口からホラ吹いて空を飛ぶ。

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ロボット残党兵 1~4巻

2010-09-20 | 漫画
当たり前の話ではあるが、行動には必ず理由が伴う。

主人公、三船敬三の戦う理由は「妻子の為」であった。
共に戦う戦友達は、
ある男は「息子の為」であった。
ある男は「戦友の為」であった。
自我が暴走し、暴れる敵もそれは「弟の為」であった。

さて、これら男達と陰から彼等を支える女性工員、敵となり戦う他国の機械化人、更には三船の親友たる高橋技官に至るまで、
「前線」で戦う者達の中に「国の為」と言う者がどれ程居ただろうか。
タラワ島に送り込まれてきた女性士官、中島優子。彼女は「任務、組織の為」と嘯いていた。だがそれは本心だったのだろうか。
彼等はその「何かの為」に機械の体を選択した。
だが、それは同時に「自分は何者か」「何処から来、何処へ行くのか」という答えの無い問いに向き合う事になり、結局、妻子の写真や煙草、菓子といった「無意味な物」に意味を見出し、自らが何者か、を再確認する。
「無意味」では、ある。だが、「無価値」ではない。


「俺たちは…女…子供を戦いに巻き込まないよう機械の身体になったはずだよな」(2巻126P)


この作品に於いて、機械の身体は不死身でもなければ無敵でもない。
それは大義名分が生み出す戦争という行為が、人間から倫理を極限まで削り落とした狂気の具現である。
この作品の機械化兵達は、他の漫画などで描かれてきた機械の身体のようにスタイリッシュでもなければ、格好良い物でも、柔軟な融通の利く便利な身体でもない。
何処までも無骨で、泥臭い。
表情も乏しい。いや、「鉄面皮」といった表現があるがこれはそのままの意味となる。
だが読者はそこにリアリティを感じ、底知れぬ人間の闇と善性、剥き出しの「人間」を浮かび上がらせる。

ここで言う「リアリティ」とは所謂科学的考証、時代考証と言ったものではない。
そうではなく、機械化兵という「ありえない」存在が逆説的に人間を浮かび上がらせ、前線だけでなく戦争という事柄全てに関わる人々の思惑、打算、狂気、
送り出す人々、待ち続ける人々の想いを読者の前に深く、重く静かに描き出しているのだ。

タラワの日本軍全滅の報を聞き、絶望なのか三船の元の身体を焼く高橋。
三船生存を聞き素直に喜ぶ中島優子。
奇跡と言っても良い夫との再会に、だが静かに「必ず戻ってきてくださいね」と再び送り出す妻、千代と娘の春子。


この物語は「戦争の始まり」を描いていない。
三船の過去も必要以上に描かれていない。
機械化兵成立の経緯も描かれていない。
「何故」と問われる部分がことごとく省かれているが、それは戦争という不条理極まりない事象自体が「そういうもの」として描かれているからだ。


さて、物語は4巻にして終戦を迎え、現実と微妙な類似性を見せていた展開から本当の「if」の世界へと突入した。
三船個人の物語と、世界そのものを描く物語は何処へ着地点を持って行くのだろうか。

これからも興味深く追いかけて行きたい作品である。



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