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day by day

癒さぬ傷口が 栄光への入口

四輪の薔薇 【7】

2010-02-19 | オリジナル。
 7.標的


「あれ、高山さんまた泊り込みですか」
 高山をくるんだ毛布を剥ぎ取る。ソファに寝そべったまま高山は不機嫌そうに目をしばたたかせた。
「もしかして今週ずっと帰ってないんじゃないんですか」
「遅くなったら帰んのが面倒くせえんだよ」
 やれやれと溜息をつくと紺野は高山の腹の上にコンビニの袋を落とした。菓子パンとコーヒー牛乳の紙パックが入っている。
「そんなことだろうと思って朝ごはん、買ってきました」
 珍しく気が利くじゃねえか──と呟きながら身を起こし、高山はパンの袋を遠慮なしに開けて頬張った。
「お風呂とか着替えとかどうしてるんですか。家帰った方が面倒くさくないと思うんですけど」
 何か捜査に入った時に高山が家にあまり帰らなくなるのはいつものことだった。夜を徹して調べものをするとか張り込みをするとか、必要に迫られた時でなくとも大抵は何らかの理由で一区切りつくのは夜遅くなることは確かに多い。そんな時は梓条署の裏手にある銭湯とコインランドリーを利用しているらしい。ただそれすら面倒になると風呂も着替えもしなくなるのが困りものだ。
 そのうち奥さんに愛想つかされますよ、と言うと聞こえなかったように無視して高山は立ち上がり、伸びをした。首をこきこき回した音が紺野の耳にまで聞こえる。喫煙ルームか洗面所か、刑事課のブースから出て行く背中を見送ると紺野は自分の席に鞄を置いてブース内を見回した。

 朝だというのに何やらざわついている。

 鈴木が小走りで外から戻ってきたので捕まえて何か別の事件でもあったのかと尋ねると、アレですよ、と鈴木は何故か声をひそめた。
「昨日の、日端優美の会社の、騒ぎあったでしょ。結局あの会社、被害届出したんですよ」
 あっそ……と少し拍子抜けしたような気分になった。
 例の三杉とかいう課長は日端と不倫関係にあり、それが発覚したことで会社は日端との派遣契約を期間途中にも関わらず解約したのだという。日端がその腹いせに怪文書をばらまいたのでは、というのが会社の見解だ。告訴も考えたが、日端がやったという証拠が無いので被害届を出すことにしたらしい。
 いずれ業務妨害には違いない。
 それにしても、日端優美は別れた元夫の死の知らせにあれだけ動転して号泣していたのでてっきり亀崎に未練があるのだと思っていたが、その傍らで不倫していたとは──
「優美ちゃんはなかなか魔性の女だな。しかし大変だ。あっちこっちでさ」
「笑い事じゃないですよ。またあのお母さまのトコにお伺いに行かなきゃならないのかと思うともう」
 鈴木が情けない声を出した拍子に、手に持っていた書類の束をばさばさと落とした。それを拾ってやりながらちらりと見る。
「何これ」
「あ、あの会社の社員名簿と出入りの業者の入場申請履歴です。はなから優美ちゃんだけ決めうちにかかるわけにいかないから」
「そりゃまあ、そうだ」
 ぱらぱらと捲る。近頃は個人情報保護がうるさいので社員名簿などは社外どころか部外秘になっているところが多いらしいが、さすがに人事部から出たものだけに整備されている。
「けっこう社員数多いんだな。この中から怪しいやつをピックアップすんのか。ご苦労さん」
 2冊目のコピーの束は出入り業者のリストだった。予め業者から申請され、登録されて入館許可証を発行された者のリストと、外来入場者の記録である。電気工事、電話工事、事務機器のメンテナンス、清掃会社───
「ん?」
 特に念入りに目を通すでもなくぱらぱらと字面を眺めていただけだった紺野の手がぴたりと止まった。そのページにもう一度ゆっくりと視線を巡らせる。
 今、確かに何かがひっかかった。見覚えのある字面が並んでいた筈だ。
「──いた」
「へ?誰がですか?」
 紺野の手元を覗き込む鈴木に、指でその一行を指し示す。

