サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

気候変動適応のSWOT分析

2014年01月13日 | 気候変動適応

SWOT分析という手法がある。事業や活動を行う際の内部環境を強み (Strengths)と弱み (Weaknesses)、外部環境を機会 (Opportunities)、と脅威 (Threats)に分け、状況に応じた事業や活動の方向性を検討する際に、よく使われている。例えば、外部環境で機会があるところ、つまり市場が伸びているところで、自らの強みを活かして事業を展開することが効果的であり、それに相当する事業方向を整理することができる。機会と強みを活かすのがSO戦略である。また、機会を活かし、弱みを段階的に克服するWO戦略、強みで差別化して、脅威を生き延びるST戦略、機会もなく、弱いところは撤退するWT戦略等を整理するのである。

 

もともとはハーバードのビジネススクールで開発された手法である。筆者はシンクタンク勤務の際、グループの営業の方向性を分析する際に、この方法でのワークシートの作成を求めれた経験がある。現在の同僚研究者も、所属していた研究機関で、このSWOT分析で研究の方向性を作成させられたと言っていた。

 

また、筆者は、山村ビジネスや環境コミュニティ・ビジネスにおいても、SWOT分析を用いたビジネス開発の方法論を作成し、研修会で紹介したり、また地域環境経済論の大学の講義で試行したりしたことがある。

 

さて、このSWOT分析を気候変動適応に対する地域戦略にあてはめたら、どうだろうか。

 

気候変動の地域への影響には、豪雨の増加や高温化等による脅威だけでなく、北海道等では、気温上昇に伴う米の収量増加等、プラスとなる側面がある。これまでのとれなかった亜熱帯性の果物の生産が可能になるというような面もある。

 

また、気候変動に対する地域の強みと弱みもある。得てして、気候変動の影響に対する弱みは強調される。縮小時代の財政力の低下、高齢者等の弱者の増加、整備されたインフラの老朽化(財源不足による維持管理不足)、近隣の社会関係資本の低下等が、一般的な傾向としての弱みである。気候変動に対する内部環境の強みの側面を一般的にいえば、自然の開発圧力の低下、耕作放棄や空き家等の遊休ストックの増加と活用可能性、情報通信技術などのさらなる発展と普及等であろうか。もちろん、内部環境の強みと弱みは地域によって異なる。

 

気候変動への適応策は、WT領域を中心に検討される。すなわち、気候変動の影響という脅威が大きく、かつ影響に対するレジエンス(抵抗力)が弱いところを抽出し、重点的に対策をとろうという脆弱性アセスメント・リスク管理が適応策の中心課題となる。

 

ただし、SWOT分析のように、WO戦略やST戦略、SO戦略もある。WO戦略では、農業が衰退している地域で亜熱帯の果実の新興産地化を図ること等が相当する。適応を地域ビジネスにしていくこともこれに含まれるだろう。気候変動適応で地域を活性化するのである。ST戦略では、コミュニティ力が高い地域でさらに気候変動を地域課題としてとらえ、適応策に取り組みながら、さらにコミュニティの絆を高めていくことが考えられる。SO戦略も同様であり、農業が強みの地域でさらに、気候変動適応で新展開を図ることが考えられる。

 

重要なことは、いずれの戦略においても、内部環境を高めるという方向性を持つことである。気候変動を機会として弱み(W)を克服したり、気候変動の脅威に対応するために弱み(W)を改善すること、それがまさに適応策の本質的な意味である。強み(S)についていえば、これからの社会動向から一般的に考えると、強み(S)が高まる場合は少ないが、地域間で相対的に強み(S)の部分がある。その強み(S)の部分を活かし、伸ばすという方向性が重要である。

 

気候変動適応は、気候変動という外部変化(マイナスにせよ、プラスにせよ)への対応を通じて地域力の発展(強み(S)の向上、弱み(W)の克服のいずれにせよ)を展開することである。つまり、WT、WO、ST、SOのいずれの戦略にせよ、地域力を高めるという方向性は同じであり、そのメニューを多角的に抽出する、整理する方法が気候変動適応のSWOT分析である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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