21.9 日本語と英語で使われている動物や植物が異なる例
ほぼ同じ意をもつ日本語と英語の慣用句であって、両者で使われている動物や植物が異なる例を示す。
(1) 雨後のタケノコのように増える sprout like mushroom (after the spring rain)
「急速に生じる、急成長すること」のたとえとして、日本語は「タケノコ」、英語は「キノコ」を選んでいる。どちらも急成長するのが「雨の後」としている点が一致している。
(2) 牛の歩み at a snail's pace
「のろいこと」のたとえとして、日本語は「ウシ」、英語は「カタツムリ」を使っている。非常にゆっくりとした動作を表現するとき、日本では「ウシのように」や「カメのように」というが、「カタツムリのように」とはいわない。あまり使われないが、日本語にも「カタツムリ」を使った「蝸牛の歩み」ということばがある。
(3) 瓜二つ (as) like as two peas in a pod
「そっくりであること」のたとえとして、日本語は「二つに割ったウリ」、英語は「さやの中の二つのマメ」を選んでいる。
(4) 陸に上がったカッパ like a fish out of water
日本語は「カッパ」、英語は「サカナ」とどちらも泳ぎの得意な動物を選んでいる。「場違いで、勝手が違って」のたとえとして、これらの動物が「水から離れ、泳げない状態にある」とした発想が一致している。。
(5) 鬼のいぬ間に洗濯 When the cat is away, the mouse will play.
「気づまりな人、こわい人のいない間に思う存分くつろぐこと」を日本語は「オニ」、英語は「ネコ」と「ネズミ」を使ってたとえている。「オニ」は創造上のおそろしい生き物で、厳密にいえば動物ではない。
(6) カエルの面に水[小便] water of a duck’s back
「何か言われたり、ひどい目にあわされたりしても動じないこと」を日本語の「カエル」に対し、英語は「アヒル」を使ってたとえている。どちらも水をはじく体をもつ動物を選んでいる。
(7) 借りてきた猫のようにおとなしい (as) meek as a lamb
英語の「(as) quiet as a mouse」も近い意をもつ。「おとなしいこと」のたとえとして選ばれたのは日本語では「ネコ」、英語では「子ヒツジ」あるいは「ネズミ」である。
(8) 窮鼠猫を噛む Even a worm will turn.
両者とも「弱いものでも追いつめられると、死にものぐるいになって刃向かうから、とてもかないそうもない強いものをやっつけることがある」の意。「窮鼠ネコを噛む」は中国・前漢時代の書『塩鉄論』の中の文句がのちにこのことわざになったものである。「Even a worm will turn.」は古いことわざ「Tread on a worm [worm’s tail] it will turn.」から。「普通では怒りを爆発させることのない弱い立場の人」を、日本語は「ネズミ」、英語は「ムシ」でたとえている。
(9) 鶏口となるも牛後となるなかれ better be the head of a dog than the tail of a lion
両者とも「上位集団の末端に連なる位なら下位集団のリーダーになる方がよい」の意。下位集団のリーダーを、日本語では「ニワトリのくちばし」、英語では「犬の頭」で、上位集団の末端を、日本語では「牛の尻」、英語では「ライオンの尻尾」でたとえた似たような表現になっている。日本語は「ニワトリ」と「ウシ」、英語は「イヌ」と「ライオン」を選んでいる。
(10) 犬猿の仲 on cat-and dog terms
「仲の悪いこと」のたとえとして選ばれたのは、日本語では「イヌ」と「サル」、英語では「ネコ」と「イヌ」である。
(11) ゴマをする polish the apple
「自分の利益のために、人にへつらい機嫌を取るように振るまうこと」を日本語の「ゴマをする」に対し、英語では「リンゴを磨く」でたとえている。「polish the apple」は、生徒が先生の機嫌を取ろうとする場合、ぴかぴかに磨いたりんごを先生に持って行ったアメリカの昔の習慣から。
(12) 植物人間 vegetable
「ガス中毒などのため脳の機能がおかされ、からだは生きているが精神生活を失った人」のたとえとして、日本語は「植物」、英語は「野菜」を選んでいる。「植物」と「野菜」の違いはあるが、発想は似ている。
(13) すずめの涙 chiken feed
「取るに足らないもの」を日本語は「スズメ」、英語は「ニワトリ」を使ってたとえている。どちらも「取るに足らない金、はした金」の意で使うことが多い。
(14) 大根おろしに医者いらず An apple a day keeps the doctor away.