「笹中多恵子」

 清掃業者の申請リストの中に、その名があった。
───あの女か。
 昨日、あの会社に出向いた時に声をかけた女。
 キャップを目深に被っていて、しかもノーメイク。あの小さな写真の印象だけでは、気づくことが出来なかった。だからあの時、何か喉に刺さったみたいに気持ち悪いと思ったのだ。
 あの女が、笹中多恵子だったのか。
「──ん?待てよ。笹中があの会社に出入りしてたってのは偶然なのか?」
 笹中多恵子は亀崎辰彦のストーカーだった筈ではなかったか。その笹中が、すでに離婚しているとはいえ亀崎の元妻と同じ職場にいた──
「普通に考えれば偶然でしょ?スタッフをどこの会社に派遣するかは会社が決めることだし。日端にしたって派遣だし」
「それはそうなんだが、気持ち悪い偶然だと思わないか。とりあえずこれのコピー貰うわ。業務妨害の方も笹中マークした方がいいんじゃね」
 コピーを取っているところへ高山が戻ってきた。歯を磨きヒゲをあたってきたらしく比較的さっぱりしては見えたが、それでもあちこちに剃り残しがある。
「高山さん、探し求めてた多恵子ちゃんが見つかりましたよ」
 高山はちらりと紺野を見ると、ふうん、と興味なさげに言った。
「そうそう、今日夜空けとけよ。昨日の夜日端優美の母親から電話があった。お話に応じますので夜8時においでいただけますかしら、だとよ」
 俺のモノマネより酷いと思ったがそこはつっこまずこらえる。
 あと──とビデオの1コマを写真に落としたものをポケットから出すと、高山は机にそれを並べ得意げににやりと口角を上げた。
「お前らが借りてきた防犯カメラ。面白くなってきたぜ」
「ゆうべそれをずっと見てたんですか?言ってくれりゃ俺も手伝うのに」
 写真を手にとってじっくりと眺める。そのまま振り返って鈴木に声をかけた。
「ちょっと悪いが、そっちの件で優美ちゃんとこ行くのは明日にしてくれ。またヘソ曲げられちゃ困る」
「え、ちょっと待って下さいよ紺野さん」
「平田、いいよなあ?業務妨害より傷害致死を優先させたって」
 高山が紺野と鈴木の頭を飛び越え、デスクの何島か向こうにいる鈴木の相方に向かって怒鳴った。困りますよ、と返事が帰ってきたが平田もどうせ高山には効きやしないということを承知している。
 高山さんはこれをすでに傷害致死事件だと考えている──
 視線を戻すと高山がヨレヨレの背広を羽織っているところだった。
「あれどこか行くんですか」
 背広の上からさらに皺だらけの薄いコートをひっかけ、高山は振り返りもせずに言った。 
「多恵子ちゃんのお宅が判ったんだろうが。行くぞ」
 慌ててその背中を追う。リストのコピーを見ながら携帯電話で地図を確認しようとしてふと気づいた。

「高山さん、これ──日端のマンションと実家のすぐ近所ですよ」

 振り返ると高山はふうん、と言った。

 日端邸は亀崎辰彦が買った日端優美の住むマンションとは徒歩15分ほどの距離にある。日端が派遣で勤めていた怪文書騒ぎの会社は実家とは反対側、徒歩10分ほど駅寄りにあった。日端が派遣先として近辺の会社を希望したらたまたま徒歩圏の会社があったというところだろう。

