サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

地方自治体における環境基本計画のイノベーション

2014年10月19日 | 環境イノベーションとその普及

 地方自治体における環境基本計画は、地球温暖化、廃棄物・リサイクル、生物多様性等の環境政策を統合し、全体の基本方針や施策方向を定める総合的な計画である。環境省の調査によれば(全数回答が得られたわけではないが)、2013年度時点で、都道府県及び政令指定都市の100%、市区町村の76.4%が環境基本計画を策定している。また、同調査によれば、地方自治体における環境政策で、重視されている分野は、地球温暖化、廃棄物・リサイクル、生物多様性に関する分野が中心であるが、それとともに、地域づくりや人づくり(環境学習、普及啓発等)に関する分野が多くなっている。

 

 都道府県と政令指定都市について、環境基本計画の策定推移を筆者独自に集計した。国の第一次環境基本計画は1994年12月に閣議決定をされているが、実はそれに先んじて、1992年に川崎市が環境基本計画を策定している。国の計画が策定されたのち、それを受けて、1996~1998年をピークとして、地域での環境基本計画の策定が進んだ。その後、計画は一定期間後に見直しをされ、必要に応じて改定がされてきた。ただし、筆者の集計によれば、環境基本計画の第1次を作成した団体(都道府県と政令指定都市)は67団体であるが、第2次計画を策定した団体は66団体、第3次は41団体、第4次は11団体に留まる。第2次計画の策定は2000年以降であるが、近年になってようやく改定をした団体も多い。地域によって、改定の頻度が異なり、地域環境政策の更新や新展開が活発な地域とそうでない地域がある。

 

 次に、2014年夏時点で作成されている最新の都道府県・政令指定都市の環境基本計画において注目すべき先駆的な(「革新者」としての)動向を4点、指摘する。なお、着眼点や該当する団体数は筆者によるものである。

 

 第1に、「環境と経済の統合的発展」という観点での施策を示す団体が多く見られる(25団体)。エコタウンの指定地域がある団体のほか、地域版グリーンニューディールを打ち出している地域も見られる。これは、1990年代以降の日本経済の停滞が長引くなか、環境ビジネスを経済成長のテーマとする動きに連動したものであるとともに、1997年以降に経済産業省により静脈産業の集積を図るエコタウン事業が各地で展開され、成果をみせるなど、環境と経済の統合的発展の具体像が日の目を得てきたことによる。

 

 第2に、「地域環境力」という観点を計画で強調した団体がみられる(7団体)。「地域環境力」は、2003年度環境白書及び第3次環境基本計画(2006年4月閣議決定)でとりあげられている。同環境白書では、「地域資源の的確な把握と主体間の幅広い連携、そして地域が一つの方向性を共有することにより、地域全体としてより良い環境を創っていこうという取組意識や能力」と定義されている。経済面とともに、地域社会の活力、環境をテーマにしたコミュニティの形成に注目する動きである。

 

 第3に、「安全・安心」に関連する動きである(11団体)。新潟県の計画では、中越大地震の際の災害廃棄物の処理に困った経験から、災害時の廃棄物広域処理体制と環境モニタリング体制の整備が重点施策に位置づけた。同様に、阪神神戸大震災を経験した兵庫県では、「文化的、社会的、自然的環境を健全に維持するために、コミュニティによる防災力の向上とその教育が必要であり、環境と防災を統合・両立した環境防災教育プログラムを推進する」ことが示された。また、東日本大震災以降の2013年に計画が策定された青森県、福島県では、地域資源を活用した災害に強い自立・分散型エネルギーシステムの導入、災害時の廃棄物やし尿処理等の環境インフラの体制整備、放射性廃棄物による環境汚染への対応が示された。また、近年では、気候変動対策として、温室効果ガスの排出削減を図る緩和策とともに、長期的視野からの気候災害への適応策の必要性が強調されている。適応を環境基本計画に示している地域として、東京都、埼玉県、長野県、熊本市などがある。

 

 第4に、「地域間連携」の動きである(15団体)。これには、隣接する地域間での広域的連携、地方圏における大都市圏との連携、国際的な連携の3つの側面がある。広域的な連携では、名古屋市の伊勢湾流域圏などのように地域では閉じない自然循環への取組みを進めようとするものの他、徳島県の関西広域や四国圏との連携地域間連携で効果的に行おうとするものがある。大都市との連携では、高知県のように豊富な地域資源である森林を活かし、その二酸化炭素吸収量を大都市圏の企業に提供する購入してもらうなど、地域資源を活かした地域活性化を図ろうとする動きがある。国際連携では、横浜市の水ビジネス、北九州市のアジア低炭素化センター等、開発途上国への環境協力が、計画に位置付けられている。

 

 なお、「持続可能性」については、計画の見出しや枕詞的に持続可能性という言葉が使われているが、持続可能性という考え方を中心テーマにそえ、それを基本方針や施策に具体化した地域はみられない。これは、持続可能性という概念の定義が固定化されていなく、地域主体との意識共有が困難なためと考えられる。ただし、環境面のみならず、経済面、社会面、あるいは安全・安心面に踏み込んだ施策の打ち出しをする団体が増えてきており、環境政策から持続可能政策への展開は進んでいるといえる。

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