「食べていれば健康が保て、医者にかからずに済む食べ物」のたとえとして、日本語は「ダイコン」、英語は「リンゴ」を選んでいる。
(15) 脱兎の如く like a bat out of hell
「非常に速いこと」を日本語の「ウサギ」に対し、英語は「コウモリ」を使ってたとえている。ただし、どちらもただの「ウサギ」や「コウモリ」ではなく、「脱兎」であり、「地獄から来たコウモリ」である。
(16) タヌキ寝入り play possum
「possum」 は opossum(南米産の有袋類、フクロネズミ)のことで、危険にあうと死んだふりをすることで知られる。「play possum」は、動物については「死んだふり」、人については「死んだふり」と「眠ったふり」の意味で使うのがふつう。「眠ったふりをすること」を表わすのに、日本語では「タヌキ」が、英語では「フクロネズミ」が使われている。
(17) 捕らぬタヌキの皮算用 count one's chicken before they are hatched
「まだ手に入るかどうかわからないことをあてにして、その利益を計算したり、あれこれ計画を立てたりすること」を日本語は「タヌキ」、英語は「ニワトリ」を使ってたとえている。
(18) トラの威を借るキツネ an ass in a lion's skin
日本語は強者に「トラ」、英語は「ライオン」、その力を利用しようとする弱者に日本語は「キツネ」、英語は「ロバ」を選んでいる。
(19) 鳥肌が立つ get goose flesh
人が「恐怖・寒さにより総毛立つ様、ぞっとする様」を、日本語は「トリの肌」、英語は「ガチョウの肌」を使ってたとえている。「トリ」と「ガチョウ」のわずかな違いがある。
(20) 飛んで火に入る夏の虫 It’s like a moth flying into the flame.
「おろかにも自分から進んで危険なことに飛び込むこと」を日本語は「虫」で、英語は「蛾」を使ってたとえている。「ムシ」と「ガ」のわずかな違いがある。
(21) 猫の目のように変わる (as) changeable as a weathercock
「(気分・決心などが)非常に変わりやすいこと」のたとえとして、日本語は「猫の目」、英語は「風見鶏」を選んでいる。「ネコ」と「ニワトリ」の違い。
(22) 猫に小判 cast (one's) pearls before swine
両者とも「その価値も分からない人に貴重なものを与える」の意。価値のあるものに少しも興味を示さない動物として選ばれたのは、日本語では「ネコ」、英語では「ブタ」である。新約聖書『マタイ伝』に由来することわざ「Do not cast your pearls before swine.」は日本にも入って「豚に真珠」の形でかなり定着している。
(23) 猫の目のように変わる (as) changeable as a weathercock
「weathercock」はニワトリの形をした風見である。「変わりやすいもの」をたとえるために登場したのは、日本語では「ネコ」、英語では「ニワトリ」である。
(24) 猫をかぶる a wolf in sheep's clothing
「a wolf in sheep's clothing」は新約聖書『マタイ伝』からとられた文句で、「強者が弱者の姿を借りて、おとなしそうに装う」という意である。おとなしい動物として、日本語の「ネコ」に対し、英語は「ヒツジ」選んでいる。
(25) ネズミ算式に増える multiply like rabbits
「急速に増えること」のたとえとして、日本語は「ネズミ」、英語は「ウサギ」を選んでいる。
(26)虫も殺さぬ would not hurt [harm] a fly
「虫も殺さぬ」は殺生などできないような非常にやさしい穏やかな顔のさま」をいう。実はひどいことをするというような場合に使うことが多い。同じような意を表現するのに日本語では「ムシ」、英語では「ハエ」を選んでいる。
(27) 女狐 a bitch
「女狐」は「男をだます悪賢い女をののしる語」。一方、「a bitch」は「尻がる女、意地悪女、あま」の意で、やはり「女をののしる語」である。日本語の「女キツネ」に対し、英語は「雌イヌ」を選んでいる。
H20.10.4 一部追加
ほぼ同じ意をもつ日本語と英語の慣用句であって、両者で使われている動物や植物が異なる例を示す。
(1) 雨後のタケノコのように増える sprout like mushroom (after the spring rain)