 紺野と高山が日端邸を訪ねたのは、日端家の夕食が終わった夜8時ごろのことである。
 応接間の二人掛けソファに日端優美とその母親・和子、そして一人掛けには父親・英正が着席した。
「どうです、落ち着かれましたか」
「少し、です。まだ興奮しやすいのでお話は慎重にお願いします」
 優美の替わりに母親の和子が答えた。
 自分も母親のくせに、まだパパママに庇ってもらわなきゃ話も出来ないのか───うんざり、という顔を隠して紺野が微笑む。高山は無言で優美をじっと睨んでいた。
「まず、現状をご説明します」
 紺野は手短に亀崎辰彦の死因について説明した。
「それじゃあ、亀崎さんが亡くなったのは事故なんですね」
「いえ、第三者による過失の可能性もあり、捜査を続けています。たとえば、彼が台に乗っている時に誰かと口論になり、突き飛ばしたら運悪く頭を打ったということもありますのでね」
「それなら事故なんじゃありませんか」
「事故ならどういう事故が起こったのか、それを明らかにしなければならないんですよ」
 日端優美に対する事情聴取だというのに、紺野が会話している相手はずっと和子である。父親はまるで裁判官のように黙って腕を組み、成り行きを見守っていた。
「それで、これは形式的な質問で恐縮なのですが、関係者の皆さんにお聞きしています。日曜日の午後6時から7時ごろ、どちらにおいででしたか」
「そんなもの答える必要があるのかね」
 今度は父親の英正が口を開いた。
「亀崎君とはもうとっくに縁が切れているんだ。優美にとっては数年でも夫だったし瑠愛の父親でもある男だから死んだのは気の毒だとは思うが、優美がそんなものに関係しているわけがない」
 当の優美はまだ2人の刑事の前で一言も言葉を発していない。紺野が顔に上がってくる苛立ちをそろそろ抑えきれなくなってきたその時、高山があー、と気の抜けた声を出した。
「少年事件じゃあるまいし、ご両親ではなくお嬢さんからお話をお聞きしたいんですがね」
 英正の顔に瞬間的に朱がさす。
「どこへお出かけでしたか、優美さん」
 静かだが威圧的な高山の声に、父親が何か反論しようとした時──
「あたし、出かけてません」
 優美が消え入りそうなか細い声で言った。
「その刑事さんが来るまで、あたし、家にいました」
「それを証明できる方は」
「わかりません……」
 和子は娘を支えるように背中に腕を回し、しきりに肩や背中を撫でている。紺野はやれやれ、と肩の力を抜き、ノートに供述を記録した。
「わかりました。外出はなさってないんですね。それとこれを見て頂けますか」
 鞄からファイルボックスを取り出し、その中の小さなビニール袋を摘み上げ優美の前にぶら提げた。
「これ、何かわかります?」
 手渡されたビニール袋を優美はじいっと凝視し、首を傾げた。
「動物の毛……ですか?よくわからないけど」
「そうですよねえ、そう見えますよね」
 紺野は優美から返されたそれを再びファイルボックスの中に納めると、さて──と胸ポケットから手帳を取り出しぱらぱらと捲る。
「話は変わりますが、亀崎さんと結婚される前後から離婚されるまで、何者かのつきまといの被害は受けておられませんでしたか。亀崎さんかあなた、個人的にかご夫婦ともにか──」
 優美は反射的に顔を上げ、紺野の顔を見た。瞳の奥に、何か恐怖のようなものが見える。
「あったんですね?」
「あの……」
 肩を竦め、指先が小刻みに震えている。両親は初耳だったのだろう、驚いた顔をしていた。
 明らかにストーカーだと判断出来るような被害は実際には受けていない。しかし、今思えば不審な電話やメール、悪戯などには心当たりがある──
 そう言いながら、優美は明らかになにかに怯えている。
「あたし、辰ちゃん……辰彦さんの前の奥さん、友香さんと辰彦さんがまだ連絡を取り合っているのかと疑ってた時があって」
 本当はいけないと判ってたけど、彼の携帯を何度か盗み見たことがあったんです──
 そこには、発信者名未登録だが着信履歴と、メールが何通か。そのメールはどう見ても女からのラブレターのような内容である。辰彦が出張や残業や接待や会社の飲み会で遅くなった翌日の日付に決まって、昨日は楽しかっただの今度はいつ会えるのだのいう内容のものが届いていた。
 辰彦に問い質したこともある。しかし辰彦は全く何のことやら判らないという顔で、弁明どころかただの悪戯かスパムメールの一種だと思っていた、と誤魔化した。そのうち、赤い顔をして酔っ払った辰彦が女と楽しげに寄り添ってVサインをしている写真が添付されたりもした。
「その写真の女には見覚えは無かったんですか」
「ちょうど顔が一瞬隠れるような失敗写真みたいなのだったんです」
「その女については亀崎さんには確認されたんですか」
「会社の近所の居酒屋で飲んでいて、そこの店員の女の子と撮った写真だと」
 紺野は高山と顔を見合わせた。
 それは──笹中多恵子だ。

