色いことから。また、「尻が青い」は幼児の尻が青っぽく見えることから。一方、「green」は「未熟な」という意をもつ。名詞形の表現として英語には「a green horn」がある。

 (2) 隣の芝生は青い  The grass is always greener on the other side of the fence.

 日本語の「青」に対し、英語は「緑」である。「隣の芝生は青い」は「The grass is always greener on the other side of the fence.」の和訳であるという説もある。もし事実なら「緑」を「青」と訳したことになる。同じ様な「青」と「緑」の対比は信号の色の呼び方にも見られる。

 (3) 白髪  gray hair

 「白髪」は「しらが」または「はくはつ」と読む。「gray hair」は「白髪まじりの髪」のことであるが、「白髪」と訳されることが多い。日本語の「白」に対し、英語は「灰色」である。この他、白髪の表現として、日本語には「ごましお頭」、「銀髪」、「ロマンスグレー」などが、英語には「white hair」、「silver hair」、「salt-and-pepper」などがある。

 (4) ピンク映画  blue film

 日本語の「ピンク」すなわち「桃色」に対し、英語は「青」を使っている。日本語では男女の乱れた関係を「桃色遊戯」という。

 (5) 真っ青  (as) white as a sheet

 「(as) white as a sheet」の直訳は「シーツのように白い」である。「(顔が病気・恐怖などで)血の気のない状態」をたとえている。英語の「白」に対し、日本語は「青」を使っている。


面白い日本語と英語の慣用句(イディオム)とことわざ(19)

2008年05月01日 | 日本語の慣用句、英語の慣用句
21.5 日本語と英語で、使われている数が異なる例

 ほぼ同じ意をもつ日本語と英語の慣用句であって、両者で使われている数が異なる例を示す。

 (1) 五十歩百歩  six of the one, half dozen of the other

 日本のことわざ「五十歩百歩」は中国の『孟子』に見える語で、敵の前線から五十歩退却した兵が、百歩逃げた兵を笑う愚を批評したものである。一方、英語は、差がない「6個」と「半ダース」により、「どちらも同じようなものだということ」をたとえている。日本語の「五十」と「百」に対し、英語は「六」と「六」を使っている。

 (2) 三三五五  by twos and threes

 日本語の「三三五五」に対し、英語は「二二三三」となっていて興味深い。英語では「by ones and twos」ともいう。

 (3) 三人寄れば文殊の知恵  Two heads are better than one.
    
 「多いほうがよい知恵が出ること」のたとえとして、日本語の「三人」に対し、英語は「二人」を選んでいる。

 (4) 三文の値打もない  not worth a penny

 値打の低さを日本語の「三文」に対し、英語は「1ペニー」でたとえている。貨幣単位「文」と「ペニー」の違いは当然である。

 (5) 週休二日制  a five-day week

 同じ意を表すのに日本語が二日の「休日」を示しているのに対し、英語は五日の「出勤日」を示している。

 (6) 十中八九  nine times [cases] out of ten

 日本語が「十中八九」とややあいまいな表現であるのに対し、英語は「十中九」と断定している。「八九」と「九」のわずかな違いがある。

 (7) 二枚舌を使う  speak with (a) forked tongue
    
 英語の直訳は「フォークのような舌で話す」である。フォークの刃は通常四つである。日本語の「二」に対し、英語は「四」ということになる。

 (8) 一言挨拶する  say a few word
    
 日本語の「一言」に対し、英語は「a few words」と複数になっている。「一言」を国語辞典で調べてみると「一つの言葉」のほかに「わずかの言葉」という意もある。

 (9) 人の噂も75日  A wonder lasts but nine days.

 忘れられるに要する時間が日本語では「75日」であるのに対し、英語では「9日」とかなり短くなっている。