「急速に生じる、急成長すること」のたとえとして、日本語は「タケノコ」、英語は「キノコ」を選んでいる。どちらも急成長するのが「雨の後」としている点が一致している。
(2) 牛の歩み at a snail's pace
「のろいこと」のたとえとして、日本語は「ウシ」、英語は「カタツムリ」を使っている。非常にゆっくりとした動作を表現するとき、日本では「ウシのように」や「カメのように」というが、「カタツムリのように」とはいわない。あまり使われないが、日本語にも「カタツムリ」を使った「蝸牛の歩み」ということばがある。
(3) 瓜二つ (as) like as two peas in a pod
「そっくりであること」のたとえとして、日本語は「二つに割ったウリ」、英語は「さやの中の二つのマメ」を選んでいる。
(4) 陸に上がったカッパ like a fish out of water
日本語は「カッパ」、英語は「サカナ」とどちらも泳ぎの得意な動物を選んでいる。「場違いで、勝手が違って」のたとえとして、これらの動物が「水から離れ、泳げない状態にある」とした発想が一致している。。
(5) 鬼のいぬ間に洗濯 When the cat is away, the mouse will play.
「気づまりな人、こわい人のいない間に思う存分くつろぐこと」を日本語は「オニ」、英語は「ネコ」と「ネズミ」を使ってたとえている。「オニ」は創造上のおそろしい生き物で、厳密にいえば動物ではない。
(6) カエルの面に水[小便] water of a duck’s back
「何か言われたり、ひどい目にあわされたりしても動じないこと」を日本語の「カエル」に対し、英語は「アヒル」を使ってたとえている。どちらも水をはじく体をもつ動物を選んでいる。
(7) 借りてきた猫のようにおとなしい (as) meek as a lamb
英語の「(as) quiet as a mouse」も近い意をもつ。「おとなしいこと」のたとえとして選ばれたのは日本語では「ネコ」、英語では「子ヒツジ」あるいは「ネズミ」である。
(8) 窮鼠猫を噛む Even a worm will turn.
両者とも「弱いものでも追いつめられると、死にものぐるいになって刃向かうから、とてもかないそうもない強いものをやっつけることがある」の意。「窮鼠ネコを噛む」は中国・前漢時代の書『塩鉄論』の中の文句がのちにこのことわざになったものである。「Even a worm will turn.」は古いことわざ「Tread on a worm [worm’s tail] it will turn.」から。「普通では怒りを爆発させることのない弱い立場の人」を、日本語は「ネズミ」、英語は「ムシ」でたとえている。
(9) 鶏口となるも牛後となるなかれ better be the head of a dog than the tail of a lion
両者とも「上位集団の末端に連なる位なら下位集団のリーダーになる方がよい」の意。下位集団のリーダーを、日本語では「ニワトリのくちばし」、英語では「犬の頭」で、上位集団の末端を、日本語では「牛の尻」、英語では「ライオンの尻尾」でたとえた似たような表現になっている。日本語は「ニワトリ」と「ウシ」、英語は「イヌ」と「ライオン」を選んでいる。
(10) 犬猿の仲 on cat-and dog terms
「仲の悪いこと」のたとえとして選ばれたのは、日本語では「イヌ」と「サル」、英語では「ネコ」と「イヌ」である。
(11) ゴマをする polish the apple
「自分の利益のために、人にへつらい機嫌を取るように振るまうこと」を日本語の「ゴマをする」に対し、英語では「リンゴを磨く」でたとえている。「polish the apple」は、生徒が先生の機嫌を取ろうとする場合、ぴかぴかに磨いたりんごを先生に持って行ったアメリカの昔の習慣から。
(12) 植物人間 vegetable
「ガス中毒などのため脳の機能がおかされ、からだは生きているが精神生活を失った人」のたとえとして、日本語は「植物」、英語は「野菜」を選んでいる。「植物」と「野菜」の違いはあるが、発想は似ている。
(13) すずめの涙 chiken feed
「取るに足らないもの」を日本語は「スズメ」、英語は「ニワトリ」を使ってたとえている。どちらも「取るに足らない金、はした金」の意で使うことが多い。
(14) 大根おろしに医者いらず An apple a day keeps the doctor away.