 それで。
 辰彦の帰りが遅いとその度あの女のところへ行っているのではないかと。辰彦を信じることが出来なくなって。
「離婚に到ったと」
 優美は小さく頷いた。
「そのメールは離婚後は続きましたか?」
 少し考えるように間を置き、今度は首を横に振る。
「だから、あれって、彼女があたしと辰彦さんを別れさせようとした罠だったんじゃないかとも思って」
「彼女?」
「その……杉野佳音さんです。だってその後、辰ちゃんは杉野さんと付き合ってたんでしょ。それに、杉野さんから電話があったんです」
 紺野はちらりと高山を見た。高山は妙な表情で優美を見ている。

 あたし、今辰ちゃんと住んでるの。
 あたしには借金があるけど、辰ちゃんはそれもひっくるめて面倒見てあげるって言ってくれてる。
 辰ちゃんに苦労ばっかりかけてたあんたとは違ってあたしが愛されてるのよ。
 もうすぐ結婚するの──

「杉野さんがそんな電話をわざわざかけてきたんですか?いつ?」
「覚えてないけど……3回くらいそんなのがかかってきました」
 紺野は微かに眉を顰めた。なんとも言えない違和感。
 須郷友香に金の無心をしたのは何となくわかる。それほどに杉野は経済的に追い詰められていたのだ。
 しかしあの杉野佳音にそんな嫌がらせをする余裕があったのだろうか?
 自分があなたから男を奪ったと勝利宣言をして愉悦に浸るような、そんな余裕が。

 優美は俯き、スカートを膝の上でぎゅっと握り締めた。
「あたし、もう悔しくて悔しくて──」
「それで、亀崎さんの部屋に乗り込んだんですか?」
 高山の声。
 途端に英正がばね仕掛けのように立ち上がった。
「おい君!なんだその言い方は!聞いていただろう、娘は酷い目に遭っていたんだ!それをなんだまるで犯人扱いみたいに──」
「優美さん、日曜はどこにも出かけてないと仰いましたよねえ。なんで嘘を吐くんです」
 優美の身体が見るからにぎくり、と揺れた。
「なんだと?」
「あなたのお住まいのマンションの監視カメラ映像を念のためチェックさせてもらったんですがね、あなた、午後3時16分にマンションを出て、午後7時49分に戻って来られてる。どこ行ってたんですか」
 優美は母親の陰に隠れようとするかのようにその腕に縋りついて顔を伏せている。そんな娘を庇うように母もその身体を抱いている。
「どこ行ってたか言ってくれれば、それでいいんですよ。裏を取ってそれで終わりです。家にずっと居たよりも確実なアリバイが出来る。なのになんで隠すかなあ。言っちまった方が、話が早いんですよ」
「黙っていれば──」
「あれ、お父さん黙ってたおつもりですか。じゃあもう少し黙ってて下さいよ。私らはお嬢さんと話してるんです」
「帰れ!梓条署の署長とは顔見知りだからな、お前などどこかへトバさせてやる!」
 高山はやれやれ……と言いながら立ち上がり、激昂する英正とは対照的ににやりと笑った。
「どこにトバされても別に私は困りませんがね」
「高山さん、そのへんにしてくれないと折角捜査に協力して下さってるのに、申し訳ないですよ」
 我ながら棒読みだな、と思いながら一応言っておく。紺野はもうこんなことは慣れっこになっていた。ノートとファイルボックスを素早く鞄に納めると立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。
「申し訳ありません、ベテランなのに口のきき方がなってなくて。今日はありがとうございました。またご協力お願いすることがあるかもしれませんがよろしくお願いします」
「金輪際おまえらとは話はしたくない!」
 英正は怒りがおさまらんといった風で苛々と応接室を出て行った。和子も明らかに不快感を顔に乗せて二人を睨みつけている。母娘に会釈をすると立ち去る際に思い出したように振り返った。
「そういえば、優美さんが先週まで勤めておられた部署で、何か大変なことになってるようですけど、ご存じですか?」
 母の陰に隠れた娘が小さく首を横に振っているのが見えた。
「──三杉課長、どこか田舎の方の営業所に左遷になったそうですよ。不倫がばれて」
「もういいでしょう、そんなゴシップ興味ありませんの。帰って下さい」
 和子がきっと紺野を睨む。
 紺野は構わずにっこり微笑むと、高山の背中を押すようにして日端家を後にした。

