サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

地域における環境と経済の統合施策における経済効果

2014年10月26日 | 環境と経済・ビジネス

 環境大臣主催の「環境と経済活動に関する懇談会」がとりまとめた「環境と経済の好循環を目指して」(2003)では、「環境を良くすることが経済を発展させ、経済の活性化が環境を改善するという環境と経済の好循環を生み出すことにより実現される、環境と経済が一体となって向上する社会(「環境と経済の統合」)」の実現に向けた道筋を示した。環境と経済をと統合させる道筋として、環境行動がもたらす需要の創出、技術革新による経済発展と先行者利益の確保、環境価値の内部化と地球的視野での戦略的対応とともに、ボトムアップの視点からの道筋として、「全国各地で地域に根ざして環境と経済の好循環を生み出し、地域の環境保全と地域雇用の創出など地域の活性化とを同時に実現していく」方向性が示された。

 

 こうした方向性を具現化すべく環境省は2004年度から「環境と経済の好循環まちモデル事業」を開始した。全国の市町村から二酸化炭素排出の削減等の環境保全と経済活性化を実現するアイディアが募集され、2004年度から2008年度にかけて28地域が選定された。この事業の特徴は、採択された地域の事業期間が3年間であり、ハード事業とソフト事業を組み合わせて実施すること、事業期間終了後も含めて、事業の効果測定を実施し、報告すること等にあった。ハード優先、単年度の事業では、十分に成果が得られないという反省にたった事業であった。

 

 環境省が作成した「環境と経済の好循環まちモデル事業」の効果測定を実施するためのガイドラインでは、環境面(二酸化炭素排出削減)、経済面、社会面について、効果測定を行うにあたり、まず全体的な効果構造図を作成し、その構造図に示した効果項目について、効果を評価してもらうことしている。また、同事業では助成終了後も一定期間、効果測定の結果報告が求められ、評価委員会が事業評価書を作成することになっている。

 

 この事業評価書をもとに経済面での効果をみると、経済面の効果は必ずしもプラスとなっていない。例えば、マイクロガスタービン発電を設置した場合では、「マイクロガスタービン発電による電気料金削減分および重油購入削減分から、発電用の灯油購入分を差し引いた金額はマイナスとなっており、来年度以降の改善に向けた取組みが必要である」と報告されている。また、廃食油を使ったバイオディーゼル事業では「今年度は、燃料経費節減額が軽油購入費用とほぼ同等であるため、現時点では経費節減効果を特に見込める状況にない」、家庭用燃料電池コージェネレーションシステム設備設置事業では「設備を設置した一般家庭で、電力費削減の一方で、LPガス代が前年度を上回り、総額では燃料費が増加している」という状況が示されている。環境と経済の好循環を狙いとした試みとしてははなはだ不十分な結果である。

 

 近年では、環境省「環境経済の政策研究」の一環として、岡山大学ら(2012)が地域における環境と経済の統合施策における経済効果の試算を行っている。同研究では、環境対策(環境投資)による地域経済への効果として、①エネルギー代替による直接効果としての移入削減効果と地域資源を活用することによって生じる域内循環効果、②域外に販売することで域外からマネーを獲得するといった移出効果、③エネルギーコスト削減による生産費用効果である。このうち、梼原町における木質ペレット生産において行った結果では、①の移入削減効果は8.6百万円、域内循環効果は13.4百万円である。また、②のバイオマス燃料の移出によるによる生産誘発効果は直接効果11.5百万円、間接効果6.0百万で、合計17.5百万円となっている。生産誘発効果は、二酸化炭素排出削減によるクレジットの移出も含めるとさらに大きな額となる。なお、③のエネルギーコスト削減はバイオマス燃料の価格の方が高い状況にあり、現状では十分に発揮されていない状況にある。

 

 この試算は、木質ペレット事業が地域経済効果を活性化させる効果があることを明確に算出している。「環境と経済の好循環まちモデル事業」の経済効果の評価結果として紹介した例では、岡山大学らの試算における③の効果に関する結果のみを示した。①移入削減・域内循環効果と②移出による生産誘発効果については評価対象とされていなかったか、①及び②の効果を発揮するように十分に事業設計ができていなかったのである。

 

 しかし、檮原町の試算結果において生産誘発に伴う雇用創出人数は3人程度であり、町全体の従業者が1,600人程度であることと比較して、大きな人数ではない。木質ペレット事業単体は十分に環境と経済の好循環効果がみられるかもしれないが、地域全体が環境と経済の好循環の構造になっているとは言い難い。

 

 梼原町の例でいえば、地域内での上流の林業から下流の需要者までの産業連関構造の密度を高めること、木質ペレットの需要のほとんどが温浴施設等の事業系であることから、域内の一般家庭等の最終需要の開拓を図ること(その際、一般家庭での代替エネルギー効果が発現できるようにすること)、さらには木質ペレット以外の側面でも地域資源を活用した環境製品・サービスを導入し、移入削減・域内循環、移出の効果をさらに地域ぐるみのものとしていくことが期待される。つまり、事業単体での環境と経済の統合ではなく、地域資源の活用と地域産業の有機的な連鎖を基盤として、地域経済全体の環境と経済の統合を目指していくことが求められる。

 

参考文献:岡山大学ら「環境・地域経済両立型の内生的地域格差是正と地域雇用創出、その施策実施に関する研究」

      http://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/F_research/f-06-04.pdf

 

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