◆月○日 曇り
最近、何だか一護さんは私に隠し事をしているようだ。
「さぁ一護さん、首隊室に行きましょうか」
一護さんを伴い十二番隊へ行こうとすると、一護さんは首を振って
イヤイヤとするので、抱き上げようとする手が止まってしまう。
「いちご、じぃーちゃとこゆく」
「……山本総隊長とこっスか?」
「うん」
「じゃあ、一番隊に立ち寄ればイイんっスね」
「!…いちご、しとりゆく!」
「私の家からじゃ、一番隊隊舎まで距離ありますよ?」
「きしゅけ、らめ!いちご、しとりゆく!!」
キッと私を睨み上げ、譲る気のない一護さん。
「では、気をつけて行ってらっしゃい。…あっ、お昼はテッサ
イがお子さまランチって言うのを作るそうですよ」
「おこしゃまりゃんち!!」
以前、テッサイに『今度作ってみます』と聞かされていた一護さん
の顔が一瞬にして笑顔に変わった。
「お昼一緒に食べましょうね、一護さん」
「うん!いっちぇきましゅ~」
小さな手を大きく振りながら、一護さんは一番隊舎へと向かっ
て行く。
「………前見て歩かなきゃ…あっ!やはり、こけた」
私の予想通り一護さんはこけたが、素早く起き上がり、また歩き
出した。
「今日もフラれましたか。 さぁて、私も行きますかぁ」
最近、一護さんは私と一緒に護廷に行ってくれないのだった。
お昼になり、一護さんは十二番隊舎に帰って来た。
「たーたーいまー」
「お帰りなさい、一護さん。きょうは秋晴れのイイ天気ですし、
外でお昼にしましょうか」
「お帰りなさいませ、黒崎殿。 隊長、それはよろしゅうござい
ますなぁ。では、外にご用意致します」
私達は色付き始めた紅葉の側で、敷布を引いてお昼を食べ始めた。
テッサイお手製のお子さまランチを見た一護さんは瞳をキラキラさせ、
どれから食べようか悩んでいると窓から声がかけられた。
「兄らは、何をしている」
「これは朽木さん。何って、お天気もイイのでココでお昼を食べよ
うとしてるんっスけど?」
「びゃくやぁ~、れーぢ~、いっちょちゃべよ」
一護さんに誘われ、断れなくなった朽木さんと阿散井さんが加わり、
そして廊下を歩いていた浮竹さんと朽木さんの妹さんも一護さんに誘われ、
一緒に庭でお昼を食べることに。
テッサイのお弁当だけでは足りないかと思われたが、急遽作られた朽木家
特製弁当も加わり、豪華絢爛なお弁当が所狭しと並べられた。
「りゅきゃ、ちゃっぴぃ、あげぇりゅ」
「これは一護の林檎ではないか」
「一護さん、体調悪いんっスか?林檎だけじゃなく、お子さまランチ余り
食べてないようですが」
いつもなら嬉しそうに食べるのに、眉間に皺を寄せて食べていた一護さん。
「わりゅくない!……りんぎょ、しゅき…れも、りゅきぁ、あげぇりゅ」
「じゃあ、変わりに一護君にコレをあげよう」
浮竹さんが袖口から大きな飴玉を出し一護さんに差し出すが、本人は受け
取るのを戸惑っているようだ。
「一護君この飴玉、好きじゃなかったか?」
「……しゅ、き……」
差し出された飴玉をゆっくりと取り、口に入れるのを悩んでいたが、私達
が見ているのでポイッと口に入れた。
「一護、頬が膨れてんぞ」
苦笑しながら阿散井さんが人差し指でツンッと膨れた頬に触ったら、
一護さんの瞳からポロリと涙が溢れてきた。
「お、おいっ、一護!?」
「「恋次!貴様、何をしたっ!」」
「か、軽く頬を突いただけっすよ!他に何もしてませんって!」
兄妹、声を揃えて阿散井さんに問い質すが、軽く頬に触れただけの阿散井さ
んは戸惑うばかりだった。
「黒崎殿?」
「い、一護さん、どうしたんですか?」
「……ぃ……ちゃぃ……ヒックッ……」
涙を流しながら呟くように話すので、何処が痛いかが聞き取れない。
「何処が痛いんですか?」
「…………は……ぃちゃ…い……」
「「「「「歯が痛い?」」」」」
「一護君、口を大きく開いてくれないか」
浮竹さんに言われ、一護さんは飴を落とさないようにしながら大きく
口を開けた。
「…虫歯だな…」
「虫歯っスね…」
「まだ初期のようですし、卯ノ花隊長に連絡を取り治療を……」
「やぁー!!」
テッサイが地獄蝶で連絡しようとすると一護さんは、テッサイの手を
取り地獄蝶を止まらせないようにする。
「一護、虫歯では好きなモノが食べられぬぞ」
「そうですよ一護さん、早く治療しないと物が食べられなくなりますよ」
「卯ノ花隊長に任せれば、痛くないぞ」
「うちょ!!いちゃい、れーじ、いちゃもん!」
涙を溜め、嫌がる一護さんが阿散井さんを見て言う。
「えぇっ~、俺かよっ!?」
「恋次、貴様一護に何を言ったのだ!」
「虫歯のことなんて、何も言ってねぇよ、ルキア!………あっ!…以前
一角さんが、『歯を折って治療して貰ったら、痛かった』って話しを
してた時、一護お前いたのか?」
ポロポロと涙を零しながらも一護さんは小さく頷く。
「一護、あの人は『戦う時、感覚が鈍る』って言って、痛み止めして
貰ってなかったんだよ。お前は痛み止めして貰ったら、痛みなんて感じ
ねぇよ」
「……ほんちょ?」
「卯ノ花隊長が一護君に『痛い』って言わせた事があったか?」
「…にゃい」
皆さんに説得させられた一護さんを伴い、私は四番隊舎へ行った。
治療を余程怖がっていたのか、一護さんは四番隊隊舎に着いてからも
私の羽織りをギュッと握り締め、降りようとする気配さえしなかったの
だが、山田さん達にまた説得され、渋々治療室へと入って行ったのだ。
「あのまま放置していら大変な事になってましたよ、一護さん。 食後は
ちゃんと歯を磨いて予防して下さい。それでも虫歯かなって思われたら、
早く四番隊に来て下さいね」
「あい、れっしゃん!」
「夜には、美味しくご飯が食べられるそうですよ」
治療を終えた一護さんは、嬉しいそうに微笑む。
「さぁ、隊舎に帰りましょうか」
一護さんは大人しく私に抱かれ、卯ノ花隊長に手を振る。
「ねぇ、一護さん。最近、私に抱っこされなかったのは何故ですか?」
十二番隊舎に帰る廊下で、疑問に思っていた事を一護さんに尋ねてみた。
「きしゅけ、いちゃいにょ、わきゃるみょん」
一護さんは私に知られると、『虫歯治療は痛い・四番隊に連れて行かれる』と
思って、バレないようにしていた訳だったらしい。
一護さんの秘密は『虫歯を隠している』だった。
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数日に分ければ良かったのですが、一日に収めようとすると長くなって
ました