「高山さん、勘弁して下さいよ。巻き添えで怒られるのもう嫌ですよ」
 須郷友香からあひる口と評された口元を尖らせて紺野は不満を表明する。高山はその顔を一瞥するとぷっと吹き出した。
「その割に何ニヤニヤしてんだ」
「ニヤニヤなんかしてません」
 正直、高山があの父親にズバズバ言った時は胸がすっとしたのだ。これだから高山さんと組んでるのはやめられない……とは本人には絶対言えないが。
 そんなことはお構いなしに高山は歩きながら煙草を取り出し口にくわえる。
「八割方日端は現場に行ってるな。指紋は取れたし、例の指紋と合致すりゃ重要参考人で引っ張れるぜ」
 紺野は優美に見せたビニール袋の入ったファイルケースをぽんぽんと叩いた。それにしても──と独り言のように呟く。

「笹中多恵子は何がしたいんだ?」

 午前中、ようやく判った笹中のアパートの部屋を訪ねてみたものの本人は不在。郵便物などは溜まっていなかったので長期の不在ではあるまい。勤務先の清掃会社に問い合わせるとシフト勤務の関係で今日は休みだと言われた。
 近所に聞き込みをかけてみたが特にトラブルもなく、よくは知らないが顔を合わせれば会釈くらいはする人──という印象しか出てこない。結局紺野と高山がこの周辺をうろついている間には笹中は帰宅せず、本人に会うことは出来なかった。

 亀崎辰彦のストーカーにしては、亀崎が日端と離婚してからは亀崎周辺にはその姿がまるで見えない。仮に亀崎が笹中との接触を秘していたとしても、同じ行動パターンなら亀崎の新しい恋人である杉野佳音に対して日端と同様の嫌がらせがあってしかるべきだ。
 杉野の名前で日端に電話をしたのも、笹中なのではないか。
 ただ、それでは日端は杉野に対して反感を持つかもしれないが杉野自身にはなんの嫌がらせにもなっていない。
 しかも、笹中は日端のマンションと実家の近所に住んで、日端の勤務先に清掃員として勤めていた。
 だとしたら──
「笹中のターゲットは亀崎じゃなくて日端なのか?」
 紺野の独り言に高山が小さく振り返り、携帯灰皿に吸殻を押し込んだ。
「女の敵は女だって言うじゃねえか」

 100円パーキングに停めていた車に乗り込み、日端邸の回りを何度か通る。
 どうします、何か動きますかね──と紺野が漏らした時である。

 日端邸の玄関から、人影が3つばたばたと駆け出してきたのが見えた。
 つい今しがたまで話していた、日端優美とその両親だった。




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禁無断複製・転載(C)Senka.yamashina

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