(1)「転換」に至る2つの方法
持続可能な社会を目指す環境政策は、環境問題の根本にある社会経済システムの「転換」を目指す。このため、個別問題への対症療法に留まる従来の環境政策だけではなく、「統合的環境政策」や「構造的環境政策」といった拡張された環境政策を進めることが必要である。
下記参照。
https://blog.goo.ne.jp/shirai01/e/03200c9fa3a157bb447c5d56a3a6d542
拡張された環境政策は、経済・社会へのプラス作用を促す環境政策、コンパクトな都市づくり、分散型国土の形成、地産地消やサービサイジングを進める政策であり、「転換」の要素を個別に実現する政策である。拡張された環境政策による「転換」へのアプローチは、「転換」後の姿を設定して、積み木を積み上げる。このアプローチは、目的と手段が明確という意味で線形的であり、要素を積み上げ全体をつくるという意味で要素還元主義的である。
しかし、「転換」の方法は別にもある。例えば、ある環境イノベーションが地域内で生成し、普及し、別の取組みを起こし、行政の制度を変え、地域間でつながっていくというような動的な「転換」プロセスもある。
この動的な「転換」プロセスを促す政策が、「転換」のためのもう1つのアプローチである。このアプローチでは、共鳴の輪をひろげて、全体をゆさぶる。手段が思わぬ結果をもたらすという意味で非線形的であり、関係の中で全体が構成されるという意味で社会構成主義的である。
(2)「転換」に至る動的なプロセス
白井(2017)は、再生可能エネルギーによる地域づくりの各地の事例を分析し、再生可能エネルギー事業が「転換」につながっていくプロセスを、「生成「普及」「波及」「連鎖」「転換」の5段階で示した。再生可能エネルギーによる地域づくりの場合として、各段階は次のように説明される。
「生成」とは、再生可能エネルギーに係るイノベーションの生成を指す。例えば、市民共同発電が地域で発案され、事業化されるこという。地域・市民主導の再生可能エネルギー事業の企画・設立・運営は、地域にとって新しい知識の創造のプロセスであり、まさしくイノベーションである。
「普及」は、イノベーションが地域内で普及したり、本格化したり、事業を拡大するプロセスである。例えば、市民共同発電に対する出資者が段階を経て増加したり、市民共同発電所の地域内の設置数を増やしていくことをいう。
「波及」は、ステップ2までに触発されて、イノベーションの導入に関して異なる方法を持つアクターが参入したり、最初のイノベーションとは別のイノベーションが生成されることをいう。例えば、屋根貸しの太陽光発電の市民共同発電事業とは別に、木質バイオマスや小水力発電の事業が地域内で新たに生成されることが、「波及」である。
ステップ3までは同地域内での動態であるが、「連鎖」は他地域に対して影響を与え、他地域のイノベーションが生成されることである。例えば、A地域でのノウハウを形成した市民共同発電事業がB地域に伝搬されることを示す。A地域の事業主体がB地域に事業エリアを拡張して展開する場合、B地域の事業主体がA地域の事業主体から学習し(模倣し)、事業を開始する場合等がある。
ステップ4の動きが活発化することで、そのボトムアップの動きが国の社会経済システムやそれを支える国民意識等の転換が始まる。これが「転換」である。この転換は、目に見えて劇的な大転換にはならないかもしれないが、地域での動きの増殖と連鎖により。均質的な価値規範と脆弱な構造を持つ社会を、多様な包括力のある重層的社会に変える。
上記のプロセスをもとに、転換に至る動的プロセスの姿を示したものが図9である。この図は、白井(2017)が示した転換プロセスに対して、ミクロレベルの動きが、主体間、地域間で広がっていくだけでなく、それが刺激となってメゾレベル、マクロレベルのイノベーションを誘発し、その結果として、ミクロレベルの動きが加速し、またメゾレベルの連鎖や波及も起こしていくという姿を追加している。
メゾレベルやマクロレベルの変化が進むことで、「レジームシフト」といわれる大きな転換が実現していく。
参考文献:
白井信雄(2018)「再生可能エネルギーによる地域づくり~自立・共生社会への転換の道行き」、環境新聞