「食べていれば健康が保て、医者にかからずに済む食べ物」のたとえとして、日本語は「ダイコン」、英語は「リンゴ」を選んでいる。
(15) 脱兎の如く like a bat out of hell
「非常に速いこと」を日本語の「ウサギ」に対し、英語は「コウモリ」を使ってたとえている。ただし、どちらもただの「ウサギ」や「コウモリ」ではなく、「脱兎」であり、「地獄から来たコウモリ」である。
(16) タヌキ寝入り play possum
「possum」 は opossum(南米産の有袋類、フクロネズミ)のことで、危険にあうと死んだふりをすることで知られる。「play possum」は、動物については「死んだふり」、人については「死んだふり」と「眠ったふり」の意味で使うのがふつう。「眠ったふりをすること」を表わすのに、日本語では「タヌキ」が、英語では「フクロネズミ」が使われている。
(17) 捕らぬタヌキの皮算用 count one's chicken before they are hatched
「まだ手に入るかどうかわからないことをあてにして、その利益を計算したり、あれこれ計画を立てたりすること」を日本語は「タヌキ」、英語は「ニワトリ」を使ってたとえている。
(18) トラの威を借るキツネ an ass in a lion's skin
日本語は強者に「トラ」、英語は「ライオン」、その力を利用しようとする弱者に日本語は「キツネ」、英語は「ロバ」を選んでいる。
(19) 鳥肌が立つ get goose flesh
人が「恐怖・寒さにより総毛立つ様、ぞっとする様」を、日本語は「トリの肌」、英語は「ガチョウの肌」を使ってたとえている。「トリ」と「ガチョウ」のわずかな違いがある。
(20) 飛んで火に入る夏の虫 It’s like a moth flying into the flame.
「おろかにも自分から進んで危険なことに飛び込むこと」を日本語は「虫」で、英語は「蛾」を使ってたとえている。「ムシ」と「ガ」のわずかな違いがある。
(21) 猫の目のように変わる (as) changeable as a weathercock
「(気分・決心などが)非常に変わりやすいこと」のたとえとして、日本語は「猫の目」、英語は「風見鶏」を選んでいる。「ネコ」と「ニワトリ」の違い。
(22) 猫に小判 cast (one's) pearls before swine
両者とも「その価値も分からない人に貴重なものを与える」の意。価値のあるものに少しも興味を示さない動物として選ばれたのは、日本語では「ネコ」、英語では「ブタ」である。新約聖書『マタイ伝』に由来することわざ「Do not cast your pearls before swine.」は日本にも入って「豚に真珠」の形でかなり定着している。
(23) 猫の目のように変わる (as) changeable as a weathercock
「weathercock」はニワトリの形をした風見である。「変わりやすいもの」をたとえるために登場したのは、日本語では「ネコ」、英語では「ニワトリ」である。
(24) 猫をかぶる a wolf in sheep's clothing
「a wolf in sheep's clothing」は新約聖書『マタイ伝』からとられた文句で、「強者が弱者の姿を借りて、おとなしそうに装う」という意である。おとなしい動物として、日本語の「ネコ」に対し、英語は「ヒツジ」選んでいる。
(25) ネズミ算式に増える multiply like rabbits
「急速に増えること」のたとえとして、日本語は「ネズミ」、英語は「ウサギ」を選んでいる。
(26)虫も殺さぬ would not hurt [harm] a fly
「虫も殺さぬ」は殺生などできないような非常にやさしい穏やかな顔のさま」をいう。実はひどいことをするというような場合に使うことが多い。同じような意を表現するのに日本語では「ムシ」、英語では「ハエ」を選んでいる。
(27) 女狐 a bitch
「女狐」は「男をだます悪賢い女をののしる語」。一方、「a bitch」は「尻がる女、意地悪女、あま」の意で、やはり「女をののしる語」である。日本語の「女キツネ」に対し、英語は「雌イヌ」を選んでいる。
H20.10.4 一部追加